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レンプクソウの様子 |
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花はとにかく地味で、小さく黄緑色で全く目立たない。目を近づけてよーく見なければ構造もわかりにくいほどである。一見するとごちゃごちゃしているが、四方を向いた花と真上を向いた花がひとかたまりになっていて、形態的には律儀に(一面が欠けた)サイコロ状に方形をなしている。
レンプクソウに関する国内の図鑑での記述を集約すると、以下のとおりである。 |
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茎葉は対生して3出複葉 |
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花は黄緑色、5個が頭状に集まり(頂生集傘性頭状花)、径4−6mm、頂生花は萼が2裂、花冠が4(〜5裂)し、雄しべが8(〜10)個あり、花柱は4(〜5)裂、側生花は萼が3裂、花冠が5(〜6)裂して、雄しべが10(〜12)個あり、花柱は5裂。 |
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レンプクソウの葉
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レンプクソウの花
頂生花を上から見た状態で、側生花は四方を向いている。 |
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レンプクソウの頂生花 1
この花は花冠は4裂、雄しべ8個、花柱は4裂のたぶん標準形。 |
レンプクソウの頂生花 2
この花では花冠は4裂、雄しべは8個(写真では葯が1個脱落している。)、花柱は5裂。 |
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レンプクソウの側生花 1
この花は花冠は5裂、雄しべは10個、花柱は5裂のたぶん標準形。 |
レンプクソウの側生花 2
この花では花冠は6裂、雄しべは12個、花柱は5裂。 |
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2 |
レンプクソウの果実と種子 |
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不思議なことに、レンプクソウの果実や種子に関する図鑑での情報が少ない上に写真は皆無で、国内のウェブ上のボランティア図鑑でも果実、種子の様子が全く紹介されていない。北半球に広くまばらに分布していることから、英語のウェブ情報は多いが、果実、種子の写真はごくわずかに確認できたのみであった。
「新牧野日本植物図鑑」ではレンプクソウの花と果実・種子に関して次のように記述している。
4−5月頃、茎頂に黄緑色の小花がふつう5個頭状につき、先端の1花は花冠4裂、雄しべ8本、側方の4花は花冠5裂し、雄しべは10本である。果実は核果で、3−5の軟骨質の果実が集合する。
注:軟骨質の果実とは何なのかよくわからない。
鉢植えのレンプクソウは5月下旬にはほとんど枯れてしまう時期を迎えて、この時期の果実の様子を確認したところ、子房部分がやや肥大しているだけで、ちっとも果実らしくない。感触としては、薄い皮に包まれた超ミニトマトのような液果風で、これをつぶすとやはりトマトの種子のような粒々のあるものが見られた。しかし、これは実に貧相で、残念ながら成熟した種子を内蔵した果実には至らなかったようである。そもそも本種は種子をつけにくいものなのかも知れない。今後の課題である。
レンプクソウ科などと言いながら、その肝心なレンプクソウの果実や種子に関する情報の蓄積が極めて貧困であるのは奇妙なことである。 |
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花後のレンプクソウ
花冠が落ちたお陰で、頂生花の2個の萼片と側生花の3個の萼片が確認しやすい。 |
レンプクソウの未熟果実?
少々ふっくらしたが、この状態で茎が枯れ始めてきた。核果≠ニいう状態にはならなかった。 |
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(参考)米国農務省農業調査局(ARS)の掲載写真 |
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レンプクソウの果実と種子( ARS USDA より ) |
レンプクソウの種子 ( ARS USDA より ) |
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レンプクソウの果実と種子については改めて検分してみたい。 |
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レンプクソウの名前 |
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レンプクソウの漢字表記は「連福草」と信じられていて、たぶんこの表記から想像の翼が羽ばたいてしまって、現在の通説(昔フクジュソウを採取したとき一緒について来たため)となっている模様である。ただし、様々な脚色が反映していていることで由来話はさらに信用低下を来しており、こんな説明をまともに受け止める人はどこにもいないであろう。
中国名を調べると「五福花」(五福花科 五福花属)である。和名の漢字表記と「福」の文字が共通しているのは偶然ではないような気がする。この植物に薬効があれば、中国名をそのまま踏襲したかも知れないが、何の使い途もないようであるから、そうなってはいない。「五福花」の名前の由来の講釈は見つからないが、たぶんキッチリ5花をつけることを書経の「五福」(注)にかけたものかもしれない。
注: |
【五福】[書経洪範] 人生の五種の幸福、すなわち寿命の長いこと、財力のゆたかなこと、無病なこと、徳を好むこと、天命を以て終ること。(広辞苑) |
英語名は多数あって、以下はその例である。
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Moschatel |
学名の種小名 moschatellina に由来する。moschatellina は麝香を意味するイタリア語の moscato に由来し、この植物に麝香のような匂いがあることによる。匂いを発する部分に関しては花としている場合や地下茎と匍匐枝としている場合があるなど、はっきりしない。なお、日本のレンプクソウには残念ながらこの匂いがないとされる。 |
Town Hall Clock |
「公会堂の時計」とはもちろん、レンプウソウの4つの側生花の様子から連想した名前であることがわかる。時計台にはしばしば時計が4面に配されるから、訳のわからない連福草の名よりもはるかに素直な呼称である。 |
Five-faced Bishop |
5つの顔の司教(主教)とはもちろん5つの花があることから来たものであることはわかるが、なぜBishop が登場しているのかはわからない。 |
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<レンプクソウの名前の由来に関する怪しい説明例> |
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和名は昔フクジュソウを採取したとき一緒について来たためという。【APG原色牧野植物大図鑑】 |
