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木の雑記帳
 
  センダン雑話 材と名称
    
            


 センダンはしばしば街路樹としても利用されていると聞く。また、特に西日本では公園や校庭に植栽されたものや、農山村地帯の道端でもしばしば見かける。「獄門の木」の異名も持つが、その材は淡紅色の環孔材で木目が美しく、ケヤキよりも穏やかな印象があって魅力的である。また、その名称にまつわる定説も広く知られているが、漢名本家の中国での呼称についてはあまり知られていない。【2009.4】 

 
                         満開のセンダンの花
 都内のビルの谷間でもこうした風景を見ることができる。薄紫の花が美しい。形態は少々奇妙である。
 
     
 センダンのあらまし   
     
 
 
 高知公園のセンダン 1  高知公園のセンダン 2(上方の様子)
 
     
   このセンダンの樹には説明看板があって、次のように記している。

 高知公園のセンダン  周囲5.4m、樹高25m、樹齢約250年  土佐ではすべての道路に旅人のため、センダンを植えていた。富田碎花は土佐路の印象を 「こごしかる北山越しに来し国の並木の道はせんだんの花」 と歌っている。センダンの花の風土の中で生まれ育った土佐の人々は、センダンに特別の愛着を抱いている。
 さわやかな5月の季節に、「板垣死すとも自由は死せず」と叫んだ板垣像の後に咲くうす紫の花は、天守閣への登り口にあるのですぐに目につく。樹冠東へ15m、西へ4m、南へ9m、北へ8m、センダンでは巨木である。南国土佐の象徴ともいえる。  高知県緑化推進委員会 高知城管理事務所


 以上のとおりである。やや民俗学的な講釈に欠けていて欲求不満になるが、高知市の公式ホームページによれば、センダンが高知市民の木として選定されている模様である。その選定理由は「南国の木であって、花や実など四季折々に楽しめる木であり、高知のセンダンが富田碎花の歌にも詠まれるなど、文学的、歴史的にみても評価でき、県内で一番大きなセンダンが高知公園にあり、高知市を代表する木としてふさわしい。」としている。   
 
     
 
                 都内千代田区大手町の常盤橋公園のセンダン
 花盛りのセンダンの様子である。冒頭の花の写真はこの樹のものである。
 
     
 
緑陰樹としてのセンダン
(都内港区芝浦公園)
 
目にするセンダンは、街路樹は別にして、自由に天高く伸び放題となっているのがふつうである。ところがこの公園のセンダンは、樹高は低く、傘を開いたような樹形となっていて、安らぎの緑陰を提供している。これは仕立てたものなのか、あるいはカラカサセンダン Melia azedarach var. umbraculiformis の名の変種なのかは確認していない。  
 すぐ横をモノレールが走る。

【追記】周辺の再整備に伴い、いつの間にか消失していた。
 
     
 
   
            センダンの花 1
 花は花弁が5個、紫色の筒状のものは、花糸が合着したもので、「花糸筒」とか「雄しべ筒」と呼んでいる。
          センダンの花 2 
 花糸筒の先端・内側に黄色い葯が花粉を出している。中心部にわずかに見えるのは長い雌しべの柱頭部である。雄しべは10個。
 
   
 
          センダンの葉の様子
 葉は2回、まれに3回羽状複葉。
       センダンの冬芽
 お馴染みのかわいい冬芽で、星状毛に被われている。
 
     
 
        センダンの果実 1
 12月上旬の様子で、たぶん熟しているものと思われる。
         センダンの果実 2
 1月下旬の様子で、表面にはしわが生じている。少しずつ落としているように見えた。 
 
     
 センダンの材  
 
                        センダン材のサンプル その1
 写真は整枝したセンダンの枝を観察用に表面を削ったものである。辺材は淡黄色、心材は淡い紅色で木目が美しい。九州の綾町の木工所でセンダンのムクの座卓を見たことがあるが、明るくソフトな印象であった。
 
 
 
