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続・樹の散歩道
  ハンカチノキの果実の核と種子の観察


 数人の植物観察大好きおばちゃんが見慣れないタネのようなものをキーホルダーのようにしてリュックにぶら下げているのを見かけた。聞けばハンカチノキのタネとのことである。表面にしわのある核果の核(種子を包んだ内果皮)は珍しくはないが、これほど溝が深いというか、多数の薄いヒレに覆われた核は見たことはなく、よく見れば美しくもある。
 そこで、こんなに個性的な核の中にどんな状態でどんな形態の種子が入っているのか興味がわき、早速のぞいてみることにした。 【2018.11】 


 
                   花期のハンカチノキの様子
 ミズキ科(ダヴィディア科、ニッサ科(オオギリ科、ヌマミズキ科)、ハンカチノキ科)ダヴィディア属の落葉高木 Davidia involucrata (何科とするかは揺れ動き続けている。
 本種特有の大小2個の白いぺらぺらしたものは苞で、中国植物誌では2~3個あるとしている。
 自生地の中国名は 珙桐 。属名の Davidia は中国で植物採集を行い、本種を認知したフランスのアルマン・ダヴィッド(Armand David , 1826-1900)神父の名にちなむ。英語名は handkerchief tree , dove tree , ghost tree で、和名のハンカチノキは英語名由来であることがわかる。また英語名のdove tree は白い苞を白鳩が羽ばたいている姿に見たてたもので、直訳すればハトノキである。ghost tree (幽霊の木)の名もやはり苞の印象による。 
 
 
 ハンカチノキは小石川植物園のものが有名であるが、その他の植物園、公園でもしばしば植栽されていて、落ちている果実を手に入れるのは容易である。なお、ハンカチノキの花は白い苞がぶら下がって珍奇で目を引くが、国内の図鑑の解説は素っ気なくて、特に関心はなかったが、この機会に花の構造についても学習してみることにした。  
 
 ハンカチノキの花と果実に関する情報例  
 
 【中国植物誌】(抄)
 珙桐(原変種)Davidia involucrata Baill. var. involucrata
 (蓝果树科 Nyssaceae 珙桐属 Davidia)
 落葉喬木で樹高は15~20メートルで、まれに25メートルに達する。葉は紙質で互生、托葉はなく、ふつう幼枝頂端に密集、広卵形又は近円形。長さはふつう9~15センチ、幅7~12センチ、頂端が急に尖るか短く急に尖り、湾曲した尖頭を持ち、基部は心臓形又は深心臓形、辺縁に三角形で先が鋭く尖った粗鋸歯がある。葉の上面は鮮緑色で、初めはわずかにまばらな長い柔毛があって、後に無毛となり、下面は淡黄色又は短白色の絹状疎毛が密に被う。・・・・
 花は雑性で、両性花と雄花が同じ株にあり、多数の雄花と1個の雌花又は両性花によって球形の頭状花序をなし、直径は約2センチ、幼枝の頂端に着生し、両性花は花序の頂端に位置し、雄花はその周囲を取り巻く。短円状卵形又は短円状倒卵形の花弁状の苞片が2~3枚つき、長さは7~15センチ、まれに20センチに達し、幅は3~5センチ、まれに10センチに達し、初めは淡緑色で、後に乳白色、さらに茶褐黄色になって脱落する。
 雄花には萼と花弁がなく、雄しべは1~7個が花托上につき、長さ6~8ミリ、花糸は非常に細く無毛で、花葯は楕円形、紫色。
 雌花又は両性花
下位子房を具え、6~10室、花托と合生し、子房の頂端部に退化した花被と短い雄しべがあり、花柱は太く6~10枝に分成し、柱頭部は外側に向かって平らに展開する。各室に1個の胚珠があり下垂する。時に発育していな。
 果実は長卵円形の核果で、長さは3~4センチ、直径15~20ミリ、紫緑色で黄色の斑点があり、外果皮はごく薄く、中果皮は肉質で、内果皮は骨質溝紋があり、種子は3~5個入っている。胚の子葉は長楕円形で、幼根は円柱形である。
 中国の湖北西部、湖南西部、四川及び貴州・雲南両省の北部に産する。海抜1500~2200メートルの湿潤常緑広葉樹・落葉樹の混交林中に生える。
 なお、変種として光叶珙桐(光葉珙桐) Davidia involucrata Baill. var. vilmoriniana があり、葉の下面はふつう無毛又は幼時に脈上がまばらな短毛と疎毛に被われている点が異なる。 
 【小石川植物園の説明板】
 ハンカチノキ Davidia involucrata Baill
 ハンカチノキは中国中部と西南部だけに自生する中国の固有植物で、海抜2000 mほどの山地の湿った日当たりのよい斜面などに生育している。欧米では園芸植物として昔から有名であり、庭木、街路樹として植えられている。ハンカチノキの名前のもとになった二枚の白いものは花を飾る特殊化した葉であり、植物学的には苞と呼ばれる。その下(内側)にある球状のものは花弁のない小さな花の集まり(花序)である。雄花だけからなる雄花序は花粉を散らした後に苞とともに地面に落ちるが、一個の雌花のまわりを多数の雄花が取り囲んでいる両生の花序は受粉して果実をつける。花序がこのような特殊な構造をしているためミズキ科やヌマミズキ科に入れられることもあれば、ただ一種でハンカチノキ科(ダヴィディア科)がつくられることもある。 
 
