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続・樹の散歩道
 コブシの花芽のストリップショー
 恥ずかしがるコブシの花芽の毛皮を無理やり脱がしていくと・・・


 まだ肌寒い時期にフサフサとした毛に覆われたコブシの花芽が次第に膨らんでくると、徐々にではあるが春が近づいていることを実感することが得きる。国内の公園、庭園、市街地の緑化木や街路樹として広く植栽されているコブシであるが、開花時には昔から花のすぐ下に小さな葉をつけるのが特徴で、時にもったいぶってこれがコブシの識別ポイントであると講釈されることもある。自分でも花の直下に葉をつけた状態のいかにもコブシらしいわかりやすい写真を撮るために一生懸命に条件に適合する花を探したことがあった。この際に、必ずしも全部の花が葉をつけているようでもないと感じてはいたが、まあ、コブシにもいろいろ事情があるのであろうと、深くは考えないままとなっていた。しかし、ふとこのことを思い出し、コブシの花芽を解剖して、特に葉がどんな具合に収まっているのかを確認してみることにした。 【2017.8】 


 コブシのある風景  
 
           市街地のコブシ
 株立ち状の大きなコブシで、花の時期にはよく目立つ
 (みずほ銀行内幸町本部ビル)。Magnolia kobus
            ベニコブシ
  コブシの栽培品種で、シデコブシの紅色品種に対してもこの名がある。Magnolia kobus 'Rosea'
   
   
            キタコブシ(北海道)
 キタコブシ Magnolia kobus var. borealis はコブシの北方系品種とされ、葉、花ともコブシより大形。 
     キタコブシの大径木の樹幹(北海道)
  北海道では大径木が多く見られる。
 
     
 コブシの花芽をよーく観察してみると・・・  
 
 図鑑を見れば、おおよそのことがわかり、よき道案内となるが、さらに詳しいことを知りたくても図鑑としての制約があってもどかしい思いをすることになるのは仕方がないことである。また、その記述内容は、しばしば権威ある図鑑の内容が踏襲されていることが多く、必ずしもすべてにわたって検証されているわけでもないから、そのまま受け止めると変な思い込みをしたままで一生を終える恐れがある。

 そこで、ごく身近なありふれた樹種であるコブシの花芽であるが、これを教材として少々調達してバラバラに解剖し、自らの目でよーく見てみた。
 
 
:   花芽のフサフサとした毛の帽子の由来は2個の托葉が合着したもの、あるいは托葉の変化したものと表現されていて(要は葉の変化したものということである。)、グレードの高い図鑑ではこの帽子をあくまで「托葉」としているが、一般的な図鑑では「芽鱗」と呼んでいる。しかしながら、鱗状に多数ついているわけでもなく、さらに、その脱落した跡(痕)を「托葉痕」と呼んでいることも用語としての一貫性がなくて印象がよくないし馴染めない。 そこで、ここでは素直に「毛皮のコート」と呼ぶことにする。
 
 
(1)  コブシの毛皮のコートを脱がすと何が見られるのか  
 
   最も外側の毛皮のコートは特に厚味があり、いかにも保温効果がありそうである。この毛皮コートを脱がした場合に見られるものは、意外やワンパターンではなく、次の写真の例で示すような姿であった。   
 :何もなしという例は確認していいない。  
   開花期の花芽の外観及び毛皮のコートを1枚だけ剥がした場合の中の様子   
  コブシの花芽の外観
 コブシの花芽はふかふかの毛で覆われていて、思わず触りたくなる。
  毛皮のコートを1枚剥
  がしたときの様子

 主脈で折り畳まれた葉を1枚基部につけている場合 
  毛皮のコートを1枚剥
  がしたときの様子

 毛に覆われた袋状の芽鱗 に包まれた葉芽を基部につけている場合
★このケースではさらに毛皮のコートを剥がしても裸の葉は現れない。 
 毛皮のコートを1枚剥
 がしたときの様子

 1枚の葉と葉芽の両方を基部につけている場合 
 
 
 つまり、コブシは開花時期に必ず花の直下に小さな葉をつけるというわけでもないということである。「コブシは開花と同時に小型の葉が1個顔を出す。」といった図鑑での表現について、コブシ自身は随分迷惑していることであろう。

