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ナンキンハゼの樹上で鈴生り状態のスズメちゃん
1月中旬の風景であるが、スズメたちも食べ物が乏しくなってきたのか、ナンキンハゼの種子を包む白い仮種皮をガリガリとかじってそぎ落としながら食べているようである。
ナンキンハゼはもちろん中国原産で、日本への渡来はそれほど古くなくて江戸時代とされ、かつてはロウや油の採取を目的として暖地に植栽されたとされる。現在では目で確認できるとおり、公園樹や街路樹として普通に植栽されていて、紅葉が美しいことで知られている。 |
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1 |
ナンキンハゼの様子 |
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ナンキンハゼの赤い新葉
中国原産のトウダイグサ科シラキ属(ナンキンハゼ属)の落葉高木 Sapium sebiferum 中国名は烏桕 |
多数の花序をつけた様子
花は単性で雌雄同株。総状花序の全部が雄花の場合と、基部に雌花がついている場合がある。 |
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雌花の様子
小さな花序の例で、雌花には花柱が3個見られ、受粉期にあるが、雄花はまだ花粉を出していない。子房は3室。 |
雄花の様子
雄花には雄しべが2個、まれに3個ある。 |
膨らみ始めた子房の様子
大きな花序の例で、雄花が花粉を出しているが、雌花は既に花が終わり子房が膨らみ始めている。 |
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ナンキンハゼの若い果実
果実は同科のシラキやアブラギリの果実の形態と似ている。 |
紅葉時期の美しい風景
紅葉と白い種子の対照が鮮やかで、この時期の風景が最も美しい。 |
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果皮が裂開して種子を出した状態
果皮が裂開して、白い仮種皮に覆われた3個の種子が姿を見せる。種子同士が接する面は120度をなして3稜を形成している。 |
種子の果実中軸への着生形態
種子は果実の中軸にしっかり付着していて、簡単には落ちない。一部の傷は鳥の仕業であろう。 |
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仮種皮を剥がした種子の様子
白い仮種皮を剥がすと茶褐色の丸い種子が姿を見せる。種子は有毒とされるが、中の胚乳成分を指しているものと思われる。 |
ナンキンハゼの果皮の裂開の経過
左:果皮の先端部が3裂しているが、種子から離れていない。
中:3裂した果皮の基部に割れが生じて脱落する。
右:基部からの割れがさらに深く進み、確実に脱落する。 |
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割った種子に火をつけると、仮種皮のロウと胚乳の油が気持ちがいいほどよく燃える。例えば油糧種子でもある落花生では燃えるときに黒いススを出すが、こちらはススを出さず、ほのかないい香りがする。
なお、ナンキンハゼの種子を燃やす場合は、丸のままの種子に着火すると爆ぜることがあるので注意が必要である。 |
ナンキンハゼの種子の断面
種皮は硬くて厚い。中には油に富んだ胚乳がみられる。 |
ナンキンハゼ種子の燃焼試験
仮種皮のロウと種子の胚乳はよく燃える。 |
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種子をおおう脂肪層や種子を絞って得られる油脂を、ろうそく、セッケン、灯用、塗料、薬用などに用い、絞りかすは窒素に富むので肥料とする。 根皮や茎皮は中医方で烏臼(うきゅう)と称し、利尿、解毒薬とする(世界有用植物事典)という。
注:いろいろな分野の用語としての油脂、脂肪、脂質、ロウなどの語を正しく理解するのは難儀である。 |
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種皮を剥がしたナンキンハゼの種子
胚乳は中ほどが少しくびれたやや扁平の俵型である。 |
ナンキンハゼの種子の胚
胚乳を割ると比較的大きな胚が姿を現す。 |
取り出したナンキンハゼの胚
2枚の子葉が確認できる。 |
