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続々・樹の散歩道
  笹の葉裏のドーム内の微小生物集落


 植物の葉表に斑状の変色部分がある場合は、大抵は葉裏で微小な虫が汁液をチュウーチュー吸っているのがふつうで、一方、虫の姿が既に見えず、糞の汚れだけが残っていることも多い。その場合は犯人を見届けることができないため、何とももどかしい。
 葉で見られる虫の種類としてはアブラムシやハダニは屋内外で植物を育てている人にとってはお馴染みのやっかいな害虫で、野外ではこれにグンバイムシ類などいろいろな虫が見られる。
 先日、道端に植栽された低木のグランドカバーとなっていたオカメザサを見ると、葉表が斑状に白くとなっていた。そこで葉裏を見ると、変色部分の裏側部分が糸で覆われた状態となっていた。クモがこんなに小さな巣を張ることは考えられないし、何らかの卵が入っている可能性も感じ、これを採取して持ち帰り、正体を見届けてみることにした。 【2019.8】 


 持ち帰ったサンプルの葉をじっくり観察して調べたところ、タケ類の葉に取り付く「タケスゴモリハダニ」生息空間であることが確認できた。糸を出すハダニが存在することは植木鉢の観察で承知はしていたが、膜状に糸を張るダニを見るのは初めてであった。しかも、糸の膜構造のドームの中には卵がズラリと並んでいた。明らかにこのダニの産卵・孵化空間でもある。ということは、この糸膜のドームはタケスゴモリハダニの集落と言える。  
 
        オカメザサの葉表の白斑部分
 白斑のあるのは、葉の葉脈の間の葉表側に膨らんだ部分の一部である。オカメザサは日本原産と考えられているイネ科オカメザサ属のタケ類。 Shibataea kumasaca
     オカメザサの白斑部分の裏側(葉裏)
 主脈と隣接葉脈の間の凹んだ部分のみ糸の膜が形成されていて、葉と膜の間にはごく薄い空間が認められる。タケスゴモリハダニの生息空間である。  
   
           糸の膜の中の様子 1
 糸の膜を剥ぎ取った箇所の一部で、大小のタケスゴモリハダニが忙しく動き回っていて、半透明の卵が多数見られた。卵の抜け殻も見られる。 
           糸の膜中の様子 2
 タケスゴモリハダニの成虫は体に不規則な黒点が見られる。
 
 
    タケスゴモリハダニ 1
 体の前部にある赤い1対の点単眼らしい。 
     タケスゴモリハダニ 2 
 チョロチョロ動き回って撮影が難儀であった。糸膜を剥ぎ取られて、あわてて張り直しをしていたのかも知れない。
    タケスゴモリハダニ 3
 中くらいの体の大きさのもので、体の大部分が緑色のものがしばしば見られた。動きが速くてピントが合っていない。
 
 
 狭い空間の中で卵とともに生息するというのは、何とも奇妙である。葉を吸汁すればその部分が劣化して、吸汁しにくくなるのではないかと心配になる。適時お引っ越しするのか? 一族が分散するタイミング等の生態もよくわからない。糸膜のドームの中で、卵は安全に孵化し、成虫も外敵の攻撃から身を守っているように見える。
 なお、タケスゴモリハダニの名は、多分その習性のとおり、「竹巣籠もり葉ダニ」の意と思われる。ハダニ科スゴモリハダニ属のダニ類で、同属にはススキスゴモリハダニの名も見る。
 
     
 
<参考
原色植物ダニ検索図鑑(抜粋)
 タケスゴモリハダニ Stigmaeopsis celarius Banks
 雌:夏型雌は淡黄色〜淡緑色。体型は背腹に扁平、前体部後体部の間に顕著な横条が認められる。体長は417〜498μm(0.417ミリ〜0.498ミリ)。触肢の末端節には出糸突起(円錐状)のほかに5本の毛状突起をもつ・・・・・
 雄:体色は雌に同じ。体長は285〜317μm(0.285ミリ〜0.317ミリ)。挿入器は後部でしだいに背方を向く。
 分布は本州、四国、九州。
 モウソウチクを中心にタケ類の葉裏に巣網をかけてその中で生息する。 
【ハダニ類の吐糸行動の解析 斎藤裕 北大(抜粋)】
 タケスゴモリハダニ Schizotetranychus celarius (この属名は旧名であろうか?)
 タケスゴモリハダニでは全生活を網の下でのみ過ごす。
 タケスゴモリハダニは通常の歩行活動時には吐糸しないが、この歩行とは別に糸張り行動を行なう。 
 