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細い地下茎を出してふえ、それによって地上茎が互いにつながっているため連の名があるが、「福」の意味についてはよくわかっていない。【世界大百科】 |
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昔、この草の地下茎がフクジュソウにつながっているのを見た人がつけたものという。【野に咲く花】 |
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<メモ> |
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属名のアドクサは「注意を引かない」、「取るに足らない」という意味のギリシャ語からきており、地味なこの植物の姿をよく現している。【植物の世界】 |
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種小名はややジャコウの香りがするという意味であるが、日本とインド産の花は香気がなく、染色体数も異なる。属名は取るに足らぬの意で花が目立たないことからという。【原色牧野植物大図鑑】
注:中国にも分布するが、中国植物誌では匂いについての記述がなく、中国産も香気がないのかも知れない。 |
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レンプクソウを巡る周辺事情 |
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(1) |
花の構造に関する見解の相違 |
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レンプクソウの雄しべの数に関して、図鑑により捉え方が異なっていて、国内の図鑑では頂生花で8(ときに10)個、側生花で10(ときに12)個あるとしているのに対し、「中国植物誌」及び翻訳書の「ヘイウッド花の大百科事典」では、この二分の一の数を掲げていることに気づいた。そのココロは、雄しべ花糸が基部近くまで深く2つに裂けていると見る立場では、外見上の葯の個数の半数を雄しべの個数としてカウントしているようである。結果として、国内と海外では雄しべの個数に関して「倍半分現象」が生じている。
左の写真で明らかなように、雄しべは2本ずつセットになっていて、上から見ると基部がV字形となっている。 |
レンプクソウの雄しべの様子 |
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(2) |
分類上の見解の相違 |
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かつてはレンプクソウ科は1属1種のみで構成されるものと理解されていたというが、近年複数属の種の存在が認知され、さらに現時点のAPG分類の大勢の見解では、お馴染みの樹種が多く含まれているスイカズラ科のニワトコ属とガマズミ属が何とほとんど存在感のなかったレンプクソウ科に組み替えられてしまった。この見解は現在の学会の勢力を反映した見解と思われるから仕方がない。結果、科の構成は次のとおりとなっている。ただし、一部について日本と中国の学者が突っ張り合ってきた経過があるとされる点は面白い。 |
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<レンプクソウ科 Adoxaceae>
レンプクソウ属 Adoxa
レンプクソウ Adoxa moschatellina L.
中国名:五福花 日本を含む北半球の温帯に広く分布
アドクサ・イノドラ Adoxa inodora
→ レンプクソウのシノニムと見なされている。
(カシミール・ヒマラヤ、中国産 頂生花五数性、側生花六数性 )
アドクサ・シーザンゲンシス Adoxa xizangensis G.Yao
種小名は「チベット(西藏)の」の意
中国名:西藏五福花 四川、西蔵、雲南に分布
*アドクサ・オメイエンシス Adoxa omeiensis H.Hara
日本の原 寛(はらひろし)が中国峨眉山で確認・命名。花序は総状。
テトラドクサ属 Tetradoxa
*テトラドクサ・オメイエンシス Tetradoxa omeiensis (H. Hara) C.Y. Wu
中国の呉征鑑が追って新属扱いとしたもの。
中国名:四福花 中国四川省峨眉、雅安に分布
シナドクサ属 Sinadoxa
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シナドクサ・コリダリフォリア Sinadoxa corydalifolia C.Y. Wu, Z.L. Wu & R.F. Huang 中国名:華福花 中国青海省玉樹、嚢謙県に分布 |
ニワトコ属 Sambucus
ニワトコ Sambucus sieboldiana var. pinnatisecta など
ガマズミ属 Viburnum
ガマズミ Viburnum dilatatum など多数 |
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こうした展開となった中で、やはりレンプクソウは科を代表する植物としてはあまりにも存在感がない。よく知られ、親しまれているガマズミ科の多くの樹木がひしめいている条件の下では、かなりの違和感がある。レンプクソウには悪いが、いっそのこと、例えばガマズミ科とした方がはるかにわかり易い。これが困難なのであれば、レンプクソウに光が当たることにつながるように、例えば何か特別な有効成分などがないのか、あるいは、極めて特異な性質を有していないのかなど、再認識できるように研究者により知見を深めてもらいたいものである。何らかの成果が得られれば、講釈の素材としても間違いなく歓迎されるはずである。全く目を引くこともない地味な姿で何の取り柄もない植物では、少々寂しすぎる。 |
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【追記 2018】
案の定というべきか、新分類はやはり揺れ動いているようである。詳細は不明であるが、2017年に国際植物学会議でレンプクソウ科 Adoxaceae がガマズミ科 Viburnaceae に変更することが決定された(改訂日本の野生植物)とのことである。安易な整理で右往左往させられるのはホント迷惑である。 |
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【追記 2019】
先の件について、「新しい植物分類体系」(2018.6.3、文一総合出版)に詳しい記述が見られた。要旨は以下のとおりである。
「APGではこれまでスイカズラ科に含まれていた木本のガマズミ属やニワトコ属などが大挙してレンプクソウ科に加わることになった。ガマズミ属やニワトコ属は大きい属なので、これまで世界でたった一種のみだったレンプクソウ科は、いまや150〜200種からなる分類群となった。
さらに展開があった。ガマズミ科とレンプクソウ科の学名は、それぞれ1820年と1839年に発表されていて、ガマズミ科のほうが古い。この場合、より古い名称に優先権があるので、ガマズミ科を用いることが2017年7月の国際植物学会議で決定された。その結果、一瞬の栄光の後にレンプクソウ科は消滅してしまった。」
ということで、何ともお粗末な展開である。APGは100年くらい、様子を見た方がよさそうである。 |
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