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続・樹の散歩道                        
  タラノキの花は何ともわかりにくい!!


 タラノキAralia elata)は大きな円錐状花序をつけ、遠くからでもその白い花の存在は確認できるが、花が非常に小さいため、目を凝らしてその姿を観察する機会はないままとなっていた。一部の図鑑によれば両性花雄花で構成されているということから、改めてその姿を確認してみることにした。 【2016.11】


 いくつかの個体で見た限りでは、両性花雄花かもしれないものが同時に開花していると思われる例は確認できなかった。また、雄花かもしれないものは両性花よりも小さく、両性花の花後に開花するらしいが、そうであれば機能的にはどうでもよい(なくてもよい)存在のようにも思われる。

 両性花と雄花の構成に関して一部の図鑑では、「花序の上部に両性花の小花序を、下部に雄花の小花序をつけることが多い。日本の野生植物及び樹に咲く花とした説明の例を見る。文中の「花序」は全体の大きな花序の上部及び分枝した花序の両方を指していると解される。

 こうした図鑑の説明に従い写真を使って解釈すれば以下のようになるのであろうか?
 
 
                 タラノキ花序の花の構成例 1 
 
 
 写真の中で、「雄花の蕾?」としたのは、本当にこれが開くと雄花なのかは確信が持てないからである。
 そこで、両性花と雄花を識別するために、果期の状態から逆順にたどって観察してみることにする。 
 
 
 果期の花序(果序)の様子   
     
 
                  タラノキの成熟果実 1
 花序の頂部の小花序のみが結実しているのが確認でき、これが両性花であったことが想像できる。
 
     
 
    タラノキの成熟果実 1
 下方の小花序は花柄のみが残っていて、これが雄花か?
   タラノキの成熟果実 2
  頂部の両性花のすべてが結実するわけではないようである。
    タラノキの成熟果実 3
 下方の小花序に残った雄花?はやや小振りであるが、形態的には(雌性期の)両性花と変わりない。
 
     
 両性花(受粉後)と雄花?(花弁と雄しべを落とした状態)の様子  
 
   タラノキの両性花は同花受粉を防ぐための雄性先熟の性質があることが知られていて、雄しべが最初に成熟して花粉を放出し、その後に雄しべと反り返った花弁が落ちて、1本のように見えていた花柱が5本に広がって雌しべの成熟期となる。 
 以下の写真で個々の花序について見ると、上部(頂部)の両性花の小花序は受粉後の状態と思われ、下部の雄花?の小花序では5本の花柱を広げていて、形態的には雌しべ成熟期(雌性期)の両性花と全く同様であることがわかる。
 
     
     
 
        タラノキ花序の花の構成例 2
 これだけを見れば、すべてが両性花で構成されているように見える。この花序では両性花の小花序の結実率はやや低いような印象である。
         タラノキ花序の花の構成例 3
 この時期の雄花?は、雌しべ成熟期の両性花のように見えるが、これらはやがてばらばらと落ちて、放射状の花柄のみを残す。注意して見ると、結実の全くない両性花の小花序の花柄も見られ、さらにこの下方に半端な膨らみが見られる。 
 
     
3   雌しべ成熟期(雌性期)の両性花の様子   
     
 タラノキの両性花の雌しべ成熟期では、花弁も雄しべも脱落して5本の花柱を残しただけの姿となり、その形態からどの時点で受粉を了したものなのかは正確にはわかりにくい。  
 
      タラノキの両性花 1
 雌しべ成熟期と思われ、3本から5本の花柱を広げている。
     タラノキの両性花 2 
 たぶん受粉を了した姿と思われる。
     タラノキの両性花 3 
 一般的に花柱は5本あって、果実となっても花柱が張り付いた状態で残る。
 
     
 雄しべ成熟期(雄性期)の両性花と雄花?の様子   
     
    両性花と雄花?は形態的な違いは見られない。写真では、雌しべはまだ受粉状態となっていない。  
     
 
     
    タラノキの両性花 1       タラノキの両性花 2        タラノキの雄花? 
 花序下部の花であるが、形態的には両性花である。
 
     
5   中途半端な花の存在    
     
   成熟が不十分に見える貧弱な花もふつうに見かける。以下の花は背丈ほどのタラノキの若木で見られたものである。推定であるが、生育条件、経過年数などで、未成熟な花が生じるのかも知れない。   
     
 
      タラノキの花序 1
 上部は両性花の蕾の小花序、下部はまだ小さな雄花?の蕾の小花序で、両性花は先行して開花する。
      タラノキの花序 2
 両性花は雌性期であるが、下部の雄花?では既に褐色となり、小さな花柱を見せている。
      タラノキの花序 3
 左と同様の段階である。下部の雄花?の小花序で花柄の短い蕾は不完全な花として終わる印象がある。
     
      タラノキの花序 4
 こちらの場合は、下部の小花序の雄花?でも花柱を広げつつある。
      タラノキの花序 5
 下部の小花序の雄花?は小さいながらも形態的には雌性期の両性花と同様である。
      タラノキの花序 6
 下部の小花序の雄花?は花後に枯れ落ちる。 
 
