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ミヤコグサはマメ科の地を這う草本で、小さいながらも鮮やかな黄色い花を付けて、慎ましやかな美しさがあり、しかも、その名前が何やら由緒がありそうな語感があって得をしていることもあって、愛されているようである。 |
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1 |
ミヤコグサの様子 |
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花を付けたミヤコグサの様子
花序には写真のように花を1〜2個つけていることが多いが、1−3(4)花つける(日本の野生植物)とされている。花色からコガネバナ(黄金花)の名のほか、花の形からエボシグサ(烏帽子草)の名もある。旗弁には蜜標の細い赤い筋が見られる。 |
ミヤコグサの花
花序の基部には3小葉のような3個の総苞がある。
雄しべや雌しべが露出している姿は見ない。 |
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ミヤコグサの花の各部の呼称
マメ科ミヤコグサ属の多年草。Lotus corniculatus subsp. japonicus ,Lotus corniculatus var. japonicus |
ミヤコグサの葉の様子
葉軸基部の2枚を小葉と見ると5小葉、托葉と見ると3小葉となり、見解が分かれている。 |
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ミヤコグサの成熟果実
左の果実は莢が割れてねじれ、種子を放出済みの状態である。2裂するそれぞれの莢から種子を放つ。 |
ミヤコグサの種子
種子は褐色〜黒色で、やや扁平。 |
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ミヤコグサの葉については先に触れたように、3小葉と見る立場(日本の野生植物、新牧野日本植物図鑑、植物観察事典)と5小葉と見る立場(野草観察検索図鑑、植物の世界、野に咲く花)があって、互いに突っ張り合っているのであろうか。前者は下の2枚を托葉と解し、後者は下の2枚は托葉のように見えるが断固として托葉ではなくて小葉であると解している。 |
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2 |
ミヤコグサの名前の由来 |
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ミヤコグサ(都草)の名前については、牧野富太郎が軽い気持ちで思いついたのか、次のような記述を見る。 |
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牧野日本植物図鑑:
和名都草は此草往時京都大仏の前、耳塚(みみづか)の辺りに多かりし故に名く乎。 |
A |
牧野富太郎植物記:
ミヤコグサという名は、この草がむかし京の都の大仏のまえ、耳塚(みみづか)のあたりにはびこっていたので都草とつけられたものです。一名をコガネバナ(黄金花)ともよびますが、この名は花の色にもとづくものです。一名をコガネバナ(黄金花)ともよびますが、この名は花の色にもとづくものです。またエボシグサの名もあります。この名はその花の形が烏帽子(えぼし)に似ているためです。江戸時代に書かれた書物には、この草は江戸ではもっぱらエボシグサとよばれていたようです。 |
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@の図鑑では推定しているものが、Aの随筆では想像の翼が大きく羽ばたいたのか、見事に断定調となっている。本人が本気で信じていたとは思えないが、ほかにもっともらしい説がないため、多くの人が疑問を感じつつも諦めている。
この説についてはミヤコグサの名前が初めて登場しているとされる貝原益軒の大和本草の記述を参考にしているものと推定されている(植物の世界)。その大和本草の該当部分は以下のとおりである。 |
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大和本草巻之九 草之五
百脈根 ミヤコグサ細草也 四月黄花を開く 花形豌豆花に似たり 色よし葉小にして三つに分る仙臺ハギの如にして小也 京都大仏の前耳塚の辺りに多し 本草山艸上に出たり 実は莢ありて両々相生す |
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特定の地域にミヤコグサが多かったとする記述自体を誰も信用していないところである。
そこで、異説を調べてみると、深津 正が「植物和名語源新考」のなかである説を紹介している。それは、大阪の歌人猪川耐氏が「ミヤコグサは本草に記されたこの草の漢名(中国名)百脈根のミャッコンにクサがついたものではないか」としていると長谷川真魚氏が記しているというものである。つまり、ヒャクミャッコンが略されてミャッコンとなり、それにクサを付けて「ミャッコングサ」となったものとする見解である。
ほかに有力な説が登場しなければ、とりあえずはこれで理解しておくことにしたい。
