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続・樹の散歩道
  かつて天花粉に利用されたというキカラスウリ
   のデンプンはどんな特性が確認されているのか


 キカラスウリの塊根から採れるデンプンが、江戸時代には天花粉(てんかふん 天瓜粉とも表記)の名前で現在のベビーパウダーと同様の目的で利用されたという。さすがに現在の製品はタルク(滑石、蝋石)が主体となっている模様で、キカラスウリの単体のデンプンなど目にすることはない。ただ、江戸時代でも葛粉やワラビ粉、片栗粉などのデンプンがふつうに存在していたと思われるが、なぜキカラスウリの根のデンプンがあせも予防や化粧用に利用されたのであろうか。さらに、お仲間のカラスウリではダメなのであろうか。 (2015.1) 


   カラスウリの仲間たち(ウリ科カラスウリ属)について調べてみると、それぞれが生薬として植物体の各部位が利用されてきた歴史があって興味深い。例によって、いずれも中国からもたらされた知恵をそのまま踏襲したもののようである。しかしながら、中国(中薬)では根のデンプンをベビーパウダーとして利用したとする記述は確認できないから、こうした利用は高温多湿な時期のある日本固有のものである可能性が高いと思われる。   
   
                          〝高貴なカラスウリ〟のある風景  
 
 
 都内の市街地の樹木ではカラスウリの仲間は滅多に見られないが、この写真はたまたま意外なところで発見したものである。場所は皇居の塀である。 
 
     
   田舎ではカラスウリが樹に絡んでオレンジ色の果実を付けた風景はふつうに見かけたが、キカラスウリについてははっきりした記憶がない。   
     
   カラスウリの仲間たち   
     
   <カラスウリ>  
 
 塀のカラスウリ カラスウリの葉  カラスウリの葉(アップ) 
     
 
 カラスウリは夜に咲く花で、身近にないと花を観察しにくい。

 
    カラスウリの雄花のつぼみ
   と花後
  カラスウリの雄花のつぼみを
  無理やり開いた状態

 糸状の花弁が内側に折りたたんだ状態で収まっている。
   カラスウリの雌花のつぼみ
 子房がプックリふくらんでいるから区別できる。
     
カラスウリの若い果実  カラスウリの果実 その1   カラスウリの果実 その2
     
 
 カラスウリの果実の横断面 カラスウリの果実1個の種子   カラスウリの種子
 
     
  <キカラスウリ>   
     
 
 
 キカラスウリの葉形その1 キカラスウリの葉形その2  キカラスウリの雄花のつぼみ 
     
 キカラスウリの雄花 キカラスウリの雌花  キカラスウリの熟す前の果実 
     
 
 キカラスウリの果実 キカラスウリの果実の縦断面  キカラスウリの種子 
 
     
  <オオカラスウリ>   
 
      オオカラスウリの葉   オオカラスウリの雄花(昼頃)
 
     
  <スズメウリ>   
 
   スズメウリの雄花と雌花
 雌雄同株で、左が雌花、右が雄花 
      スズメウリの雄花
      スズメウリの雌花
 雌花では子房がムッチリ膨れているから区別できる。 
     
