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続・樹の散歩道 品川 荏原神社の早咲きの桜の素性(種類)は?
旧武藏国 荏原郡の名を冠した荏原神社は都内品川区北品川の目黒川沿いに位置している。目黒川沿いはソメイヨシノなどの桜並木が知られているが、これとは別に神社境内の川寄りには2本の桜の木があって、この辺りでは最も早く花が咲くことで知られている。品川区役所、しながわ観光協会ともに、これを「寒緋桜(カンヒザクラ)」として紹介している。毎年1月下旬から2月上旬にかけて開花し始め、満開ともなると、目黒川に掛かった朱色の欄干の橋と調和して美しい。 ところで、このカンヒザクラとされる桜であるが、各地でふつうに見かけるカンヒザクラよりも開花が1か月も早い上に、その花の様子もかなり異なっていることに気付く。多くの人が首をかしげていると思われるのであるが・・・・・ 【2015.4】 |
1 | 荏原神社のサクラの様子 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(メモ) 2015年 2015.1.28 チョロ咲き 2015.2.22 6分咲き 2015.2.16 9分咲き(満開状態で葉は出ない) 2015.2.19 ごくわずかに散り始め。 2015.3.2 順次散っている。葉が展開中。 2015.3.12 花はわずかに残るのみでほぼ終わり、葉の展開が進行中。 2016年 2016.2.1 満開 2017年 2017.1.5 チョロ咲き 2017.1.26 満開 |
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【追記 2016.2】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
2016年は開花が前年より早まって、2月1日にはほぼ満開状態となっていた。メジロちゃんが大喜びで、群れて蜜をなめていた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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当神社は平成21年(2009年)に創建1300年を迎えたとされる。 今年(2015年)は1月下旬に咲き始め、2月中旬にはほぼ満開となった。 個人的な印象としては、カンヒザクラというよりも、花弁がさらに開くといわれているリュウキュウカンヒザクラ(琉球寒緋桜)に近いのではと感じていた。しかし、リュウキュウカンヒザクラの現物を見たことがなく、うなり声を上げていてもらちがあかないため、この謎のサクラを経過観察するとともに、都内にも植栽されているというリュウキュウカンヒザクラの様子を検分し、念のためにお馴染みのカンヒザクラの様子も改めに確認し、3者を比較してみることとした。 |
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2 | ふつうに見かけるカンヒザクラ(寒緋桜)の様子 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
植栽樹としてはごく一般的な存在で、実際に九州や東京でもふつうに見かけた。沖縄ではサクラとしては最も一般的な存在で、1月下旬頃に満開になるといわれるが、東京では気候の違いから、2015年ではそれより1か月以上遅れた3月上旬から中旬に満開を迎えていた。 しかし、荏原神社でカンヒザクラとしているものとは随分様子が異なっている。 |
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【カンヒザクラ】 バラ科サクラ属の落葉小高木。ヒカンザクラ、サツマザクラとも。 Prunus cerasoides var. campanulata (基準変種がヒマラヤに産するとの見解による学名) Prunus campanulata 中国、台湾に自生する。沖縄では1月下旬に満開になる。沖縄で「桜」と言えばこのサクラを指す。 (日本の野生植物、樹に咲く花 より) (メモ) 2地点で経過観察 2015.3.4 早いものは開花。 2015.3.11〜17 満開 2015.3.25 散り始め |
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写真の説明で触れたとおり、カンヒザクラの大きな特徴は、花弁が大きく開かずに半開きであることに加えて、花が散る際には、萼筒ごと落花することである。なお、都内でも植栽箇所で開花時期にずれが確認されたことから、いろいろな系統のものが流通していると思われる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
3 | リュウキュウカンヒザクラ(琉球寒緋桜)の植栽樹の様子 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
リュウキュウカンヒザクラの樹名板を付した植栽樹2本が皇居東御苑で見られる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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【リュウキュウカンヒザクラ】 カンヒザクラの(栽培)品種。花弁が平開し(注:個体差があるものの、決して平らになるほどは開かない。)、花の色がやや淡いものをリュウキュウカンヒザクラ(琉球寒緋桜) Prunus campanulata cv. Ryukyu - hizakura という。(樹に咲く花 より) (メモ) Aの開花(2輪)は2月19日。Bの開花は3月上旬。 Aは3月初旬に満開。Bは3月10日頃に満開。 何れも満開を過ぎると葉が展開を開始。 |
