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続々・樹の散歩道
  カメノコロウムシの幼虫は夜空に瞬く星のよう!!


 ビル周辺の緑化木の下木としてシャリンバイヒサカキが隣接して植栽されていて、これらの葉表に小さな真っ白いものが点状に付着しているのが目についた。よく見るとすべてが放射状に実に精密で芸術的なトゲを出している。その姿は夜空で瞬く多数の星のようで、何とも美しい。
 調べてみると、この正体はカイガラムシの仲間のロウムシ類のひとつ、カメノコロウムシの幼虫と判明した。 【2020.7】


 
         シャリンバイの葉表で見られたカメノコロウムシの幼虫
 大きさに幅があるのは成長段階の違いによるものである。幼虫が取り付いている場所は主脈と側脈上で、吸汁するのに都合がよい場所をちゃんと探り当てているようである。
 それにしても美しい姿で、なぜこんな形態にロウ物質を吹き出すのか不思議である。
 
 
 カメノコロウムシによく似たロウムシ類として、ツノロウムシが知られていて、幼虫段階では図鑑を見ても両者の識別が困難であったが、成虫の段階で、カメノコロウムシはロウに覆われた外形が3〜4(5)ミリであるのに対し、ツノロウムシは6〜9ミリと一回り大きいとされているため、このことから同定できた次第である。  
 
 【カメノコロウムシ(亀甲蝋虫)のあらまし】 原色日本カイガラムシ図鑑ほかより構成・加筆  
 ・  カメムシ目(半翅目)カタカイガラムシ科ロウムシ属の昆虫  Cerostegia japonica 別名カメノコロウガイガラムシ
 (雌成虫の)ロウ物質の殻が亀の甲状なのでこの名がある。
 ・  雌成虫はやや硬い白色〜淡いピンク色を帯びたロウ物質で厚く覆われ、大きさ4〜5ミリ、一見ツノロウムシに似るが、小型で虫体を覆うロウ物質がやや硬いことで区別できる。雌の虫体は暗紫赤色、楕円形で、無翅である。 
 ・  雄成虫体長約1ミリメートルで、体は紫赤色。触角は10節からなり長い。はねは白色半透明。 
 ・  寄主植物: ツガ、ヒマラヤスギ、ゲッケイジュ、かんきつ類、モチノキ、マサキ、ツバキ、サザンカ、ヒサカキ、モッコク、ナワシログミ、ヤツデ、カキ、クチナシなど多食性。スス病を誘発する。 
 ・  生態: 年1回の発生で、越冬した受胎雌(成虫)は、5月中旬〜6月上旬に成熟して虫体の下に抱え込むようにタップリ産卵し、自らはロウの殻の内側にぺちゃんこにへばりついたミイラとなる。6月上旬〜7月上旬に孵化幼虫が現れる。幼虫は主として葉面及び小枝に寄生し、9月下旬頃より成虫となるが、寄主の栄養条件が悪化したときや、秋季気温の低下に反応して、葉面から枝へと移動し、寄主部位を変える。 
 
 雄の幼虫雄の成虫については残念ながら未確認。「農林水産・食品産業技術振興協会」のホームページでは、冒頭に掲げた写真と同様の幼虫を「雄幼虫」として説明しているが、真偽不明。  
 よく似たツノロウムシでは雄は見られず、単為生殖で増殖するものと信じられている。 
 
     
    カメノコロウムシの幼虫 1 (シャリンバイ)
 付着部位は先に触れたとおり、主脈と側脈上である。
    カメノコロウムシの幼虫 2 (ヒサカキ)
 ヒサカキの場合は主脈上に整列している。
   
    カメノコロウムシの幼虫 3 (ハマヒサカキ)
 大小の幼虫が見られるが、この段階での雄と雌の識別については、そもそも両者が同居しているのか否かも含めて情報が少なくてよくわからない。
        カメノコロウムシの幼虫
 左側が頭部である。このことは、とげ状のロウ物質の形態から判断できる。
   
 カメノコロウムシの雌成虫の残骸1 (シャリンバイ)
 写真のものではほとんどが古い残骸であった。
   カメノコロウムシの雌成虫 (ハマヒサカキ)
 ろう質の被覆物の形態は、亀の甲というよりも、旧イギリス軍のヘルメット風である。 
 
