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樹の散歩道
 
 栗物語2 焼き栗の研究
             


 国内には野性種のシバグリ(芝栗。ヤマグリ(山栗)とも。)や各種の大粒の栽培栗があるが、いずれも渋皮が剥がれにくいため、焼き栗に使用されていない。このため販売されている焼き栗は外来種の独壇場である。
 焼き栗は決して安くはないが、街中でいい匂いをかいでしまうとつい誘惑に負けて買い込み、カロリーの過剰摂取につながることは間違いないと思いつつ、止めどなく食べてしまう。こうして、しばしばお世話になっている街角の焼き栗を観察してみた。
【2008.9】
   


 写真は焼き栗屋ならぬ焼き芋屋である。「十三里」は江戸時代からの焼き芋の洒落た別名で、栗(九里)より(四里)うまい十三里(9+4)から来ている。
 こうした呼称があったこと自体が、いかに栗が美味いものとして好まれていたかを物語っているものであり、そのことにあやかった呼称であったことが理解できる。



日本橋 十三里屋
 
東京都中央区日本橋室町2-2-1
 中国栗 天津甘栗
 あのいい匂いの由来は、テリを出すために絡めている水飴(糖液)が焦げることによるものであろう。天津甘栗の名前は、かつてチュウゴクグリ(中国栗)の集荷・輸出拠点であった中国の天津に由来する日本国内での呼称だそうである。焼き栗は美味しいが、ついつい食い過ぎてデブに拍車をかけることになるのが難である。
 天津甘栗はテラテラとして実に美しいが、その効果を担っている水飴(糖液)に由来して、少々ベタ付いて手が汚れるのが難点である。しかし、多くの消費者はこれを乗り越えて強く支持している。
 なお、このべたべたはつや出しの他に、過熱による破裂を防いでいるとも言われる。
 
 中国栗 笑い栗
 最近、多くのメーカーが「笑い栗」の名で袋入りの販売している。ということは、この名称は登録商標ということではないようである。天津甘栗は、ベタ付く、(作る側の立場で)日持ちしない、ぶきっちょには皮が剥きにくという欠点を克服したものと想像する。  「実際の栗には顔は描いてありません。」の注意書きが気に入ったのでここに掲げた。何とも微笑ましい。
 中国栗 むき栗
 むき栗のよさは横着できることと、ゴミが出ないことである。ただ、蒸れてべちゃべちゃしている点がイマイチで、これは避けられないことなのであろう。そういいながら、価格が安ければついつい買ってしまう。今や菓子類の仲間としてしっかり定着した。
 京やきぐり(比沙家)
 都内でもしばしば目にするこの店の名前から、誰もが京都の栗であると思い込んでしまう。そして買った後に包装の説明書きから中国栗であることを知る。そこで、まあ美味ければいいやということになる。京都に本店があるようであるが、なかなか大胆なネーミングである。水飴に由来する艶のある天津甘栗と違って、こちらは鬼皮が凸凹に焼けただれていて、見てくれは非常によろしくない。オーブンででも焼いているのだろうか。一般の天津甘栗より大粒であるためか、価格はやや高い。味はよろしい。
株式会社グローバル
 京都本店:京都市下京区五条高倉西入万寿寺町143 いづつビル5階
 東京本社:東京都港区元赤坂1丁目7番13 号
 ヨーロッパ栗の焼き栗
 写真の焼き栗は都内日比谷公園でイベントが開催された際の出張売店で購入したものである。袋はいかにも食べ歩きをすすめるような感じのデザインであった。したがって、当然ながら食べ歩きとなったわけであるが、キャンディーのプラ包装と違って栗の皮は純天然性であり、公園内の土の上であればポイポイ捨てても一向に気にならないところが素晴らしい。他の落ち葉などとたちまち一体化して、自然の風景と化してしまう。味については、空腹であったことを割り引いてもなかなか美味しかった。包装袋を捨ててしまったが、たぶん下記の会社扱いであろう。冷凍焼き栗をイタリアから輸入していて、通販も行っている。
 この冷凍焼き栗は、個々に切れ目が入っているにもかかわらず、説明書きにはオーブントースター又はフライパン等で加熱することを指示しており、電子レンジの使用は破裂の恐れがあることから避けるように注意書きされている。この点については趣旨不明である。

