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続・樹の散歩道
  レンジで切り餅


 切り餅が特定の時期のものではなくなり、通年的に販売されるようになったことに加えて、特に個包装となって常温での高い保存性が魅力となって以降は、切り餅を正に通年的に愛用している。さらに電子レンジの利用のための簡便なプレートがあって、オーブントースターを使うよりもはるかに迅速で、なおかつ節電も可能となり、益々魅力的になったこの伝統的な食品に対する依存度が高まってしまった。こうして、切り餅を頻繁に購入することから、この商品が原料の違いにより随分価格差があることを認識しつつも、どうしても日常用は低価格製品に偏り、大手有名メーカーの製品は特売の時だけの購入に限られている。こうした経験を通じて、製品によっていろいろな面で違いが生じることについては、それなりに気づいていた。 【2016.1】 


 オーブントースターを利用した場合の様子  
 
 越後製菓の例のサイドスリットに関しては、この特許を大胆不敵にも堂々とパクッた佐藤食品が訴訟で完璧に叩きのめされた経過があって、野次馬は随分楽しむことができた。

 サイドスリット入りの製品とスリットなしの製品を並べて焼いてみたが、写真では、どちらも同じように中味が吹き出しており、残念ながらサイドスリットの効果はここでは発揮されていない。 

 統計的にどうなのかは確認していない。
          焼き餅の吹き出しの様子
 左が日本もち株式会社の「純切り餅」、右が越後製菓株式会社の「越後生一番きりもち」(サイドスリット入り)
 
 
 
 オーブントースターで焼くのは従来からの一般的な方法であるが、以下のような長所と短所が確認できる。  
 
(1)  長所  
     
 オーブントースターでもちを焼くことのメリットは、何と言ってもきつね色に表面が焼けたときの香ばしい匂いがたまらなくよく、カリッとした食感も実に魅力的である。火鉢の炭火で焼く状態に近く、本来の姿とも言える。  
 
(2)  短所  
 
 焼き網が格子状の場合に、もちの腹から吹き出した一部が格子の間から垂れ下がり、最悪の場合はヒーターを直撃して、ひどく汚す場合がある。
 焼き網がメッシュ状の場合は、吹き出したもちの一部が編み目にからみついて、簡単に除去できない状態になって、頭を抱えることがある。こうなったら、何度も使っている間に炭化するのを待つしかない。
 以上のような不都合は、激安の切り餅で特に激烈に見られたような記憶がある。全くの想像であるが、でんぷんの混入比率を非常に高めたか、含水率を高めて安上がりとした弊害のような気がする。

 なお、気づきの点であるが、サーモスタットによる過熱防止機能があって、ヒーターのオン・オフを繰り返すタイプのオーブントースターでは、結果としてきつね色の焼き色がつきにくいようである。
 
 
 電子レンジを利用した場合の様子  
 
           電子レンジ用プレート
 製品名:多機能プレート 「パン粉ともち」
 材質:ポリプロピレン(サナダ精工株式会社製)
 表面のザラザラと穴のお陰で、生パン粉も作れるという説明書きがある。
            加熱した切り餅の様子
 面白いように真ん丸に膨らんだ姿は、愛おしくなるほどである。焼き餅固有の香ばしさは得られないが、お手軽さはクセになる。ただし、油断をするとトレーから転がり落ちて、ターンテーブルにくっついてしまうから、要注意である。
 
 
 原料・組成の違いに由来して、加熱に要する時間の差が生じる可能性を感じたことから、7種の製品について、原料を確認の上で、まん丸に膨らむまでの加熱時間を較べてみた。さらに、加熱プレートからの剥がしやすさと仕上がりの柔らかさについてもおおよその様子を感覚的に確認した。  
     
(1)  サンプルとした製品の概要及び試験結果  
 
 
越後生一番きりもち
 (国内産もち米100%)
 800g ¥458+税 (スーパー特売品)
 *お馴染みのサイドスリット入り
 *個包装単位に小さな脱酸素剤が封入されている。
 製造者:越後製菓株式会社
      新潟県長岡市呉服町1-4-5
 70秒 腰のある仕上がり。剥がれは良好。 
サトウの切り餅
 (水稲もち米・国内産100%)
 1kg  ¥498+税 (スーパー特売品)
 *お馴染みの十字スリット入り
 製造者:佐藤食品工業株式会社 新潟市東区宝町13-5
 70秒 柔らかめの仕上がり。剥がれは良好。 
杵つき福ふく餅
 (国内産水稲もち米100%使用)
 1kg ¥570+税
 *餅表面はツルツルで、水をよくはじく。
 製造者:マルシン食品株式会社 新潟市西区寺尾2-9-39
  80秒 表面がわずかに固めの皮状となる。 全体がやや固めの感あり。剥がれは良好。 
越後の杵つき餅
 (国内産水稲もち米100%使用)
 1kg ¥495+税 (ドンキホーテの企画商品)   
 販売者:有限会社花福
      新潟市西区寺尾2-9-39
 70秒 コシのある仕上がり。剥がれは良好。 
プロ仕様 生切り餅
 (水稲もち米粉・加工でんぷん・PH調整剤(醸造酢)
 *「加工でんぷん」はもち米から作られたものとしている。
 1kg ¥400+税 (ハナマサ扱い)
 製造者:(株)まるほ食品 東京都足立区舎人5-18-32
 *「独自の製法でもち米の粘り、コシ、風味を生かしました。鍋物、お雑煮にも煮崩れがしにくい切り餅です。」と表示。
 70秒 柔らかめの仕上がり。 剥がれは良好。
純切り餅
 (もち米粉調整品(もち米粉)、加工でんぷん、PH調整剤)
 *「加工でんぷん」はもち米から作られたものとしている。
 1kg 税込み ¥431
 販売者:日本もち株式会社
      埼玉県越谷市蒲生旭町3-4
*「独自製法でこしとねばりが強いお餅をつくりあげました。」としている。
 70秒 柔らかめの仕上がり。剥がれは良好。 
きねつき生もち
 (水稲もち米粉(タイ産)、食酢、食塩 、加工でん粉、貝カルシウム) 
 *加工でんぷんが何に由来するのかは不明。
 1kg ¥390+税 (激安品で、これは個包装ではない。)
 発売元:株式会社マルサンシステム 
      埼玉県さいたま市桜区桜田3-3-1
 60秒 非常に柔らかい仕上がり。剥がれは良好。 
 【添加物の特性に関するメモ】

