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続・樹の散歩道
 ナノハナ、アブラナ、ハナナ、ナバナ、バナナ・・・???
 アブラナ科の黄色い花を目の前にして
 多くの人が名前を口にしにくい理由


 近年、公園や庭園等で、菜の花のまぶしい黄色のじゅうたんを見せる演出がしばしば見られるところである。かなり早い時期に花を付ける菜の花は、チリメンハクサイ(縮緬白菜)の品種であるとの講釈を聞いたことがある。一方、「菜の花や月は東に日は西に」の菜の花は、かつての栽培作物であった和種の油菜(アブラナ)を指し、「菜の花畑に・・・」の歌の菜の花は、時代が下って栽培の主流となった外来の西洋油菜(セイヨウアブラナ)を指すとの説明を目にするところであるが、事態をやや複雑にしているのは、多数の栽培品種が存在して、例えば切り花用の花菜(ハナナ)食用の菜花(ナバナ)が栽培・販売されているほか、野生化した外来種も存在することである。
 こうした現状にあって、少しばかり勉強しても、これらを見てそのおおよその種類を言い当てるこなど極めて困難と思われる。【2016.6】 

注: 「和種のアブラナ、在来のアブラナ」の呼称は、後に導入されたセイヨウアブラナに対するものもので、本来の「在来種」の意味ではなく、セイヨウアブラナよりはるか以前に導入されたものの意である。なお、表題中の「バナナ」は混ぜ込んでもちっとも違和感がないため面白半分に並べたもので、もちろん関係ない。 

 
            岡山県奈義町の菜の花 2011年4月撮影
 当時はセイヨウアブラナと聞いていた。奈義町では毎年菜の花祭りが実施されている。当初は3.5ヘクタールほどの町有の丘陵地を利用していたが、メガソーラー用地に充てることとなり、現在は場所を15へクタールほどの水田(裏作)に移し、景観用の花菜(ハナナ)を播種し、花後は緑肥として鋤込んで化学肥料の使用量低減につなげているという。
 
     
 
   都内 浜離宮恩賜庭園の菜の花(花菜)(種類は後述) 2016年3月撮影
 写真を見ているだけでも甘い香りが漂って来そうである。「菜の花30万本」のキャッチフレーズによる都心での演出は喜ばれている。(2016年10月26日播種) 
 
     
 
       都内小平市内の畑の菜の花(栽培ナバナ)  2016年3月撮影
 栽培されているナバナの畑にはもちろん畝があるのはもちろんであるが、花の印象が少々異なっている。(種類は後述) 
 
     
     
 身近で見られるものについては、大体のことについては理解したい気持ちはあるが、実はこの件については最初からあきらめ気味である。ちゃんととした識別能力を身につけるためには、畑の薹(とう)が立って黄色い花をつけた主要作物についても理解していなければだめである。こうしたものも、しばしば畑から逸出して道端でも見られるとされるからである。でないと農家のおじいちゃんやおばあちゃんに馬鹿にされてしまう。道端のほか、河原や堤防にもアブラナ科の作物が紛れ込んでいる可能性があり、これらについても一目でわからなければ風流人にはなれない。散歩がてらに、フムフム、これはどこにでもはびこっているセイヨウカラシナであるな。おや、こちらは珍しい古来のアブラナではないか・・・はて、何でこんなところに野沢菜が・・・とつぶやくことができれば結構なことで、可能であれば次代を担う子供たちにも講釈できることが望ましい。しかし、風流人への道は険しく、多くの人はこうした黄色い花を目の前にしても声を発することができないのが普通である。  
 
 呼称の周辺  
 
(1)  菜の花とは  
 
 菜の花の語は現在ではアブラナ科アブラナ属植物一般の春に見られる黄色い花を指すところとなっているが、次の説明はこの語の理解のためには有用である。  
     
・    「菜の花や月は東に日は西に」と詠まれたのはアブラナ Brassica campestris の開花風景で、採油用として中国から伝来して、日本で昔から栽培されたものであるが、現在は栽培はセイヨウアブラナにとって代わられて、ほとんど栽培されていない。【世界大百科事典】
・    小学唱歌に「菜の花畑に入り陽薄れ」と歌われるのはセイヨウアブラナ Brassica napus で、明治以後に欧米から導入された。【世界大百科事典】
 
