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ちなみに都内及びその周辺のその他の植栽例を調べてみると、例えば以下の箇所でもモクレイシが見られる模様である。
場所 |
雌雄区分 |
東京農工大 |
未確認 |
多摩森林科学園 |
雄株と雌株 |
都立薬用植物園 |
雌株 |
アリタキ植物園 |
雌株 |
つくば実験植物園 |
雄株と雌株 |
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1 |
モクレイシの様子 |
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モクレイシはニシキギ科モクレイシ属の常緑低木または小高木 Microtropis japonica。 房総半島南端・神奈川県・伊豆半島・伊豆諸島・九州(南半部及び五島列島)~琉球の海岸付近の常緑樹林内に生え、台湾(蘭嶼島)に分布する。雌雄異株。(日本の野生植物)
属名の Microtropis はmicros (小さい)+tropis (竜骨)の意で、小さな花を指したものらしい。 |
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モクレイシの葉の様子
葉は革質で全縁、特に個性は感じない。 |
モクレイシの雌花の花芽
雄花も雌花も花芽は似ている。蕾の基部にあるものは2個の小苞か。花芽は縁が細裂した5個の萼片が包んでいる。 |
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モクレイシの雄花 1
花は5弁花で、雄花ではふつう5個の雄しべがあり、ときに6個のものが見られる。 |
モクレイシの雌花 1
雌花では雄花より大きな子房をもち、柱頭は4裂する。雄花序よりも花数が少ない。 |
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モクレイシの雄花 2
退化しているはずの雌しべの子房は意外に立派である。 |
モクレイシの雌花 2
貧相な退化雄しべ(仮雄しべ)が5個存在するが、写真では豊かな蜜の中で溺れている。 |
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裂開し始めたモクレイシの果実の様子
果皮は2つに割れるが、先端部が付いたままで離脱・脱落し、赤い種子は付いたままとなる。熟した果実でも果皮は緑色のままである。 |
モクレイシの裂開果実の様子
裂開途上の果実(左)と果皮を落として裸出した種子(右)の様子である。基部には5個の萼片が残っている。 |
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モクレイシの果実の形態
果実の大きさには幅があり、大きい果実にはふつう2~3個の種子が入っている。時に4個入っているものもある。 |
モクレイシの果実の横断面
種子が1~3個入った果実の横断面の様子である。 |
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モクレイシの果実の縦断面 1
中心に見られる黄緑色のものは胚の2枚の子葉の縦断面である。 |
モクレイシの果実の縦断面 2
この果実ではコーヒーの木の果実のように種子が2個入っていた。 |
モクレイシの種子の胚
種子の断面の大きさに近い大きな2枚の子葉が納まっていた。 |
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果実が成熟し美しい赤い種子を見せている風景
写真中にも、種子が2つ入っているものがふつうにみられる。まれに4つの種子を見せているものもあった。小さな鳥がこれを散布するにはやや大きすぎる印象があり、真の散布者たる鳥種が誰なのかは未確認。 |
赤い層に包まれた種子とこれを除いた種子
上下とも、右の2つは1果に2種子入っていたケースでの種子の形態を示す。 |
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果実(蒴果)の表面の緑色のものは果皮で、中の赤いものが種子であるが、この表面の赤いものについて、図鑑により仮種皮としている場合(APG原色樹木大図鑑、世界大百科事典)と仮種皮はないとしているもの(日本の野生植物、植物の世界、樹に咲く花)があって、見解が分かれている。赤いものが仮種皮ではないとしている場合に、これを何と解釈しているのかは明記されていないのは困りものである。(注:便宜上、以下「種皮のようなもの」と呼ぶ。)
なお、緑色の果皮は革質で、赤い種皮のようなものはごく薄くやや粘りがあって、内側に縦の繊維質がみられる。 |
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2 |
モクレイシの漢字表記の怪 |
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モクレイシの漢字表記は普段目にしない漢字が使用されていて、「木茘枝」と書くのだそうである。本種は中国には分布せず(注参照)、これは中国名ではない。ただし、「茘枝」は明らかに中国原産のライチ(ライチー)であるが、これだけでは何の関係があるのかはさっぱりわからない。 |
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(注) |
本種は台湾には分布し、台湾での呼称は日本賽衛矛で、中国は傲慢にも台湾を勝手に自国と主張していて、中国名を日本假卫矛としている。 |
