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樹の散歩道
   カヤの実を食する


 カヤの実(種子)の食べ方に関して目にする講釈として、①殻付きのままでアク抜きするとしているものと、②殻を剥いてからアク抜きするとしているものがあった。もちろん、かつての野生児たちはアク抜きなどしないで、ギンナンのように殻付きのまま炒って食べたようである。
 そこで、より美味しく食べるためのアク抜き方法であるが、普通感覚として、果たして殻(外種皮)付きのままでうまくアク抜きができるのか、試したことがないから理解しにくい。そこで、まずは少ないながらも市販品の様子を確認するとともに試食してみることにした。 【2011.4】 


 市販品のカヤの実

 おなじみのナッツのように普通に販売されているわけではないから、以下に紹介するものはいずれも通信販売で少量購入したものである。 
   
 山形県産のカヤの実の商品  (殻付き・アク抜きなし・ロースト)
   庄内産カヤの実 25g 130円

 これは殻(外種皮)付き状態で販売されている例である。電話で確認したところ、特にアク抜きはしていないとのことである。「野崎の大カヤの木」の実としていて、丸味の強い形態で、いい具合にローストされているのか、コリッとした食感があって、香ばしい。殻(外種皮)は奥歯で噛めば簡単に割れる。かさぶた状の内種皮は可能であれば取り除いた方が味の向上にも資することは間違いないが、残念ながら全く剥がれない。このため、わずかにえぐみがあるが、特に違和感はない。針葉樹系ナッツといった風情で、ポリポリと食べることができる。味は合格である。
   
 
   
カヤの実の製品の様子
特段の詳しい説明書きはない。
同左のカヤの実
 ローストによるものか、いい色つやである。
   
 
         カヤの実(剝き実・内種皮付き)
 外種皮を除いたものであるが、内種皮は落花生のようにはむけない。
        カヤの実
    何とかむいてみたもの
   
  販売者:松風園 代表 長南一美
  山形県東田川郡庄内町狩川字山居55
  取扱い:株式会社イグゼあまるめ
  山形県東田川郡庄内町余目字土堤下36-1 
   
 岐阜県産のカヤの実の商品 (剥き身・アク抜き済み・ ロースト・塩味)
  25g 400円(税込み) 

  これは剥き実の状態で販売されている例である。電話で確認したところ、殻付きの状態でアク抜きをしているとのことである。アク抜きの手法は企業秘密として、もったいぶって口を割らないが、ヒントは木灰ではないとのことであり、重曹であろうか。
 種子は先の製品よりやや小粒で細長い形態である。たぶん、アク抜き後に乾燥、殻をむいてローストし、その過程で内種皮が半分程度剥がれているものと思われる。
 先の製品との味の違いであるが、個人的には意外や、山形県産のアク抜きなしのタイプの方が食べやいと感じた。
   
 
包装袋 製品表示は、しっかりしている。
   
 
        カヤの実の製品外観
 ある程度内種皮がはがれているが、加工過程で落ちたのであろう。きれいにむこうとしてむけるものではない。
       カヤの実
 試しに内種皮をはがしてみたが、小じわが多くて簡単ではない。
   
  株式会社メカトロニクス
  岐阜県飛騨市古川町宮城町500-1
 
   
   
   両者を試食してみて、アク抜きがどれほど実効性があるのかよくわからなくなってしまった。手間のかかるアク抜きをすることで、圧倒的な食味の向上が図られているようにも思えないのである。

 大日本有用樹木効用編では、カヤの実に関して以下のような記述が見られる。 
   
 
 実は10月末に熟し外肉は脂液多きを以て暫く地中に埋め置き外肉を去り又灰水の中に数日間浸漬し乾燥して生食し又炒り或は飴に和して食し又砂糖掛として菓子を製し或は油を滓りて食用、燈火用又は理髪用に供す此油は本邦植物質の油中最上の者なり油は実の容積の二割余を得べしと云う榧油は高野山、榧飴は身延山の名物なり及支那人は此実を好み食す榧実は寸白虫(注:すばくむし。寄生虫)を殺すものなれど多食すれば脾肺を傷ひ泄痢を患ひ痰を生ずと云ふ而して実は樹によりて大小長短一様ならず別にシブナシガヤ一名ハダカガヤなるものありその実は渋が皮に付き取れ去るを以て上品なり樹は枝形正しきを以て庭園樹に用ヰらる【大日本有用樹木効用編】
 
   
2   手持ちカヤの実でお試し

 
   灰汁抜きなしで、殻のまま、あるいは胚乳を取り出して炒ってみた。どちらの場合も薄皮はきれいにはがれない。薄皮は、見た目には単なる薄皮というより、密着した更なる殻といった印象である。
 仕方なく、爪でカリカリと殻状の薄皮をできるだけはぎ取って食べてみると、コリコリとした食感はいいが、さすがにアク抜きなしでは強い苦みが口に残る。やはり横着しては美味しく食べられないのか。山形県のカヤの実の製品のようにはならない。ひょっとして、天日にしばらくさらしているのかもしれない。  
   
 
 