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ナンキンハゼの樹上で見られた鳥たち |
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改めて白い種子をつけたナンキンハゼの樹を何回か観察したところ、訪れて種子をつついていた鳥はキジバト(別名ヤマバト)、ムクドリ、スズメ、ヒヨドリの4種で、このうちキジバトが圧倒的に優勢で、豊かに種子をつけた樹上ではキジバトがしばしば独占状態でのさばっていた。調べてみると、このほかにシジュウカラ、ハシブトガラス、ハシボソガラス、ツグミ、カワラヒワ、イカルなども種子を食べに来るとのことである。
キジバトとムクドリがナンキンハゼの種子をくわえた写真は撮れたが、確実にゴックン飲み込んだことを確信できる証拠は押さえていない。またヒヨドリが地面に落ちた種子をついばんだ瞬間は目視できた。これらの鳥種は基本的には種子を丸飲みしているものと理解してよいと思われる。
一方、スズメもナンキンハゼの種子をツンツンとついばんでいるが、口の大きさに対して種子が大きいから丸飲みは困難と思われる。採取した種子を見ると、白い仮種皮の表面に不規則な傷が付いていることがよくあり、これはたぶんスズメが仮種皮の白いロウ物質をくちばしでわずかながらもそぎ落として食べた痕跡と思われる。 |
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ナンキンハゼの種子を食べるキジバト
キジバトは一般に種子まで砕いて消化してしまうといわれる。となると、種子散布には貢献していないことになる。 |
ナンキンハゼの種子を食べるムクドリ
ムクドリの飛来頻度はそれど高くはなかった。 |
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ナンキンハゼの種子をかじるスズメちゃん
仮種皮をかじるだけなら、ただのつまみ食いであり、スズメも種子散布には貢献していないことになる。 |
ナンキンハゼの種子をついばんだヒヨドリ
このヒヨドリは、地上に落ちた種子を食べていた。ヒヨドリは滅多に姿を見なかった。 |
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左の写真のすべてがスズメの仕業とは断定できないが、仮種皮が不規則にそぎ落とされている。
仮種皮のロウは比較的硬いが、爪でガリガリやれば剥がれる程度の硬さで、刃物を使えば滑らかな表面を伴ってそぎ落とすことができる。
一般的に小形の鳥は仮種皮をそぎ落として食べるだけで、より大形のカラス、ヒヨドリ、ムクドリは丸飲みで、キジバトは種子を砕いて胚乳までも消化してしまうという。 |
鳥に仮種皮をそぎ落とされた種子の例 |
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3 |
野鳥にとっての木の実について |
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野鳥の食生活や生理的な特性等について、そのおおよそを知るためのいい参考書に出会えていないため、未だにその概要を知ることができないが、経験則を踏まえるとおおよそ次のような感じなのではないかと想像している。さらに個人的にわからないままとなっている点も合わせて整理してみる。 |
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野鳥たちは当然ながら美味しい木の実から食べる。不人気の果実は遅くまで残るが、いよいよ食べ物が減少すると、贅沢を言っていられないため、その時点であるものを仕方なく食べているようにみえる。 |
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野鳥たちに味覚があるのかはしばしば話題になるが、カキやかんきつ類について、しっかり熟して甘くなった頃(糖分が充分に高まった頃)に、あたかも人が採る直前を狙っているかのように突いて食べ始めるのはよく見る風景で、間違いなくしっかりした味覚を持っていることがわかる。 |
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そこで、野鳥たちが丸飲みするサイズの果実が課題となる。