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この混乱振りについて調べてみると、苦瓜(ニガウリ)の理解不能で不可解な別名となっている「蔓茘枝(ツルレイシ)」の名が介在している構図が見えてきた。
そこでまずは事実関係の整理をしてみる。
とりあえずはニガウリとレイシ(ライチ)の様子の確認からである。 |
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ニガウリの雌花
花は雌雄同株。 |
ニガウリの果実
食品としてファンが多い。 |
ニガウリの成熟果実の種子
通常はこうなる前に食べてしまう。種子を包む赤いゼリー状のものは甘く、これを仮種皮としていることが多い。 |
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ライチの果実
ベトナム産の激安の冷凍品で、さすがに生果の赤味は失われていて、淡褐色となっている。さらに品種に由来するのか、果実表面の突起が低くて平面的である。 |
ライチの種子
冷凍品の種子が果たして発芽能力を維持しているのかは興味深いが、現在経過観察中である。 |
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3 |
モクレイシ、レイシ、ツルレイシの名前について(整理メモ) |
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① |
モクレイシ(木茘枝)は中国本土には分布がなく、台湾には分布があって、中国名は日本假卫矛(日本偽衛矛→日本偽マユミの意)、台湾名は日本賽衛矛である。したがって木茘枝の名は日本国内だけでの呼称である。
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② |
茘枝(レイシ)は中国原産のムクロジ科レイシ属の Litchi chinensis の中国名で、国内ではそのまま植物名(果実名も含め)としてレイシ(日本語読み)と呼んでいて、食品としては属名をそのまま使った英語名(Litchi)の発音からライチ又はライチ- の名で広く知られている。
(注)英語表記では Lychee とも書く。この表記も属名の Litchi も中国語の茘枝の発音に由来している模様である。
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③ |
インド原産で中国経由で渡来したとされるウリ科ツルレイシ属のニガウリ(苦瓜)Momordica charantia var. pavel はなぜか蔓茘枝又は茘枝の名が日本国内での別称となっているが、中国にはこんな呼称はなく、中国名はあくまで苦瓜である。日本国内では食用の作物名としては中国名の苦瓜が訓読みされてふつうに使用されていて、特にツルレイシ(蔓茘枝)の名は植物学上の種名としてなぜか優先的に使用されている。
(注)国内で、一部に錦茘枝の名も見るが、これは成熟果が黄色となって、さらに赤い種子を見せることをとらえて、ごく一部で自由に風流に呼んだものであろう。中国にはもちろんこうした名もない。 |
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4 |
ツルレイシ(蔓茘枝)とモクレイシ(木茘枝)の名前の考察 |
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前記の事実を押さえた上で、以下に自由に検討してみる。
茘枝は中国では薬効が知られていたが、これが古くに日本に渡来していたものかは確認できない。また植物としての茘枝は現在では国内の一部の暖地で栽培を見るが、古くにこの植物が栽培されていたとは考えにくく、したがって、そもそもこの植物に関して現物に即して広く認識されていたとは思われない。
一方、ニガウリの別名としてレイシ(茘枝)又はツルレイシ(蔓茘枝)の名があり、後者が現に植物学的な種名として優先的に使用されているのは実に奇妙なことである。
そもそも茘枝と苦瓜について、敢えて共通点といえば表面にブツブツがあることだけであるが、その様子や全体の形態は全く異なっているから、ツルレイシの名には強い違和感を持たざるを得ない。これは想像するに、教養があると思い込んだ者が茘枝に対する半端な認識に基づき、ニガウリに対して傲慢にも勝手に格調高い植物名になると信じてツルレイシと別に名付けたものである可能性を感じる。
これがそもそもの混乱の始まりと思われる。素直に中国名の「苦瓜」を訓読みした「ニガウリ」の名前だけを使用すれば何ら問題がなかったはずであるが、ニガウリが「レイシ」の名を引きずることになってしまった。
さらに、この混乱がモクレイシの名にも及ぶことになってしまったようである。
ニガウリとモクレイシの果実は似ても似つかないが、成熟して赤い種子を出す点(ただし、ニガウリは多数の赤い種子を出すが、モクレイシは普通1粒だけである。)だけは共通すると言えなくもない。このわずかな共通点だけをとらえて、そもそもきわめて不適切な命名である「ツルレイシ」に対して、木本であるから「モクレイシ」と種名として勝手に名付けた者がいたようである。不適切な命名により、さらに混乱が深まることになったわけである。結果として、モクレイシの名はこれと全く類似性のない「レイシ」の語を抱え込むものになってしまった。
加えて、不幸なことにモクレイシの名前だけをとらえても全くナンセンスである。この名前中の「レイシ」の語は無責任にもニガウリ(ツルレイシ)の意を前提としているが、レイシはあくまで木本植物であり、これに「モク(木)」が付された構造は、もう恥ずかしくなるような名前で、中国人がこれを見て、さらにはこの名の経緯を知ったら間違いなく呆れるはずで、この植物がかわいそうになる。 |
