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樹の散歩道
   ネムノキの花を検分する


 夏の暑い時期にあちこちのネムノキが一斉に淡いピンクの花をつけ、筆の毛のような細くて長いおしべを風にそよがせている様を見ると、一時暑さを忘れてしまう。
平らに広げた枝に無数の花をつけた姿は実に美しいのであるが、決して人に見せるために咲いているものではないことを痛感する。花は傘のように開いた枝の上面にだけ全て上に向かって咲いているから、下から見上げても美しさを堪能できず、欲求不満になるだけである。出来れば、開花時期のネムノキの大木を斜め上から見下ろして、ついでに美しい写真を撮りたいものであるが、なかなかその機会がない。花は近くで見ても繊細・優美であるが、子細に観察したことはなく、例えばその雌しべの所在については、特に意識したこともなかった。【2010.8】


         満開のネムノキの花
 若干上方から見下ろすことができれば幸いである。
           ネムノキの花
 花は10〜20個頭状に集まって咲くと表現されるが、ボンボン状の1単位を何と呼べばよいのかわからない。
 
 ネムノキに見られるような、こうした樹形、花の付け方は、熱帯地方の樹木のひとつの典型であると聞いたことがある。確かに、ネムノキ亜科は熱帯に多く、世界に66属約3000種があり【樹に咲く花】、ネムノキ属では熱帯から温帯に約150種ある【朝日百科植物の世界】とされる。
 大きな傘状の樹冠をつくることでおなじみの「この木なんの木」(モンキーポッドアメリカネムノキ)も、同じネムノキ科(マメ科)ネムノキ属の樹木である。

 こうした形態、花色で、誰を誘引して花粉を運んでもらおうとしているのであろうか。  
   
        ネムノキのボンボン2個 
黒い台紙に花を載せると、きれいな花火のように見える。
   開花途中のネムノキの花 
 しわしわ状態の雄しべと雌しべが、間もなくしゃんと伸びるのは驚きである。
 葉は夕方に閉じるが、花は夕方から開いて、翌日にしぼむ。
     ネムノキの頂生花
 多数の花の中心で、ひとつだけ雄しべを放射状に出しているのが頂生花である。
   雄しべがしおれた状体
 図鑑では雌しべは雄しべより長いとしていたが、見た範囲ではこの逆であった。雄しべがよれよれになっても雌しべはまだしゃんとしていた。
    ネムノキの頂生花
 頭状の花序から頂生花と普通の花をひとつ残して他をはぎ取ったものである。それぞれの花の基部にへばり付いるのがで、筒状で先が裂けているのが花弁である。基部が太い方が頂生花で、蜜を持つのはこれだけとされる。蜜の有無にかかわらずそれぞれのは花はほどほどに結実する。
   ネムノキの頂生花の蜜  
 頂生花の基部を半割にしたもので、蜜がしっとりたまっているのを確認できる。甘い味を確認した。花筒ははぎ取ってあり、写真の筒状のものは基部で合着した雄しべである。中心にあるのは雌しべである。こんな深いところにある蜜を頂戴できるのは誰であろうか。
   ネムノキの雄しべの束
 雄しべを束ねると、しなやかで、化粧用の刷毛ができそうな印象がある。
 雄しべの花糸は下部が白色で上部がピンク色である。このピンク色の雄しべが花弁に代わって花粉運搬者送粉者ポリネーター)の目印になるとされる。
     ネムノキの雄しべ
 雄しべの先端部である。皿状で面白い形をしている。粒状の突起が花糸を含めて全体に付いている。
 写真ではわからないが、ネムノキの花粉は多集粒で、16粒が集まった16集粒型とされる。
     ネムノキの雌しべ
 雌しべの先端は素っ気な形状で、頂端部がやや凹んでいる。肉眼では花柱は白く見えるが、拡大してみるとややピンクがかっていることがわかる。
    雌しべの子房部分
 雌しべの基部ではわずかに膨らんだ子房を確認できる。
   
