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続々・樹の散歩道
  生活害虫としてのチャタテムシ
  コナチャタテの仲間の素顔


 ゲッケイジュツルグミの葉裏で見られたチャタテムシ(ヨツモンホソチャタテ)の卵から幼虫が孵化するのを観察し、この赤ちゃんは大きなつぶらな目を持っていて随分かわいいものだと感心したが、住宅内のチャタテムシ類となると事情が異なってくる。
 そもそもチャタテムシ目各科のチャタテムシ類は、本来は自然界に棲み、菌類を主な栄養源としている微小な昆虫とされるが、一部の種が人家に侵入するところとなって、いやーな生活害虫(家屋害虫、不快害虫)として嫌われることになったようである。住宅内では決して見たくないチャタテムシ類と思われる微小な虫が、何と余った薬を入れた小さな紙箱の隅でチョロチョロと動き回る姿を発見することになってしまった!!。 【2019.11】 
 ★ 別種のチャタテムシ(ヨツモンホソチャタテ)のかわいい顔の幼虫の様子はこちらを参照  


 紙箱の底の隅で見られたコナチャタテ科のチャタテムシの仲間と思われるものは以下のとおりであるが、ヒラタチャタテの可能性を感じるものの、種類を断定できないため、以下「コナチャタテ(粉茶柱虫)の仲間」と呼ぶことにする。  
 
 
              チャタテムシ・コナチャタテの仲間 A−1 (背面)
 コナチャタテ類の体長は1ミリ前後と微小で、動かなければ見逃すほどである。触角の基部付近から伸びた短い棍棒状のものは小顎肢である。 
 
             チャタテムシ・コナチャタテの仲間 A−2 (腹面)
 チビのくせに、後翅の腿節がむっちりと幅広で大きいのが印象的である。
 
 
       次の個体は上のものよりやや色が濃いが、成熟度の違いによるものと思われる。  
 
 
チャタテムシ・コナチャタテの仲間 B−1 (背面) 
 
           チャタテムシ・コナチャタテの仲間 B−2 (腹面) 
 口器はごちゃごちゃしてわかりにくいが、咀嚼式の構造とされる。顎を大きく開いて大胆に対象物を噛み砕くようなゴツイ形態ではないが、一部に穿孔性の種類も存在するらしい。 
 
 
 忌まわしいこの虫を発見することになった紙の小箱には穀類、穀物粉、その他乾燥食品等はまったく入っていない。ただし、箱の底の接合部分に不自然な汚れがわずかに見られたことから、箱の接着部分がとっかかりとなった印象がある。
 中国では特定のチャタテムシについて「紙箱虫」の名もあるという。今回の事例に照らすと、ピタリの呼称である!!
 ただし、チャタテムシが接着剤を直接食べるとは考えにくいから、これについてはあとで検討したい。

 チャタテムシ類は1ミリ前後の大きさであることがふつうとされるから、目がショボショボしていたら、その存在に気づかないことも多いと思われる。ただし、ときに屋内で大発生することもあるとされ、人体に直接の危害を及ぼすものではないとしても、想像しただけでもぞっとする。 
 
 
 生活害虫としてのチャタテムシ類の例   
     
   家屋害虫事典によれば、日本に分布し、生活害虫として認知度が高いチャタテムシ類は、以下の9種とされる。特にコナチャタテ類(コナチャタテ属)は一般の家庭内ではごくふつうの存在で、古い本のすき間(糊付け部分か?)にも見られるという。   
     
     生活害虫としてのチャタテムシ類(チャタテムシ目 Psocoptera)の例 (家屋害虫事典より)  
 亜目 科  属  種  学名 
コチャタテ亜目   コチャタテ科     コチャタテ  Trogium pulsatorium 
        ツヤコチャタテ  Lepinotus reticulatus 
コナチャタテ亜目       コナチャタテ科      コナチャタテ属      ヒラタチャタテ  Liposcelis bostrichophilus 
日本のコナチャタテ類の中で最も多い種とされる。
ウスグロチャタテ  Liposcelis corrodens 
カツブシチャタテ  Liposcelis entomophilus 
ソウメンチャタテ  Liposcelis kidderi 
コナチャタテ  Liposcelis simulans 
フトチャタテ科      トガリチャタテ  Tapinella africana 
チャタテムシ亜目  ヒメチャタテ科      ヒメチャタテ  Lachesilla pedicularia 
 
 
 先に触れたように、チャタテムシ目の各種は菌類を主な栄養源としているとのことである。しからば菌類以外には何を口にしているのであろうか?   
 