     
 ここで1点気になるのは、花の構造に関して記述内容に違いがあることである。これについては次に検討してみる。  
 
 ハンカチノキの花の様子  
 
 国内のその他の図鑑の花に関する記述を含めて整理すると以下のとおりである。  
 
 花の構成に関する記述例  
中国植物誌  花は雑性で、両性花と雄花が同じ株につく
 多数の雄花と1個の雌花又は両性花によって球形の頭状花序をなし、直径は約2センチ、幼枝の頂端に着生し、両性花は花序の頂端に位置し、雄花はその周囲を取り巻く。
 雄花には萼と花弁がなく、雄しべは1~7個が花托上につき、長さ6~8ミリ、花糸は非常に細く無毛、花葯は楕円形、紫色。
 雌花又は両性花は下位子房を具え、6~10室、花托と合生し、子房の頂端部に退化した花被と短い雄しべがあり、花柱は太く6~10枝に分成し、柱頭部は外側に向かって平らに展開する。各室に1個の胚珠が下垂する。時に雌花が発育していない
小石川植物園説明板 の下側にある球状のものは花弁のない小さな花の集まり(花序)である。雄花だけからなる雄花序は花粉を散らした後に苞とともに地面に落ちるが、一個の雌花のまわりを多数の雄花が取り囲んでいる両生の花序は受粉して果実をつける。
園芸植物大事典 花は単性で小さく、径2cmほどの頭状に集合し、下垂する大小2個の、大きな白色のに包まれる。雄花には、1~9個の雄しべがあり、花糸は白く、葯は赤みを帯びる。雌花には、卵形の下位子房を持つ雌しべと退化雄ずいがある。花はいずれも花被を欠く。
樹に咲く花  花は雌雄同株
直径約2センチの球形の花序が垂れ下がる。花序には両性花が1個と雄花が多数つく。花序の基部には白いハンカチのような総苞片が2個つく。 
日本の樹木  球形の頭状花序に1個の両性花と多数の雄花をつける。花弁と萼はない。基部に長さ6~15センチの大型の白い総苞片が2個ある。 
 
     
   これらを見ると、果実をつける花序は「多数の雄しべ」と「退化した短い雄しべをもつ1個の両性花(雌花)」で構成されていることが推定される。これとは別に結実調整によるものか、雌花が発育しなかった一見すると雄花だけで構成されたように見える花序(雄花序)が存在するようである。表現、見解がいろいろで、少々わかりにくいことになっているようである。

 以下は以前に撮影したハンカチノキの写真を振り返ったものである。成熟度合いに幅がありそうな両性花の様子について、正確なことを知るためには、現物をキッチリ再観察する必要がありそうである。 
 