     大粒のカヤの実
 比較的大粒の種子で、拾った場所は秘密である。
      同左
 もっと拾っておけばよかったと悔やまれる。
外種皮を除いた実
     
     
アク抜きなしで炒ったもの
胚乳をアク抜きしたもの
さらにフライパンで炒ったもの
   
   体験が大切であるため、仕方なくアク抜きをすることにした。殻付きのままのものと殻を取り去ったものについてナラ灰を使った。

 カヤの胚乳を灰液に投入すると、液は驚くほど濃い暗赤褐色になり、灰液を換えながら数回浸漬を繰り返すことになった。殻付きのままでも液は赤くなるから、たぶん殻のままでもアク抜きは可能なのであろう。その後適宜水洗を繰り返して乾燥し、フライパンで炒ってみた。

 食べてみると、ナッツに共通するカリッとした食感があったが、アク抜きが下手であったのか、あるいは焼きが良くなかったのか、肝心な風味が失われているような感じた。アク抜きの加減がよくわからない問題のほかに、フライパン焼きよりもオーブンによるローストの方が良かったのかもしれない。おいしく仕上げるには多分、乾燥も重要な要素であると思われる。試行錯誤が必要なようである。 
   
 カヤの実クッキーの試作 
   
   口直しにカヤの実クッキーを焼いてみることにした。先に紹介した庄内産のカヤの実を刻んでクッキー生地に練り込んで焼いてみた。すると、味は上出来、カヤの実が効いていて香ばしく、ナッツの入った市販のクッキーのようであった。
 
 写真は初めて焼いたカヤの実クッキーであるが、別項で紹介した実験的「スギ花粉クッキーや「マツ花粉クッキー」 に比べたら、はるかにおいしかった。
 
 知り合いにも試食してもらったが、好評であった。
   
  <参考1:カヤの実せんべい>

 
とちの実せんべいを作るお菓子屋さんが数多くある下呂町であるが、その中で「かやの実せんべい」を作っているところもある。カヤの実がせんべいの材料にもなっているのを知ったのはつい最近である。 
   
 
    かやの実せんべい
    
有限会社 尾張屋製菓
  岐阜県下呂市湯之島124-1
   
                            (製品のしおり)
 
   
   カヤの実そのものについては率直に言えば、とびきり美味しいというわけではなく、アーモンド、マカデミアナッツ、クルミ、ペカン、ヘーゼルナッツといった栽培・生産されているナッツ類の味には及ばないものの、自生する針葉樹であるカヤの木から得られるもので、大量に確保することが難しいといった実態の中での自然を感じる希少性に価値が認められている。
 このため、カヤの実が食用又は加工原料として販売される例はまれで、カヤの実せんべい、カヤの実クッキーについては、国内では少数の製品が〝孤立分布〟しているにすぎない。 

 紹介した製品以外の他社製品も含め、カヤの実せんべいの体裁は、せんべいの中央部に砕いたカヤの実を振りかけて焼き上げているように見える。量的には潤沢には得られないカヤの実をやや節約した方法と言えるかもしれない。そのため、カヤの実の存在感がやや弱い印象はある。
   
<参考2:カヤの実の変わり者達>
   カヤの樹で、特にその種子に着目した場合に、珍しい特徴を有するものが国の天然記念物になっている。例えば次のようなものが見られる。 
   
 
分 類 名 称 所在地
シブナシガヤ   ① 果号寺(かごうじ)のシブナシガヤ 三重県伊賀市
② 高倉神社のシブナシガヤ 三重県伊賀市
コツブガヤ    ③ 庫蔵寺のコツブガヤ 三重県鳥羽市河内町
ヒダリマキガヤ   ④ 熊野のヒダリマキガヤ 滋賀県蒲生郡日野町
⑤ 建屋(たきのや)のヒダリマキガヤ 兵庫県養父市
ハダカガヤ  ⑥ 日置(ひおき)のハダカガヤ 兵庫県篠山市日置
 
   「シブナシ」とは、種子が乾燥すると渋皮(内種皮)が殻(外種皮)内面に付着するため、殻を割れば淡黄色の胚乳が(渋皮がないがごとく)露出することを意味し、、「コツブ」とは、種子が仮種皮を含めて小型であることを意味し、「ヒダリマキ」とは、殻の表面にらせん状の隆起線があることを意味し、「ハダカ」とは、殻が薄くて木質でないため、仮種皮に直接包まれているように見えることを意味している。   
   
   
 
 「建屋のヒダリマキガヤ」の実(種子)サンプル
   
   写真は建屋のヒダリマキガヤの種子である。上段にねじれの見られたものを並べてみたが、このように、全てがねじれているものではない。また、最近主流となった基準で表現すると、このねじれは左巻きではなくて、右巻きである。したがって、現時点で素直に表現すれば、これはヒダリマキガヤではなく、明らかに“ミギマキガヤ”(右巻きガヤ、右巻き榧)である。
 名称は歴史的な沿革を反映しているから仕方がないが、この名称のために今後もどっち巻きなのかについて、しばしば混乱するのは避けられないであろう。
 なお、林木育種センター関西育種場には、許可を得て上記の①~⑤の現地のカヤから採穂・さし木増殖した若木が林木遺伝資源として保存されている。残念ながら、まだ実を付けるまでには至っていない。 
    
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