 
(2)  菜種(ナタネ)  
 
 この語はまだわかり易い。前項と内容が少々重複するが、以下は参考資料である。  
 
・   菜種(ナタネ)の語は種子を油脂原料として利用するアブラナ科アブラナ属(Brassica)植物の総称で、一般的には「アブラナ」「在来ナタネ」と呼ばれる Brassica rapa (n=10、AA)と「西洋アブラナ」「西洋ナタネ」と呼ばれる Brassica napus (n=19、AACC)を指す。
 Brassica rapa の日本への伝播は不明であるが、奈良時代以前から野菜用として栽培利用され、江戸時代以降に油糧作物の「在来ナタネ」として定着した。「西洋ナタネ」は明治時代初期に欧米から導入され、収量性や耐病性に優れることから、在来ナタネと置き換わった。【農業技術事典】 
 在来ナタネは西洋ナタネより寒さに強いので、海外では現在も広く栽培されている。(農研機構)
 
 
(3)  花菜(ハナナ)と菜花(ナバナ)  
 
 これらの呼称は少々ややこしいので、念のために調べてみると、おおよそ以下の実態が見られることを確認できた。  
     
 切り花用とする場合に花菜(ハナナ)食用とする場合に菜花(ナバナ)として呼び分けている場合と、特に区別なく使われている場合が見られる。 
 「切り花用花菜」の語は一般的であるが、「切り花用菜花」の語はほとんど見ない。一方で、「食用菜花」、「食用花菜」の呼称は、いずれも普通に見られる。 
B  多数の切り花用及び食用の品種の種子が販売されていて、日本アブラナ系と西洋アブラナ系が存在する。しかし、系統の区分は必ずしも明示されていないため、この点は少々もどかしい。 
 
 
<参考:ハナナ、ナバナの呼称に関するメモ>  
 
・   産地では「花菜」は花用、「菜花」は野菜用の呼び名で区別してきたが、今では全国的に「ナバナ」で通用するようになっている。【地方野菜大全】 
・   種苗会社のタキイやサカタの販売品種名を見ても、花菜と菜花・ナバナの語は観賞用と食用とで必ずしも厳密に使い分けていない。 
・    菜花・ナバナBrassica napus , Brassica rapa)は抽だい(注:抽薹。トウが立つこと。)前後の若葉や花茎、蕾を野菜として利用するアブラナ科菜類の俗称であり、市場流通上でナバナと称される。トウナ(唐菜)とも呼ばれ、地方によっては、「花菜」や「折り菜」、「茎立ち菜」、「摘み葉」、「油菜」などと呼称される。

 ハナナ(花菜)の語は観賞用の切り花として利用する際の呼び名として用いられるが、開花前後の花蕾を野菜として利用する際にも使われている。

 園芸学上ではツケナ類に分類され、在来ナタネに由来する和種ナバナBrassica rapa )と、西洋ナタネ由来の洋種ナバナBrassica napus)に大別される。

 ナタネ類は、ツケナ類との自然交雑により雑種が生じやすく、この中から食味や栽培特性の優れる個体が選抜淘汰され、ナバナ専用品種が成立したと考えられる。【農業技術事典】
 
 
 ハナナ(花菜)、ナバナ(菜花)の用途別系統・品種の実態  
 
 これについて既存の資料に目を通して気づいた点を列挙すると、おおよそ以下のとおりである。  
     
 
@  販売品種としては、観賞用、切り花用、食用、切り花・食用兼用としているものが見られる。個々に必ずしも明記されていないが、一代交配種と固定種の両方が存在する模様である。 
 個々の販売種子の生産国は必ずしも明記されていないが、アメリカ、イタリアの名も目にする。各種野菜のタネの生産国が国際化しているのと同様であるが、国産シェアは確認できない。 
B  鑑賞用、切花用としては日本アブラナ系、白菜系が主体となっている印象がある。
C  食用としては日本アブラナ系と西洋アブラナ系の両方が見られるが、それぞれのシェアは確認できない。 
D  白菜系は一般にちりめん葉と思われるが、日本アブラナ系、西洋アブラナ系でもちりめん葉のものが存在する。(ということで、一般人が識別するのは難しい。 
E  なお、聞くところによると、切り花として目にするものはちりめん葉のものが普通であるらしい。 
 