果実が少なくなった時季にたぶんまずいのであろうと思われる樹種の残った果実を嫌々食べるという風景は、どのように理解すればよいのであろうか。例えば、果肉が栄養満点で美味しいに違いないタブノキの果実(ミニアボカドとも言われる。)とクロガネモチやナナカマドのような明らかにまずいであろう果実(人が食べても本当にまずい。)について、野鳥たちはどのように(どうやって)評価・差別化しているのであろうか。そもそも丸飲みではわかるはずがないと思うしかない。ひょっとすると“のど越し”が違うのではという雑談で出た話があるが、もちろん冗談である。また、ナンキンハゼのように表面がロウ質(硬い脂肪質)の種子では、想像するに全く無味ではないかと思われ、これを食すこと自体がかなり大雑把な行動であるようにも思えるが、ひょっとして脂肪分を感知できるのかも知れない。これらの点は謎である。 |
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次に植物の側をみてみると、種子を何の工夫もせずにだらしなく単に下に落とすもの、風で散布されたり自ら弾けて散布されるもの、動物に付着して散布されるもの以外は、ふつうは昆虫、鳥、動物に餌になるものを与えて散布されることを期待していることは広く知られている。こうしたなかで、鳥散布の場合は赤い果皮や仮種皮で目を引いたり、果実や種子と他の部位と合わせて二色効果で目立つ演出をしていることが多いが、中には丸飲みを見込んでずる賢くも餌になる部分を全く欠いているもの(たぶんゴンズイやトキリマメ)もあるようである。どんな誘引戦略を採用しようとも、鳥散布を期待する果実・種子は、種子本体は消化に耐える素材でガードしていることは間違いない。ただし、例えばヤマガラが大好きなエゴノキの種子では、しっかり胚乳を食べられていているのは実に不本意であると思われる(注:ヤマガラの貯食行動を計算済みか?)など、鳥と植物のせめぎ合いには色々あるようである。 |
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ナンキンハゼの仮種皮は本当に野鳥たちのよい餌になっているのか |
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これを厳密に見極めるためには、ナンキンハゼの種子を食した野鳥たちのウンチをチェックしなければならない。ウンチの中で白い仮種皮がきれいに消失して黒い種子が残っていれば、仮種皮が野鳥たちの栄養となっていること、野鳥たちはナンキンハゼの白いロウ質の仮種皮をしっかり消化できるという証拠となる。しかし、これはハードルが高い。
糞の確認はできていないが、嗜好性の一端を確認したく、スズメを対象とした試験をしてみた。
具体的にはナンキンハゼの白い仮種皮を削り落としたもの(粉状になったものは除外)とコメ粒を混ぜて公園のベンチの周りをうろつくスズメたちに与えてみたのである。日本のスズメは伝統的にコメが大好きであるが、ナンキンハゼの白い仮種皮を積極的に食べる姿は残念ながら確認できなかった。こうした形態が自然界では存在しないことが影響したことも考えられるが、スズメは初めて見る菓子類でも何でもホイホイ口にするにもかかわらず、不思議なことであるが仮種皮の削片には魅力を感じなかったようである。
野鳥たちによるナンキンハゼ種子の食餌の証拠をより強化したかったが簡単ではない。しかし、白い種子をつけたナンキンハゼの樹に野鳥たちが群れて、種子をついばんでいるのは事実であるから、彼等がナンキンハゼの種子を食べているのは確かであろう。また、論理的には、種子が丸飲みされる場合、仮種皮が鳥たちに消化されなければ、ナンキンハゼが種子を樹上に付けたままにして、鳥に食べてもらうのを待ち構えるというナンキンハゼが獲得した種子散布の戦略が破綻していることになるから、やはり仮種皮は確実に消化されているのであろう。
そこで、余談である。
ふつう感覚では、生物は油脂(油、脂肪)は消化できてもロウ(ワックス)は消化できないであろうとの直感がある。つまり、油や脂肪分はデブの元であるが、さすがにロウは食してもそのままウンチに混ざって出てきそうな印象がある。
このことに関連して、具体的な食品の例に即しながら、有機物質たる油脂、ロウに関して、生物による摂取、消化の実態の正しい知識を得たいと思っても、どうもはっきりしない。そもそも、生活感覚でのロウと油脂の科学的、食品上の認識がほとんどないのが致命的である。
例えばハゼノキの果実の中果皮には粒状のロウが含まれていて、和ろうそくの原料となるが、これは鳥が散布するから、たぶんこのロウ分(脂肪質?)も鳥が消化してくれていると思われる。しかし、人が仮に和ろうそくをかじって果たして消化できるのかとなると疑問がある。