有限会社 メルカ トレーディング
 東京都世田谷区梅丘1-26-8
 http://www.itaguri.com/about.html
 日本栗(ニホングリ)の焼き栗

 ニホングリの焼き栗は商品としては全く見かけない。それは、甘さにおいてヨーロッパ栗中国栗に劣り、それより何よりも渋皮離れの悪いのが焼き栗とした場合の致命傷になっているためである。このため、渋皮ごと剥いて、手をかけて煮たり、栗ご飯にする場合以外は、茹で栗とするのが最も簡単にしかも多くの量を処理できる一般的な方法である。あとは、ざっくり切ってスプーンででもほじほじすればよい。ただし、「ためしてガッテン」によれば茹でることによって糖分が失われるため、本当は蒸すのが望ましいとのことである。

 一方、ニホングリを積極的に焼き栗とする理由があるのか疑問であるが、そもそも多くの量を一度に焼く道具がないのが普通である。ただし、焼き芋と同じように、ひょっとしておいしさが高まるのではないかとの思いはある。しかし、そのまま焼けば爆発すること請け合いで、笑いグリヨーロッパ栗のように刃物で皮に傷を付ければ問題ないかも知れない。(追って実験予定。)「さるかに合戦」でも明らかなように、栗は昔から爆ぜることになっているのである。

 さて、さらに横着したい向きには、焼き栗ではないが電子レンジの利用がある。この場合も、そのまま放り込んだ場合は悲惨な状態を招き、しばらくの間は放心状態に陥ることになりそうである。
 しかし、シャープの電子レンジ使用上の注意として、ホームページに次のような説明があった。

「殻のついた栗、ぎんなんなど、木の実は破裂しますので、殻に深い切れ目を入れるか、殻をむいてから加熱してください。」

 これで安心して、切れ目を入れて実験したところ全く問題はなかった。ただし、そのままでは水分が飛んでしまうので、冷凍シューマイを解凍する時のように、水を垂らしてラップする方法が考えられる。

 と、いうことで現在のところは商品としての日本栗の焼き栗は依然として幻である。

 いつの間にか円筒形の回転式圧力釜を使って、日本栗でも簡単に皮が剥ける焼き栗が可能となっていた。   後出の追記を参照 
 参考メモ
  種 類             ポイント
ニホングリ

Castanea crenata
・北海道南部から九州全土にわたって原生分布。
・野生種はシバグリヤマグリと呼ばれ、山野に自生。栽培グリの基本種。
栽培グリはシバグリに比べて耐寒性が弱いので、その北限は北海道南部
・チュウゴクグリの渋皮剥離性をニホングリに取り入れようと古くから雑種の育成 が行われてきたが、実用品種として未だ成功していない。
・2007年10月に公的研究機関である独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構が、日本栗の交配により渋皮剥皮性の良好な品種「ぽろたん」を創出・品種登録している。苗木が平成19年度から販売開始されている。
・わが国で最も古い栽培歴をもつクリ産地は摂津地方であり、この地域から生産されたクリは丹波栗と呼ばれた。

   「ぽろたん」のラベル


チュウゴクグリ

Castanea mollissima
・中国大陸原産。
・品質と保存性は華北産が最も優れている。
・かつて主産地の華北省産のクリが天津に集荷されて輸出されたため、日本では天津栗と称された。現在では秦皇島の港に集められて我が国に輸出されている。
・わが国ではクリタマバチの被害が激しいため、経済栽培はみれなかったが、岡山県林業試験場で中国栗の自然交雑実生から選抜・育成したものを平成20年3月に「岡山1号、2号、3号」として品種登録しており、今後普及が見込まれている。
・渋皮の剥離は極めて容易。(この性質は遺伝的には劣勢)
・果肉は甘味が強い。
ヨーロッパグリ