なお、中国名についてであるが、中国植物誌によれば、Lotus corniculatus var. corniculatus (原変種)が百脉根(百脈根−唐本草)で、日本でミヤコグサとしているLotus corniculatus var. japonicus を光叶百脉根(光葉百脈根)としている。中国名でミヤコグサ属は百脈根属である。百脈根の名は百脈根の根を来原とする中薬「百脈根」の呼称でもある。百脈根の名前の由来は、中薬としての視点で、細かく分岐した根の性状を脈(血管)にたとえたものであろう。 |
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3 |
ミヤコグサの送受粉システム |
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(1) |
図鑑における記述例 |
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いくつかの図鑑等で、ミヤコグサの送受粉のしくみについて説明している。 |
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@ |
野草観察検索図鑑:
舟弁(竜骨弁)は左右合生して先がポンプの筒先のようになり、雄しべが吐いた花粉がここにたまっている。虫が舟弁を上から押せば、筒先の穴から花粉があふれ出てくる。雄しべのうち5本は花糸が長く、しかも先がこん棒状に太く、集まって花粉室内の花粉を支えている。花粉室内にあるうちは雌しべに受精能力がない。のちにポンプ状の筒先の穴から伸び出し、柱頭が虫の体でこすられて初めて受精能力を得るといわれる。日本ではミヤコグサだけに知られた受粉の形式である。 |
A |
園芸植物大事典:
ミヤコグサなどでは2個の竜骨弁の縁が先端を除きほぼ完全に合着している。葯は竜骨弁の中で既に裂開している。雄しべの半数(ときには全部)は花糸の先端が棍棒状にふくらんでいて、昆虫により竜骨弁が押し下げられると、竜骨弁の小さな透き間から雌しべの先端が現れ、同時に花粉が棍棒状の花糸により押し出されて、昆虫の下面に付き、受粉が行われる。花糸がポンプのような働きをする。何回か昆虫の訪花を受ける。 |
B |
野に咲く花:
2個の竜骨弁は合着して筒状になり、ここに花粉がたまる。虫が竜骨弁の植えにとまると、筒の先のあなから花粉があふれでる。この時期の雌しべは受精能力がなく、花粉がでたあと筒の外にのびて、柱頭が虫にこすられると受精できるようになるという。 |
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3つの事例を掲げたが、@とBの青字部分は特定の者の報告に依拠しているようで、特に「柱頭が虫にこすられると受精能力を得るといわれる。」とした内容は面白いが、その書きぶりは未だキッチリと広く検証・認知されるまでには至っていない印象であり、少々わかりにくい。単に雄性先熟であることを指摘しているのであればそれだけのことであるが、本当のところを知りたいものである。
また、@で「雌しべがポンプ状の筒先の穴から伸び出し・・・」とあるが、雌しべが伸び出た花は全く見ることがなかった。確かに雄性先熟であることを前提とすれば、雌しべが外に伸び出なければ他家受粉できないことになるわけであるが、この点に関しては納得できる観察結果が得られなかった。
細部のメカニズムはともかくとして、ミヤコグサの花が花粉を出す様子に関する情報を仕入れると、早速花をばらして観察しないではいられなくなる。 |
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(2) |
開花したミヤコグサの花を実際に花を観察してみると・・・ (ミヤコグサの花の構造など) |
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花粉室から花粉が出た様子 1
旗弁と翼弁を除去した花の竜骨弁を押し下げたもので、花粉室から花粉がにゅるにゅると出た。 |
花粉室から花粉が出た様子 2
花粉はにゅるにゅると出るのであるが、出るとすぐに崩れて粉状になってしまう。 |
透過光で見た花粉室の様子
閉じた竜骨弁の先端に形成された花粉室を透かしてみたもので、花粉がタップリたまっている。 |
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ミヤコグサの雄しべと雌しべ
雄しべはマメ亜科でふつうに見られるような、1個の離生雄しべと9個の合着した筒状の雄しべで構成される。写真は手前側の竜骨弁を除去している。花粉室の花粉は脱落してしまった。 |
ミヤコグサの雄しべと雌しべの構成 1
上段の5個の雄しべは花糸の先端が急に太くなっていて、1個の離生雄しべを含む5個の下段のしべは花糸がしぼんで細くなっている。 |
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ミヤコグサの雄しべと雌しべの構成 1
雄しべを広げてみたが、10個の雄しべをクッキリ撮影するのは難しい。長く突き出ているのは雌しべである。 |
ミヤコグサの上段の花糸の太い雄しべ
上段の雄しべの花糸は役割を担っているためしっかりしており、しかもその先端部は逆円錐形で、急に太くなっている。頂部についているのは花粉放出済みの花粉にまみれた葯である。 |
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ミヤコグサの下段の花糸のしおれた雄しべ