 ということで、花芽によって様々であり、さらにその内側のやや薄手の毛皮のコートを脱がしていくと、中味の構成は一様ではないことがわかる。これを整理すると以下のようであった。
 
 
@  毛皮のコートは通常2枚重ねに着ていることが多いが、3枚重ねに着ていることも少なくない。まれに4枚重ねで毛皮のコートを着ているものも見られた。 
A  咲いた花の直下で見られる1枚の葉は、通常花芽の毛皮のコートを1枚脱がすとその姿を現す。つまり、2枚の毛皮のコートとの間に収まっている。また、その葉は律儀にも必ず主脈で折り畳まれた状態となっている。 
B  この1枚の葉は個々の花芽に必ず内蔵されているものではなく、見た範囲では半数ほどの花芽での存在に止まっていた。つまり、開花時に葉を下につけない花がふつうに存在するということである。 
C  また、しばしば2枚目の毛皮のコートの下にも小さな葉が収まっているものが見られた。 
D  小さな単独の葉とは別に、毛に覆われた小さな袋状の芽鱗に包まれた葉芽が1〜3個、1〜3枚目のいずれかの毛皮のコートの下に収まっていた。 
E  この毛皮の袋に包まれた葉芽は、喩えればマトリョーシカ人形のような構造で、その袋を破ると折り畳まれた1枚の葉と毛皮の袋に包まれた葉芽が現れ、さらにこの葉芽の袋を破るとまたしても折り畳まれた1枚の葉と毛皮に包まれた葉芽が現れた。 
F  花芽の中の毛皮袋の葉芽は、花後に葉をつけた短枝を伸ばす。(追って確認)
G  調べた範囲では、花芽の中に葉又は葉芽(毛皮袋の葉芽)のいずれも内蔵していないものは見られなかった。  
 
 
(2)  結果として目にする花の様子    
     
 
     葉を1枚つけたコブシの花 
 図鑑の影響で、これがコブシの開花時の当然の姿と一般に信じられている。
   葉を2枚つけたコブシの花
 よく見れば、こうしたものも珍しくはない。
  葉をつけていないコブシの花
 これもふつうのコブシの花の姿である。3個の萼片と1個の袋状の芽鱗に包まれた葉芽が見られる。
 
     
(3)  開花期のコブシの花芽の解剖(事例)   
     
   花芽の構成要素は一様ではないが、次の連続写真は比較的シンプルな花芽の例である。   
     
 
  A 1枚目の毛皮のコートが剥が   れかけた状態 
 花芽の基部には1〜2個の葉芽(腋芽)が密着していることがある。
  B 1枚目の毛皮のコートを剥が
  した状態

 折り畳まれた1枚の葉が現れた。
  C 2枚目の毛皮のコートを剥
  がした状態

 袋状の芽鱗に包まれた葉芽が現れた。  
     
  D 3枚目の毛皮のコートを剥が
  した状態

 やっと小さな萼片(3個)と閉じた花弁(6個)が姿を現した。 
   E 3個の萼片と6個の花弁を
  取り去った状態

 花床についた未成熟の多数の雄しべが現れた。 
   F 雄しべを取り去った状態
 花床についた未成熟の多数の雌しべが恥ずかしそうに姿を現した。 
 
     
   なお、花芽の中の葉のなかには、その托葉である毛皮のコートの基部よりやや上に着生しているものが一部に見られたが、開花時に托葉のコートが脱落すれば、その際に葉も一緒に落ちてしまうような印象があったが、この顛末は確認できていない。   
     
   次の写真は開花期のコブシの花芽を解剖した例である。   
 
 
                      コブシの花芽の解剖写真例
 この花芽では1枚目の毛皮コートの下に1個の折り畳まれた葉と1個の葉芽が収まっていた。
 
 次の写真は、単独で存在していた花芽の中の毛皮の袋に包まれた葉芽(腋芽)を解剖したものである。 
                       花芽の葉芽の解剖写真
 毛皮袋に包まれた葉芽は、まるでマトリョーシカ人形のような構造で(前述)、きりがない印象である。
 
