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樹の散歩道
 
  クルミいろいろ 何やら名前がややこしい
             


 一般に市販される殻付きのクルミは 「ペルシャグルミ」「テウチグルミ」(カシグルミとも「シナノグルミ」(信濃胡桃)のいずれかとされている。図鑑では食用とすることができるクルミとしては、在来種の「オニグルミ」、「ヒメグルミ」に加えて「テウチグルミ」も掲げられていることが多い。しかし、慣用的な呼称がいろいろであったり、学名が多数あって基本種の考え方がいろいろあったりと理解しにくい。そこで、手近な情報について整理してみた。【2008.11】  


 冒頭で掲げたペルシャグルミテウチグルミ(カシグルミ)シナノグルミ(信濃胡桃)のうち、A:テウチグルミ(カシグルミ)ペルシャグルミの変種とされ、また B:シナノグルミテウチグルミ(カシグルミ)とペルシャグルミの自然交雑によって生じた雑種といわれている。したがって、言い換えれば、店で販売されているクルミはいずれも分類上はペルシャグルミ系として理解されていることになる。その他、呼称がややこしい面があるため、以下に整理してみると・・・

オニグルミ
Juglans mandshurica Maxim. var. sachalinensis (Miyabe et Kudo) Kitamura)
Juglans mandshurica
var. sieboldiana
 
→マンシュウグルミの変種とする考え方
Juglans mandshurica
Maximowicz.subsp. sieboldiana Kitamura
 
→マンシュウグルミの亜種とする考え方
Juglans Sieboldiana
Max.
Juglans ailanthifolia
Carr.
Juglans ailantifolia
Carr.
注:マンシュウグルミ Juglans mandshurica Maximowicz は中国、アムール、朝鮮北に分布
          オニグルミの堅果
 堅果(核)を包む花床(外果皮)はパックリ割れないで、堅果を抱え込んだまま落下して、黒色に汚く腐るため、どうしても殻にカスが残る。
(岡山県産)
        オニグルミの堅果の断面
 堅果の殻と内部の隔壁が厚い上に、しばしば不規則に空胴があって、悲しくなるくらいに食べられる実(種子)は少ないが、味はよいとされる。


 
     いろいろな形状のオニグルミの堅果
 写真のように大きさ、形状ともに変異が大きい。
     よい色艶となったオニグルミの堅果     
 上の写真は椿油を塗って長い年数が経過したもので、なかなかいい色艶になっている。手の中でコリコリやるにはこれがいい。先端部は手が痛くないように丸めてある。
サハリン、日本各地に分布。
堅果が堅く割りにくい上に実が少ないため、食用としては劣るが、ファンもいて一部で販売もされている。
リスもこのクルミの大ファンで、この堅さにもかかわらず縫合線に沿って綺麗に歯で割るという。
 クルミ果実(クルミ属)核果なのか、それとも堅果なのかについては、一般人にとっては何ともわかりにくい(正確に言うとさっぱりわからない)点である。古い図鑑では核果としているが、「日本の野生植物」では堅果としている。「樹に咲く花」もこれによっている印象である。
 
 ただし、表現が微妙で、「果実は堅果であるが、核果状となる。」とか、「果実は核果状の堅果」と説明している。
 ところがである。日本の野生植物の種別の説明では、例えばオニグルミについて、「は卵円形または楕円形、先がとがり、長さ2.5〜3.5cm、表面にしわがある。」と、突然、「核」の語が登場している。ひょっとすると、頭の中にはクルミは核果とするかつての見解が浸み込んでいるのであろうか。
   
