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続々・樹の散歩道
  ハゲ頭に関する考察


 地球上で現在見られる多くの植物、動物の形態は、たとえ進化の過程で大きな変化があったとしても、それぞれの時期を捉えて言えば、すべて生物として生きるための必然性、合理性があったと思われ、したがって、全く無駄な部位があったとは考えがたく、各基本的な部位はそれなりの機能を持ち続けてきたはずである。
 ヒトの比較的豊かな手足の筋肉も、生きるために日々の食べ物を得るべく額に汗し、ときには自らを守ることに対応したものであるはずであるが、デスクワークには既に過剰となっている。また、体毛に関しても衣類を身につける習慣が長く続いたことから、体を覆っていたと思われるふさふさした毛は喪失(減少)したものの、不思議なことに頭にだけ毛周期が異なって長く伸びる毛を載せている。これは他の生物では全く例のない奇妙な毛である。 【2020.6】 
注: 以下の文中、ハゲの要因として疾病、ストレスによるものや、ウィリアムズ王子のような遺伝あるいは個体変異としての若ハゲは対象としない。なお、若ハゲは、ひょっとすると進化の一形態かもしれない。 


   体毛の機能

 まずは体毛について考えてみる。
 頭髪以外の体全体の体毛に関しては、現在ではかなり貧相になってしまったが、野生動物を見れば明らかで、ヒトの場合もかつては体の保護、体温の保持に役立っていたはずである。また局所的な体毛に関しては、現在でも繊細で大切な開口部の保護及び摩擦の緩和に重要な役割を果たしていることは明らかである。ただし、ヒトの雄の局部の毛は雌の場合と違って何の役にも立っていないと思われる。この点は発生の過程での分化が不十分である印象はあるが、全体的には誰でも考えればすぐにわかることで、各人も得心しているところであろう。ただ注目すべきは、たとえ白いものが交じったとしても、一定量を維持し、完全に喪失することは絶対にないという点である。

 頭髪の機能

 次に頭髪についてである。一番大切な脳を収めた薄い頭骨が、ほとんど皮一枚で覆われているだけであることから、頭部を保護する機能を有することは間違いなさそうである。しかし、毛周期が長くて、1メートル近く伸びるといわれているから、それだけではなさそうである。一方、個人差があるとしても、加齢に伴って次第にその本数が減じ、ついには側頭部のみを残し、あるいはすべてを喪失することも珍しくないことを考えると、これはそれほど単純なことではないと実感する。

 絶対に必要な機能を有しているのであれば、他のすべての体毛を犠牲にしてでも、死守されなければおかしい。しかし実際にはそうではないということは、一定の年齢に達すれば既にそれほど重要なものではなくなっているような雰囲気がある。

 ちなみに、生殖能力が最も盛んな時期における男女、特に若い女性にとっては強い性的なアピール機能も有していることは、本能に対して謙虚に向き合えば、間違いないことを認識できる。

 そこで、問題は禿頭状態の理解である。

 ハゲ頭に関する一般的な理解

 頭髪の濃淡、有無については昔から色々な講釈があって面白い。

 その1:頭髪は女性ホルモンが支配している。
 

 頭髪と女性ホルモンの関係は科学的にも一定程度確認されている模様である。昔から、スケベおやじの典型は、脂ぎった小太りのハゲで、必要以上の精力を持て余していて、若い看護婦さんを見ただけで、もう気持ちの高ぶりを押さえきれないというタイプである。

 狒々爺(ひひじじい)のホルモンバランスがどうなっているのかは残念ながら聞いたことがない。これは想像であるが、女性ホルモンと男性ホルモン・テストストロンの相対的な関係に由来するものではないだろうか。つまり、狒々爺は女性ホルモンに対して男性ホルモンの絶対量がはるかに優勢となっている可能性を感じる。仮に両ホルモンの相対的な関係となれば、ハゲが必ずしも精力絶倫であるとは限らず、また頭髪フサフサのおやじが精力で劣っているとは限らない。高齢のオヨボヨボのハゲおやじの場合は、たぶんどちらのホルモンもほとんど枯れていると理解できるが、真相はよくわからない。

 その2:人の体毛の総本数は基本的に差はない。ただし、頭髪が少ない(うぶ毛しかない)場合は、必ず普通の人よりも毛が濃い(太く長い)部分があり、即ち別のところで間違いなく〝埋め合わせ〟がある。