     
  【追記: 他のタケ類の葉でも同様の被害葉があるのか?】   
     
   身近な公園で、小型のタケ類(種名は不明)の葉を改めて見てみると、褐色の斑点の葉が広く確認できた。葉表の様子と、巣の中の住人の様子は以下のとおりである。   
     
 
     被害葉の葉表の様子
 先のサンプルとは異なり、葉のふちを含めて広く巣が形成されて加害されている。
       確認したハダニ
 先に登場した、ハダニと同じタケスゴモリハダニであろう。
   別のタケで確認したハダニ
 こちらは別種のようであるが、名前は確認できない。 
 
     
   さらに名前を確認できるタケ類でも葉の様子を見たところ、ハダニの被害葉がふつうに確認された。今まで気にならなかったが、実はタケ類のハダニ被害はきわめて一般的なようである。    
     
 
 クロチクのハダニ被害葉 キッコウチクのハダニ被害葉 
 
     
  <参考: ふつうに見られる他のダニの仲間たちの例>  
 
       ハダニの一種
 糸を出していたハダニの一種である。
 (タカノツメの葉で見られたもの)
       ダニの一種
 植食性なのか肉食性なのかさっぱりわからない。(サンゴジュの葉裏で見られたもの) 
       ササラダニの一種
 植木鉢の土の表層部でもふつうに見られるダニで、腐りかけた植物質を食べて、腐植質の形成に貢献している。
     
     
       ハダニの一種
 栽培中のエンドウに取り付いていたハダニの一種で、糸を伝って移動していた。まるでクモの子のようである。
       ハダニの一種 
 同左。先のタカノツメで見られたハダニとよく似ている。カンザワハダニであろうか?
       ハダニの一種 
 同じくエンドウの葉で見られたハダニの一種と卵である。カンザワハダニの若虫か?
 
 
 ダニの仲間については、樹木の葉のダニ室(ダニ部屋)にすんでいるもの、いろいろな虫こぶにすんでいるもの、植栽樹や作物の葉を吸汁するもの、土壌で慎ましく生きるもの、ヒトの血を吸うものなど、それぞれ目にしているが、地球上には多種多様なダニ類が海を除くどこにでもたくましく生息しているといわれる。ふだん、ダニの存在など特別に意識することもないが、要はダニはどこにでもくまなくふつうに存在するということである。しかし、意外なのは、ダニの凶悪なイメージにもかかわらず、9割以上は無害とされていることである。

 ダニは昆虫のようなはっきりした特徴を捉えにくいから、たぶん、種の同定は難儀であると思われ、自ずと実害が研究の契機となる農業関係以外では専門家も少ないのであろう。たぶん、カイガラムシやアブラムシ、チャタテムシ、シバンムシも同様と思われる。ただ、少し前に次の面白いニュースを目にした。

 「国立科学博物館は14日、2009〜13年度に皇居内で実施した生物調査で、採集されたダニの中に新種が含まれていたことが分かったと発表した。新種は「コウキョアケハダニ」と名付けられ、12日付の国際学術誌「ズータクサ」に掲載された。
 発見した流通経済大の後藤哲雄教授によると、この新種は植物に寄生する体長0.5ミリ未満のダニで、皇居内の生物学研究所近くに生えたヤマグワの葉から見つかった。日本でアケハダニ属の新種が発見されたのは10年ぶりという。」
(2019/02/14-16:14 時時ドットコムニュース) 

 地味な分野の研究にちょっとだけ光が当たったケースであるが、ほとんどの人は気にも止めなかったであろう。