     
 
     ハンカチノキの花 1(雄花序に見える)      ハンカチノキの花 2(雄花序に見える) 
   
          ハンカチノキの花 3
 中心に両性花が見られる。 
          ハンカチノキの花 4
 両性花が見られるが、左のものより子房の発育がよくない印象がある。 
   
 
         ハンカチノキの花 3-2
 先の両性花の部分である。短い柱頭の直下に紫色の葯をつけた小さな雄しべが見られる。退化した花被は写真ではよくわからない。 
           ハンカチノキの花 5
 雄花の雄しべがほとんど脱落した時期の両性花の様子である。子房の下のぶつぶつのある部分は雄花が着生していた部位で、花托らしい。よく見ると、両性花の小さな雄しべと雄花の雄しべがわずかに残っている。 
 
     
3  ハンカチノキの果実、核(種子を包んだ内果皮)、種子、胚の様子   
     
       ハンカチノキの果実(核果)
 果柄の着生部に花托が残っている。果柄に対して角度を付けて着生している。
      ハンカチノキの果実の横断面
 骨質の硬い内果皮(核)に包まれて、細長い種子(写真は横断面)が大小5個収まっていた。一般には3~5個入っているという。種子配置は、この果実の場合ではファーウェイのロゴマークのようで、完全な放射状にはなっていない。
 
 
 ハンカチノキの果実の核 1   ハンカチノキの果実の核 2     ハンカチノキの果実の核 3
 
 
   核には深い溝-多数の薄いヒレが存在する。このヒレは果肉(中果皮)を保持するには都合がいいのかも知れないが、それがどーした!!といった感じで、機能的な意味合いについてはわからない。果肉をきれいに落とすためには、爪楊枝でまめにほじほじしなければならない。   
     
 
     かち割った核から姿を見せた種子 
 種皮は核の内面に粘着していて、種皮付きの種子をきれいに取り出すことは困難である。写真では一部だけに茶褐色の種皮が残っている。
          ハンカチノキの種子
 種皮が剥がれた種子の様子で、長い紡錘形である。
   
 
     ハンカチノキの種子内の胚の様子
 種子は薄い胚乳に被われていた。手前側の胚乳を剥ぎ取ると、種子と同長の大きな胚が姿を見せた。 
     ハンカチノキの種子から取り出した胚 
 長楕円形の大きな子葉が2枚ある。写真では子葉の先が折れ曲がっていた。胚軸幼根は円柱形である。
 
 
 ハンカチノキに関する雑情報  
 
   以下は目に止まった雑情報である。   
     
 
 【百度百科】(抄)
 珙桐 Davidia involucrata (蓝果树科 珙桐属)
 本科の植物は1属2種(注:原変種と変種)のみで、両種は似ていて、本種(注:原変種)は葉面に毛があり、別の1種(注:変種)は光葉珙桐 Davidia involucrata var. vilmoriniana で、葉が艶やかである。
 古代の遺存植物(遺存種)で、中国の国家一級の重点保護野生植物であり、世界的に著名な観賞植物でもある。
 林内で自然に落下した果実が発芽することは極めて少ない。種子で繁殖させるためには果肉(内果皮)を除去しなければならない。このための方法としては、 搗きつぶす方法、 屋外で積み重ねて果肉の腐敗を促進する方法、 最も簡単なものとして、人尿を満たした糞便桶内で果肉を腐敗させる方法がある。    
 【A-Z園芸植物百科事典】(抄)
 果実のまま播種されたハンカチノキの種子の発芽は、通常2回冬を越した後の春。種子から育てると、開花まで10年かかる場合がある。 
 【Kew science】(抄)
 種子が発芽するためには暖かい層と冷たい層の両方を必要とする。Kewでは砂又はパーライトが入ったポリエチレンバッグに種子を入れることによって達成している。バッグは暖かい場所に4〜6ヶ月間保管し、その後寒い場所で3ヶ月間保管している。
 種子は不規則に発芽し、開花までに10~20年を要するかも知れない。