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木の雑記帳 北米生まれの異形のクルミ
ブラックウォルナットの果実、堅果、そして材の個性
ブラックウォルナット(黒グルミ、単にウォルナットとも)といえば、格調高い濃い色調の高級材としてのイメージが定着していて、各種クラフト、小物類に多用されているのをよく目にする。その他、全く縁はないが、高級家具、さらには高級フローリングとしての利用例もあるという。ウォルナットであるからクルミ類であることは間違いないと理解するものの、現物の樹や果実を見る機会はないままであった。しかし、あるとき某所に植栽されているこの樹を運良く確認し、さらに頃合いを見計らって再訪したところ、幸いにも果実を数個拾うこともできた。この果実、見慣れたクルミとは全く様子が違っていて、久しぶりの心ときめく教材であった。【2011.12】 |
1 | ブラックウォルナット(黒グルミ)の概観 | |||||||||||||||||||||
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2 | ブラックウォルナット(黒グルミ)の果実と堅果 | |||||||||||||||||||||
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青い外果皮を剥がしにかかると、黄色い汁がポタポタと滴り落ちる。ゴム手袋なしの作業では、手は黄色に染まり、やがて茶褐色と化し、爪の中が真っ黒けになってしまう。多分、豊富なタンニンの仕業と思われる。 堅果は微細・複雑で深いしわのある殻が覆っていて、とてもこれがクルミの仲間とは思えない。この形状のため、外果皮のカスが非常に除去しにくい。コイアファイバーの亀の子束子でゴシゴシやることになった。.本当はさらに硬いカルカヤの束子の方がよかったのかもしれない。 作業後に手を見ると、特に活躍した親指と人差し指はブラックウォルナットの材の色と化してしまったことに気づいて、ため息をつく羽目になった。わずか3個のブラックウォルナット果実の外果皮によって、厳しい試練を受けてしまった。 こうして厄介な印象のあるこの外果皮であるが、サプリメントとしての利用実態があって、抽出液を液剤(チンキ剤)あるいはカプセルとした製品がふつうに輸入・販売されている。名称は「ブラックウォルナット(黒クルミ)のサプリメント」としていて、腸に対するキレイ効果≠うたっている。たぶん、主としてタンニンによる殺菌、収れん効果を期待したものと思われる。 |
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3 | ブラックウォルナット(黒グルミ)の材 米国産のブラックウォルナットは、西ヨーロッパから西アジアに産するヨーロピアンウォルナット European walnut , English walnut, Persian walnut , Circassian walnut (セイヨウグルミ、ペルシャグルミ Juglans regia )の代替材と見なされていたこともあったとされる。ヨーロピアンウォルナットは、ブラックウォルナットと同様に茶褐色で濃い茶色の縞が入った色合いが美しく、評価の高い材であるが、材の利用にふさわしい径の原木が不足し、高価で入手困難になっているという。 それぞれのウォルナットの高い評価の視点は美しい材色にあり、仮にこの材が淡色で縞模様もなければ、その材質特性のみが命となるから、現在のような評価は考えられない。 なお、米国には クラロウォルナット Claro Walnut (注:Claro は“bright” あるいは “clear”の意のスペイン語とされる。 )の名前で材が流通する同じクルミ属の ヒンズウォルナット Juglans hindsii (注:種小名の hindsii は英国の植物学者 Richard B. Hinds の名前に由来するもので、ヒンズー教とは関係ない。)が存在し、ヒンズブラックウォルナット Hinds' black walnut 又は ノザンカリフォルニアウォルナット Northern California walnut の呼称がある。この樹は、栽培目的のセイヨウグルミのつぎ木の台木として広く利用されていることで、経済的に重要なものとなっている。また、材の色はブラックウォルナットと同様で、さらにしばしばカーリー杢(波状杢)、クロッチ杢、バール杢(瘤杢)が現れる点も同様とされ、量的には多くないものの高級家具、ギター、ライフル銃床等にも利用されているという。 |
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ブラックウォルナットの豪華な家具やフローリングは高価で一般性がないが、材色と質感を楽しむのであれば、多様な木製品が用意されている。北海道旭川市の(株)ササキ工芸はウォルナット(ブラックウォルナット)を多用した実に多種多様な木製品、小物類を製造・販売していて、通販にも対応している。 直営販売店舗は製造拠点のある北海道旭川市のみで、札幌市にさえ店舗を持たなかったが、2011年9月に都内に進出した。場所は(株)ジェイアール東日本都市開発により、秋葉原駅と御徒町駅の間のガード下に登場した「ものづくり」をテーマにした街「2k540 AKI-OKA ARTISAN」の一画で、店の名は「NOCRA (ノクラ)」としている。ここには多数の面白い店が集合している。この街自体が2011年9月にオープンしたもので、2011年度の「コミュニティ・地域社会のデザイン」部門でグッドデザイン賞を受賞している。 |
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【材に関する説明の例】 | ||||||||||||||||||||||
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<参考:オニグルミの材> | ||||||||||||||||||||||
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4 | ウォルナットを名乗る非ウォルナット材 いつものことながら、ブラックウォルナットの材の評価が高いために、全く異なる材にウォルナットの名を勝手に借りて製品に命名するという好ましくない実態が見られる。 具体的には「アジアン・ウォルナット」の名の材がフローリング材として広く販売されている。中国で加工されているものが多いようである。海外でも Asian Walnut の表記が見られる。この正体は宣伝文を見ているうちに見えてきた。結論を先に記すと、
のいずれかのようである。商品の説明例は以下のとおりである。 |
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南方系の材を見て、果たしてどれだけの輸入・販売者が樹種を同定できるのか、よくわからない世界であるが、紛らわしい表記を意図的に採用することは明らかに誠実さに欠けている。なお、アジアンウォルナットの名前で流通している商品の写真を見ると、なかなかいい感じで、デパートの高級品を扱うコーナーのフローリングとしても使えそうな印象である。素性を明らかにして堂々と販売すべきであり、偽装的取り扱いは材が気の毒である。 | ||||||||||||||||||||||
<ロクファーに関する参考資料1> (「熱帯の有用樹種」より) ロクファーの名はシクンシ科(Combretaceae)ターミナリア(モモタマナ)属(Terminalia)の Terminanalia tomentosa のタイでの呼称である。本種はインド、ミャンマー、タイなどでは最も価値のある材として比較的高木となってよく生育している。材は淡褐色、赤褐色、ときに暗褐色の条斑がある。本種の国別の呼称は以下のとおり。 ・ インド: Laurel (Indian Laurel) ・ ミャンマー: Taukkyan , (Burma laurel) ・ タイ: Rok-far なお、ターミナリア(モモタマナ)属の樹種は約200種類あって、熱帯アジア、熱帯アフリカ、中南米や北オーストラリア、太平洋諸島に広く分布している。 |
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<ロクファーに関する参考資料2> 以下は英国の製品販売者による比較的詳しい説明の例である。 「ロクファーの名は一般にアジア産のウォルナット製床板を意味している。非常に美しく個性的な外観の材で、フローリングとして理想的である。ロクファーの色がアメリカ産のブラックウォルナットに似ていることから、しばしばアジア産のウォルナット製床板を指すところとなっている。ロクファーの木肌は非常に緻密・通直で、しばしばマホガニーやメルバオの外観と比較される。材は非常に美しく、木目が目立つ黒い縞模様がある。材がウォルナットに似ていて、より耐久性があって硬いことから、広くウォルナットの代わりに利用されている。」 【woodenfloors.uk.com(抄)】 |
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