     
  <参考:品種等総論>   
     
 
 ・  野菜用のナバナとして洋種ナタネも多く利用され、アブラナ由来のほうを和種ナバナ洋種ナタネ由来のほうを洋種ナバナともいう。同じナバナであるが植物分類上の「種」が異なっている。地域での呼称はそれぞれで、例えば寒咲菜花(京都、千葉)はアブラナ由来であり、伊勢菜花(三重なばな)は洋種ナタネに由来する。【食品図鑑】 
 ・  (房総地方の)食用ナバナは、在来なたね群に属する寒咲花菜で、房州地方では古くから切花や養蜂越冬用として水田や空閑地にまかれていた。JA安房のナバナ生産は、全国の約50%を占めている。【JA安房】 
 ・  ナバナの出荷形態には、主に花茎と蕾を利用する「花蕾型」葉及び花茎を利用する「葉茎型」があり、一般的には前者は和種ナバナ、後者は洋種ナバナが利用されている。【農業技術事典】 
 ・  食用ナバナとして、紙で束のように巻いてあるものを「花蕾タイプのナバナ」といい、フィルムに入っているものを「茎葉タイプのナバナ」といっている。(農研機構) 
 ・  房総半島などで切り花用に栽培されている菜の花はハクサイの仲間。【野に咲く花】 
 ・  花屋に出回るナノハナは、在来のナタネでもセイヨウアブラナでもない。染色体数は2n =20 でAAゲノムだが、ハクサイ群に所属し、葉は黄緑がかり、縮れる。ハクサイのように結球しないが、葉の縮れが目立つので、チリメンハクサイ系とされる。【植物ごよみ】
注:切り花用のすべてがチリメンハクサイ系とは言い切れないと思われる。 
 
     
  <参考:ハナナ、ナバナの品種の例>   
     
   以下の整理表は目にした商品情報及び書籍情報の範囲で事例を適宜抽出したものであることから、横並びで同質の情報が整理されているものではない。また系統区分についてはこれとは異なる見解があるかも知れない。   
     
