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樹の散歩道
  さて、道端で何か食べられるものはないものか・・・


 夏の盛りを過ぎた時期、あるいは木々が葉を落とし、辺りが次第に殺風景となる頃、しばしば見かける赤い実はよく目立ち、鳥たちにとっても多分貴重な食料になっていると思われる。鳥たちは食べ物が減ってくれば、贅沢は言っていられないから、クロガネモチのような、多分美味しくないであろうものにまで手を、ではなかった、くちばしを出す。
 フユイチゴなど、食べられることが当たり前のもの以外については、やはり一度口に入れてみなければ、いつまでもわからないままである。そこで、有毒とされるもの以外の赤い実で目にしたものの味を確認することとした。【2012.1】 


   昔の子供たちは、いつもひもじい思いをしていたから、子供たちの間の伝承で食べられるもの結構知っていが、現在では、大人もこうした知識を失いつつあり、子供に講釈することも少ないと思われる。

 野山や植物園を散策していて、昔の子供たちとは異なるダイエットに由来するひもじさから、何か口にできるものに出会うことは大変な喜びで、甘酸っぱいものを少し口にするだけでいい気分になれる。

 フユイチゴは安心の味であり、 ハイイヌガヤの果種皮は以外や非常に美味で、ヤマボウシは時に実がとびきり大きく味のよいものがあって、たまたま巡り会えば幸いである。ヤマブドウはクマ君は大好物と聞くが、酸味が強すぎて、手を加えないと食べられないから、手が伸びない。

 さて、ほかに何か食べられる赤い果実はないものか・・・
 
     
 カマツカ (バラ科カマツカ属)  Pourthiaea villosa var. laevis

 カマツカは別項(参照)で取り扱ったが、まだ口にしていなかった。 
 
     
 
            カマツカの花       カマツカの鮮やかな赤色の果実
 
     
   カマツカの果実は鮮やかな赤色で美しいが、やや硬そうな印象があって、食欲をそそる外観とはいえない。   
     
 試食結果: リンゴ風の味で、軟らかくて甘い  
   
   ナナカマド (バラ科ナナカマド属)  Sorbus commixta

 赤い実をたわわに付け、雪を乗せると色の対比が美しく、北海道ではこれでもかとばかりに街路樹として利用されている。 
 
     
 
          ナナカマドの花             ナナカマドの果実
 
     
 試食結果: 苦いだけで食べられる代物ではない。  
     
   大量の果実が身近にあるにもかかわらず、ただ鳥の餌にしかならないのはもったいなく、またもどかしいことである。果実酒に利用されることはあっても、ジャムにはならない。鳥にとっても決しておいしいものではないと思われるが、カラスまでもがこの実を食べているのを見た。
 ナナカマドの赤い果実が長持ちすることは広く知られているが、これはソルビン酸を含んでいることによるという。  ソルビン酸はヨーロッパナナカマドの若い果実から発見され、現在では合成品が食品の保存料として広く利用されている。 
 
     
   ヨーロッパナナカマド(バラ科ナナカマド属)  Sorbus aucuparia

 ヨーロッパナナカマドセイヨウナナカマドオウシュウナナカマドとも)は、ヨーロッパではジャムやジェリーとして利用されているという。植栽樹を見かけたため、試食することとした。見た目には日本のナナカマドと大きな違いはない。
 
     
 
 
         ヨーロッパナナカマドの花         ヨーロッパナナカマドの果実
 
     
 試食結果: 苦いだけで食べられる代物ではない点はナナカマドと同様。ジャムとすれば問題はない。   
     
 
  ヨーロッパナナカマドのジャムやジェリーのレシピは海外のサイトで多数紹介されていて、これらを参考とした。

 手順を要約すれば、この果実と同量の刻んだリンゴをほぼ被る程度の水で煮た後に皮と種子を漉し取り、別途煮立てた白砂糖と合わせて煮込めばできあがりである。リンゴを加える理由は、食味の改善やペクチン強化の効果があるのかも知れないが、詳細は不明。

 わずかな苦味はあるが、固有の味ともいえ、全く問題はない。
    ヨーロッパナナカマドの自家製ジャム   
 
     
   ヨーロッパナナカマドに関しては、以下の説明例が見られる。

 ヨーロッパナナカマドの実はビタミンCが豊富で、かつては壊血病の予防に使用された。生食では酸っぱいが、一般的にシカ(鹿)やキジ(雉)料理の添え物のジェリー(ジュレ)にされる。しかし、鳥たちはうるさいことは言わないでさっさと実を食べる。【Kew Gardens】

 ヨーロッパナナカマドの果実は食用としては rowan berries (ロアンベリー、ロワンベリー)と呼ばれ、通常は非常に苦いが、その特徴的な苦い風味を活かしたジャムやジェリーに利用されている。ヨーロッパには広く分布し、多くの国で料理や飲み物に独特の酸味や苦みを加えるのに利用されている。ロアンジェリー(ロワンジェリー)は伝統的に狩猟肉料理に添えられる。 'Edulis' (エデュリス)の名の苦みの少ない品種が選抜されている。【Wikipedia】  
 