     
   結果として、この個体では最終的に果実を一つもつけなかった。
 コガネムシの仲間のアオドウガネに葉を食い荒らされていて、生育条件があまりよろしくないために、下部の小花序も半端気味に終わった可能性がある。
 
 
     
6   タラノキの花に関するまとめ   
     
   ざっと見た範囲では、

 結実が見られるのは、花序の枝の頂部の小花序のみであり、これは正真正銘の両性花と考えられ、花序内では先行して開花する。  
 結実する両性花も脱落する雄花といわれているものも、形態的にはすべての花が両性花で構成されているように見える。 
 ただし、花序の下部の小花序の雄花といわれているものは時に成熟度に幅が生じ、特に花柄の短いものは不完全な花のような印象がある。 
 放射状の花柄のみを残した小花序は、結実しなかった両性花又は未成熟な小花序の痕跡と理解される。  
 
     
7   タラノキの花に関する図鑑の記述に違いがある理由  
     
   そもそも、一般的な図鑑を見た範囲では、先に掲げた2つの図鑑(日本の野生植物及び樹に咲く花)以外では、タラノキの雄花の花序(雄性花序)の存在について触れておらず、両性花たる花についてのみ説明しているのがふつうであることがを確認した。これだけお馴染みの樹種でありながら、共通して広く雄花の存在について言及がないということは、少々奇妙なことである。

 そこで、以下は勝手な想像である。

@  一般的にタラノキの花が両性花で構成されるものとして説明しているのは、基本的には全ての花の形態が両性花様であることに尽きる。結実しない花の雌しべが明確に退化していれば雄花として認知しやすいのであるが、実際には雌しべが退化しているわけでもなく、5本の花柱を開くことから、見た目には結実しなかった両性花≠ニしか見えないことによるものと思われる。
 この立場では、形態的に明確に分化していない花を指して、両性花だ、あるいは雄花だなどと、ことさら騒ぎ立てることではないという見解なのかもしれない。
   
A  一方、一部の図鑑でタラノキの花が両性花と雄花で構成されているとして説明する立場は、結実しない花の形態が両性花様であるとしても、不稔性の花は雄花に違いないというきわめてシンプルな見方によるものと思われるが、それも情けない話である。

 そもそも、雄花とされる花の雌しべが本質的に機能を喪失しているのかは断定しがたく、 タラノキ自身が全ての花を結実させるのは負担が過大であるため、言わば現実的省エネ対応として頂部以外は実をつけない選択をしている可能性がある。つまり、結実しない花は放棄された花(本質的には両性花)で、生理的に雌性期に至る前に放棄されたものと理解すべきと思われる。
(早く咲いた両性花を人為的にすべて除去して残った花のその後の反応を見たら面白いかも知れない。) 
 
     
     
   「ウド」の花の場合   
  きわめて生活に密着したものとして、タラノキと同じウコギ科タラノキ属ウド(Aralia cordataの花の様子について念のために図鑑で確認したところ、これまた見解が分かれているような印象で、次のような記述例を目にした。  
     
 
1−1 上部に両性花序、下部に雄性花序がつく。(山に咲く花) 
1−2  花は雄花と両性花の別がある。(APG原色牧野植物大図鑑) 
2−1  花に雄性と雌性の別がある。(牧野新日本植物図鑑) 
2−2  花は雌雄同株。(世界文化生物大図鑑) 
 
     
   「1−1」、「1−2」の記述は一部の図鑑におけるタラノキの花の説明内容と同様である。(注:さらに、ウコギ科ヤツデ属のヤツデでもこうした説明をしている図鑑が存在する。)
 
 そこで現物でチェックである。
 
     
 
                タラノキの花と若い果実
 この写真では、若い果実、雌しべ成熟期の花(両性花)、雄しべ成熟期の花(これを雄花と見る見解もある。)が見られる。
 
     
 
         ウドの花 1
 上部の小花序は雄しべ成熟期の両性花で、下部の小花序は雄花ではないかと言われている蕾。
       ウドの花 2 
 上部の小花序の両性花は雌しべ成熟期となっている。
       ウドの花 3 
 下部の蕾が咲き、両性花と同様の花であることが確認できる。さらに遅れて咲く花も両性花様である。
 
     
9   やや投げやり気味の感想   
     
   基本的にはタラノキの花もウドの花も同じような風景である。これらの雄花かもしれないとされる花は、開花時期のずれがあるものの、明らかに両性花と同じ形態である。したがって、花を見て雄花か雌花か悩むなど全くナンセンスである。

 結局のところ、結実については、早く咲いた花が優先され、さらにどの程度結実するのかは個体の生育条件、活力の状態、自律的な結実の調整如何によるものと思われ、状況に応じたタラノキ、ウドの気持ち一つということなのであろう。

 したがって、結実結果をみて、結実したものだけが両性花であったに違いないなどと言うこともまたナンセンスである。

 タラノキもウドも基本的に両性花をつけ、一部が結実するものとして、素直に受け止めるべきであろう。ヤツデについてもたぶん同様であろう。 
 
     
  *タラノキの芽、材、薬用利用、増殖用の「種根」等についてはこちらを参照。