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続々・樹の散歩道
  ハルニレの虫こぶの住人を観察する


 ハルニレやアキニレの葉ではしばしば赤色から緑色の袋状に突出した虫こぶ(虫えい)を見かける。都内ではハルニレの植栽は少ないが、この虫こぶ、たぶんハルニレハフクロフシらしきものを目にした。虫こぶの図鑑類ではもちろん多種にわたる虫こぶの写真が掲載されているが、中の住人の幼虫、(蛹)、成虫の写真をセットにして掲載しているものがないため、この点はどうにももどかしい。確かに、アブラムシ類やフシダニ類、タマバエ類、タマバチ類など、それぞれの種の区別など素人では全く困難であるにしても、虫こぶの形成者の写真は虫こぶの写真とセットで並べてもらわないと、図鑑としては半端である。そこで、アブラムシ自体は見てもちっともおもしろくなさそうであるが、認識を深めるために、この虫こぶの中をのぞいてみることにした。 【2022.8】 


 ハルニレの虫こぶの様子  
 
   ハルニレハフクロフシ 1
 色が赤いものは特に目立って、広く知られている。既に孔が開いている。 
   ハルニレハフクロフシ 2
  1枚の葉に複数の虫こぶができているケースが多い。
  ハルニレハフクロフシの開口部
 自然に孔が開くのか、アブラムシが関与しているのか、真相は不明。 
 
 
 虫こぶを採取した時期は6月の上旬であったが、虫こぶは既にすべてに孔が開いていた。ということは、ほとんどの有翅虫は脱出済みである可能性が高いと思われたが、虫こぶ内にはわずかなアブラムシを確認できた。  
 
 ハルニレハフクロフシに関する図鑑情報  
 
 【日本原色虫えい図鑑】
 ハルニレハフクロフシ:
 オカボノクロアブラムシ Tetraneura nigriabdominalis によってハルニレの葉の表面に形成される袋状の虫えい。黄緑色ないし美しい赤色。1枚の葉に多数の虫えいが形成されることが多い。有翅虫の出現期には虫えいの側方が小さく裂開する。虫えいは先端の尖ったものから丸味を帯びたものまで、形状にはかなりの変異がある。オカボノクロアブラムシの他にモ、エゾヨスジワタムシ T. yezoensis や、ソウリンヨスジワタムシ T. soriniケブカヨスジワタムシ T. radidcicol 類似の虫えいを形成し、虫えいの形状からこれらの種を区別するのは困難である
生態:北海道では5月に虫えいの形成が始まる。1虫えい1幹母で、第2世代はすべて有翅型となる。6月下旬〜7月上旬に有翅虫は2次寄主(イネ科植物の根)に移住する。秋には2次寄主上で産性虫が出現し、ハルニレの枝や幹に集まる。
分布:北海道、本州
 
 
   これを見てしまうと、ふつうに見かけていたハルニレの虫こぶが、はたして真正のハルニレハフクロフシなのか、自信がなくなってしまうが、悩んでも仕方がないので、ここではハルニレハフクロフシオカボノクロアブラムシと受け止めておく。   
     
 ハルニレの虫こぶ内の住人の様子  
 
   オカボノクロアブラムシの有翅虫
 飛び立つ前の有翅虫がまだわずかに残っていた。
   オカボノクロアブラムシの幼虫
 小さい幼虫で、翅芽ははっきりしない。
   
  オカボノクロアブラムシの有翅虫の幼虫
 小さな翅芽が確認できる。
    オカボノクロアブラムシの幼虫
 いかにもアブラムシの体形である。
   
  オカボノクロアブラムシの有翅虫の幼虫(背側) 
 上の写真より翅芽が大きく成長している。
  オカボノクロアブラムシの有翅虫の幼虫(腹側)
 腹側の様子で、吸汁のための口吻が確認できる。
   
   オカボノクロアブラムシの幹母か? 
 ずんぐりした体型で、体は綿状のロウ物質に覆われていて、無翅型である。
   オカボノクロアブラムシの幹母か?
 綿状のロウ物質は、腹部の背面から幾筋も吹き出ている。 
 
     
 虫こぶ内で目にした顔ぶれとして、有翅虫及びまだ幼虫段階の有翅虫も確認したが、そのほかになぜか小型の無翅虫や腹部の背面から幾筋ものワックス成分を吹き出している無翅虫がみられた。これらをどのように理解すればよいのかさっぱりわからない。ひょっとして複数種が混在していたのかも知れないが、結論を出すのは困難であり、後の学習のためにもまずは写真を記録として残すことにした。