 
 スズメウリの葉 ススメウリの熟す前の果実       スズメウリの果実
 
熟せば白くなる。灰白色とも。 
 
     
  <ヘビウリ>   
 
 
 ヘビウリの葉 ヘビウリの雄花(昼前)  ヘビウリの果実 
 
     
   以下のそれぞれの概要の資料は「日本の野生植物」等による。  
     
 
 ①  カラスウリ 烏瓜 Trichosanthes cucumeroides (ウリ科カラスウリ属)
 雌雄異株のつる性の多年草  中国名 王瓜、土瓜、雹瓜など
・ 東北地方南部から四国・九州、中国山東省から広東省・海南島、台湾に分布する。
・ 葉は卵心形~腎心形、縁に鋸歯があり、ふつう3~5浅裂し、葉の表面には粗毛を密生し、光沢はない。
花は日が暮れてから咲き、夜明け前にしぼむ(一日草)。縁は糸状に分裂する。
・ 花粉の媒介はキカラスウリと同様に薄暮性のスズメガの類によって行われる。
・ 液果は球形または楕円形で長さ5~7センチ、朱赤色に熟す。熟した果実の中味はほとんど種子で占められていて(写真)、振れば種子が配列したままで中で踊る。
・ 別名は玉章(たまずさ)で、縦に隆起した帯がある茶褐色の種子を結び文(むすびぶみ。短めの割り箸袋を縛り折りしたイメージ。)にたとえたもの。この形がカマキリの頭に似ると表現されるほか、大黒様の顔、奴、打出の小槌に似るとも表現される。
根はつねに束状に分枝し紡錘状に太くなる。 
   
 ②  キカラスウリ 黄烏瓜 Trichosanthes kirilowii var. japonica  (ウリ科カラスウリ属)
 雌雄異株のつる性の多年草  中国名なし
・ 北海道(奥尻島)・本州・四国・九州・奄美大島、朝鮮半島東南部に分布する。
・ 葉は円心形で歯牙縁のものから3~5浅~中裂するものまであり、濃緑色で光沢がある。表面は短毛を散生し、表皮下に粒状突起がある。巻きひげが2~5分枝する。
・ 花はカラスウリに似ているが、花冠の裂片の先が広い。花は夕方から開き、翌朝の日の出後徐々に閉じる。花は日中でも見られる。雄花は雄しべ3個が合着。
・ 液果は球形~卵円形で黄色に熟し、長さ7~10センチ。
・ 種子は淡黒褐色。カラスウリのような帯はない。種子も薬用とする。
塊茎は薬用とし、また澱粉をとって天瓜粉をつくり、あせもに用いた。根は分枝が少なく、非常に太くなる。 
   
 ③  オオカラスウリ 大烏瓜 Trichosanthes bracteata (ウリ科カラスウリ属)  
 雌雄異株のつる性の多年草 中国名 大苞栝楼など
・ 四国・九州・琉球、中国・台湾・ベトナム・マレーシア・インドに分布する。
・ 葉は心形または腎心形で、掌状に5~7裂し、表面に短剛毛があり、のちイボ状の突起が残る。
・ 苞が3~4センチと大形で、中国名の由来となっていると思われる。
・ 液果は楕円形~球形で長さ5~8センチ、朱赤色となる。
・ 種子は長楕円形で汚白色。
根はダイコン状に太く、長く地中に入る。 
   
   スズメウリ 雀瓜 Melotyria japonica  (ウリ科スズメウリ属)
 雌雄同株のつる性の1年草。
・ 本州、四国、九州、朝鮮(済州島)に分布する。
・ 葉は三角状卵心形で、薄くて表面はざらつき、しばしば浅く3裂する。巻きひげは先が分岐しない。
・ 花は白色で径6-7ミリ。
・ 液果は直径1~2センチの球形または卵形で、白色に熟す。
・ 種子は灰白色。
   
 ⑤  ヘビウリ 蛇瓜  Trichosanthes cucumerina (ウリ科カラスウリ属)  資料は原色園芸植物大辞典ほか
   熱帯アジア原産の1年生つる草。明治末期に渡来し観賞用として栽培される。
・ 葉はほぼ円形で歯牙縁ないし波状縁で基部はくぼみ5浅裂する。
・ 花は白色で、夕方から翌早朝にかけて開花する。
・ 果実は緑色ないし緑色地に白条が入り、細長くのびて反巻屈曲し長さ1m以上になることもある。赤橙色に熟す。果実を食用にするため、東南アジア熱帯域で栽培される。 
   
 ⑥  トウカラスウリ 唐烏瓜  Trichosanthes kirilowii var. kirilowii (ウリ科カラスウリ属) チョウセンカラスウリとも
 雌雄異株のつる性の多年草  中国名 栝楼、天瓜など
・ 朝鮮から中国・ベトナムに分布する。
中国の古代から有名な薬用植物の栝楼(かろう)である。
・ 葉は心臓形で3~5裂する。
・ 液果は卵円形で黄橙色に熟す、長さ9~10センチ。果肉は乾燥すると甘いので子供が食べる。 
・ 種子は長卵形で平たく薄茶色。
・ 根は肥大し、中薬名は「天花粉」。中国河南省で産するものが品質最良とされ、「安陽花粉」といわれる。

