トップページへ  樹の散歩道目次へ   続・樹の散歩道目次へ
続・樹の散歩道
 ヤドリギのある風景
  このしぶとさと粘りには何か使い途がありそうな・・・


 落葉広葉樹の大きな樹が葉をすべて落とすと、その樹冠のひときわ高い位置にしばしば大きな緑色の杉玉のようなものが幾つも姿を現すことがある。よく知られたヤドリギである。
取り付かれた樹にとっては、うっとうしいことこの上ない存在であり、できることなら力を込めて一気に叩き落としたいところであろう。しかし、ヤドリギたちは宿主にガッチリ突き刺さり、気持ちよさそうに日を体一杯に浴びながら、素知らぬ顔で居座り続けている。

 水分をしっかりかすめ取りつつ、万全の構えで肉厚の葉を付けて光合成もしているくせに、養分もかすめ取っている。半寄生植物といわれる所以である。人間界においても、日々如何に労せずして高齢者のものをかすめ取るかに思案を巡らせ、迷うことなく即実行している輩が存在するが、このヤドリギは宿主にとっては実に憎たらしい存在に違いない。一方、この特異な個性は、何か使い途がありそうな予感がする。 【2016.11】 


 ヤドリギの様子  
 
                都心のヤドリギの例(皇居北桔橋門付近。雌株。)
 宿主のエノキはすっかり葉を落とし、ヤドリギが気持ちよさそうに日光浴をしている。
 ヤドリギ科ヤドリギ属の常緑でやや多肉な低木状の半寄生植物で、雌雄異株。
 学名 Viscum album subsp. coloratum(日本の野生植物)セイヨウヤドリギの亜種扱い
     Viscum album var. coloratum f. coloratum (植物の世界)セイヨウヤドリギの変種扱い
     Viscum coloratum(中国植物誌)独立種の扱い
 
 
 シラカンバ上のヤドリギ(北海道内)  ハンノキ上のヤドリギ(北海道内)
   
    ナナカマド上で果実をつけたヤドリギ(北海道内)
 雪が積もった中の風景で、左上の基部が雪で覆われていて見えない。
  ハルニレ上で果実をつけたアカミヤドリギ(北海道内)
 Viscum album subsp. coloratum f. rubro-aurantiacum
 Viscum album var. coloratum f. rubro-aurantiacum
 
 
     ヤドリギの果実の様子 1
 
果実はまずくて食べられない。
   ヤドリギの果実の様子 2 
 葉はヘリコプターのようである。
     ヤドリギの果実の様子 3
 中央の褐色の点は柱頭の跡で、周りの4個の点は、花被裂片の落ちた跡である。 
     
   アカミヤドリギの果実の様子 1    アカミヤドリギの果実の様子 2     アカミヤドリギの果実の様子 3 
     
       ヤドリギの雄花
 4個の花披裂片のそれぞれの内側に、花糸のない葯が密着している。虫媒花で、花粉をたっぷり出している。
        ヤドリギの雌花
 雌花には1個の雌しべがあり、写真では内側が蜜で濡れている。
     セイヨウヤドリギの果実
    (Wikimedia Commons より)
 
     
 ヤドリギに関するメモ  
 
 ・  常緑でやや多肉な低木状の半寄生植物で、北海道から九州南部までと、朝鮮半島、中国東北部から南部に分布する。南日本ではエノキに、北日本ではミズナラに寄生している場合が多いが、サクラブナなどの広葉樹にも寄生する。果実は淡黄色に熟す。橙赤色に熟すものはアカミヤドリギ f. rubroaurantiacum と呼ばれる。
 以前はヤドリギ科として1つの科にまとめられていたが、最近はエレモレピス科ヤドリギ科オオバヤドリギ科の3つの科に分類することが多くなった。(植物の世界) 
 ・  多数のヤドリギ類に寄生されると、寄生された木は弱り、やがて枯死することがある。(世界大百科事典)  
 ・  ヤドリギの種子は粘液質の果肉に包まれ、鳥が食べても粘液質は消化されず、糞が粘って木の枝に種子が粘り着いて散布される。果実はレンジャク類が好むという。北海道ではレンジャク類がナナカマドの果実をついばむ風景を見かけたが、これに寄生したヤドリギの果実をついばむ姿は残念ながら観察できなかった。 
 ・  多田によれば、種子が宿主の幹に張り付いてから最初の葉を開くまでには約3年半を要するという。
 葉を開くまでの経過は次のとおりとされる。
  種子から胚軸が伸び、先端部が吸盤のようになって樹皮にとりつく
  とりついた胚軸の先から寄生根が出て幹に食い込む
  胚軸の基部に芽ができて伸び、初めて葉を開く 
 ・  自然状態では見られないが、人工的に種子をまけばヤドリギをヤドリギに寄生させることができ、また、ヤドリギは如何なる接ぎ木法によっても接合しない。(樹木大図説) 
 