花粉を既に放出済みの下段の雄しべの葯と花糸の様子で、花糸は役目を終えて既に萎んでいる。 しっかりした円柱状のものは雌しべの花柱または上段の雄しべの花糸である。 |
ミヤコグサの雌しべの先端部
雌しべの柱頭は小さな球状である。左に見えるのは上段の雄しべの先端部である。 |
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ここまで見て、ミヤコグサの送受粉が可能な時期の花では |
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雄しべが2段となっていて、よく見ると下段の雄しべの花糸は萎びて細くなっている。 |
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上段の花糸はしっかりしている上に先端部が逆円錐形で太く、花粉室の花粉を押しつけて保持している。 |
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竜骨弁を押し下げると上段の突っ張った雄しべが花粉を押し出す状態となり、ウンチのように花粉がにゅるにゅると出る。続いて波状的に押し下げれば複数回花粉を排出する。 |
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竜骨弁の手前側をそっと剥がしても、雄しべが弾けてしまって、竜骨弁に収まった状態のままの姿を露出させるのはやや困難である。 |
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雄しべが上下2段となって、上段の雄しべが花粉室を押しつけて保持していることを確認できても、これに至る経過として、下段の雄しべの花粉はどういったプロセスで花粉室に花粉を託したのかがよくわからない。この点を理解するには、つぼみの時点での雄しべの挙動を観察する必要があるように思われる。そこで・・・ |
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(3) |
ミヤコグサのつぼみを解体してみると・・・ |
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以下はミヤコグサのつぼみの状態での雄しべの様子である。 |
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ミヤコグサのつぼみの雄しべ 1
葯がまだ裂開していないが、雄しべは上下2段となっている。下段の葯がやや大きく見える。 |
ミヤコグサのつぼみの雄しべ 2
上段の雄しべの葯が裂開し始めているように見える。
1個の離生雄しべは下段に位置している。 |
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ミヤコグサのつぼみの雄しべ 3
上段の雄しべの花糸の先端がやや太いように見える。 |
ミヤコグサのつぼみの雄しべ 4
下段の雄しべも裂開し始めている。 |
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ミヤコグサのつぼみの雄しべ 5
つぼみの状態で葯は花粉を全放出し、花粉室に花粉を充填するようである。写真は奥の側の竜骨弁を残していて、花粉室から離脱した花粉の塊は花粉室の形に成型されている。 |
ミヤコグサのつぼみの雄しべ 6
竜骨弁を除去したために花粉室の花粉の塊が崩れた状態で、花糸の長さにはまだ大きな差はない。 |
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ミヤコグサのつぼみの雄しべ 7
花糸の長さに大きな差が生じており、上段の雄しべが花粉室の花粉をを保持している状態である。下段の雄しべの花糸は既に萎びている。 |
ミヤコグサのつぼみの雄しべ 8
花粉室の花粉の塊に上段の雄しべが先端を突っ込んでいる状態である。ここでも、下段の雄しべの花糸は既に萎びている。 |
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以上、旗弁が立ち上がる前のつぼみ状態の花を開くと、 |
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葯が裂開する前から雄しべの葯が上下に隣接して2段となって収まっているのがわかった。これは単に狭い空間に葯がスッキリ収まるための配置なのか、合理的に花粉を集積するためなのかが気になる。 |
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観察した範囲では、2段の葯のうち、上段の葯がやや早く裂開しているようにも見えたが、ほぼ同時に裂開するものと理解してよいと思われる。 |
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そこで、2段となった雄しべのうち、どちらの花糸の先が太くなって伸び出すのかであるが、1個の離生雄しべがつぼみの段階で下段を構成しており、送受粉時期にもこれが下段に位置しているのを見ると、つぼみの段階で上段にある雄しべが花糸の先が太くなって長く伸び出るものと思われる。また、写真をよーく見ると、つぼみ段階でも上段の雄しべの花糸の先端がやや太いように見えた。 |