 
名称 区分 特性等(種苗会社等の主張など)
タキイ 花菜
「京都伏見寒咲花菜」
和種
(京野菜)
景観用花菜。花がよくまとまり、太茎で黄葉の優良種。早くから花が咲き、切り花にも向く。葉はちりめん葉で、つまみ菜や菜の花漬でも楽しめる。(採種国:アメリカ)
サカタ 花菜
「春陽」
和種
登録品種
草丈30cmで地際から分枝し、花つきがよく草勢がよい。鉢・花壇用に最適。大面積の花壇へのばらまき利用に好適。晩生種。
サカタ 花菜
「黒川ちりめん花菜」
(?) 切花専用花菜(固定種)。品質のそろいが非常によく、集中生産に適し、生育早く性質強い。
サカタ 花菜
「黒川ちりめん花菜 サカタ育成2号」
(?) 切花専用花菜(一代交配種)。品質のそろいが非常によく、集中生産に適し、生育早く性質強い。
タキイ 花菜
「黒川寒咲」
(?) 切り花用品種。特に早くから咲き、切花に向くように改良された品種。緑色のちりめん葉で分岐が少なく、茎が太くてよく伸び、冬〜早春の切花に利用する。
*伏見寒咲花菜に比べて葉色が濃い。寒咲花菜からの選抜育成系。
 黒川系寒咲き花菜は、もともと切花用であった。葉は濃緑の主茎タイプで側枝の発達は遅い。姿・形は「縮緬ハクサイ 」に似る。館山市洲宮(すのみや)地区の花栽培地帯で野菜として栽培される。【地域食材大百科】
サカタ 和種ナタネ 「あぶらな」 和種 寒さにきわめて強く生育旺盛でつくりやすい「ナバナ」の仲間。昔はナタネ油をとったり、野菜としてつくられていたが、今は野菜観賞用に利用されている。煮物、漬物に使用している。(生産地:イタリア)
サカタ 花菜
「早陽1号」
洋種/和種
生産者向け
つまな・切花兼用花菜(洋種系一代交配種
*農業技術事典、農研機構では和種としている。
サカタ 花菜
「伏見ちりめん花菜 花金花菜」
和種
(京野菜)
つまな・切花兼用花菜(固定種)。暖地の栽培で3月に開花する晩生種。
サカタ 花菜
「春蕾」
- つまな・切花兼用花菜(一代交配種)。早生種で根こぶ抵抗性21号より収穫が早い。緑が濃く、苦味少なく、若者にも受ける味。
タキイ 菜花
「食用菜の花」
- 耐寒性が強く、早生で寒咲き性の菜の花。苦みの少ない黄葉系で、菜の花漬として利用される。また、観賞用としても利用できる。
タキイ 交配ナバナ 秋華(しゅうか) - 摘み菜用に育成した早生種、トウ立ちが早く年内どりが主力。密植栽培により、切り花用としても使用できる。(生産地:アメリカ)
タキイ 交配ナバナ 冬華(とうか) - 収穫期間の長い冬どり中生種。(生産地:アメリカ)
サカタ 花菜
「花娘」
和種
生産者向け
ネコブ病に強い中晩生種の食用ナバナ品種
サカタ 花菜
極早生花菜 「早陽1号」
一般向け 茎が伸びて蕾が膨らんだ開花前が収穫適期。今注目の抗酸化食品として優秀な緑黄色野菜。家庭菜園でもつくりやすい品種。
サカタ 花菜
「早春なばな」
一般向け 暮れから春先まで蕾や花、若い葉を利用する緑黄色野菜。今注目の抗酸化食品として優秀な緑黄色野菜。
サカタ 花菜
「花飾り」
和種
生産者向け
耐寒性が強く、中生種。花蕾は濃く小粒で、花咲きは遅く黄化しにくい。
CR 京の春はなな 和種 早生の根こぶ病抵抗性品種。播種後60日で収穫始めとなる品種で、おもに11月〜12月の年内どりに適している。
日東農産 花菜 CR 春華 和種 根こぶ病抵抗性品種(一代交配種)。ちりめん葉のナバナ。 
トーホク な花(寒咲き花菜) 和種 食用の伏見系の品種。トウ立ちが早くてわき芽からの枝分かれが多く、何回でも収穫出来る。
赤穂菜(山口) 和種 -
津真菜(三重) 和種 -
四月菜(福井) 和種 -
早生菜(山形) 和種 -
心摘菜(しんつみな)(北関東) 洋種 -
宮内菜(北関東) 洋種 心摘菜の交雑種からの選抜品種
かぶれ菜(福島、新潟) 洋種 ちりめん葉のナバナ
かき菜(栃木) 洋種 佐野市を始めとする両毛地域で栽培されている。洋種菜種の在来種を選抜したものと考えられている。
三重長島在来(三重)
伊勢菜花
洋種 「三重なばな」として三重県内で栽培されている洋種ナタネ系
みえ緑水2号(三重) 洋種
登録品種
「三重なばな」として三重県内で栽培されている洋種ナタネ系
京築在来(福岡) 洋種 カルシウム含量が高い。
のらぼう菜(東京都あきる野市) 洋種 脇芽の花茎を摘んで収穫する。東京都西部から埼玉県飯能市周辺で古くから栽培されてきたとされる洋種系ナバナ。
はるの輝 洋種
登録品種
耐寒雪性ナバナ新品種で、草体がワックスレスであることから鮮緑色で外観がよく、 甘味があって食味が良好。「トワダナタネ」の草体を被うロウ質を欠いた突然変異株に由来する。1994年品種登録。(東北農業試験場)
瀬戸の春 洋種
登録品種
味がよいと評判の「春一番」に「伏見寒咲系花菜」を掛け合わせてできた香川県オリジナル品種のナバナ。早生品種。平成13年品種登録。(香川県農業試験場)
菜々みどり 洋種
登録品種
成熟期が「キザキノナタネ」と同じ中の晩で、耐寒雪性が強く、子実中にエルシン酸を含まない。野菜用なばなとして多収で、一本重が重い。収穫期間は「かぶれ菜」に比べて一週間程度早い。(東北農研)
三陸つぼみ菜 洋種 旧名は「博多つぼみ菜」。苦みがなく、葉にチジミや毛がなく、非常にしなやかな食感が特長。
はなっこりー 洋種
登録品種
中国野菜のサイシンとブロッコリーとの交配による品種で、植物学的には西洋アブラナの一種。
 
