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続々・樹の散歩道 果実が白いシロミナンテンが本当に存在するのか
ふつうのナンテンはもちろん赤い実をつけるが、これに並べて黄色い実をつけたナンテンもしばしば植栽されている風景を見かける。センリョウにもキミノセンリョウがあり、マンリョウにもキミノマンリョウがあるように、別に珍しいものでもなく、園芸的にはそれぞれふつうに利用されている。一方、呼称としては「シロミナンテン」が存在し、ついでながら「シロミノマンリョウ」も存在するが、今までにそれほど注意して見てきたわけでもなく、本当にこれらに白い果実の品種などが存在するのであろうか。 【2020.3】 |
1 | シロミナンテンとは | |||||||||||||
図鑑によれば、シロミナンテン(シロナンテンとも)はナンテン Nandina domestica の変種 Nandina domestica var. leucocarpa Makino 又は栽培品種 Nandina domestica Thunb. 'Shironanten' で、果実は熟しても白く、葉は紅葉しないとされる。生薬としてはナンテンの乾燥した果実を南天実(ナンテンジツ)と呼び鎮咳剤として用いることが知られていて、薬効としては赤実も白実も違いはないとの見解を見るが、なぜか昔から特に白実の方が薬効に優れているとする伝説があって賞用されたという。 ところが図鑑に掲載されたシロミナンテンとされるものの写真を見ると、その果実はことごとく淡黄色~黄色(注:写真による色合いの再現性の微妙な変動はあり得る。)であることが確認できる。販売品でも同様である。何と言うことはない、黄色い果実であるにもかかわらず、昔からの慣習で「シロミナンテン」と呼ばれてきたに過ぎないと、とりあえずは理解した。これでは子供にも説明が困難である。 そもそも図鑑の記述に問題がある。シロミナンテンに関する記述例を掲げると以下のとおりである。 |
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この中で、シロミナンテンとされてきたものの果実の色が客観的に表現しているのは樹木大図説のみである。 結局のところ、シロミナンテンの果実は名前に反して明らかに白色ではないが、一般的な図鑑では、昔からの慣習的な名前に引っ張られて、実態に即した色の表現を怠り、安易に「白い」として説明しているものであることが確認できた。 なお、図鑑等では「キミノナンテン(キナンテン)」の名は存在しないが、勝手にシロミナンテンとは別に「キミノナンテン」の呼称を使っている例がしばしば見られる。子供にも説明できるよにするとともに、これまでの混乱を避けるためには、本当はシロミナンテンの名を抹殺して、あくまで色に忠実にキミノナンテンと改めた方が素直で誠実である。 |
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2 | 実際のシロミナンテンを検分する | |||||||||||||
そもそも真正のシロミナンテンであるとして、特別に系統管理されたものが存在するとは考えられず、改めてあちこちで目にしたそれらしきものは淡黄色の果実のナンテンのみで、白色の果実のものなどは全く見られなかった。また、小石川植物園の「薬園保存園」のシロミナンテンを見てみると、実付きが悪かったがやはり同様で、果実は間違いなく淡黄色であった。 | ||||||||||||||
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3 | 淡黄色なのになぜシロミナンテンと呼ばれてきたのか | |||||||||||||
念のために、中国植物誌を見ても、まれに南天竹(ナンテンの中国名)には果実が橙紅色のものがあることに触れているだけである。また、中国東部地区薬用木本植物野外鍳別手册では、漿果は熟時は紅色で、時に黄色のものがあるとしているが、白実の品種は認知していない。 また、中薬大辞典では、南天子(薬用として乾燥した果実)は、「紅色で、整ったものが良品とされる。」としていて、黄色又は白色の果実についての言及はなく、もちろん、これについての薬効について特記しているものでもない。 ということで、和名の「南天」は明らかに中国伝来であるが、白実と捉える感性は中国由来のものではなさそうである。また、白実(黄実)を良品とした伝説は日本国内だけで流布されてきたもののようである。 一方、和漢三才図会を見れば、果実の白い南天の存在について言及していて、淡黄色の果実を既に白色として表現しているから、もう何を言っても仕方がないことであると受け止めることにした。 本当は、薬用としての利用で、黄実のものを赤実に対して白実と呼ぶことが、別の事例に倣って差別化を図るのに有利になるとの下心から来るものであることを期待したのであるが、残念ながらはっきりしない。 なお、シロミナンテンの学名は先に触れたとおり Nandina domestica Thunb. 'Shironanten' 又は Nandina domestica var. leucocarpa Makino で、前者は栽培品種とするもの、後者は牧野博士による命名で、変種名は極めて残念なことに「白果の」の意である。(属名は「南天」から、種小名は「国内の」の意。) |
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4 | ナンテンの薬効 | |||||||||||||
ナンテンの果実のナンテンジツ(南天実)は日本薬局方外生薬規格に収載されていて、シロミナンテン(シロナンテン)の果実とナンテンの果実は同等に位置付けている。(注:薬効に差があると見なしていないと解される。) 市販薬としてすぐに頭に浮かぶのは、知名度の高い「南天のど飴」で、南天実エキスが配合された咳止めである。その他複数の総合感冒薬にも南天実エキスが配合された例を確認できる。 なお、国内ではかつてはシロナンテンの果実が価格的に優位にあったことを背景として、 「赤味の方は天日で漂白して白実のように見せる(樹木大図説)」とした面白い記述を見る。まあ、あり得る話である。 中国ではナンテンの果実に限らず、根や茎についても薬効を以下のように認知している。 |
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5 | マンリョウの白実品種 シロミノマンリョウは本当に白いのか | |||||||||||||
こちらの場合はシロミナンテンとは少々事情が異なっている。つまり、マンリョウ Ardisia crenata にはキミノマンリョウ f. xanthocarpa とシロミノマンリョウ f. leucocarpa の両方の品種名が知られているからである。この構成からすると、シロミナンテンのような詐欺的な名称ではないような期待を抱かせる。 そこで現物でチェックする必要があるが、植栽樹として、堂々とシロミノマンリョウとしている例は多くないため、とりあえずは小石川植物園の個体で確認することにした。 |
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ということで、写真のとおり、シロミノマンリョウは合格である。 | ||||||||||||||
6 | カラタチバナの白実品種(シロミタチバナ)は存在するか | |||||||||||||
カラタチバナ Ardisia crispa の場合は、マンリョウと同様に、果実が白く熟すシロミタチバナ、黄色に熟すキミタチバナが園芸品種として存在する(樹に咲く花)とされ、WEB上でも多くはないがキミタチバナが写真で紹介されている例を見るが、本当に果実が白いシロミタチバナは目にしない。したがって、合格レベルのシロミタチバナが存在するのかを現物で確認することはできなかった。 | ||||||||||||||
7 | センリョウの白実品種(シロミノセンリョウ?)は存在するか | |||||||||||||
赤実のセンリョウ Chloranthus glaber の変種としてキミノセンリョウ Chloranthus glaber var. flava はふつうに見るが、ある事業者がこれ以外に「シロミノセンリョウ」が存在すると記述している例が見られる。しかし、これが本当に白いのかは現時点で確認できない。 | ||||||||||||||