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樹の散歩道
 
  津山檜と石化檜
             


 都内の日比谷公園にある園芸店の日比谷花壇をしばしばのぞいていると、各種の盆栽類も見ることができる。そうした展示品のうち、聞き慣れない樹種の名札をつけた小盆栽を見かけた。津山檜(津山ヒノキ)石化檜(石化ヒノキ)である。さてこの正体は? 【2008.9】 


 津山檜(津山ヒノキ)

 素性を調べたところ、これは八つ房性(やつぶさしょう)のヒノキで、昭和30年に岡山県津山市小田中笠松の遠藤健吉氏が盆栽素材の探索中に市内大谷の石山で10センチほどの実生苗を発見したことに由来するという。葉が細かく盆栽に適することからさし木による増殖で普及したものである。つまり、ヒノキの天然品種であり、また見るものはすべてクローンということになる。昭和57年2月11日には氏の地域における功績が認められ、津山市長から表彰されている。

 津山檜の特性としては、以下の点が認められている。

@ 盆栽に非常に適した素材で、特に小品盆栽には最適である。
A 病害虫に強く、丈夫で作りやすい。
B 皮性(かわしょう)がよい。


【参考資料:雑誌記事「津山檜を訪ねて」。コピーが手元にあるが掲載誌不詳】
    
   津山檜(日比谷花壇展示品)
    
    津山檜(日比谷花壇展示品)
 
左:津山檜(個人蔵) 右:普通のヒノキ
 普通のヒノキと比べることで、葉の特徴がよくわかる。石化檜よりもやや知名度は低いようである。
【追記 2009.6】

 大切に育てられている津山檜の盆栽を岡山県内のY氏邸で拝見させてもらった。経過年数は確認できなかったが、相当の樹齢と思われる。

   (部分)

   (部分)
石化檜石化ヒノキ、せっかひのき)

 名前から来る印象は、ヒノキが化石と化した石化木といった感じである。しかし、そうではなくてナマの植物体である。葉が細かくて堅いイメージから来ているものと思われる。これは盆栽をやる人にとってはおなじみの素材のようである。
 石化ヒノキは一般の八房ヒノキよりさらに葉が細かく縮れているものとして説明されている。盆栽用に選別されたものとされ、津山檜と同様に小品盆栽に向いた特性を持ったヒノキである。決して帯化現象が生じたものを指しているわけではないため、名前は少々わかりにくい。
  
   石化檜(日比谷花壇展示品))
 
   石化檜(日比谷花壇展示品)

 葉をよく見ると、確かにヒノキ科ではあるが、樹種としてのヒノキは葉の先端が丸いのに対して、石化檜では葉の先端の尖っていて、まるで先祖返りしたような葉に見える。
 
 
<用語解説>
八房性(やつぶさしょう)  もともとは1箇所から多くの芽が吹くもの又は胴吹きなど芽吹きよいものを指すが、現在では葉の小さい姫性のものも含めて呼んでいる。八房性があるとして出回っているものとしては、スギ、ヒノキ、クロマツ、エゾマツ、トドマツ、ゴヨウマツ、カエデの名を目にする。
 なお、八房梅八ツ房梅)の名も目にするが、これは別物で一花で複数の実をつける梅の種類である。
矮性(わいせい)  植物体が母種より小型の性質を持ったものを指す。
姫性(ひめしょう)  葉や花が母種より小型の性質を持ったものを指す。
石化性(せっかしょう)  葉が堅く板状ハケ状になる性質のものを指すが、盆栽では八房性と同義で使われることが多い。上原敬二の「樹木大図説」等では石化槇石化赤松・石化黒松(枝端が帯化)、石化茨石化沈丁花石化杉の名を見る。
皮性(かわしょう)  その樹皮の特性をいい、荒皮性とは短期間で年数を重ねたような風格を感じさせる樹皮となる特性をいう。
<参考1:石化黒松> 【2010.12 追記】
 石化黒松石化クロマツ)は石化杉石化スギこちらを参照と同様に枝先が帯化し、そのまま生長していて実に奇妙な形態となる。まるで、は虫類の表皮のようである。
 (高知県立牧野植物園)
 なお、この形態は、アカマツでも知られていて、石化赤松(石化アカマツ)の名がある。 
 
<参考2:八房トドマツ>  【2013.8 追記】
 
 写真で示したものは、北海道の利尻国有林(天然林)に由来するトドマツの実生で見られた非常に頂芽の数が多い変異個体を選抜したもので、1994年に林木育種センターが品種登録(名称:北林育1号 ホクリンイク1ゴウ)しているものである。品種の名称が馴染みにくいため、通常は一般的な「八房トドマツ(ヤツフサトドマツ)」と呼んでいる。
 枝先が細かく分岐し(多枝型)、枝の先端部のみが上品にモコッ、モコッとして、遠目には丁寧に整枝・剪定した庭木のように見えるため、緑化木として位置付けている。 (写真は北海道育種場ほか植栽樹)
 八房トドマツの樹名板
 
  八房トドマツ(北林育1号) 
  その1
 八房トドマツ(北林育1号)
 その2
  八房トドマツ(北林育1号)
  その3
 
 
八房トドマツの枝先  (比較用)普通のトドマツの枝先