     
   個々の系統の素性ははっきりわからないものもあるが、鑑賞・切り花用から食用まで多くの品種が見られる。それぞれの目的に適合した特性を有するものが選抜・育成されてきたようであるが、幅広に利用できるとしている品種も見られる。   
     
3   事例による学習   
     
   目にした「菜の花」を材料にした気軽なお勉強である。菜の花は眩しいほどの鮮やかな黄色の花を付けて目が喜ぶと同時に、甘い香りが漂ってうっとりする。   
     
(1)  日比谷公園の菜の花   
     
   公園の一角に毎年栽培している風景を見る。葉は浅いちりめん状となっている。種子はセイヨウアブラナを思わせる「黒種」であった。 事務所で聞くと、残念ながら自家採種で回転させているため、当初に導入した品種名は不明とのことであった。  
     
 
日比谷公園の ハナナ 日比谷公園のハナナ  日比谷公園のハナナ 
 
     
(2)  芝公園の菜の花   
     
   季節の写真撮影用のスポットとして小規模に栽培しているもので、看板があって「ナノハナ(菜の花) 学名:Brassica rapa L. var. nippo-oleiferaとあるから、何と純正の和種アブラナということになる。葉は浅いちりめん状となっている。標本となる栽培例をほとんど見ないため、実は図鑑を見ても納得できるまでの理解に到達できない。種子は和種アブラナを思わせる「赤種」であった。
 念のために事務所に問い合わせたところ、種子は購入していて、種苗メーカーでは「在来の固定品種」としているとのことであった。種子色からも、とりあえずは 和種アブラナと理解しておくことにする。
 
     
 
 
 芝公園のアブラナ 芝公園のアブラナ  芝公園のアブラナ 
 
     
(3)  浜離宮恩賜庭園の菜の花(冒頭写真あり)   
     
   「菜の花30万本」で知られるこの公園恒例のお花畑は、季節の演出として規模が大きいこともあって好評である。広大な菜の花畑を散歩すると、葉の様子が色々であることに気づく。しわのないもの、浅いしわのあるもの、暗色で非常に深いしわのあるものが見られた。
 興味を感じて事務所で聞くと、播種品種は「黒川ちりめん」(白菜系?)と「伏見寒咲き」(和種)の2種の花菜を基本として、予想外の気象の影響を考えて、さらに別の2品種ほどを混ぜて播種しているとのことであった。 
 
     
 
 
     浜離宮のハナナ
 
     浜離宮のハナナ A
 葉がやや暗色で皺が深く、こちらがK川ちりめんの可能性が高い。 
     浜離宮のハナナ B 
 
     
(4)  都内小平市の農地の菜の花(ナバナ) (冒頭写真あり)  
     
   これは明らかに食用のナバナで、ちょうど腋芽を手でポキポキと折って収穫している姿を見かけた。聞けば3番摘みとのことである。肝心な品種名であるが、「のらぼう菜」「菜の花」とのことであった。のらぼう菜は東京西部の地域野菜として知られる洋種系ナバナの一種である。「菜の花」はたぶん慣用的な呼称で、別のナバナ品種と思われるが、具体的な品種名はわからなかった。   
     
 
 
       ナバナの花        ナバナの葉 A        ナバナの葉 B 
 
     
4   アブラナ科の特にアブラナ属の例   
     
   この機会に、主としてアブラナ科アブラナ属の植物について、ストレスが貯まらない程度の簡単な情報を整理してみる。前段として、特に区分がわかりにくい野菜に関する(難しい)見解を引用する。   
     
   ダイコンを除くアブラナ科の主要野菜はすべてアブラナ属(Brassica)に属し、Aゲノム種(n=10, Brassica rapa , アブラナ類)、Bゲノム種(n=8, Brassica nigra , クロガラシ類)、Cゲノム種(n=9 , Brassica oleracea , キャベツ類)の基本3種と、それらの複二倍体である、ABゲノム種(n=18 , Brassica juncea , カラシナ類)、ACゲノム種(n=19 , Brasica napus , セイヨウアブラナ類 、BCゲノム種(n=17 , Brassica carinata , アビシニアカラシ類)の各種から成り立っている。【農業技術事典】
*これはアブラナ科植物のゲノム解析をした成果のいわゆる「禹の三角形」の説明である。 
 