                      センダン材のサンプル その2
      こちらは少しだけ杢が出ている。いい色合いである。
 
 
                          センダンのツボ押し
 センダンは大きな板材がしばしば販売されてはいるが、決して出材量が多くはないため、小間物等の身近な製品としてはほとんど見かけない。写真は中国製のツボ押しで、意外なことに素材はセンダンとしていた。1050円也の激安価格である。中心の二つのコブで背中を上から下にスライドすると実に快感である。
 この製品は当初、濃いめの無粋な着色塗装が施されていて、センダンの感触が台無しとなっていたため、塗装を剥ぎ落として改めてオイルフィニッシュとしたものである。こうすればセンダンの材であることを確信できる。
 
 
 センダンの名称  
 
 「栴檀は双葉より芳(香)し」の「栴檀」は白檀を指すとの説明はセンダンの説明といつもセットで見られるフレーズである。和名の漢字表記が、教科書とした中国の漢名が意味するものとは全く別物に充てられた例は多くあり、先人も苦労しながら中国の文献を咀嚼し、時に誤ったことが知られている。この例も詳細の経過は知らないが、特別のことではない。要は日本の古書の栴檀(センダン)は白檀(ビャクダン)を指しているということであり、和名のセンダンに栴檀の字が充られていることが混乱の元である。
 それよりも、そもそもセンダンの中国名は? 白檀の中国名が栴檀なのであれば、白檀の名は日本語なのか、それとも中国語なのか? これらに触れている例は少ないため、是非ともこれ知りたい。そこで、中国の図鑑で確認するとともに、よろず情報を整理してみた。
 
 
学 名 Melia azedarach
(センダン科センダン属)

(注)センダン属の種の整理の考え方にはいろいろ見られる。後述。
Santalum album
(ビャクダン科ビャクダン属)
和 名 センダン(栴檀) ビャクダン(白檀)
中国名

【中国樹木誌】
(中国林業出版社)
(楝科楝属)

楝樹(中国樹木分類学)、苦樹(湖南)、楝(神農本草経)、紫花樹(江蘇、浙江、山西)、火棯樹(広東)
(檀香科檀香属)

檀香(本草綱目)、白銀香、黄英香(新本草綱目)
(注)「栴檀」の語はここでは見当たらない。

 仏家はこれを「栴檀」と言うとする中国語ウェブ情報がある。
 檀香の別名として「白檀」、「檀木」の名があるとする中国語ウェブ情報がある。
 「檀木」は黒檀、白檀などの総名でもある。【字源】
英 名 Chinaberry White sandalwood, Sandalwood
香りの有無 (特段の香りはない。) 白檀の香りはその心材に由来し、葉も花も香気はないとされる。したがって、双葉の頃から芳しいことはないというのが定説である。
材の利用 【日本】
(木の大百科)
建築装飾材(壁板、腰羽目、造作材)、家具材(机、椅子、火鉢、台、棚、箪笥の前板など)、器具材(箱、花台、木魚、箸など)、楽器材(特に筑前琵琶の胴と頭)など。その他下駄、寄せ木細工・木象眼、彫刻材など。

【中国(中国樹木誌)】
家具、建築、農具、模型、楽器等

(注)センダンの種子(核果)が数珠に利用されるとする記述をしばしば見かけるが誤りである。「檀」の字の効果なのか、材は広く数珠に利用されていることを確認した。
【日本】
(平凡社世界大百科)
 仏像、美術彫刻、小箱、櫛など小細工物、数珠などに賞用され、また薫香、抹香、線香の材料とする。心材や根材を水蒸気蒸留してビャクダン油を得る。
(木材の工芸的利用)
 仏像、念珠、箸、楊子、香料

【中国(中国樹木誌】
 扇骨、高級工芸美術品の制作が可能。材を蒸留することで白檀油が得られる。
その他
 古名は「あふち」(おうちおおち)。鳥取市内に樗谿(おうちだに)公園があるが、その名は園内にある旧東照宮が明治時代に「樗谿神社」と改称された後のこととされ、「樗谿」自体の名称の由来については現在となってははっきりしないという。
 京都の獄門の前にあったあふちの木(センダン)に数々の武将の首がかけられて曝されたことから「獄門の木」とも言われたという。
 話がややこしくなるが、中国では「」、「樗樹」はニワウルシ(ニワウルシの中国名はふつうは「臭椿」を充てる。(注)「臭」の下は「犬」)を意味する【中国樹木志】)。したがって、「樗」の字も日本では中国内とは違うものに充てられたということになる。
 なお、「樗」はミツバウツギ科のゴンズイ(日本の漢名:権萃、中国名:野鴉椿)にも充てられた(日中?)との記述も見られるが、詳細は確認できない
 ナマのビャクダンの木は小石川植物園温室にあるとされるが、この温室は常時公開しているものではないため、まだお目にかかっていない。公開情報の事前確認が必要である。