 
     
   キカラスウリとカラスウリのデンプン   
     
   実はキカラスウリの根から採れるとされるデンプンに関して、残念ながらその特性を科学的に講釈している記述はほとんど見かけない。
 天花粉の名でベビーパウダーとしてキカラスウリのデンプンが特に利用されたとするからには、経験的にその物性が適合していたものと理解されるが、次のような記述を目にしただけであった。 
 
     
  (記述例)

・ (キカラスウリの)塊根のでんぷん粒が非常に細かく(注:根拠不明)、てんか粉(あせしらず)をつくった。(植物観察事典)

・ 日本では古来カラスウリの)根からのでん粉を天花粉と呼び、汗しらずとして用いられた。(原色牧野和漢薬草図鑑)

キカラスウリの)根から得られたでん粉を天花粉と呼び、小児の皮膚病や汗しらずなどに外用された。(原色牧野和漢薬草図鑑)

キカラスウリの根に含まれるデンプンは吸湿性が高く、かつて「天花(瓜)粉」の名でベビーパウダーとして利用されていた。(日本薬学会)

・ 昔からあせもの散布薬として用いられてきた天花粉はキカラスウリの根のでん粉を精製したものである。(東邦大学)

キカラスウリの根からとった澱粉は天花粉(てんかふん,ベビーパウダー)として利用される。カラスウリキカラスウリ代用品として使われる.(徳島県立博物館)

カラスウリの澱粉は「王瓜粉」と称され、主として「天瓜粉」の代用として、あるいはこれに混和して使用されたようである。キカラスウリの澱粉はカラスウリと同様に古くから薬用や食用に供されたほか、「天瓜粉」あるいは「天花粉」と称する澱粉が採られた。この澱粉は純白できめが細かいので、糊や食用としても賞用されたが、とくに“汗しらず”として有名であった。キカラスウリの澱粉粒はカラスウリ澱粉よりやや大きく複粒で、同様に白度も高い。物性のうえからは比較的ジャガイモ澱粉に近いといえよう。(鹿児島大藤本ほか)

キカラスウリのでんぷんは水分をよく吸い取るので、その吸湿性を利用してあせもの治療に用いられてきた。(和光堂)
 
     
   以上のとおりで、科学的な根拠を伴ったわかりやすい情報は得られないが、カラスウリの根のデンプンもキカラスウリの根のデンプンと同様に利用されたとする記述が見られる。それらの利用実態がどうであったのかについては確認できないが、案外ごちゃ混ぜに取り扱われていたのではないかとの印象を持つ。

 この点に関して、江戸時代の広益国産考(大蔵永常)にも、カラスウリもキカラスウリと同じ種類と考えて、何れからも天花粉が採れると思っている人がいるようであるとの記述(原文は後出参考4を参照)も見られるところである。
 では、利用目的に照らして、キカラスウリのデンプンの方がカラスウリのものより物性が明らかに優れていたのかについてはこれまた情報がない。

 総論として、天花粉はキカラスウリのデンプンであるとするのは通説となっているが、ひょっとすると、2種間の明らかな性能の差はなく、何れも一般住宅の庭先等の生活空間で手に入れやすかったという点では共通するものの、キカラスウリの塊根の方が大ぶりで、でん粉の採取効率が高かったということで、優位性があっただけなのかも知れない。

 なお、各種食用デンプンの物性に関しては食品加工における有用な知見となるため、主として加熱状態における分析が多く見られる。キカラスウリ等のデンプンはすでに実用性を失っているところであり、残念ながらベビーパウダーとして選択された裏付けとなる科学的な特性を明らかにした情報は見られない。
 また、植物から採取されるデンプンは、主要成分としてのアミロース及びアミロペクチンのほかに、種々の成分が含まれていて、種類によってこれらの構成比が異なることが知られており、これが多少とも関係していたのかもしれない。 
 