 
                カメノコロウムシの幼虫(背側) (8月上旬)
 なんとも芸術的なとげ状のロウ物質の様子である。ロウ物質には縞模様が確認でき、この形成の経過を物語っているものと思われる。
 左側が頭で、ひっくり返せば確認できる。 
 
                   カメノコロウムシの幼虫(腹側)
 虫体の様子が確認できる。この写真では口吻(口針)や脚は確認しにくいが、左側の頭部に1対の目が確認できる。4つ(2対)の白い筋状のものは呼吸のための気門溝である。右側の尻部に肛門突起が見られる。なお、脚は後方にぺたりと体に張り付けているように見える。(8月上旬)
 
 
   赤矢印の細い糸状のものが口針である。

 虫体と比較しても非常に長いこの口針を上手にコントロールして、シャリンバイの硬い葉表の側から師部に差し込んで吸汁するとは驚きである。
カメノコロウムシの幼虫の口針の様子  
 
 
    カメノコロウムシの雌成虫(左側)・4月下旬     カメノコロウムシの雌成虫(腹側)・同左成虫
 ルビーロウムシの腹側の様子に似ている。口針は剥がす際に短く切れたのであろう。
 ★ ルビーロウムシについてはこちらを参照 
   
   中身が卵のみとなったカメノコロウムシ
 一見すると雌成虫そのものであるが、中味はロウの殻にへばりついたぺちゃんこの虫体のミイラと、多量の卵である。径は4ミリほどである。 
       卵を抱えたカメノコロウムシ
 同左をひっくり返したもので、多くの卵はこぼれ落ちてしまったが、まだいくらか残っている。
   
        カメノコロウムシの卵 1 
 花粉のように微細な卵で、砂のようにさらさらと流れる。
          カメノコロウムシの卵 2
 数は数えられないが、数百個はあると思われる。
   
         カメノコロウムシの卵 3 
 卵殻は非常に脆弱で、少しでも圧が加わると簡単にベチャッと潰れてしまう。
       カメノコロウムシの卵の殻
 古い成虫の中味で、茶褐色のものが乾いたぺちゃんこの虫体である。多数の白い卵の殻が残っている。 ここから孵化幼虫が抜け出して、ちょこちょこ歩きあるいは風に飛ばされて(?)、葉面に取り付くのであろう。 
   
     カメノコロウムシの雌成虫のミイラ 1
 ロウの殻が劣化して剥がれた古い虫体で、左側に切れ込みが見られるから、これが尻側である。
     カメノコロウムシの雌成虫のミイラ 2
 腹側であるが、ペラペラの殻状態である。虫体のほとんどを卵にしてしまうという、壮絶な生き方である 
 
 
 以下は、前出の卵をシャリンバイの葉上に置いて、孵化の様子を観察した写真である。(6月上旬)   
 
 
                 カメノコロウムシの孵化幼虫 1
 極薄のふわふわの卵の殻から抜け出している途中の幼虫である。かわいい目が確認できる。
 
                カメノコロウムシの孵化幼虫 2 
 殻から抜け出した幼虫で、尻に切れ込みがあるのが確認できる。雌成虫は植物体に固着して全く動かないが、孵化直後の幼虫はチョロチョロとよく動き回る。
 
     
      カメノコロウムシの孵化幼虫 3 
 尻に2本の長い毛が見られる。
     カメノコロウムシの孵化幼虫 4 
 卵の殻から抜け出る際に、上向きとなっていて、昆虫らしい脚が見えている。 
   
      カメノコロウムシの孵化幼虫 5
 2本の長い尻の毛が確認できる。節がくっきり見える触覚には毛が生えている。
     カメノコロウムシの孵化幼虫 6
 虫体は扁平である。孵化幼虫の雌雄の区別など、全くわからない。 
 
     
   以下は生育途上のカメノコロウムシの幼虫の様子である。背部から少しずつロウ物質を出しているが、放射状のロウ物質をつけるまでにはしばらくかかりそうである。   
     
カメノコロウムシの初期の幼虫 1  カメノコロウムシの初期の幼虫 2  
   
カメノコロウムシの初期の幼虫 3   カメノコロウムシの初期の幼虫 4