 また、京都府立植物園温室でも見られるとのことで、こちらは年末年始以外は常時公開されている。
 
     
  <参考1:図鑑におけるセンダン属の種のとらえ方の相違点>   
     
 
A  山渓 樹に咲く花
 センダン Melia azedarach  四国、九州、沖縄、中国、台湾、ヒマラヤに分布。
B   朝日百科 植物の世界
 センダン Melia azedarach var. subtripinnata  西日本に多いが、古くから植栽されているので、その分布域ははっきりしない。
 トキワセンダン Melia azedarach var. azedarach  基準変種。タイワンセンダンとも。ヒマラヤからインドシナ半島北部、中国に分布。小葉がやや小さく、切れ込みが多く、しばしば常緑となる。 
 トウセンダン Melia azedarach var. toosendan  ときに栽培される。中国原産で、果実が長さ約25ミリと大きく、また小葉も大きい。
C 平凡社 日本の野生植物
 センダン Melia azedarach var. subtripinnata   四国・九州・小笠原・琉球の海近くの林内に生え、中国にも分布し、本州ではよく植栽される。白花品をシロバナセンダン f. albiflora Makino という。
 トキワセンダン(タイワンセンダン)
        Melia azedarach var. azedarach
 基本変種。中国・インドシナ北部からヒマラヤに分布する.センダンとの間は連続する。葉がやや小さく、深く切れ込む鋸歯がある。
 川楝 Melia toosendan  中国に分布。
 果実が球状楕円形で大きく、長さ2.5センチ、幅2センチあり、6~8室からなるものをトウセンダンとよび、中国の川楝 Melia toosendan を当てているが、川楝は葉が厚く、ほとんど鋸歯がないのに対し、トウセンダンは葉が薄く、低い鋸歯があり、センダンの葉によく似ている。果実は川楝に似ているが、トウセンダンはセンダンの1型で川楝とは別種と思われる。

(管理者注)種小名はどう見てもトウセンダンから来ているように見えるのであるが・・・
   中国樹木誌
 楝樹(中国樹木分類学)、苦楝(湖南)、楝(神農本草経)、紫花樹(江蘇、浙江、山西)、火棯樹(広東)
 Melia azedarach
(和名:センダン
 産于黄河以南、長江流域及福建、広東、海南、広西、台湾。
 小葉常有鋸歯、子房4~5室、果径不及2厘米。
 川楝(中国経済植物誌)、金鈴子(四川、湖北、広西)、唐苦楝(経済植物手册)
 Melia toosendan
(和名
 産于四川、貴州、雲南、広西、湖南、湖北、河南、甘粛南部。日本(注:自生の意ではない。)、越南(ベトナム)、老撾(ラオス)、泰国(タイ国)也有分布。