     
   ベビーパウダーにしばしば配合されているコーンスターチの物性   
     
   食品産業で利用される各種のデンプンに関しては、加工上の特性に関しては多くの知見が集積されているが、ベビーパウダーに配合した場合のコーンスターチ(トウモロコシデンプン)の特性についても参考となる説明はほとんど見られず、正反対の表現があったりと、これまたよくわからない。

コーンスターチは吸水性に優れています。肌表面の水分や油分を吸い取る効能があります。また吸水した水分を放出して乾燥のしすぎを防ぎます。(育児情報)

・ コーンスターチ(cornstarch)はトウモロコシからつくる純度の高いデンプンで、純白無臭で、粒子がこまかくそろっており、吸湿性が低く、糊化(こか)したあとの粘度の変化が少ない。(世界大百科事典)

 ということで、単に吸水性の観点だけでも、客観的な情報に乏しい。デンプンの平均粒径の観点ではコーンスターチはジャガイモやサツマイモのデンプン粒よりも小さいとするデータは目にする。 
 
     
 4  江戸時代には天花粉のほかに何が利用されたのか   
     
   江戸時代には赤ん坊のあせも対策で、米粉、牡蠣粉、葛粉、天瓜粉(天花粉)などが利用されていた記録が見られるという。また、女用訓蒙図彙(1687) には、「あせぼのくすり」として、「はまぐりがひをやきてうどんの粉を半分まぜて布につゝみてふるいかけてよし」との記述もあり、何らかの植物や貝殻等に由来する粉を利用していた様子がうかがえる。ただし、これらが日本各地でにどれだけ一般性があったのかは確認できない。

 おなじみの和光堂のシッカロールが登場したのは1906年(明治39年)のことで、当時の成分は、亜鉛華(酸化亜鉛)40%、タルク(滑石、蝋石)40%、澱粉(種類は不明)20%の割合であったという。 
 
     
   カラスウリの名前の由来   
     
   本草綱目では、カラスウリについて「瓜は雹子(ヒョウの意)に似ており、熟すと赤くなり、カラスがよく食べる。それで俗に赤雹、老鴉瓜という。1葉の下に1本の鬚があるので、里の人は公公鬚(じいさんひげ)と呼ぶ」とある。

 しかし、カラスウリの名前に関しては国内でも自由に論じられていて、先の見解に倣って、 カラスが好んで食べたことからこの名がある(薬になる植物図鑑)としたものがある一方で、 カラスがカラスウリを好んで食べることはなく大きさを示すもので、スズメウリに対するカラスウリである(野草の名前)としたもの、 和名カラスウリは樹上に永く果実が赤く残るのをカラスが残したのであろうと見立てたか(新牧野日本植物図鑑)としたものまで多様である。
 カラス自身に好きか嫌いかを確認はしていないが、カラスが好んで食べるとの主張はやや形勢が不利であるように思われ、の見解がまあ妥当と思われる。
 
 
     
   生薬としてのキカラスウリの仲間の利用   
     
   ウリ科カラスウリ属の各植物の生薬としての利用について概観すると、以下のような諸点を確認することができた。   
     
 
   国内で産するカラスウリ、キカラスウリ、オオカラスウリについては、それぞれ生薬として認知されていて、生薬名は中国の基源植物名がそのまま踏襲・利用されている。 
 ②  中国ではカラスウリ(王瓜)、オオカラスウリ(大苞栝楼)、トウカラスウリ(栝楼)その他の同属種が中薬として認知されている。 
 ③  中国に産するトウカラスウリは学名上は日本固有のキカラスウリの基本変種(基本種、母種)となっている。 
 ④  日本薬局方では、トウカラスウリ、キカラスウリ、オオカラスウリの3種の根が生薬カロコン(栝楼根)として登載されていて、カラスウリは含まれていない。 「栝楼」は中国に産するトウカラスウリの中国名そのものである。
 ⑤  中薬では、トウカラスウリの根を一般に「天花粉」と呼んでおり、本来の「天瓜粉」の名が誤って転じたものとされる。「栝楼根」の名は「天花粉」の異名とされる。 
 ⑥  日本薬局方で栝楼根の基源の一つとしてオオカラスウリの根を含めているが、参考とした資料の範囲ではオオカラスウリは中国では栝楼子(注:子又は仁は種子の意)の基源の一つとしてのみ登場し、根部は中薬の基源としては認知されていない。 
 ⑦  国内の図鑑、百科事典で、「栝楼」を「括楼」と表記している例をしばしば見るが、誤りであろう。 
 ⑧  中薬ではトウカラスウリでも、ベビーパウダーとしての利用の履歴は確認できないため、日本固有の利用方法と思われる。 
 