ペルシャグルミ  Juglans regia L.
        ペルシャグルミの堅果
 花床(外果皮)がパックリ割れて堅果がきれいに落ちるようである。堅果の殻はオニグルミに比べると遙かに薄い。(米国産)
        ペルシャグルミの堅果の断面
 左は縫合線に直交する縦断面で、子葉の形がよくわかる。剥き実で販売されているクルミは、割れていなければこのかたちである。
 右は縫合線に沿った縦断面。
        ペルシャグルミの殻と種子
 縫合線に直交する縦断面の子葉を裏返したもの。
   いろいろな形状のペルシャグルミの種子
 剥き実で販売されているもので、上段はナマ、下段はローストされたもの。ロースとされたものはコリコリ感がある。剥き実は外観がそれほど問題にならないから、大きさにはかなりの幅がある。(米国産)
一般にセイヨウグルミともいう。欧米で単にクルミという時はこれを指す。【樹木大図説】
原産地は不明とされるが欧州東南部、西方アジアとされている。【樹木大図説】
明治初年にアメリカから導入されて、栽培が始められた。【平凡社世界大百科ほか】
一般に殻が薄くて割りやすく、果実の仁の割合が高いが、耐寒力に乏しい。【平凡社世界大百科ほか】
ペルシャグルミの俗称として「カシグルミ」の名も使われている。【果樹園芸大百科16】
「週刊朝日百科82世界の植物」では、ペルシャグルミカシグルミを同義語として説明(北村四郎)している。
<参考>
ペルシャグルミの英名 English walnut は、これをヨーロッパからアメリカ大陸に持ち込んだ入植者がアメリカ在来のアメリカクログルミ J. nigra(優良材のBlack Walnut) 及びアメリカシログルミ J. cineria と区別するための名称として使ったもの。【果樹園芸大百科16】
テウチグルミ(カシグルミ)
Juglans regia L. var. orientis Kitamura
 →ペルシャグルミの変種とする考え方
        テウチグルミの堅果
 販売されているクルミは米国産のペルシャグルミの剥き実がほとんどで、テウチグルミ(カシグルミ)は店頭であまり見かけない。東北地方で一定の生産量があるという。
      テウチグルミの堅果の断面と種子
 写真は岡山県産。(苗は東北育ちの模様。)

 扱い:吉井特産館直売センター 
    岡山県赤磐市福田500
学名上もペルシャグルミの変種としていて、カシグルミ、チョウセングルミともいわれる。
【平凡社世界大百科】
中国原産で、ペルシャグルミの中国に導入された1系統とされる。【木の大百科等】
小葉は2〜4対で、2対のものが多い。
テウチグルミの栽培の始まりは江戸時代中頃。【果樹園芸大百科16】
落ちたばかりの堅果は手で簡単に割れる。【山渓ハンディ図鑑】
手で割れるというが中には割れにくいものも生ずる。【樹木大図説】
日本には野生はなく長野、新潟、山形、秋田、岩手の諸県に多く植栽する。信濃胡桃の普及により多少下火となったがまだまだ各地で生産されている。特に長野県は多い。長野県小県郡和村(現在は長和町)のテウチグルミ栽培は有名。【樹木大図説】
堅果は小さくて殻が硬く割れにくく、果実の仁の割合も低い。【平凡社世界大百科】

【参考1】信州産かしぐるみ(カシグルミ、テウチグルミ) 2009.3追加
 都内で「信州産かしぐるみ」として販売されていたものである。
 長野市内では土産物としてネット入りのものがふつうに販売されていた記憶がある。

【参考2】
中国湖北省産クルミ  2009.3追加
 中国の湖北省産のクルミである。たぶん、元祖テウチグルミであろうと思われる。薄皮の色がやや濃い。
ナガグルミ(信濃ぐるみ)   
Juglans mandshurica ssp. sieboldiana f. shinanoana
 →マンシュウグルミの品種群との意か
      ナガグルミ(信濃ぐるみ)の堅果
 写真は長野県産のシナノグルミとしているものであるが、ペルシャグルミやテウチグルミと識別する自信はない。栽培種についてそれぞれ系統が把握されているのかはわからないが、いずれにしもペルシャグルミ系3兄弟である。
   ナガグルミ(信濃ぐるみ)の堅果断面と種子
 採り上げたクルミ中では最も殻が薄く、薄皮が色白であった。 

