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続・樹の散歩道 マテバシイの葉のどこがマテ貝に似ているのか
都内ではどこにでも見られるマテバシイに関して、その名前の由来についての同じ講釈をしばしば耳にしている。それは、「マテバシイの名は、その葉がマテ貝(馬刀貝)に似ることによります。」という、確信に満ちた断定である。たぶん、これを聞いてもマテ貝がどんなものか知らない人がほとんどであるから、「あーなるほどねえ」と、納得できる人はまずいない。自分も同類で、仕方なくマテ貝について調べてみると、幼い頃に図鑑で見たような記憶があるやや扁平な棒状の貝であり、この貝と一体どこが似ているのか全く理解不能で、イライラが高じて、ついには腹が立ってくる。そもそも、講釈していた当人が十分納得しているのかが疑わしくなってくる。 【2015.12】 |
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マテバシイの堅果は同じマテバシイ属のシリブカガシと並び、その果皮が非常に厚く、これが属名に反映していて、属名はギリシャ語 lithos (石の意)と karpos (果実の意)に由来し、そのかたい堅果にちなむ。種小名 edulis は食べられるの意味で、種子はえぐみがなく食べられることに由来する。 | ||||||||||||||
マテバシイは緑化木の便利屋のような存在で、公園樹として、あるいは街路樹として、あまりにも多用され過ぎていて、都内でも既に乱用に近い状態にある。マテバシイには何の責任もないが、いい加減にウンザリする。非常に安易、安直な樹種選定といえるが、優しい目で別の見方をすれば、都会の劣悪な環境にもよく耐え、常緑であるから葉を散らかすこともなく、〝管理しやすいみどり〟であることは間違いない。 この街中でも溢れるように存在する樹木の名前がどんな意味なのか全く訳がわからないのは実にもどかしいことである。そこで、たぶんスッキリした結論など得られないであろうことは覚悟の上で、マテバシイの名の周辺情報を調べてみることにした。 |
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1 | そもそも、混乱の要因であるマテガイ(馬刀貝)の名前の由来は何なのか | |||||||||||||
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まずはマテガイ(馬刀貝、馬蛤貝、蟶貝)及びこの別称とされるマテ(馬刀、馬蛤、蟶)について調べてみると、何とこれ自体の名前の由来についても残念ながら諸説あって収束していないことが判明した。ただし、馬刀貝や馬刀の語は古くから一般化していた語であったようであるため、「馬刀」の語をさらに調べる必要性がある。 しかし、日本国語大辞典でさえ「まて(馬刀)」については、貝「まてがい」の別称としかしていない。訳のわからない語源説も紹介されているが何の役にも立たない。この語は実に具体的な意味のある漢字の組み合わせであるが、どう見ても国内では具体的な物に即した呼称として定着したものとなっていない雰囲気があることから、中国語を調べてみることにした。 すると、あっけなく(たぶん)真相に行き着いてしまった。 、「馬刀(簡体字では马刀 Mǎdāo マーダオ)」には中国語で騎兵用の軍刀(サーベル)の意味があることを確認した。つまり、細長いマテガイの貝の殻が馬上で腰につけるサーベルに似ているという説明であれば直ちにガッテンであった。念のために、「馬刀」又は「马刀」の語で画像検索すれば、マテガイの貝殻の形状(前端が斜めに、後端が直角に切れたかたち)によく似たサーベルの写真が多数見られる。 そこで、次に中国でマテガイを何と呼んでいるかを調べると、一般的には「竹蛏(日本字では「竹蟶」)」で、「马刀(日本字では馬刀)」の呼称もあることを確認した。ということは、たぶん、中国ではマテガイがサーベルの馬刀の形状に似るためこの貝にも同じ名を与え、あるいは中国らしく竹の形状・色合いをイメージして竹蟶の名を与えたのであろう。ただし、国内でマテガイを指す漢字の一つとなっている「馬蛤(簡体字では「马蛤」)」は中国ではいろいろな貝を指していて、現在の中国では一般にミルクイの代用品となっているバカガイ科のアメリカミルクイ Tresus nuttalli (英語名 Pacific gaper , horse clam )を指している模様である。この場合の馬(马)の文字の意味は四つ足の馬ではなく、「大きい」の意であろう。 (注)中国語では「蟶」の1字にマテガイ類の意味があるから、竹蟶は種類を絞ったマテガイの呼称となっていると思われる。 ということは、国内での漢字表記である馬刀貝(馬刀)、蟶貝(蟶)、馬蛤貝(馬蛤)の何れもが中国伝来であることがわかる。 マテガイの名前の由来に関して、国内の古語の「まて」の漢字表記である「真手」や同義の「全手」などを手がかりとした推理がみられるが、これらはことごとく徒労であったことが明らかになった。 (注)呼称の語尾に「貝」の語を付すのは、貝の名称とわかるように取り扱った日本固有の慣行である。 ちなみに、英語民族はマテガイの貝殻の形からカミソリを連想して razor clam レザークラム,razor shell レザーシェルと呼んでいる。実は和名でも同様に「かみそりがい」の別名もあって、共通している点は面白い。 (注)国内のメディアを通じて知られるところとなった斬馬刀(ざんばとう)はやはり中国発の長柄あるいは大型の刀剣を指すが、馬上で身に付ける刀剣の馬刀とは異なる。 |
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<マテガイに関する参考メモ> | ||||||||||||||
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2 | そこで、なぜマテバシイの葉がマテガイに似ているとされたのか(マテバシイの名前の由来) | |||||||||||||
まずは念のために図鑑を確認してみた。すると、そもそもプライドの高い樹木図鑑や植物図鑑ではしばしば見られる「馬刀葉椎」あるいは「馬手葉椎」、「全手葉椎」、「真手葉椎」といった漢字表記は一切見られず、さらにマテバシイの名の由来に関しても触れていないのが普通であった。つまり、マテバシイの名前の由来に関するもっともらしい定説がないことから、賢明にも意味不明の怪しい俗説などは全く相手にしていないということである。そもそも、どう見ても似ていないにもかかわらず、マテバシイの葉がマテガイに似ているなどと平気で口にできる感覚がおかしいのである。 出所不明の「馬刀葉椎」等の漢字表記自体が単なる当て字と考えられることから、このいい加減で安易な表記の「馬刀」からマテガイと受け止めてしまうのは輪をかけていい加減な解釈ということになる。仮に元のサーベルの「馬刀」と解釈するのも類似性は全くないことに変わりはないから問題外である。したがって、ここでマテガイ説(仮にそれ以前のサーベル説があったとしても)は自滅である。 整理すると、マテガイの名前の表記として定着していた中国名の「馬刀」を日本語の音が共通する樹木の名前の表記に転用したことが混乱の始まりであったとがここで明らかとなった。つまり、マテガイ説は当て字にとらわれた暴走と解される。 また、「その他マテガイの名前の由来の推理でもしばしば登場する「全手」、「真手」の当て字に依拠した講釈が、マテバシイの場合もアンデッドのように再登場しているが、相当無理があって全く説得力がない。 牧野日本植物図鑑では、「和名マテバシイのマテは九州の方言にして其意不明なり」としていて、スペースの無駄となる訳のわからない諸説を紹介していないのは正しい選択である。 ということで、中国内で細長い貝をサーベルの馬刀に喩えたのは自然であるが、国内では変な当て字に惑わされて特定の樹木の名の解釈にまでワープしてしまっているのは全くの誤りであることに確信を持つことができた。しかし、依然としてマテバシイの「マテ」の具体的な意味については謎のままである。残念ながら、たぶん永遠の謎であろう。 |
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3 | そうであれば、どんな講釈がよいか(マテバシイの名前の由来に関する説明方法) | |||||||||||||
以下は軽い感覚の講釈案である。 | ||||||||||||||
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<追記 2016.2> | ||||||||||||||
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<マテバシイの名前の由来(語源)に関する記述の例> | ||||||||||||||
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<マテバシイに関する参考メモ> | ||||||||||||||
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