 
 ヤドリギの若木の様子  
 
        サクラに取り付いたヤドリギの若木
 硬い幹から異なる樹種が伸び出ているのは何とも奇妙な風景である。
     ナナカマドに取り付いたヤドリギの若木
 ここでは大小3本のヤドリギが伸び出ている。  
 
 
 ヤドリギの根がどんな様子となっているのかは誰でも関心を持つところで、昔から研究者がその縦断面を観察していて、多くの書籍で写真が紹介されている。それを見ると、ヤドリギのくさび形の寄生根ががっちりと寄主に食い込んでいることを確認できる。  
 
 ヤドリギの寄主の例  
     
 ヤドリギの寄主となっている樹種は様々で、図鑑でもその事例が紹介されている。直感的には樹皮が比較的平滑で、薄い方が取り付きやすいと想像されるが、必ずしもそうではないことがわかる。  
 
 (ヤドリギの寄主となっている樹種の例)  
区 分 ケヤキ エノキ ムクノキ ニレ ミズナラ カシワ ブナ シラカバ クリ バラ科 サクラ ナナカマド ヤマナシ サンザシ リンゴ コリンゴ クワ科 クワ ボダイジュ ヤナギ ポプラ ドロノキ ヤマナラシ イチジク ハンノキ
日本の野生植物
世界大百科事典
植物の世界
樹に咲く花
日本の樹木
樹木大図説
実際に目にした樹種
(参考)セイヨウヤドリギ
 
 
 ベチョベチョの果実の様子  
 
 採取した果実から種子を取り出して写真を撮るため、果実を押しつぶして水に浸してみた。果実はブドウのように果皮を残して種子を取り巻く果肉ごとツルッと出てくるが、種子にまとわりついたプリプリとした弾力性のある果肉を種子から剥がすのは簡単ではない。

 布にくるんで果肉を何とか揉み落としたが、種子は白い繊維質のものにくるまれている。これもごしごし擦れば落とせるが、まるで粘着質の果肉の付着生を高めるための工夫のように見える。

 鳥のウンチとして排出されても粘着性がしっかり維持されるというから、この果実の戦略は、ウンチとして排出された後にも種子と一体となってとことん粘って樹の枝に付着し、発芽のチャンスをものにすることに全力投球した機能と理解できる。
 
 
 
  アカミヤドリギの果実
 繊維質のものが糸を引いている。
      ヤドリギの果実
 果実をつぶして種子を分離しようとしたとことが、果肉が粘って全体がくっついてしまった。
            ヤドリギの種子
 種子は扁平で不整形、白い繊維に覆われている。右のものはこれを擦り落としたもの。ヤドリギの種子では種皮を欠いているというが、まとわりついた周りのものを何と呼べばいいのかは未確認。
 
     
   ヤドリギの増殖   
     
   ヤドリギの種子を樹に人為的に付着させて増殖するのは簡単ではないようである。しかし、上原敬二は自著「樹木大図説」で、エノキに寄生させ成功したことがあるとしていて、その方法を次のように記している。

 「二三月頃取播とし、乾燥のつづいた日に枝の又状部を少しく剥皮して果実をすりこむ様にする、乾燥が続くと粘液が少しく固まるので皮に入りやすい。鶏糞に種子をまぶし半開状に剥皮した部分に種子を挿んでおいてもよい。鳥糞内で発根すると短円筒状の形をなし、その先端がふくらんで盤状扁平の吸盤を作り、その下方中心からさらに特殊な吸根を生じこれが寄主の組織に食い込んで行く、かくて寄主から水分と養分を吸う、初め二年間は生長遅く、普通見るような葉状をなすには5年かかる。

