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続・樹の散歩道 ヤナギ科の美しい絹毛と綿毛
ここでいう「美しい絹毛」とは、もちろん種名としてのネコヤナギを含めた広義の慣用的な呼称としての「猫柳」の毛を指す。まだ肌寒い早春に、光を浴びて銀色に輝く花芽の繊細な絹毛は誰の目にも美しく、さらに開花して鮮やかな黄色い花粉を見せる雄花もひときわ美しい。このため、花材としても広く利用されている。 一方、同じヤナギ科の堂々たる高木であるポプラやドロノキの雌株は豊かな綿毛をまとった種子を大量に飛散し、地面を白く覆うだけでなく、マスクが必要なほどに空中を漂い、これは時に傍若無人な振る舞いと見なされていている。しかし、この綿毛もよく見ればそれなりに美しい。 【2014.2】 |
1 | 美しいヤナギの花芽 ヤナギの花芽を覆う絹毛は、特に逆光で見るとうっとりするほどに美しい。花材としても一般に利用されている。 |
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2 | 綿を大量生産するポプラ、ハコヤナギ類 | |||||||||||||||||||||||||
@ | ふわふわの綿毛のファンタジー |
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綿毛をとりわけ大量に生産するドロノキの果穂を1本採って、果実が裂開する様子を観察してみた。 | ||||||||||||||||||||||||||
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A | 樹上の綿の様子 綿を生産する木々の樹上の様子は以下のとおりである。 |
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B | 綿毛を撒き散らしている現場 綿毛は空中に放出される一方で、落下した果穂からもたっぷり地上に散らされる。 例えば札幌市のど真ん中の北海道庁前庭に植栽された巨大なポプラ類は、毎年大量の綿毛を飛ばし、辺り一帯はまるでぼたん雪が漂うような信じ難い風景となる。誰もが口や鼻に入る危険を感じるはずで、暗色のウール系の衣類にはペタペタまとわりつくかもしれない。 これらの木々は綿毛を飛散する時期には隣接住民にとっては全くの嫌われ者となっていて、地面まで真っ白に埋め尽くす。さらに、縁石部分では大量に吹き溜まっている状態となる。気楽な立場で通りがかった場合にこれを目にしたら、この綿を何かに利用できないものかと、真面目に考える人も少なくないはずである。 しかし、ほうきで掃き集めて枕、クッション、ふとんを試作したという話は聞かない。実際問題として、性能的にどうなのかについては是非とも知りたいところである。 |
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C | 綿毛の繊維の様子 綿毛の質感を実感するため,手のひら大に綿毛を集めて、ついでに顕微鏡で様子を確認してみた。 |
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ドロノキ、カイリョウポプラ、バッコヤナギの綿毛は似たような印象で、手にすると、いかにも布団の中綿になりそうな質感で、打ち捨てられているのがもったいないように思えてくる。残念ながら、国内での綿毛(種子繊維、種子毛繊維)の利用に関する具体的な情報は全く 得られない。これらはいずれも綿と同様に中空繊維とされる。 参考比較用としたガガイモ(ガガイモ科ガガイモ属のつる性多年草)の綿毛(種髪、絹毛、白毛)は、ヤナギ科の綿毛の繊維よりやや太くて(と言っても非常に細い。)長い直毛で、肉眼で見ると美しい絹様の光沢があって、高級感がある。この毛は、草綿の名もあり、綿の代用として針刺しや朱肉に使われたとされ、さらにこの毛で傷口を押さえると、止血の効果があると言われている。たぶんこれも中空繊維なのであろう。同科で花材とされるフウセントウワタも同様に種子に毛をもっている。 |
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D | ポプラ等の綿毛による紙漉きは可能か さすがに自分で布団を試作する根性はないが、繊維質であるから、紙漉きの素材としては全く問題がないと思われる。 早速、素材として、@ドロノキ、Aカイリョウポプラ、Bバッコヤナギ について特に事前処理をすることなく試してみたが、やはり繊維表面の油脂分が邪魔をするのか、平滑すぎるのか、一旦はシート状になるものの、“分子間力(水素結合)” が有効に発揮されず、すぐにほぐれてしまって全く紙の体をなさないことが判明した。 ところで、同じ種子繊維(種子毛繊維)としては王者的な存在となっているのは綿花(ワタ)であるが、かつては「木綿紙(もめんがみ)」の名で、木綿のたちくずで作った紙が存在したとされ、現在でも綿(コットン)の紙(コットンペーパー)やエコを演出した「再生木綿紙」の生産が見られ、さらにワタの短繊維(リンター)が広く製紙原料になっているというから、正しい処理をすれば紙漉きができるはずで、そもそもセルロース系の植物繊維であれば紙にならないものはないはずである。 |
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これで見通しが立ったことから、今度はドロノキの綿毛について改めて試験することとし、まずはタンサン(重曹、炭酸水素ナトリウム)で処理した上で、木槌でポカポカと叩いた後に紙漉きをしてみた。 | ||||||||||||||||||||||||||