毛皮袋は次の葉と葉芽を保護している托葉と理解されるが、写真左の毛皮袋はどの葉との関係において托葉と位置付けられると理解すればよいのであろうか? この点はよくわからない。

 
この芽は花後に短枝となって内蔵する葉を原資として葉を数枚つけることを後ほど確認した。

 参考図書を見ると、葉芽の構造は樹種により色々あるようである。
 
     
(4)  コブシの花芽の構成事例(最外層の毛皮コートから花弁まで)   
     
   コブシの花芽の構成要素が一様ではないことを確認したが、色々のパターンが見られたことから、以下にその事例を表に整理してみた。(サンプルは複数の個体から採取した。)  
     
 
サンプルNO 毛皮コートNO.1 折り畳まれた葉A 葉芽A 毛皮コートNO.2 折り畳まれた葉B 葉芽B 毛皮コートNO.3 葉芽C 毛皮コートNO.4 萼片 花弁
1 3 6
2 3 6
3 3 6
4 3 6
5 3 6
6 3 6
7 3 6
8 2 7
9 3 6
10 3 6
11 3 6
12 なし 9
13 3 6
14 3 6
15 3 6
16 3 6
17 3 6
18
極小
3 6
19 3 6
20 3 6
 
 
注1: サンプルNO.8 の萼片を2個としているのは、萼片の1つが花弁と同大であることによる。 
注2: サンプルNO.12 の萼片を「なし」としているのは、萼片が花弁と同大で区別できない状態であったことによる。 
 
     
    以上を整理した後に、身近にあった1本のコブシが開花するのを待ち、樹を下から見上げて目の届く範囲で花の下の葉をチェックしてみた。

 すると、何ということでしょう!ほとんどの花の下に葉がついていたのである!

  そこで、別の場所の個体について同様に見てみた。すると、

 今度は葉のない花が多く見られたのである。
 ということは、この件については個体差があるのであろうか?

 
個体別にサンプルを整理しなかったため、とりあえずははっきりしない。


  この件については、別途ある情報を目にした。 → 最後の「参考情報」を参照  
 
     
   ところで、花と葉が一緒に収まった芽は「混芽(こんが)」と呼んでいて、タブノキニワトコで見られることが知られている。コブシの場合は一般的には花芽と葉芽を別々につけるものとして認識されているが、花芽の葉や内蔵された葉芽に着目すれば混芽の類と言えなくもない。そこで調べてみると、積極的にこれが混芽であるとしている例は少ないが、「写真で見る植物用語」「コブシの頂芽は混芽で、花が終わったシュートからは新しい葉と枝が出てくる」としているのを目にすることができた。

 一方、「冬芽と環境(北驫ル)」ではモクレン属で、混芽が見られるのはマグノリア亜属の例えばホオノキヒメタイサンボクオオバオオヤマレンゲタイサンボク(本種ではすべての芽が混芽というわけではない。)としていて、混芽では芽の中の普通葉が先に展開し、その腋芽が伸張し始めた後に開花するとしている。

 タブノキやニワトコでは、巨大な混芽から複数の花序軸とシュートを出すのと比べると、コブシの場合は少々印象が異なっている。この辺のことから、たぶんいろいろな見解があるのであろう。 
 
     
  <参考:タブノキとニワトコの大きな混芽の爆発&洛i>   
     
 
     
 コブシの花芽(左)と葉芽(右)  タブノキの混芽の爆発風景  ニワトコの混芽の爆発風景
 
     
3   今度は念のためにコブシの葉芽をよーく観察すると・・・   
     
   当初の予定では、コブシの花芽だけに関心があって、コブシの葉芽を解剖することなど全く考えていなかったが、花芽の中から葉芽が登場したことから、本家の葉芽にも目を向けざるを得なくなってしまった。  
 
(1)  コブシの葉芽の解剖事例   
 
   コブシの小さな葉芽の毛皮のコート(芽鱗、托葉由来の毛皮の帽子)を1枚ずつ剥がした場合の姿は以下のとおりである。   
 
 A コブシの葉芽  B 毛皮を1枚剥ぎ取り C 2枚目の毛皮を剥ぎ取り 
     
 ・・・・・
D 3枚目の毛皮を剥ぎ取り  E 4枚目の毛皮を剥ぎ取り   
 
     
   花芽の中の葉芽(毛皮袋に包まれた葉芽)と同様に、毛皮を1枚剥ぎ取ると折り畳まれた1枚の葉と毛皮のコートを着た葉芽が登場し、以下これの繰り返しとなることを確認した。 つまりマトリョーシカ人形状態である。