     
 
          生薬カロコン(栝楼根)の標本

 
「キカラスウリまたはオオカラスウリの皮層を除いた根」との説明書きがある。日本薬局方では、カロコンはトウカラスウリ、キカラスウリ又はオオカラスウリの皮層を除いた根として定めている。

 日本で利用される生薬は、そのほとんどすべてが中国からの輸入品に依存していること知られていて、ラベルにも産地を示すものと思われる「中国」の表示が見られる。

 ところで、説明書きに日本・朝鮮半島東南部に分布する「キカラスウリ」が入っているのは解せない。一方、本家本元の「トウカラスウリ(チョウセンカラスウリ)」の表記がないのは品薄なのか、真相は不明である。


 (左の写真は都立薬用植物園展示品)
 
 キカラスウリ又はオオカラスウリの塊根   
 
     
 
   カラスウリの塊根を実際に掘り出して検分する機会はなかったが、たまたま現物を見ることができた。
 焼きいも用のサツマイモほどの大きさがあり、写真のものは少々乾燥して萎縮しているが、立派なものである。
(坂田氏蔵)  
カラスウリの塊根   
 
     
 
<参考1:中薬としてのカラスウリ属> 資料:中薬大辞典(日本語版)

(カラスウリ) Trichosanthes cucumeroides
1 オウカ  王瓜(神農本草経)
異名:土瓜ドカ(神農本草経)、雹瓜ハクカ(太平聖恵方)、老鴉瓜ロウアカ(神農本草経)、馬瓟瓜バホウカ・公公鬚コウコウジュ(本草綱目)ほか多数
①果実:
 中薬名は種名に同じ。(注)土瓜実は日本固有名と思われる。
 薬効と主治:清熱する、津液を生じる、瘀を消し、乳を出す、の効能がある。消渇(糖尿病)、黄疸、噎膈反胃、月経の不通、乳の出が悪い、癰腫、慢性咽喉炎を治す。
用法と用量:(内服)薬性を残す程度に焼き、粉にひいて、丸剤、散剤として用いる。
(外用)ついて塗布する。
②根:
 中薬名は王瓜根オウカコン(名医別録)又は土瓜根
 薬効と主治:熱を瀉ぎだす、津液を生じる、血を破る、瘀を消す、の効用がある。熱病煩渇、黄疸、熱による便秘、また排尿減少、無月経、癥癖、癰腫を治す。
③種子:
 中薬名は王瓜子オウカシ(薬性論)
 異名:赤雹子セキハクシ(本草衍義)、土瓜仁ドカジン(本草彙言)
     (注)王瓜仁は日本固有名と思われる。
 薬効と主治:清熱する、血を涼める、の効能がある。肺痿による吐血、黄疸、痢疾、腸風下血を治す。
(注)牧野日本植物図鑑では「カラスウリの漢名としての「王瓜」は誤用」として誤っている理由が不明であったが、これが判明した。中薬大辞典によれば、中国の複数の文献で、「王瓜」として、赤雹セキハク、和名オオスズメウリ又はキバナカラスウリとも。)と思われるものを(も)掲載さているという。オオスズメウリ Thladiantha dubia は中国北部・朝鮮原産のウリ科オオスズメウリ属の雌雄異株のつる性多年草で、かつて日本にも移入したと思われるものの野生化した雄株が確認されている。