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結果は写真のとおりで、紙になることを確認した。暗色の点状のものは、種子の残骸で、木槌で叩いているため種子の原状ををとどめていない。種子を繊維を事前に手作業で分離するのは至難の業である。また、合成糊等でとろみをつければ、繊維がもう少しきれいに分散した上に絡みも増してきれいな仕上がりとなると思われる。 | ||||||||||||||||||||||||||
3 | ポプラ等の綿毛が果たして布団の中綿となるのか 国内での情報が存在しないことは先に確認していたことから、改めて英語サイトを検索すると、何と、誰もが夢想する用途である「ふとんの中綿」としての利用が既に海外に存在することを確認した。 |
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ということで、ポプラの綿毛はその感触から想像されるとおり、保温材としても高い評価を得ていることがわかった。しかし、やはりハードルはこれを効率的に低コストで収集できるのかということである。集めた果序から機械的に綿毛を分別することができるというが、だれがどうやって果穂を集めるのかが問題である。まさか地面に降り積もった綿毛をほうきで集めるわけにはいかない。事業的に実施している例では、綿毛が自然に飛び散る前に果穂を枝ごと採取しているようであるが、高所作業車を使用するとしても、大変なコストになりそうであり、市販のポプラ綿毛布団は決して安い製品にはならないと思われる。 | ||||||||||||||||||||||||||
4 | 国内では野の植物の綿毛や繊維を布団充填物とした歴史はないのか ふつう感覚で思い浮かべてみると、例えばガガイモの種子は絹様光沢のある美しい毛を提供するが、せいぜい針刺しと朱肉に使われたといわれる程度で、大量に得られるものではないことが制約になっていたことは明らかである。また、ハコヤナギ属樹種に関してであるが、果序の果実が裂開すれば直ちに空中に舞い散るし、地上に落ちた果序では多くの種子が飛散した後の状態にあって、綿毛を集めるのは簡単ではない。裂開前の果実を大量に採取し、これを効率的に処理する手段が無ければ生活用具の素材にはなり得ない。そのためか、これら綿毛を布団の充填物としたなどと言う情報は一切目にすることができない。樹木大図説には、ドロノキの項で「熟果に白毛あり、取って綿の代用とする。」とだけあり、詳細は不明であるが、普遍性のある利用があったとは思えない。 結局のところ、かつて木綿綿(もめんわた)の代替として布団の充填物としての利用が確認できたものは、農村部における「わら布団」(稲わらのはかま(下葉)を詰めた布団)のみであった。その他に身近で手に入りやすいイネ科の穂綿等を活用した可能性も想像されるが、歴史の闇に消え去ってしまったのであろうか。 我々日本人のご先祖様達は、ごく一部の支配階級を別にすれば、みんな貧乏が当たり前であったわけで、そもそも寝具としての布団の形態が一般化した歴史も短く、中綿として何を詰めるか苦心したり、工夫して地域における一般性のある生活用品として定着したような例はほとんどなかったのかも知れない。なお、粗末な麻の袷(あわせ)に苧屑(おくそ。苧麻の繊維屑)やガマ(蒲)の穂を入れて保温性を高めた例はあったという。 |
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<参考メモ 1:布団充填物の素材> | ||||||||||||||||||||||||||
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<参考メモ 2:「蒲団」の語のかつての意味> | ||||||||||||||||||||||||||
「蒲団」の語はかつて使用された蒲(ガマ)の葉を編んだ円座で、座禅の時に禅僧がお尻の下にあてがうための小型の座蒲団(中にパンヤなどを詰めたと考えられている。)を意味していたとされる。したがって、ガマの穂綿を中綿にしたことから蒲団の名があるとする説明は誤りとされている。 | ||||||||||||||||||||||||||
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<追記 2014.8> | ||||||||||||||||||||||||||
脱脂綿を使用した紙漉きの出来が今ひとつであったことから、製紙技術の観点で何が問題なのかを知りたいと思っていたところ、機会があって、都内北区王子の「紙の博物館」の製紙技術に関して詳しい館員の方に話を聴くことができた。 ワタを使って紙漉きを行うのであれば、通常のワタの繊維は製紙用としては長すぎるため、例えばワタの繊維を5ミリ程度に刻めば事態を改善することができるのではないかとのことであった。個人的にはビーティングの不足を予想していたのであるが、これは意外であった。また、一般的な製紙では、木材の繊維が比較的短くて絡む力が弱いため、(低コストである)でん粉を使用して強度を高めていることから、同様の扱いによる効果についても示唆があった。 再試験はしていないが、脱脂綿の繊維を刻んで、洗濯のりを薄めて漉いてみる必要がありそうである。 |
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