   【追記】 ネムノキの花粉粒のつぶつぶ感
 
         ネムノキの多集粒の花粉 1
 16集粒で構成されているという花粉のつぶつぶ感だけは辛うじて確認できる。走査電顕でなければクッキリとは見られない。
        ネムノキの多集粒の花粉 2
 矢印のものは花粉粒が規則正しく集合して、手榴弾のような形態を形成していることがわかる。 
   
 送粉者の正体を調べてみると、美しいネムノキにはふさわしくないイメージの、スズメガであった。具体的には次のように説明されている。
   
 夜咲く花は香りが高く、花色は白色や黄色で、蜜は長管状部の中に分泌されている。これは(長い口吻を持つ)スズメガを利用する花の共通の特徴である。
 ネムノキでは、淡紅色で細い毛状の雄しべと雌しべを長くつき出し、スズメガを視覚的に誘導する。蜜を吸うスズメガは、柔らかなブラシのような雄しべや雌しべになでられ、花粉を運ぶことになる。
【花と昆虫がつくる自然:田中 肇】
 枝先にふわっとブラシのように咲く花の集団には足場がない。足場を必要とせず、飛びながら蜜を吸うスズメガの仲間を誘うからだ。【昆虫の集まる花ハンドブック:田中 肇】 
 ネムノキは夜間のスズメガの働きを期待するとは、生存のための戦略として興味深いが、花は昼間でもしっかり咲いていて、蝶が活躍することはないのであろうか。これについては特段の講釈は目にしない。
実はこうした花で、とまる足場がないのは、足場を必要とせず、飛びながら蜜を吸うスズメがの仲間を誘う仕組みなのだという。
   
  【追記 2018.6】 スズメはネムノキのつぼみを食べるのか?
    ネムノキの花にアオスジアゲハなどのチョウが群れている風景はふつうに見られるところであるが、身近なネムノキの開花時期に豊かな花を付けた樹冠を見上げたところ、多数のスズメが花を突いているのに気がついた。

 至近距離で子細に観察はできなかったが、どうも蕾を食べているように見えた。似た行動として、スズメはサクラの蜜を盗むために花の基部をかみつぶして花を落とすことは広く知られているが、ネムノキの花序では蜜をもつのは頂生花だけとされる。ということは、頂生花の蕾だけを選んで食べている可能性もあるが、残念ながら詳細は確認できない。それにしても、スズメガは花粉媒介するのに、スズメは受粉を邪魔しているというのは面白い話である。
   
 
      ネムノキのつぼみ
 頂部の基部が大きい花が蜜をもつ頂生花である。
ネムノキの蕾をついばむスズメ 1
スズメは次々と色々なノウハウを身に付けているのであろう。
ネムノキの蕾をついばむスズメ 2 
   
<参考1:ネムノキの器>

 事情があって伐採されてしまったネムノキがあって、もったいないので、久しぶりにニマ(別項参照)で器を作ってみた。質感優先で、オイル仕上げとした。これで、供養にもなる。
   
<参考2:マメ科の美しい花ボンボンたち>

 マメ科には、ボンボンのようなふさふさとしたきれいな花をつける仲間がいて、華やかさで楽しませてくれる。
       フサアカシア
      Acacia dealbata
      ギンヨウアカシア
      Acacia baileyana
       アカシア類
    ブリスベーン・アカシア
    Acacia fimbriata
       コウライネム
    
     オオベニゴウカン
 (カリアンドラ・ハエマトケファラ)
    Calliandra haematocephala 
     
 カリアンドラ・エマルギナタ
Calliandra emarginata
 カリアンドラ・エリオフィ
(ベニゴウカン、ヒネム)
Calliandra eriophylla
 ギンゴウカン(ギンネム)
Leucaena leucocephala
     
アカサヤネムノキ(エバーフレッシュ)
Pithecellobium confertum
 オジギソウ
Mimosa pudica
<飛び入り参考>
 モミジバスズカケノキの雌花序