 チャタテムシの餌  
 
 チャタテムシに関するの総論で、に関して触れている情報例を以下に掲げてみる。個人的な関心の中心はカビ以外に何を食べるのかである。  
 
 
 チャタテムシの大部分は自然界に棲み、菌類を主な栄養源として生活している微小な昆虫である。
 チャタテムシの食物は菌類花粉その他微粉状の有機物である。ごく少数の種に肉食性のものがある【家屋害虫事典】
 一部の種が人家内に侵入し、主としてカビの生えたところに発生し、カビの生えやすい食品にも見られることが多い。【家屋害虫事典】 
 チャタテムシは、野外では日陰の葉、樹枝、岩、落葉上などにすみ、陸生藻類菌類を食べる。樹木の葉上に落下したアブラムシの排出物(甘露)に生えたカビを食べに集まる種類も多く、これらはすす病などを媒介する。
 室内にはヒラタチャタテなど無翅のものが比較的多く、書物ののり穀粉動植物の乾物などを食べている。【世界大百科事典】 
 多くのチャタテムシは木の幹や岩の表面で、カビ地衣類を食べて生活している。 【チャタテムシの生物学 吉澤和徳】
 コナチャタテ属のチャタテムシ類が発生する場所は多様で、押し入れ、木製家具、ダンボール箱、枕(ソバ殻の枕にはよく大発生する。)、畳、革製品、書籍、動植物標本、生薬、貯蔵食品(穀粒、穀粉、乾麺、鰹節、煮干し、乾椎茸、菓子、チーズ、その他)などで、これらの物品の表面に発生するカビを主として食しているが、穀粉や細粉状の食品の破片なども食し、他の害虫の加害によって劣化した食品によく発生する。
 コナチャタテ類は屋内でいろいろな貯蔵食品類に発生するが、食するものは主としてこれらに発生するカビ類であって、食品が直接コナチャタテ類に食害されて大きな被害を生ずることは通常ない。【家屋害虫事典】 
 ヒラタチャタテ本ののりをかじるので booklice とも呼ばれる。【世界大百科事典】 
 成虫・幼虫ともカビ動植物質の細片を食べ、やや湿度の高い環境を好みます。
 乾燥食品につくこともありますが、食品をボロボロにすることはありません。【東京都福祉保健局】
 チャタテムシ類は雑食性で植物片花粉昆虫の卵なども食べますが、特にカビ類酵母などを好んで食べます。 動植物標本貯蔵食品などを食害する害虫としても知られています。古い紙や糊も食べるため書籍からも発生するほか、湿度が高い部屋では壁紙の糊から多数発生することがあります。【イカリ消毒】  
 チャタテムシ類は主にカビなどの菌類と、穀粉(動物飼料など)フケ紙類に使用された糊類剥落した皮膚などの有機物も食べます。【丸三製薬バイオテック(株) 
 
 
 以上を集約すると、屋内外のカビ(菌類)を主体として、有機物(植物系・動物系)の微粉、砕片等も食べているという見解(認識)である。

 ただし、様々な記述(たぶん寄せ集め情報と思われる。)が見られるが、小さな虫であるから、何らかのものを本当に直接食べているのか、あるいはそれに付着した菌類を食べているのか、個々に厳密な見極めが本当にできているのかについては、少々怪しさを感じてしまう。

 この点に関して一部で表現が曖昧で、誤解を招きやすいのはものによって「食べる」とする表現以外に「○○を食害する」あるいは「発生する」と表現しているケースである。これはチャタテムシが直接食べているのか、発生したカビを食べるチャタテムシがそこで多数発生した状態を指しているのか非常にわかりにくい。

 さらに、特に本の糊に関してであるが、これを明確に「食べる(かじる)」としている例がしばしば見られる。書籍で見られるコナチャタテ類が書籍の製本接着剤をガリガリ食べるなどということは、にわかには信じ難い。

 そもそも製本の接着剤は、古くは天然系(植物性又は動物性)であったであろうから、湿度の高い条件下ではこれにカビが生じる可能性があり、コナチャタテ類がこのカビをパクパク食べたかも知れないが、既に合成樹脂系の接着剤にほとんど転換しているから、コナチャタテがこれを直接食べることなど全く考えられない。したがって、一般論としてチャタテムシが単に本の糊を食べるとする表現は、改めるべきであろう。

 チャタテムシは湿気た段ボールでも見られることが広く知られている。これは、段ボールの製造に際して、中芯とライナーを貼り合わせるのに植物系のコーンスターチ原料の接着剤が使用されていることに原因があると思われる。この接着剤が高温多湿下でカビを誘引し、紙部分にも及んでチャタテムシを招いているのではないだろうか。

 また、(本の)紙も食べるとしている例もあるが、あくまで、紙に発生したカビを食べるものと思われる。カビの発生により、紙質が劣化した状態を見て、紙が食べられたものと誤解している可能性を感じる。付け加えると、工業的な紙の製造に際しては澱粉がふつうに添加されているから、これがカビの発生に貢献している可能性もある。

 そこで、bookliceadhesive(glue) の語を検索して、英語サイトの関係情報をのぞいてみると、チャタテムシと紙、接着剤に関する研究も見られるものの、残念ながらまだ知見が十分ではないようである。

 なお、和紙の古文書をトンネル状に穿孔するのはフルホンシバンムシとされている。たぶん幼虫がむしゃむしゃ食べるのであろう。和紙づくりでは繊維を均質に分散させるためにトロロアオイノリウツギの粘液をネリとして利用してきたが、これがフルホンシバンムシにとって食味がより向上する添加物として機能している可能性を感じる。

 さらについでながら、紙の毛羽や粉を好む虫として一般に知られているのはヤマトシミで、この虫は本に穴を開けるこようなとはないようである。