 身近な例では、皇居東御苑の桃華楽堂付近のケヤキで、高さ約3メートルほどの低い位置にヤドリギが見られるところであるが、実はこれは宮内庁庭園管理課の職員がこのケヤキにはしごを架け、試しに人為的にヤドリギの種子を付着させてみたところ、意外や根付いてしまった例とされている。

 なお、英国のキュー植物園でもセイヨウヤドリギを寄主木となる樹木に寄生させるために多くの試みがなされてきたが、人工栽培の方法の確立は困難であったとしている。ひょっとすると、鳥のウンチとして排出されたものの方が定着の条件がよいのかも知れない。 
 
     
7   ヤドリギ類の利用   
     
   ヤドリギのたくましさや果実のヌルヌルベチョベチョぶりは、これだけで何やら薬効を感じてしまうが、国内では茎葉について民間薬、漢方(桑寄生 そうきせい)としての利用に関する情報を確認できるが、日本薬局方には収載されていない。ただし、広くヤドリギ類由来の生薬(ソウキセイ・桑寄生)に対しては厚労省の規制が見られる。
 一方、中国に目を向ければ、案の定で、ヤドリギ科には多くの樹種が自生していて、中国の図鑑にはこれらについて様々な薬効が記述されている。
 また、驚くべきことに欧州産のセイヨウヤドリギについては、医薬品、サプリメントとしての利用がふつうに見られることがわかった。同時に、このセイヨウヤドリギは毒性は低いものの全株有毒と見なすべきとの指摘があることを確認した。 
 
     
(1)  中国に産するヤドリギ類の薬効   
     
   以下、「中国樹木誌」に掲載された樹種をベースに宿主、薬効に関する部分を抽出すると、以下のとおりである。(注:従前の分類による。日本に自生するものも赤文字で付加した。)

桑寄生科 Loranthaceae ヤドリギ科

 ヤドリギ科は65属、約1300種あり、主として熱帯、亜熱帯に、少数が温帯に分布し、中国には11属、約60種(中国植物誌では11属、64種・10変種)が分布し、いくつかの種類は薬用に供される。

*桑寄生科(ヤドリギ科)には、クワの木を寄主の一つとするものも見うけられ、中国語の属名、種名でも「桑寄生」の語が見られるが、クワとの明確な関係はよくわからない。中医及びこれに学んだ漢方ではヤドリギ類由来の生薬を「桑寄生」と呼んでいて、中薬大辞典に「処方家は桑につくもののみを必要とする。」とした記述を紹介している。安定的入手は困難としてもこれが珍重されていたことが伺えることから、この価値観に引っ張られて、「桑寄生」の語が象徴的に定着したのかも知れない。

鞘花属 Macrosolen 約40種あり中国に約5種分布

 鞘花(中国種子植物科属辞典)杉寄生(広東)、寄生果(雲南景東)
 Macrosolen cochinchinensis
 寄生有殻斗科(ブナ科)、山茶科(ツバキ科)、桑科(クワ科)及楓香(フウ)、油桐(シナアブラギリ)、杉木(コウヨウザン)等樹種。
 果橙色。
 全株薬用、可清熱、止咳。

桑寄生属 Loranthus 約10種あり中国に6種分布
 ホザキのヤドリギ属 Hyphear (日本の野生植物)

 北桑寄生(中国種子植物科属辞典)
 ホザキノヤドリギ(日本の野生植物)
 Loranthus tanakae
 Hyphear tanakae (日本の野生植物)
 寄生于檪類、楡樹(ノニレ)、李(スモモ)、樺木(カバ)樹種。果橙黄色。
 全株入薬、薬効与紅花寄生略同。
 本州(東北地方・中部地方中北部)、朝鮮・中国北部に分布。果実は楕円形で淡黄色に熟す。高さ20-40cmの落葉低木で、ミズナラ、クリ、ハンノキなど落葉広葉樹に寄生する。(日本の野生植物)