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5 |
結論 |
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ニガウリはあくまでニガウリであり、植物名もニガウリとして、センスに欠け強い違和感を与えるツルレイシの支離滅裂な呼称は抹殺すべきである。当然、ツルレイシ属の名も抹殺・変更対象である。
モクレイシの名は、本当は何でもいいから地域名の1つを採用すべきであった。混乱に輪をかける造語による種名は迷惑千万であり、できればこれも抹殺するのが適当であろう。モクレイシ属の名も合わせて抹殺・変更すべきであることはいうまでもない。 |
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参考:ツルレイシ及びモクレイシの名前に関する図鑑の記述例 |
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【ツルレイシの呼称の由来】 |
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和名は蔓茘枝の意にて茘枝は其瓜を之れに比せしなり。【牧野日本植物図鑑】 |
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日本名ツルレイシは蔓茘枝の意味で、その瓜を果樹レイシ(ムクロジ科)の実にたとえたものである。ニガウリは瓜の皮が苦いため。【牧野新日本植物図鑑】 |
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熱帯果樹の茘枝(→果実類「ライチ」)に似て果面に凸凹が多いことからレイシと名付けられたといわれるが、これと紛らわしいので「ツル」が付されツルレイシとも呼ばれるようになった。【食品図鑑】 |
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【モクレイシの呼称の由来】 |
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和名は木茘枝ならんも何故に斯く名けし乎予には不明なり。【牧野日本植物図鑑】 |
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「牧野新日本植物図鑑」によると、モクレイシはツルレイシに対して「木茘枝」と書くがその理由はわからないとされている。確かに葉も花も果実も、ムクロジ科のレイシとは似ても似つかず、「茘枝」と関係づけるのは難しい。【植物の世界】 |
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和名は木茘枝であろう。牧野晩成氏(1967)によれば果実が割れて、赤い種子が見えるのをツルレイシの果実に見たて、それが木質であることからついたという。おそらく当たっていよう。別名にフクボク、クロギ。【牧野新日本植物図鑑】 |
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モクレイシという名は、実が割れて赤い仮種皮が見えるのが、ツルレイシ(ニガウリのこと)の赤い種子に似ている木という意味から付けられました。【国立科学博物館附属自然教育園】
*モクレイシ種子の赤いものを仮種皮と理解する見解は少数派となっている印象である。 |
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【追記 2018.6】 モクレイシの芽生えの様子 |
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先に見たとおり、モクレイシの種子内の胚の子葉は大きく、たくましい芽生えが期待できそうなことから、次に発芽試験をしてみた。
発芽に際しては種子を持ち上げるタイプで、発芽率は良好であったが、革質の乾いた種皮は強靱で、子葉が種皮を破って脱出するのに随分苦労しているように見え、気の毒になってしばしば種皮を破るのを手伝ってしまった。
以下の写真のAの1~3はわずかなストレスで子葉が脱出できた例で、Bの1~3は子葉が脱出に難儀して、種皮の中でしわくちゃになってしまった例である。 |
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モクレイシの芽生え A-1
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モクレイシの芽生え A-2
丈夫な種皮は簡単には脱落しない。 |
モクレイシの芽生え A-3
対生の本葉を1対出した状態である。 |
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モクレイシの芽生え B-1
種皮の中で子葉が大きくなるも、脱出できずにしわくちゃになっている。 |
モクレイシの芽生え B-2
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モクレイシの芽生え B-3
試練を受けた子葉の姿である。 |
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種皮は発芽までの間、内部を保護する役割があるとしても、モクレイシの種皮は丈夫すぎるようである。 |
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