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推定であるが、たぶん隣接して2段となった葯はほぼ同時に裂開して、小さなつぼみ段階の竜骨弁の先端部に花粉をためて花粉室を形成しするものと思われる。 |
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その後、竜骨弁が成長して長くなるのに合わせて、たぶん上段の5本の雄しべの花糸が先端部を肥大させつつ伸長して、花粉室の花粉を押しつけて保持し続けると思われる。一方、下段の雄しべは役割を終えて萎びてしまい、送受粉可能な時期にも下段の雄しべとして観察されるものと思われる。 |
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実は、わかりやすさからすると、本当は下段の雄しべが上段の雄しべの花粉もろとも押し上げるのではないかと考えていたが、そうではなかったのは意外であった。
なお、つぼみ状態の竜骨弁内の花粉室には既に花粉がしっかりと充填されているのがふつうであることが確認できた。 |
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【ミヤコグサの受粉に関する補足メモ】 |
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ミヤコグサの受粉に関しては、図鑑での記述事例及び、よくわからない点について先に触れたが、「ミヤコグサは自家受粉花であり、開花時にはすでに受粉が完了している。(農業生物資源研究所 今泉)」とする記述が見られる。これは、ミヤコグサの人工交配技術に関連して述べたものであり、信頼性が高いと思われる。
一方、セイヨウミヤコグサに関する一般情報では、他家受粉がなされない場合は自家受粉するものとして説明している例を目にした。雌しべの挙動の観察と合わせて、さらなる情報が欲しい点である。 |
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4 |
マメ科植物の蝶形花(マメ亜科)の送受粉について |
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マメ科の蝶形花で見られるさまざまな送受粉のパターンをおおよそ理解したいと思っていたところ、幸いにも園芸植物大事典にこれらの主なものを類型化してその概略を説明している記述が見られた。少々わかりにくい部分もあるが、学習のよいきっかけになる素材である。 さらに、朝日百科植物の世界(マメの花の送粉様式:大橋広好)にもマメ科の花の様々な送粉様式に触れた記述が見られた。関心部分を抜粋すると、以下のとおりである。 |
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マメ科植物の多様な送受粉システム 出典:園芸植物大事典、朝日百科植物の世界(青字) |
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A |
シロツメグサやゲンゲなど:
花はたたみ戸式のしかけをもつ。花を訪れた昆虫が翼弁と竜骨弁の上にとまって、蜜を求めて旗弁の付け根に頭を押し込むと、翼弁と竜骨弁が一緒に下方に押されて下がり、竜骨弁の中に包まれていた雄しべと雌しべが現れて、葯と柱頭が昆虫の体の下面に触れて、受粉が行われる。ひとつの花は何回か昆虫の訪問を受けることになる。
破裂しない花(押し下げられた竜骨弁が元に戻るタイプ)は、萼が花弁の基部を支え、花弁の柄に弾力性があるため、ハナバチ類が飛び去ると、花は元に戻る。クララ属、ハギ属、ヤハズソウ属などで、花床に蜜のあることが多い。
メモ:「たたみ戸式のしかけ」の意味はよくわからないが、翼弁と竜骨弁に虫が載ると、これらが下がって雄しべが現れ、虫が去ると元に戻るということをいっているだけと思われる。実際にシロツメクサとムラサキツメクサで観察したところ、そのとおりで、ヤマハギでも見られる最もオーソドックスなシステムである。 |
B |
イブキノエンドウやソラマメなど:
前記の場合とほぼ同じしくみであるが、葯は竜骨弁のなかで既に裂開して竜骨弁の中に花粉が蓄えられていて、その花粉が花柱の上部に生えているブラシ状の毛で外に押し出されて、昆虫の体の下面に付き、受粉が行われる。この花も何回か昆虫の訪問を受ける。
ソラマメ属、ニセアカシア属などの花は「ブラシ型」である。花粉を竜骨弁の先に溜めておき、ハナバチ類が竜骨弁を押し下げると、花柱の先端の毛で花粉を押し出して付着させる。
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C |
ミヤコグサなど:
2個の竜骨弁の縁が先端を除きほぼ完全に合着している。葯は竜骨弁の中で既に裂開している。雄しべの半数(ときには全部)は花糸の先端が棍棒状にふくらんでいて、昆虫により竜骨弁が押し下げられると、竜骨弁の小さな透き間から雌しべの先端が現れ、同時に花粉が棍棒状の花糸により押し出されて、昆虫の下面に付き、受粉が行われる。花糸がポンプのような働きをする。この花も何回か昆虫の訪花を受ける。
ミヤコグサ属、ルピナス属などの花は「ポンプ型」で、ハナバチ類が力をかけると、竜骨弁が下がり、中に放出されていた花粉が、先のふくらんだ花糸に押し出されて、竜骨弁の先から出てくる。
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D |