 椆寄生(雲南植物誌)
 Loranthus delavayi
 寄生于殻斗科(ブナ科)樹種、稀寄生于雲南油杉、梨樹(ナシ)等。果淡黄色。
 -

離弁寄生属 Helixanthera 約50種あり中国に7種分布

 五弁寄生(雲南植物誌)
 Helixanthera parasiticaLoranthus pentapetalus
 多寄生于殻斗科及樟樹(クスノキ)、榕樹(ガジュマル)、油桐、苦楝(センダン)等樹種。
 果紅色。
 (葉可代茶用)

梨果寄生属 Scurrula オオバヤドリギ属 約50種あり中国に約11種分布

 紅花寄生(雲南植物誌)桑寄生(中国経済植物誌)
 Scurrula parasitica (Loranthus parasitica
 受紅花寄生危害的樹種有山茶科、殻斗科、桑科、芸香科(ミカン科)、薔薇科(バラ科)、大戟科(トウダイグサ科)等。
 全株薬用、為強壮剤和安胎薬、可治腰膝神経痛、高血圧、血管硬化性四肢麻木等症。
 寄生于馬桑樹上的植株可治療精神分裂症。

 卵葉寄生(雲南植物誌) 茶樹(雲南河口)
 Scurrula chingii (Loranthus chingii
 常寄生于油茶(ユチャ)、油桐、木波羅(パラミツ)
 -

 オオバヤドリギ
 Scurrula yadoriki (= Taxillus yadoriki
 本州中部の太平洋側から四国、九州、南西諸島(久米島まで)に分布。果実は広楕円形で赤熟。ふつう常緑樹(クワなどの落葉樹に寄生することもある。)に寄生する常緑低木。(日本の野生植物ほか)
 *国内の図鑑では中国大陸の中・南部にもあるとしているが、中国樹木誌と噛み合わず、摺り合わせが必要。

 ニンドウバノヤドリギ
 Scurrula lonicerifolius (日本の野生植物)
 Scurrula lonicerifolia (植物の世界)
 琉球(西表島)と台湾に分布。果実は広楕円形。常緑樹に寄生する常緑低木。(日本の野生植物)

鈍果寄生属 Taxillus マツグミ属  約25種あり中国に約15種5変種分布

 梧州寄生茶
 Txillus chinensisLoranthus chinensis
 寄生于各種果樹、橡胶樹(パラゴムノキ)、桑樹、馬尾松(バビショウ)等。
 果浅黄色。
 全株入薬、治風湿痛、腰膝酸軟、高血圧、胎漏等症。寄生于夾竹桃(キョウチクトウ)等有毒植物上的不能薬用。

 四川寄生(雲南植物誌) 寄生(四川)
 Taxillus sutchuenensis (Loranthus sutchuenensis
 寄生于桑、梨、李、油茶、漆樹(ウルシ)、樺樹(カバ)、榛子(ハシバミ)及殻斗科樹種。
 全角入薬、有袪風湿、安胎等効。

 毛葉寄生
 Taxillus nigrans (Loranthus nigrans
 寄生于檪(クヌギ)類、柳樹、樟樹、桑、油茶等樹種。
 全株薬用、有除風湿、案胎、催乳等薬効。

 マツグミ
 Taxillus kaempferi
 本州の関東地方以西、四国、九州にに分布。果実は楕円状球形で赤熟。モミ、ツガなどの針葉樹に寄生する長さ20-50cmの常緑低木。(日本の野生植物)
 種子は熟すと甘くなり、かつては子供のおやつにされた。(植物の世界)

栗寄生属 Korthalsella ヒノキバヤドリギ属 約25種あり中国に1種1変種分布

 栗寄生(海南植物誌)
 和名:ヒノキバヤドリギ
 Korthalsella japonicaViscum japonica
 日本では本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球、小笠原に分布し、果実は球形で橙黄色に熟す。高さ5-20cmの常緑低木で、ツバキ、ヒサカキ、モチノキ、マサキ、ヤブニッケイ、ハイノキ、ネズミモチなど種々の常緑樹に寄生。
 寄生于檪類、鵝耳櫪(イワシデ)、女貞(トウネズミモチ)及樟科、山茶科(ツバキ科)、冬青科(モチノキ科)、山礬科(ハイノキ科)等樹種。果黄色。
 -