話は飛んでしまうが、ロウと言えば蜜蝋についても人が食べたときに消化できるのか否かについて、「巣蜜」が食用として販売されていたり、フランスの洋菓子「カヌレ」を焼くときに蜜蝋が型の剥離剤に使用されるということなどを捉えて、蜜蝋は消化できるのではないかと想像する向きもあるが、正しい知識が普及していない印象がある。個人的には蜜蝋を消化する自信など全くない。
これらを正確に理解するには、有機化学、食品化学、生理学、(鳥の)食物代謝などがしっかりわかっていないと全く困難なようであり、自習は困難であり、是非とも一般向けの噛み砕いた情報が欲しいところである。
さらに、鳥種の消化能力の特性に関する情報も目にすることができないことから、消化できる種子と消化できない種子の違いなどもできれば知りたいところである。例えばヤドリギの種子は種皮を欠いているといわれながら、鳥のおなかで消化されることもなく素通りしてしまうらしい点も不思議である。 |
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<参考メモ> |
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「鳥によるナンキンハゼの種子散布:福居信幸・上田恵介」( Jpn.J.Ornithol.Vol.47 No.3 )にナンキンハゼの種子の成分分析の結果が掲載されていて、仮種皮では脂質(Lipid) が71.4%、胚乳では脂質(Lipid) が63.4%、蛋白質が23.7% としている。
注:本文では白い仮種皮を果肉と誤認しているため、修正した。 |
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<備忘録> |
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烏桕(ナンキンハゼ)の木材は白色で硬く、紋理は細緻で用途は広い。葉は黒色の染料となり、衣服を染める。根皮は毒蛇の咬み傷を治す。白色の蝋質層(仮種皮)は溶解して石けん、ロウソクとなる。種子油は塗料となり、油紙、油傘に塗る。【中国植物誌】 |
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ナンキンハゼの種子のロウ成分は各種脂肪酸のグリセリンエステルからなっている。すなわち、オレオジパルミチン、ステアロジパルミチン、トリパルミチン、オレオパルミトステアリン、およびごく少量のオレオミリストパルマチン・・・・などである。【中薬大辞典】 |
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木蝋はおもにハゼノキの果実から得られる蝋状物質で、ハゼ蝋 haze wax ともいう。高級脂肪酸グリセリドで油脂に属し、高級脂肪族アルコールエステルであるいわゆる蝋とは異なる。主成分はパルミチン酸(81%)およびオレイン酸(13%)のグリセリドである。【世界大百科事典】 |
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蜜蝋はミツバチの働きバチの腹部の蝋腺から分泌され、ミツバチの巣の主成分となっている物質。はちみつの副産物として養蜂のミツバチの巣から主として供給され、巣房8kgから1kgの蝋が採集される。主成分は、パルミチン酸ミリシル C15H31COOC30H61、セロチン酸ミリシル C25H51COOC30H61、ヒポゲイン酸ミリシル、ヒドロキシパルミチン酸セシルなどのエステルで、そのほか遊離脂肪酸(炭素数24~33)、炭化水素(炭素数25~30)を含む。【世界大百科事典】 |
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石油系のパラフィンワックスは脂肪族鎖式飽和炭化水素CnH2n+2 (アルカン)の炭素数 n が約20以上のものの混合物 【世界大百科事典】で、広義のロウに含めているが、狭義のロウに含めない。 |
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食品に使用されるロウとしてはチョコレートなのどの菓子類、果物等に多用されている光沢剤が有名で、ラックカイガラムシ由来、植物系、動物系、石油系と多様で、大丈夫かいな思わせるほどであるが、基本的には消化できないと考えられていることから、安全性については問題となっていないようである。 |
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