 結局のところ、花芽の中の葉芽を包む毛皮の袋葉芽の毛皮のコートと同様に、中の葉並びにさらに小さい段階の葉及び葉芽のセットを保護するための托葉由来の器官と理解される。

 なお、コブシの葉芽は小さくて観察しにくいが、ホオノキの大きな花芽や葉芽を観察すると、これらから輪生状(正確には互生)に広がる大きな葉もマトリョーシカ人形状に重なったツルッとした托葉のキャップの間に1枚ずつ収まっている模様である。
 
     
(2)  そもそも葉がこのように展開する方式には一般性があるのか    
     
   次々と出る葉が、それぞれ托葉由来の保護カバーにキッチリと覆われている例はモクレン科樹種ですべて共通しているのかは確認できない。こういった観点での一般論を目にしないからである。

 また、春先に芽吹く木々の中に、大きめのペラペラとした托葉を多数垂れ下げている姿ををしばしば目にする。例えばスダジイ、マテバシイ、アカガシなどである。葉の展開時に見られるこうした托葉は間もなく脱落するが、冬芽の段階で仕込まれていたものと思われる。こうした場合、1枚1枚の葉の展開に際して托葉が次に開く葉をキッチリと完全にカバーする構造になっているのかは目で確認しにくく、このプロセスに関する研究者の見解を是非とも聞きたいものである。

 ただし、目にした中ではアコウは白くて薄い托葉が以降に展開する葉を完全にカバーしているように見えた。また、インドゴムノキは托葉が以降に展開する葉を個々に完璧にカバーしているのを目で確認することができた。アコウもインドゴムノキもクワ科イチジク属の樹種で、とりわけ、インドゴムノキの展開直前の赤くて目立つ冬芽は、ホオノキの冬芽が小さく見えるほどの巨大さで、20センチ〜30センチもあり、教材としては最適であった。 
 
     
 
 
            アコウの大きな托葉
 アコウの托葉はフニャフニャのペラペラであるが、次の葉を完全に覆っていたことがわかる。
          インドゴムノキの大きな托葉
 インドゴムの托葉と内側の葉を順に剥いて並べたもので、最外層の托葉は赤橙色で特徴的である。右端の小さな先端は托葉に包まれた芽で、成長しないと解剖が困難であった。
 
     
 托葉痕が物語るストリップティーズの遍歴    
     
   モクレン属では、托葉(芽鱗)が脱落した跡には環状の托葉痕を枝に残すため、托葉が落ちた遍歴、すなわち毎年の托葉が落ちた経過を目で確認することができるはずである。まずは、花芽では先の学習の結果、托葉痕は開花に際して1〜4個形成されることがわかっており、このことを念頭に置いた上で、改めてコブシの花後の基部をよーく見ると・・・・・・

 托葉痕の間隔はつまった状態にあるところとやや広めの状態にあるところが確認できるのであるが、いくら目を凝らして見ても、開花期を基準とした托葉痕の形成サイクルは何だかよくわからない。残念ながら、庭先にコブシの木がある条件下で、継続的に観察しないとダメであることを痛感した。
 
     
 
 
花芽がついた枝の托葉痕(花後) 
 
 
 葉芽がついた枝の托葉痕(葉は展開中)
 
     
   ところで、托葉の脱落に関連して、開花期より前に脱落するものがあるのか否か気になったことから、 情報収集をしてみると、「冬芽と環境(北驫ル)」コブシの花芽に関して次のような観察結果が記述されていた。

 「コブシでは冬芽形成時から開花直前まで第1芽鱗は脱落せず花芽を包むが、その葉身はごく小さくて6月下旬〜7月上旬には脱落した。」

 これが本当なのであれば、コブシの場合は花芽が開花期に毛皮を脱ぎ捨てる行為は、まさしく初めてのストリップティーズであったということになる。そして、花芽の直下で見られる托葉痕は前年の花芽の最も内側の托葉(開花時期最後の托葉)が脱落した痕跡ということになる。(→ 実際には、追って夏期に観察したところ、そうではないことが確認された。後述する。