     
    アブラナ科アブラナ属など   説明は主として世界大百科事典【百科】による。その他個別に付記。学名はいろいろ見られる。  
 
学名の例  種  説明例 
Brassica juncea カラシナ
(アブラナ類とカラシナ類の雑種)
・カラシナは栽培されるアブラナ科の越年草で、春先にとう立ちした茎葉を漬物にして食べ、また種子をからし油やマスタードの原料とする。種子は褐色から明褐色。日本では「本草和名」にすでに記載され、古くに導入されていることがわかる。【百科】
・種子は和からしの原料となり、オリエンタルマスタード、ジャパニーズマスタードとも。
カラシナ類は茎葉の基部が茎を抱かないのが特徴。【野に咲く花】
・根生葉はへら形、長い葉柄をもち、しばしば多少羽状に裂け、鋸歯縁をもつ.茎上葉互生した短い柄があり、長楕円形、茎の上部につくものほど小さくなる。ふちは多少切れ込みがあり、また鋸歯もある。ふつう葉面にはややしわがよってちぢみ、白色をおびる。多少ざらざらしてやや毛がある。【牧野新日本植物図鑑】 
Brassica juncea var. cernua セイヨウカラシナ
(アブラナ類とカラシナ類の雑種)
・ヨーロッパ原産。最近、関西地方の河川敷を中心に大繁殖をしている二年草で、栽培されるカラシナの基となった野生種。アブラナとクロガラシの雑種四倍体(複二倍体)で,種子は褐色。若葉や花序はカラシナ特有の辛みがあり、漬物にするとおいしい。【百科】
・セイヨウアブラナより花付きは少しまばら。途中の葉は楕円形、下の葉は大きく、左右から切れ込んだ羽根状。葉の基部はくさび形で、茎を抱くことはない。【野草の名前】
・在来のカラシナより全体にやせた感じ。花はやや小さい。【野に咲く花】
Brassica juncea var. integrifolia タカナ
(アブラナ類とカラシナ類の雑種)
・西アジア原産のカラシナから中国で育成された品種の一つ。日本へは奈良時代〜平安時代初期のころ中国から渡来したものらしい。おもに漬物にするが、油でいためてもよい。【百科】
・葉は特に粗剛で大形。根生葉は広楕円形、あるいは倒卵形、基部は狭くなり、短柄がある。ふちには不ぞろいな鋸歯があり、全長60〜80cmぐらいになる.羽状に裂けない。
茎上葉は長楕円形披針形で全縁、あるいははっきりしない鋸歯がある。ほとんど無柄であるが、基部が茎を抱くことはない。葉面にはしわがあり、しばしば暗紫色をおびるものがある。【牧野新日本植物図鑑】
チリメンナ(縮緬菜) タカナの栽培品種(大辞林)
Brassica juncea var. tumida ザーサイ 中国四川省を主産地とするカラシナの一種。また、これからつくる漬物をいう。栽培の歴史は新しく、記録にあらわれるのは清朝末期からである。【百科】
Brassica napus セイヨウアブラナ(西洋ナタネ、黒種)、ルタバガ、ナビコール rapeseed, canola, rutabaga (swede/Swedish turnip/swede turnip)
(アブラナ類とキャベツ類の雑種)
・食用油の原料として一般的。
・セイヨウアブラナは葉が厚く濃緑色で、白い蝋質をかぶる。花はアブラナよりやや淡い緑色を帯び、花期も半月ほど遅い。明治以後に欧米から導入された。【百科】
葉は厚くて黒っぽく茎や葉が粉白を帯びているのが特徴。葉の基部は茎を抱く。萼片は斜めに立つ。【野に咲く花】
*アブラナとは別種。「黒種」の名は、種子が濃黒褐色であることによる。
Brassica nigra クロガラシ(ブラックマスタードblack mustard) ・カラシナと同様にマスタードの原料となる。ヨーロッパ原産の植物で、種子は黒褐色で、褐色から明褐色のカラシナからは区別できる。【百科】
・かつては局所刺激薬(湿布薬)とされた。【都立薬用植物園】
Brassica oleracea  野生キャベツ 
Brassica oleracea var. capitata キャベツ カンラン(甘藍)、タマナとも。ヨーロッパ原産で、13世紀頃に軟結球型のものがヨーロッパに広がり、日本には観賞用のものが古くに導入され、野菜としてのキャベツが本格的に導入されたのは明治初期。品種は基本形として17の品種群に分けられる。【百科】