(トウカラスウリ) Trichosanthes kirilowii
2 カロウ 栝楼(神農本草経)
異名:天瓜テンカ(爾雅)、果裸カラ(詩経)、地楼チロウ(神農本草経)、瓜蔞カロウ(針灸甲乙経)ほか多数
①果実:
 中薬名は種名に同じ又は栝楼実
 薬効と主治:肺を潤す、痰を化す、結を散らす、腸をなめらかにする、の効能がある。
 用法と用量:(内服)3~4銭を煎じて服用する。つき汁、または丸剤、散剤にして服用する。(外用)ついて塗布する。
②茎葉:
 中薬名は栝楼茎葉(トウカラスウリの茎葉)
 薬効と主治:熱にあたり暑に傷つけられたものを治す。
 用法と用量:3~4銭を煎じて服用する。
③種子:
 中薬名は栝楼子カロウシ
 異名:栝楼仁カロウニン(薬性類明)、瓜蔞仁カロウニン(端渓心法)
 基原:栝楼(トウカラスウリ)あるいは双辺栝楼(モミジカラスウリTrishosanthes uniflora)、大子栝楼ダイシカロウTrichosanthes truncata などの種子。その他大苞栝楼ダイホウカロウTrichosanthes brateata (オオカラスウリ)、紅花栝楼コウカカロウTrichosanthes rubriflos 等々の種子も各産地においては栝楼子として用いる。江蘇、浙江では、同属のカラスウリの種子(王瓜子)を栝楼仁と呼び習わしている。
 薬効と主治:肺を潤す、痰を化す、腸をなめらかにする、の効能がある。痰熱咳嗽、乾結便秘、癰腫、乳少を治す。
④果皮: 
 中薬名は栝楼皮カロウヒ
 基源:栝楼(トウカラスウリ)、双辺栝楼(モミジカラスウリTrishosanthes uniflora)などの果皮
⑤根:
 中薬名は天花粉テンカフン(雷公炮炙論)
 異名:栝楼根(神農本草経)、蔞根ロウコン(雷公炮炙論)、天瓜粉(重慶堂随筆)、 
栝蔞粉カロウフン・蔞粉ロウフン(薬材学)ほか
 薬効と主治:律を生じる、止渇する、火を降ろす、燥を潤す、膿を排しのける、腫れを消す、の効能がある。熱病による口渇、消渇(糖尿病)、黄疸、肺燥咳血、癰腫。痔漏を治す。
 備考:
・ 今日、栝楼根を用いる場合は、葛粉をつくる方法で粉にする(唐本草)。薬屋でいう天花粉とはすなわち蔞根を切ったもので、粉とはいっても粉ではない。(本草正義)
栝楼は一名天瓜というので、その根は天瓜粉と呼んだが、後世になってと訛り、久しく伝わってしまったので改めることができない。今日薬舗ではこれを瓜蔞と呼び、土瓜(王瓜)の根と子を栝楼としているので、用いる場合は審さに調べなければならない。(重慶堂随筆)
採集は春と秋のいずれも可であるが、秋の採集品の方が良品とされる。
わが国の市場では「瓜呂根」とも書かれる。

(オオカラスウリ) Trichosanthes brateata
3 ダイホウカロウ 大苞栝楼  
本種の種子は、(中国内の)地域によっては栝楼子として用いる。
(注)日本薬局方ではこの根をカロコンの起源の1つとしているが、中薬では影が薄い。成分の評価等の詳細は確認できない。

<参考2:日本固有のカラスウリ属> 資料:原色牧野和漢薬草図鑑

キカラスウリ:
北海道奥尻島、本州、四国、九州、沖縄に分布するつる性多年草。(注:朝鮮半島にも分布するとされる。)
薬用部分:根(栝楼根 カロコン)種子(栝楼仁 カロニン)
生薬名はトウカラスウリの中薬名を準用したもの。
薬効と薬理:栝楼仁には抗癌作用のあることが報告されている。臨床的に、根に止渇、解熱、催乳、鎮咳など、種子に解熱、去短、鎮咳などの作用が認められており、解熱、止渇、消腫薬として咽喉痛、呼吸器病の解熱、口渇、去短などに用いられる。また、根から得られたでん粉を天花粉と呼び、小児の皮膚病や汗しらずなどに外用される。