 ところで、このこととは別に、「第1芽鱗についた小さな葉身が夏に脱落した」としている点は、全く認識のないことである。つまり、コブシの花芽は夏期に芽鱗についた小さな葉を落とすというのである。この点については開花期の花芽でその痕跡を確認するとともに、改めて夏期に脱落する前の葉身を確認する必要がある。 
 
     
5   コブシの花芽や葉芽の基部で見られる葉身の脱落痕について   
     
      コブシの花芽で見られる小さな葉身の脱落痕と思われるもの  
 
  コブシ花芽の葉身の脱落痕 1
 葉身がついていれば、毛皮のコートはその葉の托葉である。
  コブシ花芽の葉身の脱落痕 2
  コブシ花芽の葉身の脱落痕 3
 脱落痕の下方は合着した葉柄に見えなくもない。毛皮のコートはこの葉の托葉という関係にあり、脱落痕の部分(と反対側)で裂けて、托葉っぽい形態を見せる。
 
     
   花芽の最外層の毛皮のコートに小さな葉身が存在する時期があるとすると、葉芽についても気になることから、念のために葉芽の最外層の毛皮のコートもよーく見たところ、何とこちらにも葉身の脱落痕らしきものが見られた。    
     
        コブシの葉芽で見られる小さな葉身の脱落痕と思われるもの  
 
 コブシ葉芽の葉身の脱落痕 1  コブシ葉芽の葉身の脱落痕 2  コブシ葉芽の葉身の脱落痕 3
 
     
    そこで、6月中旬時点で形成されていた冬芽(花芽)を観察したところ、何とこの時期に托葉毛皮のコート(毛はやや薄い)を1枚脱ぎ捨てていることを確認した。つまり、先に参照した書籍の記述の前段は正確ではなく、コブシの冬芽は開花前年の夏に托葉のコートを1枚脱ぎ捨てていた。併せて、その下の脱落寸前の小さな用をなさない葉身も確認することができた。葉芽についても同様である。これらは全く認識のなかったことであった。   
     
      夏期に脱落した托葉と不完全な葉身の様子 (以下の写真は色々な段階にある花芽を並べたもの)  
 
   托葉に包まれた冬芽
 托葉の毛は少ない。
   割れ始めた托葉
 小さな葉身は脱落して托葉の内側にあると思われる。 
   脱落前の小さな葉身
 葉身は発育不良の枯れ葉状で二つ折りとなっていて、簡単に脱落する。退化した葉身と解される。
   仕上がった冬芽
 この姿で冬越しとなるものと思われる。葉身の脱落痕を残している。 
 
     
 
 夏期に托葉とその内側にある発育不良の葉身が脱落することを確認したが、脱落前の托葉をよーく見ると、これにも葉身の脱落痕があることを確認した。これではきりがないような印象で、冬芽形成の初期からキッチリ観察しないとここに至るプロセスが正確にはわからない。(葉芽も同様と思われる。)
 この点については先送りである。   
   脱落前の托葉で見られた葉身の脱落痕
 
     
6   コブシの花芽と葉芽のその後の挙動    
     
   コブシの葉については

 A 単独の頂芽の葉芽に由来するもの
 B 葉芽及び花芽のつく枝の腋芽に由来するもの
 C 花芽の毛皮のコート直下に収まった葉に由来するもの
 D 花芽の中の毛皮の袋に包まれた葉芽(腋芽)に由来するもの


 を目にすることができることになる。

 このうち、A、B、D の属性、挙動は共通していて、葉は形成されたシュートに着生する。
 しかし、は単体の葉を1枚〜2枚ペラリとつけるもので、先に触れたようにこれを欠く花芽も普通に存在する。
 
 時に毛皮のコート直下で托葉の基部よりやや上に折り畳まれた葉が着生していることがあり、これは葉柄が托葉と合着した状態と思われ、ホオノキで見られるものと同様のパターンと思われる。この場合の葉は遅くとも托葉の脱落時には、一緒に落ちてしまうと思われる。
 
