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木あそび
   柄材、鼻輪材としてのカマツカ


 カマツカの名は「鎌柄」そのもので、材が硬くて折れにくいことから、鎌の柄に用いられたことに由来する名称とされる。別名の「ウシコロシ」は、牛の鼻環としたからとする説明と、これとは全く異なる鼻環の孔あけに使用したからとする説明を聞く。いずれにしてもその堅さ及び丈夫さが知られていて、各地でその特製に着目した利用がなされてきた模様である。機会あって、カマツカの小径木が手に入ったことから、その質感を確認してみた。
【2010.1】


                      
    カマツカの花
     カマツカの葉
  カマツカの赤い果実
 果柄に見られるイボ状の皮目が特徴。
   ワタゲカマツカの花
ワタゲカマツカの若い葉(表)
ふかふかとした毛がある。
ワタゲカマツカの若い葉(裏)
葉裏は特に毛が多い。
 学名上、カマツカは基準種のワタゲカマツカの変種として整理されている。ワタゲカマツカはカマツカより葉が厚くて大きく、葉や葉柄等に軟毛が密生するタイプで、カマツカとワタゲカマツカの中間程度の毛があるものをケカマツカとしているが、変異が多く厳密な区別は難しい【山渓 樹に咲く花】としていて、職業としていなければこだわることもなさそうである。

 さて、カマツカの材であるが、手鉋による仕上がりはいい艶が生じて、きわめて良好で、材が緻密であることが確認できる。材色は淡黄色と淡紅褐色の中間色で、小径木では必ずしも均一色ではない。さらに、とにかく堅くて重い。牛君への使途の話は別にして、この質感であれば樫の木と同様の用途に十分耐えられるであろう。樫の木以外の柄材としてはグミ材(アキグミ、ナワシログミ等)が知られていて、その美観には負けるが、ワイルドに使用されるものであれば要は機能性である。
     皮を剥いだカマツカの丸棒
 出っ張りは枝に由来するものである。
        材面の様子
 太鼓挽き状態にしたもの。やや赤みがあり、きれいにツルッと仕上がる。
 商品としてのカマツカの柄材は一般には目にしないが、その利用に関する記述情報としては、以下のようなものがあった。
<鎌柄及び牛向けの利用>
   
 材頗る粘靱にして堅く、鎌の柄に用いらるるに由り鎌柄の名を得、又牛の鼻に綱を通す時此の木を以て鼻障孔を穿つより牛殺しと称す。【増補版牧野日本植物図鑑】
 和名は材が堅くて折れにくいので、鎌の柄に用いられたことによる。別名のウシコロシは、牛に鼻輪を通すときの孔あけに用いたことによる。【木の名前:婦人生活社】
 ウシコロシとも 材は鍛工,石工の器具の柄及杖に用ひ又皮を去り曲げて牛の鼻木(注:鼻輪鼻環鼻ぐり とも。)に用ゆ故にウシコロシと云ふ又鎌の柄に賞用するを以てカマツカと云ふ 【大日本有用樹木効用編】
 カマツカの名は材を鎌の柄にすることから、またウシコロシは牛の鼻木(あるいは)牛追い棒)に使うことからきている。【木の大百科】
 材は器具(柄・杖・牛の鼻環・櫛)旋作、薪炭、椎茸の榾木などになる。【原色木材大図鑑】
 (カマツカの)材は堅く、鎌などの柄として用いられたのが和名の由来という。ウシコロシという別名もあるが、こちらは木肌が滑らかで曲げやすく、牛の鼻輪に使われたところからきた名であるといわれるが、前川文夫はこれとは異なるアイヌ語起源説を述べている。【朝日百科植物の世界】
 別名をウシコロシとかウシノハナギともいうが,これは牛の鼻に綱を通すとき、孔をあけるのに使われたり、また鼻環にされるためである。【平凡社世界大百科事典】
 まずは鎌柄である。一般的な刃部が薄くて軽い、小型の草刈り鎌の場合は、軽くて手にも優しいホオノキの柄が定番である。一方、刃部が肉厚で重い鎌の場合は、細い灌木類叩き切ることを想定しているから、強度を確保するため、柄尻に滑り止めのコブの付いたカシ(樫)等の柄が一般に使用されている。カマツカを柄材に使用するとすれば、こうした重い鎌の場合であろう。
 なお、除伐用の鎌は樫系の模様で、下刈鎌の場合は樫、椎、朴等の市販品があり、ヒノキの小径木から自作して使用している例もある。