     
 4    アズキナシ (バラ科ナナカマド属)   Sorbus alnifolia

 果実は非常に小さいが、名前からすると食べられそうな印象がある。
 
     
 
           アズキナシの花            アズキナシの果実
 
     
 試食結果: 種子が大きめで邪魔であるが、味はリンゴ風で甘酸っぱい。   
     
   ガマズミ (スイカズラ科ガマズミ属)   Viburnum dilatayum  
     
 
          ガマズミの花         ガマズミの眩しい赤色の果実
 
     
 試食結果: これもリンゴ味で甘さは少ないが酸っぱい味は心地よい。リンゴ同様のシャリシャリ感がある。
 
     
  【追記】   
 
        ひと冬経過したガマズミの果実 ガマズミの加糖果汁 
 
     
   雪解け後にガマズミの果実がまだほとんど残っているのを確認した。ややしわしわとなっているが、一粒口にすると、糖度が上がっているよう印象があったことから、果汁を搾って砂糖を加え煮詰めてみた。いかにもポリフェノールがたっぷりといった風情で、ヨーグルトにはピッタリであった。   
     
     
   マイヅルソウ (ユリ科マイヅルソウ属)  Maianthenum dilatatum  
     
   これは背の低い草本で、葉を落とした細い茎に真っ赤でやや透明感のある小さな美しい果実(液果)を付ける。   
     
 
           マイヅルソウの花           マイヅルソウの果実
 
     
 試食結果: シューシーであるが、酸味が先に立ち、次に苦みがやってくる。   
     
 
      マイヅルソウの未熟果
 マイヅルソウの熟す前の果実は美しいまだら模様があって、全く別物に見える。 
 果実は美しくても非常にまずいことがわかり、ペッと吐き出すことになった。少々不安になって、あとで複数の図鑑で確認したが、有毒植物としているものはなかった。

 マイヅルソウ(舞鶴草)は日本以外にも、朝鮮・中国(東北)・千島・樺太・シベリア東部・カムチャッカ・北アメリカに分布するとされ、食用等の事例を調べると、例えば米国では古くから一部で食用・薬用とされた歴史があるという。(以下のとおり。)



 
     
 
<参考> 
 沿岸部のいくつかの部族は果実を食べたが、食べ物としてはあまり高い評価はなかった。狩猟者や果実摘みをする人たちは、出かけた先では時折食べていた。この果実を食べる場合、通常は緑色の果実を大量に摘み、果実が赤く柔らかくなるまで水中に浸け置く。別の方法としては、緑色の果実を天日で乾燥して精選し、数分間沸騰水にさらす。軽く茹でた果実はサラル( Salal Gaultheria shallon シャロンとも。)のような他の果実と混じてケーキに利用できる。根はすりつぶして水に浸し、局部用消毒薬として利用された。
【Washington State Department of Transportation】
 (アイヌは)葉を腫れ物の化膿吸い出しに当てた。 【北大植物園説明板】
 
     
   ヒヨドリジョウゴ (ナス科ナス属)  Solanum lyrayum  
     
 
        ヒヨドリジョウゴの花          ヒヨドリジョウゴの果実
 花も果実もいかにもナス科といった風情である。  
 
     
 これは試食していない。かつて知り合いが口にして、ぺッと吐き出したのを見て、まずいことを知った。後日調べたところ、有毒植物であることが判明。その一方で、帯状疱疹(ヘルペス)に対する薬効があるそうである。    
     
   カンボク (スイカズラ科ガマズミ属)  Viburnum opulus var. calvescens  
     
   見た目には前出の同属ガマズミよりもおいしそうである。   
     
 
             カンボクの花             カンボクの果実
 
     
   試食結果: 〝総合的に〟まずく、しかも後まで残る。   
     
    いかにもおいしそうな外観からは予想外のまずさで、残念なことである。  
     
 
 クロミサンザシ (バラ科サンザシ属)  Crataegus chlorosarca  
     
   サンザシの果実は赤いが、これは色が黒色で、外観は全く食欲を刺激しない。しかし、「サンザシ」の名を含んでいるから、中国産のサンザシのドライフルーツや短冊状の加工品を連想し、ひょっとしたらの期待を抱かせる。  
     
 
クロミサンザシの花 クロミサンザシの果実
 
     
 試食結果: サンザシの名があるが、甘さは感じられなく、食べられる代物ではない。   
     
  <参考:サンザシいろいろ>   
     
   サンザシ類はバラ科サンザシ属の低木で、名前の知られたサンザシオオサンザシオオミサンザシのいずれも中国原産で、食用・薬用とされる。このうち、サンザシは江戸時代に渡来したとされ、国内で広く栽培されている。また、中国産のドライフルーツ等の加工品を見る。アメリカサンザシは非常に多くの種類があるとされ、やはり薬効が知られている。
 赤いサンザシ類の果実の外観は姫リンゴのような印象で、リンゴの風味がある。特に、アメリカサンザシの完熟時期のものは、リンゴと同様の食感であった。
 なお、在来種でヤブサンザシの名の小さな赤い実をつける低木があるが、これはサンザシ類ではなくスグリ科スグリ属で、赤い実は美しくて一見美味しそうであるが、残念ながら全く甘みはなく、食べる代物ではない。 
 