槲寄生属 Viscum ヤドリギ属 約70種あり中国に約11種分布

 槲寄生 コクキセイ(植物学大辞典) 北寄生、冬青(東北)、柳寄生(湖北)
 和名:ヤドリギ
 Viscum colotatumViscum album ssp. coloratum
 Viscum album var. coloratum f. coloratum (植物の世界)
 Viscum album subsp. coloratum (日本の野生植物)セイヨウヤドリギの亜種とする学名
 日本では北海道、本州、四国、九州に分布し、果実は球形で、淡黄色に熟す。高さ30-80cmになる常緑低木で、ケヤキ、エノキ、ミズナラ、ブナ、桜など種々の木に寄生する。(日本の野生植物)
 寄生于楊柳科(ヤナギ科)、楡科(ニレ科)、薔薇科(バラ科)、胡桃科(クルミ科)等樹種。
 果黄色至橙黄色。
 全株入薬、可強筋骨、袪風湿、降血圧、安胎、催乳、治動脈硬化等。
 漢方では桑寄生の名で、強健、腰痛、安産などのために用いられる。(世界有用植物事典)
 :品種のアカミヤドリギは果実が橙赤色。
 Viscum album subsp. coloratum f. rubro-aurantiacum(日本の野生植物)
 Viscum album var. coloratum f. rubro-aurantiacum (植物の世界)

 楓香槲寄生(広東) 螃蟹脚、寄生草(雲南)
 Viscum liquidambaricolum
 常寄生于楓香及殻斗科等樹種。
 果黄色至橙紅色。
 全株入薬、可袪風湿、舒筋活血、治尿路感染、牛皮癬等症。 
 
     
(2)  ヤドリギに関する民俗・伝承   
     
 
 ・  ヨーロッパではセイヨウヤドリギにちなむ伝承が豊かであるが、国内では情報が少ない。ヤドリギの古名「ほよ(保与)」は万葉集の大伴家持の歌でも登場することが知られていて、これから、ヤドリギを髪に挿し長寿を祈る習俗があったものと解されている。
「あしひきの 山の木末(こぬれ)の ほよ取りて 挿頭(かざ)しつらくは 千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ」
〔歌意〕:山の梢のやどり木を取って挿頭(かさし)にしたのは、千年の命を祝ってのことだ。 
 ・  茎葉にはデンプンを含有し、食料欠乏のときに食用にしたり、家畜の飼料に利用される。東北で不作のときに食用にされたひょう餅の原料はヤドリギである。果実や茎葉の粘液からはとりもちが作られ、属の学名 Viscum もそれにちなむ(とりもちの意)。(世界大百科事典)
*ひょう餅に関しては詳しい情報が得られない。樹木大図説でも「東北ではヒョウ餅の原料にこれを使う、即ちヤドリギの茎葉を煮てザルに入れ、もみつぶしてこしたものを沈殿させ上水を取り去るので異様の臭さと粘液様の味を有する、岩手県九戸では救荒食料にするという。」とあるだけである。 
 
     
(3)  セイヨウヤドリギの民俗・伝承・利用   
  (セイヨウヤドリギ)   
  Viscum album (世界大百科事典)
Viscum album subsp. album (日本の野生植物 基本亜種とする学名)
英語一般名:Mistletoe [mísltòu]ミスルトー, European mistletoe, European white-berry mistletoe, common mistletoe, all-heal, masslin (Kew)
 
 
 ・  セイヨウヤドリギは学名上は国内にも自生するヤドリギの母樹とされる。 
 ・  果実はロウ白色。英国では一般にリンゴ、セイヨウボダイジュ、ポプラ、さらにはリンボク、サンザシ、ナナカマド、ヤナギの樹上で生育する。オークではまれである。雌雄異株で、花は虫媒花であるとの報告があり、蜜を出すとされる。(Kew) 
 ・  欧米で単にヤドリギ Mistletoe (ミスルトー)といえばセイヨウヤドリギのことを指し、欧州ではセイヨウヤドリギによるリンゴ園の被害が著しい。(樹木大図説) 
 