Castanea sativa
・小アジアから地中海沿岸の南ヨーロッパ及び北アフリカに原生分布。
・大果は高値で取引されてマロングラッセなどの製菓や料理の原料に、小果は焼き栗に利用される。
・栽培はイタリア、フランス、スペインなどラテン系諸国で多い。
・わが国では胴枯病の被害が著しいため栽培困難。
・果実は一般に暗褐色で縦線が明瞭に認められる
・剥皮はおおむね良好で、甘味中位。
アメリカグリ

Castanea dentata
・北アメリカ東部原産。
・東洋から導入したクリ苗に胴枯病被害苗が混入していて、それが伝染源となって壊滅状態となったため、チュウゴクグリを主な素材として多くの品種が育成され ている。
・渋皮の剥離は容易。
・果肉は粉質で甘味が多く、クリ属のうち最も香気がすぐれ、品質は優秀である。
資料 果樹園芸大百科7クリ:農文協編(社団法人農山村文化協会) ほか
   
   【追記 2010.10】 
    ぽろたんで焼き栗を試してみた。→ こちらを参照
   

   【追記 2017.11】  
   圧力釜方式による焼き栗の屋外実演を目撃!!  

 神宮外苑いちょう祭りで、円筒形の回転式圧力釜による焼き栗焼成機を持ち込んだ実演販売を目撃した。機械が登場して既に10年以上経過しているようである。渋皮が剥けない日本栗でも圧力釜効果で皮が容易に剥けるようになることから、京都ほかに複数の実店舗を有する株式会社京丹波(京都市中京区錦小路麩屋)によるフランチャイズ方式による事業者も増えているようである。
   
 
       焼ポン栗機による実演風景
 焼き上がり直前にバルブを開けて蒸気を勢いよく飛ばすため、これが目を引くよい演出となっている。長い行列ができていた。
          栗の投入時の様子
 釜の容量が小さいのが難で、自ずと口も小さいため、栗の投入と掻き出しはやりにくそうである。小さなボウルを使って生栗を投入している風景である。 
   
   焼き栗機自体の構造はきわめてシンプルで、円筒形の圧力釜にバルブつきの口があり、LPガスを熱源とするバーナーと圧力釜を回転するモーターが一体となっている。作業手順のおおよそは以下のとおりとなる。

 切れ目を入れた生栗を焼ポン栗機の円筒形の圧力釜に投入→バルブを閉めてガスに点火→20分から30分ほど加圧状態で加熱(釜はモーターで回転)→バルブを細く開放してゆっくり減圧・蒸気抜き(急激に減圧すると栗が爆発して粉々になる)→取り出し

 株式会社京丹波のホームページによれば、直営店舗での使用栗は国産、韓国産(品種は日本の栽培品種)、中国産としている(注:使用比率は不明)。焼き上がった直後の栗は湿った状態で、黒く焼ただれていて、あまり美しくなく、手も汚れる。表面が乾燥すれば、前出比沙家の焼き栗と同じような外観となると思われる。

 ゆで栗であれば、圧力鍋を使って渋皮が剥きやすくなることは、ためしてガッテン情報で広く知られているところである。しかし、この圧力釜で焼き栗とすることは新たな着眼点であり、この技術は東亜機械工業株式会社特許となっている。また、商品としての「焼ポン」の呼称は株式会社京丹波登録商標となっている。

 この方式よれば、営業レベルでは日本栗での皮離れのよい焼き栗が可能となっており、先に登場した「ぽろたん」の優位性が失われている感があるが、個人ではこんな大げさな機器の利用は困難であるから、ぽろたんは家庭での焼き栗や料理用としては重宝する存在であることには変わりないであろう。