     
 
  サンザシ Crataegus cuneata
  中国名:野山楂
    オオミサンザシ
 Crataegus pinnatifida var. major
 中国名:山里紅
 アメリカサンザシ Crataegus spp.
 英語名:hawthorn
 
     
 10  コーヒーノキ (アカネ科コーヒーノキ属)   (2015.8 追記 )  Coffea arabica  
     
   さすがに、国内ではコーヒーノキは道端では見られず、温室栽培のものがしばしば見られる。 果実は美味しそうな赤色(~濃赤色)で食欲をそそる。  
     
 
      コーヒーノキの花
 この樹では花冠は5裂し、雄しべは5個あり、柱頭は先が2裂していた。
    コーヒーノキの果実
 果皮が丈夫な上に果肉が非常に薄いことに驚く。これだけでもう食用としてはふさわしくないと言っているのと同じである。果実はその外観からコーヒーチェリーの名がある。 
     コーヒーノキの種子
 果実には2つの種子が向かい合わせに納まっている。左側は果肉を除去したもので、右側はさらに内果皮と銀皮を除去した生豆状態。 
 
     
 試食結果: わずかな甘味を感じるが、残念ながら全く食用には適さない。要はコーヒービーンズとなる大きな種子がほとんどを占めていて、わずかな果肉も生食するにはなじまないということである。
 種子は薄くて硬い内果皮に覆われ、さらに中の胚乳は薄皮(銀皮)に覆われている。念のためにやや硬い胚乳も噛んでみたが、まずくて食用にならない。(ロースとした)コーヒービーンズをチョコレートでコーティングした菓子が存在するが、食感が悪く、全く美味しくないことは広く知られているとおりである。 
 
     
 11  ノイバラ/テリハノイバラ (バラ科バラ属)  (2016.12 追記) Rosa multifloraRosa wichuraiana  
     
   珍しくも何ともないつる性落葉低木で、小さなこの実を味見する人はほとんどいないと思われる。   
     
 
      ノイバラの花
     ノイバラの偽果
 写真の偽果はやや橙色で、完熟前の状態で硬く、試食にはまだ早い。 
   テリハノイバラの偽果
 この色が完熟状態で、ノイバラと同様の性質であった。この色合いを承知しておく必要がある。  
 
     
 試食結果: 意外や軽い酸味のある甘さはリンゴ風で、美味しく頂いた。ただし、小さいことだけが難である。  
   
 12   ネコノチチ (クロウメモドキ科ネコノチチ属)  (2017.10 追記) Rhamnella franguloides  
     
   植栽されている例は少ないため、試食の機会はないままとなっていた。果実は小さいが、黄色から赤色、さらに黒色となって熟し、彩りが美しい。黄色い段階の果実はまだ硬い。   
     
 
 ネコノチチの花 ネコノチチの果実  ネコノチチの果実 
 
     
   試食結果:赤色から黒色に熟す姿を見ると、期待できそうな印象がある。甘みはやや弱いが食べられる。   
     
【追記 2013.6】 お仲間と遭遇 !!  
   やや疎な防風林沿いを歩いていたときに、前方30メートルくらい先に何やらヨチヨチ歩いている生命体の存在を確認した。足は非常に短いようで、モコモコとした長い毛に隠れて全く見えない。何か食べられるものを探しているようで、下を向いたままで、左右に身体を振りながらこちらに向かってくる。敏捷性がない上に、目も良くないようである。

 これは写真を撮るチャンスと、カメラを構えたままで、じっと待ち受けていたところ、とうとう目の前の至近距離まで来てしまった。しっぽには縞はないからアライグマではなく、どう見てもタヌキである。  
 
     
 
    目の前に来たタヌキ
 
やや間抜けでにぶいという印象で、キツネであればこんな展開はあり得ない。
 
     プロフィール写真   
 顔が黒ずんでいるため、表情がわかりにくい。やはり、アニメのデフォルメされ、目がパッチリしたタヌキの方がかわいい。
       見返りタヌキ
 
顔が合っても少しも慌てず、おもむろに方向転換してしまったため、声をかけたところ、振り返ってくれた。何とも動きが緩慢である。
 
     
   北海道に生息するタヌキは、分類上は亜種で、正確には「エゾタヌキ」の名があるそうである。フサフサとした毛はなでてみたくなるが、それは叶わぬことである。ホンドタヌキより大きく、毛も長いのが特徴とされる。なお、たぬ子ちゃんなのか、ポン太なのかは聞きそびれた。