     
7   コブシの冬芽に関する参考情報   
     
   花芽、葉芽の構造やその挙動は植物の基礎シリーズであるように思われるが、案外得られる情報が少ない。
 こうした中で、先にも触れた書籍「冬芽と環境」(平成26年12月20日 北驫ル)に、植物観察グループによる冬芽の観察報告が掲載されている。この中でモクレン属も採り上げていて、その要旨を紹介すると以下のとおりである。 
 
     
 
モクレン属の冬芽 「冬芽と環境」より(抄)

@花芽:

A型花芽(分類のためのここだけでの仮称)

長く伸びた前年枝の茎頂につき、樹冠表面に多い。この花芽の特徴は、托葉由来の芽鱗が1個のみ(本文では最内部の托葉を「苞葉」として別扱いしているため、これを2個と表現することもできる。)で、しばしば芽腋を抱くことで、開花が早い。
(*苞葉とは、ここでは、最内部の芽鱗を指し、長毛に覆われた薄い膜で、花葉以下を包み腋芽を抱くことはない。)
この花芽は、モクレン同様コブシ、シデコブシ、タイサンボクでも観察された。

B型花芽(分類のためのここだけでの仮称)

短枝状の側枝の先端につき、卵形で、A型に比べて小さく、樹冠内部に多数見られる
この花芽は、托葉由来の芽鱗がA型より2個多いこと、芽鱗に伴う2枚目と3枚目の葉身が展葉し、芽鱗脱落後も着生し続け、その寿命や機能が普通葉とほぼ等しいことなどが大きな特徴である。
A、B両型がモクレン同様コブシ、シデコブシでも1個体中に普通に混在する。

C型花芽(分類のためのここだけでの仮称)

この花芽はハクモクレン、タムシバにおいて認められた。
芽を包む3〜4個の芽鱗が存在するが、越冬期間中未熟な葉身とともに次々に脱落してしまう。

コブシの花芽はA型とB型がみられ、B型の方が3倍くらい多い。冬芽形成時から開花直前まで第1芽鱗は脱落せず花芽を包むが(注:この芽鱗を包む芽鱗が夏期に脱落する)、その葉身はごく小さくて6月下旬〜7月上旬には脱落した
先に開花するのはA型。これより数日遅れて開花するB型の特徴は、開花時に芽鱗の葉身(芽鱗を伴う葉身)が宿存していることである。(注:花の下に葉がついているタイプのことを指しているもの。)

A混芽:

混芽は芽中に普通葉と花の原基を含み、花芽の一型と扱われることもある。マグノリア亜属の種群でみられ、芽に含まれる普通葉が展葉し、その腋芽が伸張しはじめた後に開花する。
マグノリア亜属のホオノキ、ヒメタイサンボク、オオヤマレンゲ、タイサンボク(A型と混在)で見られる。


B葉芽:

葉芽は短毛に暗褐色の1個の芽鱗に包まれ、芽吹き時には葉身と托葉を順次開きながら茎を伸ばす。数年間の栄養成長を繰り返した後、茎頂に花芽を形成することが多くの枝で観察される。 
 
     
   上記内容が普遍性があって、整理の仕方として客観的・妥当なものであるのかはわからないが、この手の地道な観察データは多くないようであるから、さらに知見が集積されて、総論としての見解が定着したものとなることを期待したいところである。     
     
8   おまけ   
     
   人はコブシの開花を喜ぶが、大食漢のヒヨドリはつぼみが大きく膨らんだ状態を迎えると大喜びである。何と、ヒヨドリはコブシの花のつぼみを食べてしまうのである。ヒヨドリがサクラの花を目にしてメジロと争うように花の蜜を行儀よくなめている風景は普通に見かけるが、つぼみを食べてしまうとはけしからんことであり、悪いことを覚えたものである。と言いつつも、自分も花芽を教材として採取させてもらっているから、あまり強いことは言いにくい。   
     
 
      コブシのつぼみを食べるヒヨドリ 1
 花芽の毛皮のコートは食感が悪いのか、中の花弁をほじって食べる。細い枝に根性でしがみついている。
     コブシのつぼみを食べるヒヨドリ 2 
 花芽をほじった成果品をくちばしにくわえており、一方花芽は無残な姿となっている。