グリシン:呈味、pH 調整、酸化防止・保存性向上 
クエン酸:pH 調整、酸化防止・保存性向上補助
貝カルシウム:pH 調整等による保存性向上
醸造酢:抗菌効果
 
     
(2)  製品の多様性   
     
   通常の販売価格が高めの製品は例外なく「国内産もち米100%」と表示された製品である。一方、低価格帯の製品は、もち米粉加工でんぷんの組成が確認できるほか、添加物として、グリシン、クエン酸、貝カルシウム、醸造酢、PH調整剤(具体の明記なし)の名を見る。添加物は何れも日持ちをよくするたものものと考えられるが、加工でんぷんに関しては実際の構成比は不明で、さらにもち米から作られていると説明しているものがあるなど、これらの調整によりどのような製品特性につながるのかはよくわからない。

 高めの製品では保存性向上のための添加物の表記が見られないのは、それなりのコストをかけて高いレベルの衛生管理がなされているものと思われる。

 なお、そもそも低価格品がもち米粉を使用しているのは、タイ等の格安のもち米が制度上自由に輸入できない事情がある中で、米粉についてはでんぷん等を混入したもので、米粉の含有率が85%以下のものは輸入が自由化されている(関税はかかるが国産よりはるかに安い)ことによる。加工でんぷんはこの際の混ぜものと理解できる。この加工でんぷんがもち米由来のものと、そうでないものの場合に、物性、食味として客観的にどんな違いが生じるものなのかについては、詳しいことはよくわからない。 
 
     
(3)  試験結果のまとめにならないまとめ   
     
 @  加熱所要時間について   
     
   60秒から80秒まで、幅が見られたが、原料との明確な関係は確認できなかったが、加工でんぷん入りは、総じてやや短めの印象がある。   
     
 A  加熱プレートからの剥がしやすさ  
     
   今回採り上げた製品では大きな差は見られなかったが、原料の如何に関わらず、ベタつきが気になるものがしばしば見られる。製品名は失念したがベタつきが非常に強くてウンザリしたこともある。ひょっとすると、水分が多いことによるのかも知れない。   
     
 B  食感について   
     
   国産もち米100%のものは、総じてややコシがあるような印象であった。   
     
 C  総合的所感   
     
   仮に目隠しテストで食べた場合、個人的には国産もち米100%のものと、激安のそうではないものについて、悔しいことに明確に識別することは困難であることを思い知った。

 個々の製品についてそれぞれの一面を確認したものの、何の要素が係わって様々な物性の違いに反映しているのは、残念ながら単純化して整理することは困難なようである。

 噂によると、煮た場合に激安のもち米粉の切り餅は溶けやすいといわれている。そこで、焼き餅の試験と同じ組み合わせで、器の水に餅を浸して電子レンジで加熱を続けてみた。すると、意外や、国内産もち米100%の越後製菓の切り餅の方が先に溶けてしまった。ということは、単に原料の違いというよりも、この場合には主として製法の違いにより違いが生じた可能性が高いように思われる。

 ということで、製法、原料、組成、あるいは含水率の違いが複合して物性の違いとなっているのであろう。何がベターなのかは一概に言い切れないが、自分にとって相性の悪いものは避ければよいというしかない。 
 
     
  <切り餅に関する参考メモ> 参考資料:日本の伝統食品(朝倉書店)より抜粋   
 
 ・ 切り餅つくりの工程:水洗〜浸漬(最低2〜3時間、15時間以内)〜水切り〜蒸し(30分程度)〜搗き(杵つき、ミキサー又は練り出し)〜冷却〜切断〜包装
:ミキサーは卓上型の餅つき機の意で、練り出しは一般的には主として米菓用として採用されている。 
 ・ 通常は玄米重量の90%程度を精白して使用する。 
 ・ 丸もちや切りもちなどの一般的なもちは、水分を42〜45%含んでいる。 
 ・ もち米粉は切り餅つくりに際して、早く硬くなるので作業時間が短縮できる。