 販売者:湯楽里館物産センター
     長野県東御市和3876番地
形態はオニグルミに似て、シナノクルミ:「シナノグルミ」に同じ。)ともいう。これが各地に普及植栽されている信濃胡桃(信濃グルミしなのぐるみしなのくるみ)である。【樹木大図説等】
大正初年アメリカより入った米国種フランケットとテウチグルミとの雑種と言われ、長野県農事試験場において主として改良した。【樹木大図説】
シナノグルミは長野県東信地方で生まれた軟殻グルミであり、テウチグルミとペルシャグルミの自然交雑から育ったものといわれ、雑種グルミの通称である。【林業技術者のための特用樹の知識:財団法人日本林業技術協会】
シナノグルミの日本での生産量の多くは長野県、とりわけ東御市で生産されている。
シナノグルミはテウチグルミに比較し、幼木の樹皮が灰白色で緑味が少なく、樹齢の経過とともに進行する黒味もうすく、樹皮の割れ目も浅めで少ない。核は鈴型ではなく楕円形、核の面が滑らかであり、割りやすく、果肉(子葉)も多い。実生繁殖を継続したシナノグルミは種々様々で銘柄の向上はかえって後退した。戦後東部町を中心に優良系シナノグルミの選抜が進み、神武景気といわれた昭和30年代にシナノグルミ優良系品種が選抜された。【林業技術者のための特用樹の知識:財団法人日本林業技術協会】
:長野県内でシナノグルミを販売しているある業者はその取扱商品について、「これは「しなのくるみ」と呼んでいる「カシグルミ」である」と説明していた。こうした慣用的な呼称を耳にするとまた頭が混乱してしまう。
ヒメグルミ
Juglans mandshurica Maxim. var. cordiformis (Makino) Kitamura
 →マンシュウグルミの変種とする考え方
Juglans ailantifolia var.cordiformis
 →オニグルミの変種とする考え方 
Juglans cordiformis Rehd.
Juglans subcordiformis Rehd.
Juglans cordiformis Max.
           ヒメグルミの堅果
 オニグルミに比べると表面は平滑である。
(都内某所産)
        ヒメグルミの堅果の断面 
 オニグルミと並んで味がよいとされる。オニグルミより実は取り出しやすい。 
日本特産。
核は圧扁された球形でお多福の面に似て心形。【樹木大図説】
このことから、オタフクグルミの名がある。
マンシュウグルミ
Juglans mandshurica Maximowicz.
 
 英名は Chinese walnut   
 満州、アムール、支那北部、朝鮮北部に分布。
 核は皮極めて厚くしわ深く多し、テウチクルミより小、鋭先頭。薄皮胡桃の台木とする。【樹木大図説】
 味の良いナッツを産するが、厚い殻に包まれていて普通のクルミに比べてナッツが小さく、経済栽培する価値はないと思われる。【Kew Gardens】  
        マンシュウグルミの堅果 
    森林総合研究所北海道支所展示品
 
ブラック・ウォルナット(クログルミ、黒グルミ、クロクルミ、黒クルミ)
Juglans nigra L.
          クログルミの堅果
         北大植物園展示品
       クログルミ(ニグラグルミ)の堅果
      森林総合研究所北海道支所展示品
 (Black Walnut )アメリカ東南部より中部に多く分布する。
   北アメリカに分布するクルミの一種で、樹皮と材とが黒っぽいのでクログルミの名がある。実は大きいがセイヨウグルミに比べると質は劣るし生産量も少ない。
 クルミ科の樹は概して材が滑らかで艶があるが、このクログルミもまた、材が美しいので家具などに用いられる。並木にも使われるが日本ではほとんど植えられていない。枝振りはやや荒々しい。【北大植物園】 
 
(注) クログルミの名は種小名の nigra (黒い)の翻訳に由来する。また、種小名をそのまま使って「ニグラグルミ」としている例がまれに見られるが、この呼称はほとんど使用されていない。
ブラック・ウォルナットはペルシャグルミの台木として使われる。非常に美味であるが、殻を割るのがかなり大変である。【カリフォルニアクルミ協会HP】
・   食べられるナッツを産するが、ナッツを殻から取り出しにくい点は悪名高く、食べるためには入念な準備が必要である。しかし、材の評価は高く、その心材は古くから家具、棺、銃の製造に利用されてきた。ブラックウォルナットと呼ばれるのは、材が暗色であることだけでなく、樹皮が暗褐色から黒色であることにもよる。【Kew Gardens】 
 果実よりも独特の色合いの材が美しいため評価が高く、高級家具材として使用されてきた。
Traditionally the dark colored wood was used for gun stocks, fencing, airplane propellers, and cabinetry. Today the high valued wood is utilized for some of the finest quality furniture. The large nuts produced by this tree are consumed by wildlife and humans.【USDA】
   
    堅果の中味についてはこちらを参照