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そもそもリュウキュウカンヒザクラ(琉球寒緋桜)の呼称は沖縄で見られるカンヒザクラのうち、特に花弁がより開くタイプを指して呼ぶ場合があるが、特定の系統のものが品種として選抜されているものではなく(注:沖縄県農林水産部森林資源研究センターに確認。)、連続的な変異が存在すると思われ、和名としての認知・定着度は低い。また、沖縄ではわざわざリュウキュウの語を冠して区別するなど困難で、その必要性もないため、幅広い変異が存在すると思われるこのサクラについては専ら単に「カンヒザクラ」の名で一括して呼ばれていて、リュウキュウカンヒザクラの呼称は沖縄でも一般性がないようである。 ある沖縄県の出身者に聞いたところ、本土でカンヒザクラと呼ばれているサクラが沖縄でカンヒザクラと呼ばれているものとは全く別物に見えて驚いたという。つまり、本土でカンヒザクラと呼んでいるサクラは、沖縄では全く一般性がないということがわかる。 この2個体を観察すると、開花時期、花弁の開き具合に明らかな違いが認められた。追って、ボランティアガイドの説明で、これらが八重山から取り寄せた種子に基づく実生木であると知り、見た目の違いが存在する理由が納得できた。 なお、以下の記述に当たっては、「リュウキュウカンヒザクラ」は、本土でふつうに見られる「カンヒザクラ」よりも花冠が広く開くものを指す(必ずしも平開することを条件としない。)ものとして整理する。 |
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4 | 3種類のサクラの属性とりまとめ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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5 | 荏原神社のサクラの名前に関する情報探索 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
サクラの種類に関してはその詳細にわたる形態的な特徴から分類の講釈ができる経験豊かな専門家が多くいる模様であるが、栽培品種を含めた種類があまりにも多く、非力な「にわかひとり探偵団」にはとても手に負える代物ではないことは明らかで、実は最初から無力感を覚える心境にある。ただ、このサクラが広く知られているカンヒザクラとあまりにも違うから、ムラムラと不満が高じて講釈したくなる植物大好き中高年が大勢いても不思議ではない。 そこでウェブ検索してみたが、残念ながらこのサクラに関して自説や蘊蓄を開陳している情報が全く見当たらないのは意外なことであった。これは神社自身が「寒緋桜」の看板を掲げていることに加え、ひょっとすると、神社に対する遠慮があるのかも知れない。 しかし、中には不遜にも社務所に異議の申し立てをする者もいるかも知れないと考えて、社務所に電話で問い合わせしたところが、やはりカンヒザクラとして認識していて、50年ほど前に植えられたものとのことで、さらに、この桜の名前に関しての異説は耳にしていないとのことであった。これは神社に対する遠慮というよりも、花がピンクがかっていてまぶしいほどに美しいことで、異議の申し立てなど思いもよらないのかも知れない。 |
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6 | カンヒザクラに関する図鑑類の情報探索 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
例えば外来種たるカンヒザクラが自生地で沖縄で見られるよりもさらに幅広い変異が確認されているのかは興味を感じるところである、そもそも外来種とされることもあってか、情報は多くなく、この種をめぐって以下に掲げるようなはっきりわかっていない点があることが見えてきた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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7 | まとめ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
こういった話はいくら諸説があってもらちがあかない。 多くのサクラの種類、栽培品種の識別に関しては、先に森林総合研究所をはじめとする複数の法人等が共同研究でDNAマーカーを用いたサクラの伝統的栽培品種の識別技術を開発したとされる。これにより、従来別の名前で呼ばれていたものが実は同一のクローンであったことが判明した等のおもしろい成果がもたらされている。そこで、暇な研究者に(あるいは忙しい研究の片手間に)荏原神社のサクラについてもそのDNAをちょっと調べてもらえば、他の地域に別の名前で植栽されている可能性もあり、楽しい話題提供ができるかもしれない。できれば,中国・台湾産、沖縄で古くから栽培されてきたものについても変異を把握しつつDNAをサンプル調査して、系統的な関係の有無及び関連についても総合的に調査すれば、有用な情報が得られるかも知れない。 さて、荏原神社のサクラの素性に関してであるが、とりあえずは個人的には
としか言えない。 |
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【参考 1:カンヒザクラ群のサクラの例】 何れもピンクがかっていて美しい。カンヒザクラの血が流れていることによるもののようである。 (以下の写真の種名はそれぞれの樹名板の表示に基づく。) |
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注:サクラ属はCerasus とも表記され、派閥、学閥による影響もみられるという。 参考資料:遺伝研のさくら、多摩森林科学園のサクラガイド |
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【参考 2:住宅地の謎のサクラ】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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都内のある住宅の玄関先で咲いていたもので、鮮やかな紅色の花が美しい。住人に聞いたところ、河津で手に入れたカワヅザクラとしていた。しかし、先の学習の成果から、これはカワヅザクラとは様子が異なっており、いわゆる「リュウキュウカンヒザクラ」の系統である可能性が高いと考えられる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
【参考 3:公園でカンヒザクラとして植栽されていたもの】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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