Brassica oleracea var. gemmifera メキャベツ コモチカンラン(子持甘藍)、ヒメカンラン、コモチハボタンとも。キャベツから分化したもので、ベルギーのブリュッセル地方で古くから栽培されていた。国内では暖地型の栽培として静岡県遠州地方の冬出しと、高冷地型の長野県茅野市付近の夏秋出し栽培があり主産地となっている。【百科】
Brassica oleracea var. acephala ケール ハゴロモカンラン(羽衣甘藍)、リョクヨウカンラン(緑葉甘藍)とも。キャベツとはちがい、結球せず、茎が立ち、上部に密生した葉を形成する。原産地はイタリアの海岸から山地にかけてで、ケルト人によりヨーロッパに広められた。日本へは古く伝わったとされ、明治初年に改めて導入されたが、野菜としての発達は遅れている。【百科】
Brassica oleracea var. acephala ハボタン(葉牡丹) 冬、花壇の唯一の材料として広くつくられているアブラナ科の草本(イラスト)。原種は江戸時代に日本に渡来し、オランダ菜と呼ばれていた不結球の緑葉のキャベツで、その後冬を迎えて着色するものに改良された。自家不稔のため種子を採るには2本以上植えることが必要。ハボタンはふつう一年草として取り扱われるが、結実させなければ多年草として育つ。【百科】
Brassica oleracea var. batrytis カリフラワー ハナヤサイ(花野菜)とも。花序とつぼみの集合体が肥大したものを食用とする野菜。東部地中海沿岸のシリア地方の野生カンラン B.cretica から栽培分化したものとされている。日本へは明治初年にアメリカから導入された。【百科】
Brassica oleracea var. batrytis ブロッコリー メハナヤサイ、ミドリハナヤサイとも。カリフラワーの原種と考えられている。日本には明治初年に導入され、昭和40年代から50年代になって本格的に普及するようになった。【百科】
Brassica rapa 野生アブラナ、ブラッシカ・ラパ( field mustard) アブラナ科アブラナ属の野草で、多様な栽培植物の原種と考えられている。特に命名されておらず、学名をそのまま読んで表記される。古代から西アジアから北ヨーロッパの大麦畑に生える雑草で、古代、農耕文化が伝播すると共に、作物の種子に紛れて移動したと考えられている。【ウィキペディア】
Brassica rapa var. nippo-oleifera
Brassica rapa var. nippoleifera
アブラナ(在来ナタネ、在来アブラナ、和種ナタネ、赤種) ・アブラナの名は種子から油を搾り、行灯や灯明の灯油として広く用いられたことから名付けられた。現在油を搾っているのは別種のセイヨウアブラナだが、「油菜」の名はそのまま使われている。【植物の世界】
葉は淡緑色で柔らかく、白い蝋質がなく、若い葉は食用になる。【百科】
全体が平滑で上部では分枝する。葉はかなり大きく、茎の基部の葉は有柄で先太り形で、少数の裂片を持った羽状に裂け、時には裂けないものもある.ふちには鈍状の歯牙がある。上面は鮮緑色、下面は白色をおび、葉柄はときにはわずかに紫色をおびることがある。上部の葉は基部は耳状になって茎を抱き、無柄、広披針形、先端は鋭形、羽裂することはない。【牧野新日本植物図鑑】
花序は開花時には散房花序であるが、後に総状花序となる。すなわち、初めのうちは水平に開花し、つぼみがきれいに行儀よく並んでいる。【植物観察事典】
・在来のナタネは島根県の菜種島などごく一部で残るに過ぎない。【植物ごよみ】
「赤種」の名は、種子の色が黄褐色で赤っぽいことに由来する。
*アブラナ(在来ナタネ)は弥生時代に中国経由で渡来したものとされる。
Brassica rapa var. nipposinica ミズナ(京菜 キョウナ、千筋菜 センスジナ、千本菜 センボンナ、糸菜 イトナ) 関西ではおもに煮食用にするが、関東では漬物用とする。【百科】
Brassica rapa var. lanciniifolia ミブナ(壬生菜) ミズナの一種で、葉に欠刻のないものを特にミブナという。京都の特産。【百科】