 次に、牛の話であるが、冒頭で紹介したとおり、鼻環としたとする記述と鼻中隔の孔空け用突き棒としたとする記述が一般に見られるところである。ウシコロシの名前の由来もこの何れか又は両方を掲げて説明されている。木材は従前から最も身近な加工用素材であったから、同じ目的でも多様な樹種が利用されてきたから、先の2つの説は両方ともあり得ることと思われる。上記資料では、平凡社世界大百科事典だけが両方を掲げている。しかし、実際にどうであったのか、どれほどの一般性があったのかを確認することは難しい。致命的なことは、図鑑等の記述内容の多くは他の文献情報に依存しており、検証できないままにその連鎖が現在、そして将来にわたって続くからである。

 この件に関して、カマツカではないが、他の木材の使用事例が記述されている例を紹介する。
   
 
日本民具辞典

鼻刳(はなぐり)】:牛に手綱をつけて制御するために鼻に通した輪。ハナヅラハナギハナゴ(四国)とも。近畿地方ではネズミサシネズ)の枝がよいといい、鼻を通して細い角材の両端にとめる。兵庫県ではこの木をタケトメとよぶ。材は木製から真鍮製、プラスチック製などに変わっていった。
鼻刳通し】:牛の鼻に鼻刳を通す穴を開ける道具で、30センチほどのカシの丸棒の先を尖らせたもの。鹿角製もあり、1歳ほどの牛の鼻中隔の柔らかい部分に突き通す。器用な農家は自分でやるが、主に獣医が行った。 
   
 なお、木製の鼻環を博物館で見たことがあるが、それは木製の丸い輪ではなく、U字型と棒状の部材で構成されていた。
<石工玄翁の柄としての利用>
   
  カマツカでなければという使途が知られていた。石工玄翁の柄である。具体的な説明が付されている場合は、非常に興味深い。
 材は重硬・強靱で、割裂しにくく加工困難である。古くから農具・工具の柄に用いられ、とくに石工・鍛工の玄翁などの柄に最も賞用された。そのほか洋傘の柄、和船の艪臍、櫛(おもに塗櫛用)、旋削による小細工物などの用途がある。【木の大百科】
 石工玄翁の柄にはウシコロシ(カマツカ)を用ふ弾力強く折るることなし、ウシコロシは折るるも玄翁の頭飛ぶことなし故に石工其他は怪我をなすことなく且付近の石材に衝突して之を損することなし、ウシコロシは弾性強きを以て手に響かず力強く加はるを以て其効果大なり【木材の工藝的利用】
<木刀用材としての利用>
   
 実は、「カマツカの木刀」は聞いたことがない。折角なので「牛殺しの木刀」と言えば恐ろしいまでの迫力を感じる。十分に木刀や警棒として耐えられる材であり、適材でもあると思われる。しかし、製材できる太さの材はほとんど出ないであろうし、株立ち状となったものでも、セイヨウハシバミとは異なり、なかなか最適な通直のものが見当たらない。しかし、どうしても試してみたくて、少々の曲がりを我慢して、小径木を剥皮しただけの木刀を試作してみた。カマツカの丸木木刀である。握りの感触も良く、しっかり重くて、素振りをするには最適であった。
【参考】鎌の柄材としてのネムノキ
   
 鎌の柄材としての意外な樹種として、ネムノキがある。「木材の工藝的利用」に記述があるもので、「(ネムノキの)材の手当たり柔かなるを利用す=(例)婦人用鎌柄」としている。
 ネムノキの材色はマメ科らしい茶褐色であるが、例えばイヌエンジュに比べればはるかに軟らかい。この適度に軟らかい特性が手に優しいということなのであろう。柄にしようとすれば身近な大抵の木は柄になると考えられるが、具合がよい場合は、その樹種の利用が地域である程度の一般性を持つものとなるのであろう。
 なお、もう一つの意外な利用例として、曲げわっぱがある。宮崎県内で「コウカメンパ」と呼ぶ曲げわっぱの曲げ木部分に、ネムノキが利用されている例があることを知り合いから聞いた。ネムノキの地方名として、コウカギ、コウカ等の名がある。
   
       ネムノキの花
 おしべが主役の花で、めしべはよく見ないと確認できない。
         ネムノキの材
 見たとおりの環孔材で、イヌエンジュと同じように辺材は淡黄色、心材は茶褐色である。木目がキリに似ることから、胴丸火鉢にも利用されたという。
   
 ネムノキの皮付きのサンプル材で、先のものより淡色である。写真ではわかりにくいが、辺材部は淡黄色で、心材との色の対比が美しい。