  (セイヨウヤドリギの民俗・伝承)   
 
 ・  セイヨウヤドリギはクリスマスと特に関係が深く、冬の装飾として高い人気があり、また、この小枝の束の下でのキスは長きにわたる伝統がある。(Kew) 
 ・  セイヨウヤドリギは、とりわけオークの樹上に生育するものはドルイド僧達に崇拝された。英国ではクリスマスの装飾に利用され、小枝の束が部屋やホールの天井から吊される。(OED) 
 ・  クリスマスにはセイヨウヤドリギが農家や台所に吊され、若い男はその下でその都度果実を摘みながら女の子にキスをする特権を持つ。果実がすべて摘まれたときは特権が消失する。(OED) 
 ・  キリスト教国ではクリスマスに必須のものであること日本の正月に門松を必須とするのと同じ。この枝葉は紀元前より紀元前より用いられ、ポンペイ発掘の壁画にも示されている。属名の学名 Viscum は粘性のあるトリモチの意。(古代ケルト人の)ドルイド教ではヤドリギを神聖視する、これはスカンディナビアの神話に由来する、同時にクリスマスには必ず用う、殊にこれがオークに寄生しているのを奇蹟的に喜ぶ。(樹木大図説) 
 
  (セイヨウヤドリギの薬用利用)   
 
 ・  セイヨウヤドリギには民間薬としての利用の長い歴史がある。ドルイドはオークについたセイヨウヤドリギを優れたものと見なした。セイヨウヤドリギの組成化合物のいくつかは免疫・循環・心臓系に作用する。セイヨウヤドリギは防腐剤、鎮けい薬、収斂剤、消化剤、利尿剤として利用されてきた。さらに多くの疾患の中では、てんかん、潰瘍、高血圧、リューマチ、ある種のがんの治療に利用されてきた。(Kew) 
 ・  セイヨウヤドリギには毒性蛋白質であるビスコトキシンviscotoxins とヤドリギレクチンの混合物が含まれる。茎と葉は果実よりも毒性が高く、その毒性は寄主の樹種によって異なるとするいくつかの証拠が示されている。(Kew) 
 ・  国内では以下のような薬用、サプリメントとしての利用例が確認した。
 第2類医薬品:佐藤製薬「パンセダン」:植物性の静穏剤として、セイヨウヤドリギエキスが配合されている。 
 化粧品:日本盛 NS-K 美人モイストクリーム:セイヨウヤドリギエキスを配合
      エスカ リカバーSP(韓国製クリーム):セイヨウヤドリギ葉エキスを配合
 シャンプー:アトリオLグローイングシャンプー:セイヨウヤドリギエキスを配合 
 
     
  (おまけ)   
   欧米では、クリスマスの飾りとしてヤドリギが珍重され、その枝の下では女性にキスすることが許され、一方女性はこれを拒否できないとか、かなりテキトーに伝承されて、男女間の楽しい演出に利用されることがあるようである。英語サイトでもこれを半端に講釈している例が多く見られるが、誰もその由来に関する詳しい解説は困難なようである。

 なお、「ママがサンタにキスをした」(I Saw Mommy Kissing Santa Claus)の歌は日本語にも訳詞されて広く知られていて、英語ではちゃんと「ヤドリギの下で」("Underneath mistletoe")としているが、日本語の訳詞ではこれが省略されている。この英語と日本語の歌詞について三つの不満を感じる。

 一つ目は、伝承に忠実に従うのであれば、サンタがママに強引にキスをしなければならない。
 二つ目は、ぐっすり眠っている(と信じて)子供の部屋に忍び込むのに、わざわざサンタクロースの格好をする必要はない。(実はこれを言うとストーリーが崩壊する。)
 三つ目は、訳詞についてであるが、「・・・でもそのサンタはパパ」と、真面目・貞節な日本人に不安を与えないようにオチを明らかにしてしまっていて、これではちっとも面白くない。英語では一切こんなことは表現していない。それどころか、ママがサンタクロースをくすぐったりしていちゃついているが、子供はあくまでサンタクロースがパパなどとは思っていないところが実にいい。