 小葉全縁或有不明顕鋸歯、子房6~8室、果径2.5 厘米以上。 
 
      
   手近な資料の内容を並べてみたが、中国で協議会を開催して整理した方がいいような印象である。   
     
  <参考2:センダン等の薬効等>    
     
 
中国樹木誌  楝樹 
Melia azedarach
(センダン)
 種仁可搾油、潤滑油和肥皂(注:石けん)。根皮、樹皮、果実薬用、有駆虫、止痛、収斂等効、但毒性較強、須慎用。樹皮、樹葉可提製栲胶。樹皮可造紙及作人造綿原料。
川楝
Melia toosendan 
 樹皮薬用、殺蛔虫 、併可胃病。鮮葉可作肥料。葉、花、果、樹皮可製農薬、防治病虫害。果肉可製漿糊漿紗。  
原色日本薬用植物図鑑    センダン
Melia azedarach var. japonica 
 四国、九州あるいは紀伊半島南部の海辺や山地に自生し、各地で植栽される落葉高木。
(注)この図鑑では日本に自生するものを固有の変種としている。
根皮及び幹皮を苦楝皮(くれんぴ、Meliae Cortex)といい、回虫、ぎょう虫、条虫などの駆虫薬とする。主として腸管内の回虫駆除に用いられ、駆虫率は約80%といわれる。果実を苦楝子(くれんし、Meliae Fructis)にあてて、駆虫薬及び鎮痛薬とし、回虫症による腹痛、せん痛に用いられる。日本の民間薬では生の果実をヒビやアカギレに塗る。さらに茎葉は農用殺虫剤として利用される。
 駆虫作用の有効成分は toosendanin である。
 日本産の苦楝子は代用品である。 
(*日本薬局方には登載されていない。)
タイワンセンダン M. azedach
中国名:苦楝 
 中国では根皮と幹皮を苦楝皮とする。 
       果実は苦楝子(くれんし)という。代用品。
トウセンダン
M. toosendan
中国名:川楝 
 中国では根皮と幹皮を苦楝皮とする。 
       果実を川楝子(せんれんし)という。良品とされる。
タイワンセンダン及びトウセンダン共通   中国では、これらの葉を楝葉(れんよう)といい、鎮痛薬及び駆虫薬とし、花を楝花(れんか)と呼んでノミやシラミなどを駆除する殺虫剤あるいは除虫菊と同様に燻蒸して蚊を殺すのに用いられる。 
 
     
  <参考3:センダンの果実(核果)の核と種子の様子>   
     
   いろいろな樹種で見る核果の核は総じて硬質の木材よりも硬く、種子の姿を見極めるのも面倒であるため、どうしても観察は後回しになってしまう。

 センダンの果実を改めて観察すると、樹によって形状に差があり、明らかな長短が見られる。結果として、中の核の形状にも長短が見られる。

 また、核の表面には複数の溝が見られるが、溝の数にもかなりの幅がある。ただし、ざっと見た範囲では、
 “模範的な核” ではたぶん横断面は「頂部が鈍い五角星形(五稜星形)」なのであろうと推定できる

 したがって、“模範的な核” にあっては5個の種子が入っているのが標準的なのであろうと推定される。 
 
     
 
     センダンの核 1
 楕円形のタイプで、この形状が一般的である。。
    センダンの核 2
 左は8稜、右は6稜ある。写真は着生部側から見たもの。
     センダンの核 3 
 丸いタイプ。左は7稜、右は5稜ある。下の2個は頂部側の様子。
 
     
 
                センダンの核の横断面と種子の様子
 
外観の異なる核をいくつか切って見たが、稜の数と種子の数は必ずしも一致せず、みんなへそ曲がりばかりで、種子が5個入った模範的なものとも遭遇しなかった。ただ写真の右側のものは、あと2個の種子を作り損なった印象である。 
 
     
  センダンよりもはるかに頑強な核をもったハンカチノキの果実の断面はこちらを参照   
     
  <追記 2019.5>センダンの芽生え   
   センダンの芽生えの様子を確認しようとしたのは、複数の種子を含んだ硬いセンダンの核を植えた場合に、どんな挙動を示すのかを確認したかったからである。そのきっかけは、図鑑の「樹に咲く花」に、次のような記述があって、理解しにくかったことによる。

「センダンの核はミカンの袋が集まっているように見える。それぞれの袋には細長い種子があり、春の発芽期にはばらばらになって種子を出す。」 

 この記述を文字どおりに受け止めれば、地上に落ちた果実は春になると核がバラバラに割れて、中から種子が転がり出るということになる。これはどう考えてもあり得ない。
 
   (センダンの芽生えの様子)  
 
       センダンの芽生え 1
 まずは、長い子葉を2枚展開する。
       センダンの芽生え 2 
 子葉を完全に展開する前に、すでに初生葉が出始めている。
   
        センダンの芽生え 3
 半端な形態の初生葉が展開した。 
       センダンの芽生え 4
 ひとつの核から次々と発芽する。発芽に際しては発根で核を割り、さらに子葉が核を押し広げる。
   
        センダンの割れた核
 種子が割った核の様子(一部)である。厚くて硬い核であるが、発芽の際の胚の膨圧で割ってしまう。
        センダンの芽生え 5
 1つの果実の核から5本の茎が伸び出た。たぶん内蔵種子がすべて発芽したということであろう
 
     
   ということで、図鑑の説明はあまり適確ではないことがわかった。