Brassica rapa var. rapa カブ(西欧系品種群) 東北地方を中心として東日本一帯に分布するカブは西欧系品種群に属する。【百科】
Brassica rapa var. glabra カブ(在来品種群、東洋系、アフガニスタン系) ・関西地方や全国的に分布しているカブは、在来種群に属する。在来種群と西欧系品種群の栽培地帯の境界(関東付近)では両者の中間的な形質をもった小カブや長カブがみられる。【百科】
・根生葉は大形で束生し、長さ40〜60cmぐらい。先太りのへら形で先端は鈍形、ふちは羽裂しないで不ぞろいの低い歯牙状の鋸歯がある。葉面にわずかに剛毛がある。茎上葉は倒披針形、茎の頂部の葉は披針形、時には白色をおび、基部では耳状になって茎を抱く。【牧野新日本植物図鑑】
Brassica rapa var. hakabura ノザワナ 長野県の特産野菜で、漬物として独特の風味が好まれる。草丈は1mくらいにもなり、直立性で葉柄が長く、葉形は長円形で葉のふちには刻みがある。地下部のカブのふくらみはあまり大きくならず、上部は紫紅色になるが、下部は白色である。【百科】
Brassica rapa var. perviridis コマツナ ・漬菜類の一種でカブと近縁であるが、カブのようには根部が肥大しない。フユナ(冬菜)、ウグイスナ、カサイナ(損西菜)などともよばれる。小松菜の名称は東京の小松川(現在の江戸川区)で発達した菜であることに由来する。在来カブのククタチからでてきたものと思われる。関西ではほとんど栽培されず、関東での栽培が多い。【百科】
・根生葉は長楕円形、長さ40〜60cm、葉柄は細長く、葉の表裏とも濃緑色。葉縁に細かい欠刻がある。【APG牧野】
Brassica rapa var. chinensis チンゲンサイ 中国野菜のパクチョイ(白菜)には白軸と青軸とがあり、青軸の方はチンゲンサイ(青梗菜)と呼ばれる。【百科】
Brassica rapa var. pekinensis ハクサイ ハクサイ類は結球型、半結球型、不結球型の3群に分けられる。これらのハクサイは、中国北部でカブと漬菜類との交雑後代から選択されて成立したことが明らかにされている。日本に適合したハクサイ品種の開発と採種技術が確立したのは明治末期である。栄養的にはほぼキャベツに匹敵する。【百科】
Brassica rapa var. glabra チリメンハクサイ 南支那より輸入された白菜の一品種。葉面の小網脈の間は上面に凸出して縮緬状の皺をなす。結球しない。【新牧野日本植物図鑑】???
Brassica rapa var. glabra チョクレイハクサイ 北中国の河北省保定付近に栽培の中心があった白菜の1品種で、現在では日本の重要な野菜の一つ。【牧野新日本植物図鑑】
Brassica napus
Brassica rapa )
食用菜花 若い葉・茎・蕾を食用とする。
Brassica rapa など 花菜 切り花、観賞用のほか、食用ともなる。
Brassica rupestris  ブラウンマスタード(brown mustard ) 
Sinapis alba
Brassica alba
シロカラシ(シロカラシ属) 地中海沿岸原産で、野菜、ハーブとされるほか、淡褐色の種子はマスタード(洋からし、イエローマスタード)の原料とされる。
 
     
   野菜は交配育種の歴史が途方もなく長いため種類、品種が複雑で、にわか勉強では全く理解不能である。
 そして、目を慣らさなければ菜の花の基本的な種類さえ識別は難しい!! 

 だからこそ、例えば植物園でアブラナ、セイヨウアブラナ、食用ナバナ品種、セイヨウカラシナなどのほか、馴染みの深いアブラナ科の基本的な野菜の花をズラリと並べて展示植栽したら、子供達に対して(もちろん大人達にとっても)非常に有用な教材となると思われるのであるが・・・
 
     
  <参考写真>  
 
 セイヨウアブラナ A
(都立薬用植物園)
セイヨウアブラナ A
(都立薬用植物園) 
たぶんセイヨウアブラナ B 
     
たぶんセイヨウアブラナ C セイヨウカラシナ A  セイヨウカラシナ B 
     
 
 クロガラシ
(都立薬用植物園)
クロガラシ
(都立薬用植物園) 
クロガラシ
(都立薬用植物園) 
 
     
 カブの花 カブ   カツオナ