<参考3日本薬局方の栝楼根>

第十六改正日本薬局方 生薬等
カロコン
Trichosanthes Root
TRICHOSANTHIS RADIX
栝楼根
本品はTrichosanthes kirilowii Maximowicz (注:トウカラスウリ),キカラスウリTrichosanthes kirilowii Maximowicz var. japonica Kitamura 又はオオカラスウリ Trichosanthes bracteataVoigt(Cucurbitaceae)の皮層を除いた根である.
〔解説書〕
カラスウリの根はこの規定に含まれない。栝楼若しくは栝楼根(かろうこん)の名で神農本経の中品に収録され、その薬能は「消渇、身熱、煩満、大熱を主どる。虚を補い、中を安じ、絶傷を続ぐ。」として記載されている。
市場での一般名は瓜呂根(かろこん)と呼ばれている。
中国で採用している天花粉なる名称は図経本草に由来する。
多量のデンプンを含有するほか、アミノ酸、trichosanic acid などの脂肪酸、ステロイド、ククルビタン系トリテルペン、lectin などを含む。
薬用部位の異なる生薬に、栝楼実(果実)、栝楼仁(種子)、栝楼皮(果皮)がある。


<参考4:大蔵永常:広益国産考(抄)> 日本農書全集14

:根を掘り、粉をとる方法や薬効総論に関しては割愛する。

①からすうり
 王瓜(ひさごうり、たまづさ)
実(種子):関東などにて此実をとり、つきつぶして土鍋に入れ、酒を加え煮て貯へ置き、婦人などの胼(ひゞ)にぬれば忽ち治し、痛を忘るゝといふ。
根の粉:此根より取りたる粉に龍脳を少し加へ匂ひをつけ菊童(別注)と名付け鬻(ひさ)ぐ(注:あきなうの意)家あり。夏は婦人もとめて白粉の代わりに用ふるに面皰(にきび)そばかすを治し、その外顔のできものを治すといへり。もつとも若き婦人は白粉下にぬりて其上におしろいをぬるにきめをこまかにし艶を出すといへり。又老婦は此の粉ばかりをぬりてふきとれば顔のきめこまかになり、白粉を付けたるやうにしておしろいのごとく白き粉うくことなしとて、専ら用ふ。是は江戸に多く用ひていまだ京大坂にても専ら用ふることをきかず。
 根の粉薬となり毒なければ家毎に掘りて粉をとり置きて葛粉のかはりに用ふべし。葛粉は製するに便りあしけれども、此からすうりは何所にも藪垣根などに生ずるなれば、掘るに便りよく少しにても製せらるゝものなれば、各製し用ひ給へかし。
瓜:瓜を日にほし貯へおき婦人顔をあらふとき糠の中にまじへあらへば、きめを細にし顔にできものを生ぜずといへり。
根のしぼり粕:荒年(注:ききんの意)の時は是を細にきざみ碓にてつき粉となし、麦きび(とうもろこし)の粉など合はしてだんごとし食してよし。
別注:からすうりの粉を指して、他の箇所では、「江戸にて菊童といへる家にて鬻ぐおしろいしたと名付くるもの是なり。」とあり、店の名前としている。

②きからすうり
 栝楼(くわろう)
根の粉:根は即ち天花粉なり。地に入る事深くして年久しきもの殊によし。夏ほれば筋多く粉なし。秋の末より冬ほれば実入りよく粉多し。粉は是則天花粉也。扨此粉は薬となり、又大坂にて製する白粉の上品に交ぜること夥しといへり。 此粉より上品にして少なきものゆゑ直段(ねだん)格別高直也。
・ 王瓜の條にいふごとく、葛よりも手近にあるものなれば、少しづゝにても掘り粉をとりて葛のかはりに料理に用ゆべし。 毒なくして殊に虚弱の人に益あれば誠に重宝なる一品なり。多く掘りて鬻ぎなば利を得べし。
・ 根のしぼり粕;日にほし貯えおき、若(もし)荒年の時は取出し粉となし、麦の粉などにまぜ団子とすべし。
種子:子は脂多ければ炒乾し搗きこなし煎じて油をとり、燈し油とすべし。
・ 此栝楼は王瓜と同類にして異種なれば、弁別しがたくおそらくは皆一種と心得てからすうりてふものは何れも天花粉といふものなりと心得る者ありと見ゆ。