ヌスビトハギやチョウセンニワフジなど:
翼弁と竜骨弁が昆虫により下方に押し下げられると、これらの花弁が突然勢いよく下がって、竜骨弁の中から雄しべと雌しべが現れる。葯は既に竜骨弁の中で裂開していて、花粉が昆虫の体の下面に付き、同時に柱頭の昆虫の体に触れて、受粉が行われる。
メモ:「花弁が突然勢いよく下がる」とする表現はよくわからない。まるで下方向への力が常時働いている状態で、引き金を引いたような動きを示すように受け止められるが、それはあり得ない。一方、
田中肇は「花に秘められたなぞを解くために」の中で、ヌスビトハギの花ではエニシダほどではないが、ハナバチが訪れたとき破裂するとしている。そこで翼弁と竜骨弁を押し下げて確認してみると、これらの花弁がカクンと下がって元の位置には戻らず、雄しべと雌しべが露出したままの状態となるが、破裂するという印象はなかった。よく見ると、雄しべと雌しべはわずかに上向きとなったように見えた。 |
E |
エニシダ:
翼弁と竜骨弁が押し下げられると、竜骨弁の中から雄しべと雌しべが現れ、5個の短い雄しべが昆虫の体の下面に付き、5個の長い雄しべが屈曲して昆虫の体の上面に付く。雌しべも屈曲して昆虫の体に触れて受粉が行われる。このような破裂する花では昆虫が飛び去っても翼弁と竜骨弁は元の位置に戻らず、二度と昆虫は訪れなくなる。
メモ:躍動感のない表現振りがイマイチで、翼弁と竜骨弁が少し押されると、雄しべと雌しべがバシッと跳ね上がる(巻き上がる)と言ってもらわないとわかりにくい。これについては冒頭で触れたとおり、既に確認済みである(こちらを参照)。
★ 押し下げられた竜骨弁が元に戻らない花(コマツナギ属、ヌスビトハギ属、エニシダ属など)では、蜜をもたないものが多い。
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【参考写真】 |
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シロツメグサの花(Aタイプ)1
球状についた花は、受粉すると花弁が外から順に萎びて褐色となって垂れているいる姿を見る。ミツバチが花粉を運ぶという。 |
シロツメグサの花(Aタイプ)2
旗弁が大きく反り返らず、花の観察には邪魔なため、写真ではこれを剥ぎ取っている。さらに翼弁と竜骨弁を無理やり下方へ強く押し下げて、元に戻らない状態としたものである。 |
ヤマハギの花(Aタイプ)
翼弁と竜骨弁を無理やり強く押し下げて、元に戻らない状態としたものである。 |
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エンドウの花(Bタイプ形態近似)
種類はツタンカーメンのエンドウ。竜骨弁が閉じていて、この花では自家受粉の性質があり、中で雌しべが花粉まみれになっている。花が咲いたときには既に受粉が終わっているという。 |
エンドウの花(Bタイプ形態近似)
同左。このエンドウでも花柱の先端がブラシ型であることを確認した。ソラマメでは同様の形態でも、栽培種にあっては他家受粉らしい。この点は複雑でわかりにくい。 |
ヌスビトハギの花(Dタイプ)
翼弁と竜骨弁を軽く押し下げると、雄しべと雌しべは露出した状態のままとなる。 |
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マメ科植物の多様な送受粉システムは興味深いが、マメ科の栽培種の多くは基本的に自家受粉(朝日百科植物の世界・マメ科栽培植物の起源)とされる。これは、長きにわたる栽培の歴史の中で、訪花昆虫が少ない環境に適応したものと考えられているようである。たしかに、例えばエンドウは自家受粉することが広く知られていて、メンデルが実験に使ったのもその性質が知られていたことによるようである。 |
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<補足メモ: 花粉をにゅるにゅる出すその他の植物の例>
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花粉をにゅるにゅる出す植物と言えば、アザミ類(アザミ属)の花が広く知られている。
アザミの筒状花はキク科の多くの筒状花と共通していて、5個の雄しべの葯が合着して筒状の「葯筒」となっていて、この葯筒の内側に花粉を出し、一方、葯筒の中にある雌しべの花柱には花粉を捉える「集粉毛」があって、花粉をキッチリ押し出す仕組みとなっている。一般的には花柱が伸び出ることで花粉がにゅるにゅると押し出されることになるが、アザミの場合は個性的で、花が刺激されると(昆虫が触れると)、何と見る見る花糸が縮んで葯筒自体が引き下げられ、結果として花柱により花粉が押し出されることになる。その後に柱頭が2裂して受粉部位を露出し、雌しべ成熟期を迎える。
この様子についてはNHKのミクロワールド「たくみな受粉 アザミの秘密」が上手に映像で捉えていて、実にわかりやすい。(http://www.nhk.or.jp/rika/micro/?das_id=D0005100067_00000) |
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花粉がにゅるにゅると押し出されたタイアザミの花 |
同左タイアザミの写真の部分 |
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