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続・樹の散歩道 カタバミの小さな種子はピチッ!!と飛ぶ
その種子散布のメカニズムはどうなっているのか
先にコクサギの種子散布のメカニズムを目にしたときに、果実内の個々の種子が発射装置を備えたものとして、ミニチュアサイズながらカタバミも同様の機能を有していることが頭に浮かんでいた。カタバミの場合は、種子の発射装置の質感及び形状が異なっていて、半透明のゴム質様の種子の膜が破れて反転し、その反動で種子を吹っ飛ばすとものと一般にいわれている。しかし、これだけの情報では種子散布のメカニズムとしては直ちにガッテンはできない。つまり、種子の膜がなぜクルリと半転し、またこのことでなぜ種子を勢いよく飛ばすエネルギーになるのかがよくわからない。(コクサギの種子散布についてはこちらを参照) 【2017.6】 |
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カタバミの種子のイメージと似ているものとして頭に浮かぶのは小さな風船に入った懐かしの「玉羊羹(たまようかん)」(風船羊羹とも)である。しかし、玉羊羹を楊枝でつついてもゴムの風船がヌラリ(あるいはクリッと)剥けるだけで、手の平から中の丸い羊羹が突然吹っ飛ぶわけではない。 カタバミの成熟果実が種子を飛ばす姿は果実をつつけば見ることは容易であるが、超高速で目が追いつかない。しかし、有り難いことに、NHKが提供しているカタバミの種子散布の動画は秀作で、高速度撮影によって種子の連射(連続的な放出)の様子を捉えている。これによれば、種子の膜が果実内にとどまって種子を飛ばすのではなく、種子の膜は斜め下方に飛び出す一方で種子はさらに高速で斜め上方に飛んでいくという。さて、これをどのように理解すればよいのか。さらに種子放出に際して方向性を持っていることについて、その具体的なメカニズムもよくわからない。 まずは、既存の書籍等の情報を抜粋した上で、これを横目で見ながら妄想を交えて考えてみることにする。 |
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1 | カタバミの種子散布等に関する記述情報等の例(抜粋) | ||||||||||||||||
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2 | カタバミ種子の膜の様子 | ||||||||||||||||
カタバミの種子の膜が発射装置であることは間違いないが、玉羊羹のイメージに取り付かれているために、種子を飛ばすに至るメカニズムは理解しにくい。 ただし、とりあえずは種子の膜が反転していることは、先の写真でも種子の表面の凸凹模様が果実から姿を見せている膜の表面に転写されているから間違いない。 さらに、NHKの動画を見ると、飛散直前に果実から姿を見せ始めた種子では、種子の膜が少しだけ口を開けているように見え、これが一般的なのであれば、種子の膜は果実の外側の面(表面の側から破れるということになる。 膜に覆われた成熟種子を見ると、その表面はツルツルの平滑であるが、種子を放出した直後の膜を指先で擦り合わせてみると、随分水っぽいことがわかる。成熟種子では小さいながらも中の種子が成熟して肥大する一方で、その膜の細胞は水分で膨潤して膜はパンパンに張っているものと思われる。 |
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3 | 種子放出のきっかけ | ||||||||||||||||
果実をつけたカタバミを水挿しして観察した結果では、全く外的な刺激がない状態でも種子は徐々に放出されていることがわかる。つまり、種子の膜が緊張の頂点に達すれば、自ら破裂するということである。 次に、外的な刺激(自然及び小動物)があった際の反応であるが、手で刺激を与えた際の様子でわかるのは、種子が発射されると、その振動で次々と誘発的な連射が始まるという現象である。これは、自然状態でも当然起きていることであろう。 なお、果実に手で刺激を与えて種子を連射しているときに、小さなピチピチという音が発生している。たぶん、種子の膜が次々と弾ける際のものと思われる。こうした状態では、観察者の顔面にも容赦なく種子が連射されることになる。 |
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4 | 強力に種子を撃ち出す力の源である種子の膜の秘密 | ||||||||||||||||
発射装置たる種子の膜のメカニズムについて理解を深める必要があるが、まずは膜が破裂して反転する仕組みについてである。 膜が水分に富んでいることは先に確認したところであるが、膜に包まれた種子をつついてみると、表面は全く水気はなく、ゴム的な弾力を感じるだけである。ということは、水分で膜の内部が膨潤しているのに対し、膜の表面層は引っ張られることによる緊張状態が生まれていて、この均衡が崩れて破裂しているものと推定される。さらに膜が反転するということは、やはり内部には非常に強い膨圧が生じているものと思われる。 次に膜が反転することの意味についてである。 仮に単に収縮した膜が種子を押し出すのであれば膜は果実の中にとどまるはずであり、膜が反転する理由もない。そもそも、種子表面がかなり深い凸凹状態となっているのは、ツルッと膜から抜け出すことを予定した構造とは考えられない。 ということで、種子の膜は爆裂的に反り返る特性があり、玉羊羹の風船が割れるときに見られるような呑気な動きではなく、大砲の薬室内の爆薬の効果を思わせるような高速で激しい動きが想像され、種子表面の凸凹は種子の膜の瞬間的な半転に際しては種子をしっかりグリップしてはじき飛ばす際に大いに役に立っている構造と思われる。 改めてたとえて言えば、膜に覆われた種子は爆薬をまとった砲弾であり、果実の薬室内で爆薬たる膜が破裂して種子を飛ばす一方で、用済みとなった空薬莢たる反転した膜もその際の勢いで放出されていると理解すればわかり易い。 |
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5 | 成熟時の果実の変化 | ||||||||||||||||
カタバミの種子散布に際して、果実自体は一見脇役のように見えるが、成熟種子が果実のスリット越しに次々と撃ち出される風景は何とも絶妙な作りを感じさせる。 そこで、成熟時の果実を観察してみると、果実の果皮は既に堅さと水分失っているようであり、ふかふか、しなしな状態となっている。この状態では既に果皮には縦のスリットが生じていて、種子や膜の放出口が準備されているものと思われる。 なお、成熟果実が水分を失って柔軟になっていることと、成熟種子の表面が張り裂けそうになっていることは、足並みを揃えて種子散布体勢を整えた状態と理解できる。 |
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6 | 種子飛散の方向性がなぜ生じるのか | ||||||||||||||||
この課題は難問である。種子が斜め上方に飛ぶ一方で、種子の膜が斜め下方に飛ぶことについて、どのように説明できるのかということである。ヒントとなるのは、 | |||||||||||||||||
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である。 種子の膜の爆裂時の様子について、時間を追った経過の詳細がわからないため断定はできないが、膜の爆裂が種子の斜め下方、果実の軸側で発生していることが確認できれば、種子が斜め上方に飛ぶ一方で、膜が斜め下方に減速気味に放出されることがガッテンできるが、この点については残念ながら保留である。 カタバミが極めてシンプルかつ巧妙なメカニズにより、種子をはるか遠くに飛ばす射出速度を実現した進化にはしみじみと感心する。 そこで余談であるが、仮の話として、先に登場した玉羊羹の風船の素材、厚さを改変し、カタバミが種子を吹っ飛ばす性能を倣って、爪楊枝でつつくと突然手の平からぶっ飛ぶ恐怖の玉羊羹を試作することができるであろうか。直感的には、驚異の飛距離を誇る芸術的な生物兵器を人の手でまねることは難しいと思われる。 |
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なお、種子散布はカタバミの繁殖力を支えているが、地上の走出枝も重要な役割があり、この茎の節から根を出して1個の個体として生長していく(フィールドウォッチング)という。 | |||||||||||||||||