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続・樹の散歩道
  図鑑ではわかりにくいモクゲンジの花
   この樹の花は両性花なのか雌雄同株なのか


 モクゲンジの名の樹は、植栽木としてそれほど多く見られるものではなくて、かつて西日本の2箇所でたまたま見たことがある。同属のオオモクゲンジも同様で、都内では神代植物園と小石川植物園で見かけた。さらに東大の構内にもあるそうである。
 さて、まずはモクゲンジに関してであるが、この比較的樹高の大きな樹が都内の東御苑にもさり気なく植栽されている。花の少ない6月中旬頃から鮮やかな黄金色の花を多数つけて、タイサンボクと張り合っているように見えた。この円錐花序の花は非常に小さいため、目を近づけてよくみると、ほとんどが雄花なのかな思いつつも、後日改めて見れば雌花が混じったように見える花序や、中には主として雌花で構成されているように見える花序もあるようであるが・・・ 【2015.9】


   モクゲンジの外観   
   
 
           開花時のモクゲンジ
 ムクロジ科モクゲンジ属の落葉高木
 Koelreuteria paniculata  
 英語名 goldenrain tree 中国名 栾木
 本州、朝鮮半島、中国に分布。中国原産であるが、日本の中国地方の海岸近くには野生のものがあるとされ、これが本当の自生なのかは不明という。一説には日本へは元禄年間中国より渡来したともいう。
             モクゲンジの葉
 葉は奇数羽状複葉で、小葉のふちには不ぞろいな粗い鋸歯がある。

 センダンバノボダイジュの別名がある。

 寺院などに植えられていることが多いといわれる。
   
           モクゲンジの花序 1
 この花序の写真の画面で開いている花はすべて雄花であろう。雄花では雄しべが長くのびているが、ここでは雌花姿は確認できない。 
          モクゲンジの花序 2
 この花序の写真の画面では、右下に雄花が見えるが、他はすべて雌花(両性花?)であろう。雌花では雌しべが長く突き出しているが、雄しべは長く伸びない。 
 
   
     
 2  モクゲンジの個々の花の様子        
     
   モクゲンジの花については、

 ・ 花弁は4個で、基部には上向きに2個の赤いハート形の付属体があり、強く反曲する。
 ・ 雄しべはふつう8個あり、全体に短毛がある。 

 とされている。(日本の野生植物ほか)

 また、モクゲンジの花の性型について調べてみると、ハンディな図鑑では言及はなく、比較的詳しい図鑑では次のように簡潔に記述されているが、内容は一致していない。 
 
     
 
① 日本の野生植物(平凡社)  : (モクゲンジ属の)花は両性 
② 原色日本植物図鑑(保育社)  : (モクゲンジ属の)花は両性 
③ 朝日百科 植物の世界  : モクゲンジの花は両性花雄花が混じる 
④ 小学館園芸植物大事典   (モクゲンジ属の)花は雑居性 
 
     
   ①は同じで、両性花をつけている(雌雄両全株)との意である。
 とは異なっていて、両性花雄花で構成されている(雌雄同株)としている。
 は幅広の表現でを含むような印象もある。雑居性とは一般的には両性花と単性花を持つものを指しているが、
書籍では雄花雌花とした図を示している。

 例えばトチノキであれば花が比較的大きく、この円錘花序が両性花と雄花で構成されている雌雄同株であることは見たとおりのことで確認しやすいが、モクゲンジの場合は、花が小さいことに加えて、花によっては形態的に変化する途中のように見えるものもあって、非常にわかりにくい。

 そこで、目の届く範囲でざっと見た限りでは、雌しべが退化した雄花(と思われるもの)の比率が高いように見え、一方で雌花をさがすと、雄しべが退化した雌花(と思われるもの)が花序内で雄花と混在している場合と、時にその雌花が多くを占める花序が一部で見られた。 ( このことについてはあとで再検討する。)

 両性花なのか単性花なのかは、厳密には雄しべ、雌しべの実際の機能を見極めて判断する必要がある。

 雄花と思われる花は、次々と落ちてしまうから、その雌しべは完全に退化したものと理解され、「雄花」の呼称でよいことになる。

 雌花と思われる花は、雄しべが機能を有するのか否かは見ただけではわからない。雄しべが完全な機能を有していて、なおかつ結実に貢献していれば「両性花」ということになる。しかし、明らかにその雄しべは生育不良で貧弱な姿となっており、完全な機能を有しているとは考えにくいことから、以下ではこの花を「雌花」と呼ぶことにする。  
 
     
    (モクゲンジの小花の様子)  
 
 
      モクゲンジの雄花 1
 雄しべが伸張する前の雄花と思われる。花弁の付属体はまだ小さく、奥にあって見えない。
   モクゲンジの雄花 2 
毛のある雄しべが伸張し、花弁の付属体が姿を見せている。
    モクゲンジの雄花 3
 花弁の付属体及びその周辺が赤味を帯びてきている。樹の下に多数落ちているのはこの花である。 
     
    モクゲンジの雄花 4 
 雄花のすべての雄しべと2個の花弁を剥ぎ取った状態。通常外からは見えない小さな退化した雌しべが確認できる。
    モクゲンジの雌花 1 
 雌しべの先端が出ている。
     モクゲンジの雌花 2
 雌しべが伸張中であるが、雄しべは小さいままである。  
     
     モクゲンジの雌花 3
 花弁の付属体が姿を見せている。
     モクゲンジの雌花 4
 雄しべ上方の黄色い突起が花弁の付属体である。
     モクゲンジの雌花 5
 花弁の付属体及びその周辺が赤味を帯びてきている。 
     
     モクゲンジの雌花 6
 雄しべは貧弱なままであり、これが機能しているとは考えにくい。  
  モクゲンジの若い果実 1 
 受粉後に花弁が脱落した若い果実で、小さくて貧弱な雄しべの花糸がまだしがみついている。
  モクゲンジの若い果実 2
 半端な雄しべは既に脱落し、三角形の断面を持つミニ果実となっている。 
 
     
   さて、冒頭で触れた花序内の雄花と雌花の比率に関することであるが、若い果実が目視できる段階になって、真相が見えてきた。   
     
 
   雄花と雌花が混在した花序
 この花序では雄花と雌花が混在していることが確認できる。
    若い果実の様子
 結局のところ、どの花序にも雌花が存在して実をつけることが確認された。
     若い果実と花(雄花) 
 若い果実と花が混在する風景がふつうに見られる。果実は袋状の蒴果。成熟果実は褐色で美しくない。
 
     
   以下は気づきの点である。   
 
 ・  花序内では先端部の開花がやや遅れる。花序内では若い果実ができた段階でも少数の開花が見られる。 
 ・  花の咲き始めに雄花しか見られないのは、雄花で構成される花序が存在して、これが先行して開花しているように見えるが、実際にはそうではなく、各花序内の雄花が先行して開花していることによる。
 ・  花序内の雄花と雌花の構成比はバラつきがあるようであり、雌花で構成されているように見えた花序は、雌花が多い場合又は、雄花が既に散りつつあることによるものと思われる。 
 
     
   ということで、目視の範囲では、モクゲンジは雄花と雌花で構成される雌雄同株(雌雄異花同株)として理解しておくことにした。なお、モクゲンジやオオモクゲンジの個性的な蒴果については別の機会に採り上げることとしたい。   
     
   【追記:モクゲンジの芽生えの様子】   
 
 モクゲンジの種子を植木鉢に植えておいたところ、1月中旬に左の写真の姿となった。発芽率は良好である。

 双葉を出した後に、3小葉からなる葉を2つ出している。