 これも多くの人にとっては心当たりがあるはずである。

 ハゲであることが有利に働く場合と不利に働く場合

 ハゲ頭で都合のよい点といえば、シャンプーもリンスも不要で、散髪も洗髪も無用となる点くらいしか思い浮かばない。そもそも顔と頭の境がないから、石鹸を手に取って顔を洗う際に頭もひとなですれば完了である。ほかに、吸盤が頭によくつくのも間違いないが、隠し芸の武器となることがあっても、これは何の役にも立たない。

 一方、ハゲで都合の悪い点となると、それほど深刻な事態は想像できない。頭を擦り剝くような行動は日常的には考えられないし、直射日光が気になるのであれば、帽子を被ればよいし、この点において毛があってもなくても同じことであるが、むしろ毛がない方がムレないかも知れない。

 ハゲの高齢者は生物学的にはどういった存在なのか

 ハゲのメカニズムの詳細はわからないが、生物の集団におけるハゲは別に珍しくもなく、ただの加齢現象の一つと理解されるから、深刻に考える必要もなさそうである。

 つまり、生物学的には日々の生きるための糧を得るための活動や生殖活動から距離が生じた雄の高齢個体群は、頭の毛があろうと無かろうと、一般的には既に集団の中で体力的にはほとんど役に立たない存在と化していると理解できる。こちろん、高齢でも生殖能力を維持している個体は存在するが、活きのよい雄個体を前にして、ピチピチの若い雌個体に対する求愛行動では全く太刀打ちはできない。

:ヒトの世界では、特殊なケースが見られる。すなわち、性的な魅力に全く欠けた雄個体であっても、経済的に裕福であれば、豊かな生活に憧れる多くの若い雌個体を簡単にものにできる実態があり、うらやましいことに溢れる精力を自由奔放に解き放つことができ、これにより生物学的な秩序に好ましくない混乱が生じている。

 これと少々異なっているのは雌の高齢個体群である。雌個体の場合は、女であることを既にやめてしまったとしても、副腎皮質から分泌されるホルモンが脂肪などの組織で女性ホルモンに変換されるとされ、わずかながらのホルモンが維持されるのだという。このお陰なのか、女性の高齢者はひどいハゲを免れ、悪くても薄毛程度で済んでいるようである。じいじのハゲはふつうであるが、ばあばのハゲは幸いにも見ずに済んでいるのは幸いである。さらに、高齢の雄個体は生物としてほとんど存在価値を失っているのに対して、高齢の雌個体の場合は、育児に大いに貢献できる経験の蓄積があり、生物としてもこの能力が基盤となっているのか、雄よりも長生きである。

 ということで、集団の中での高齢のハゲ個体群は、生物としては既に活力がみなぎる中核的な存在ではないことを象徴していると見なされる。ただし、ヒト固有の社会でどんな地位を占めているかは別問題である。

 頭髪に関する講釈がやたらに多い理由

 頭髪の減少は生物としての高齢化に伴う一つの劣化現象に過ぎないから、本来的には謙虚にこれを受け止めればそれまでのことで、ジタバタすべきではない。しかしながら、この世には頭髪に関する情報がは溢れている。これが何かといえば、ハゲをネタとした育毛、カツラ、植毛関係産業が、ハゲを餌食としている構図が浮かび上がってくる。

 そもそも、頭皮を日常とは無縁の変な薬物にさらしたり、不健康なもので覆ったり、異物を植え込んだりするなどとんでもないことであり、何れも頭皮を不健全な状態とすることで共通しており、こんなものに高額の料金を支払うなど全くばかげている。残念なことに、事業者の口車に乗せられた結果としての市場規模は年間2000億円にも及ぶといわれる。安易にハゲ産業のメニューに依存するのは、いかにも軽率な振る舞いであり、自戒すべきである。

 望ましいのは・・・

 本当は、雄個体がもはや不要となった頭髪をさっさと捨て去るという潔い急速な進化を成し遂げることができれば、最も望ましいことと思われる。そうなれば、毛が薄くなるとか、消失するとかいったことに恐怖感を持つといった極めて軟弱な精神に由来するストレスからは完全に解放されることになる。
 
     
     
【追記】頭髪の薄い者をいじめることになっている植物名の例  
   ふと思ったことであるが、頭髪にコンプレックスを持つ者は、「ハゲ」とか「ウスゲ」といった単語に対しては極めて敏感に反応してしまい、それがまた大きなストレス要因にもなっていると考えられる。 したがって、さまざまなものの呼称としては「ハゲ」、「ウスゲ」などの語はなるべく避けてあげるというのは頭髪弱者に対する言わば社会的な配慮と思われるのであるが、実際にはお構いなしの呼称がまかり通っている。

 例えば植物名としては、次のような残酷な名前を目にする。
 
     
 
① ハゲシバリ
  (禿縛り)
ハンノキ科カバノキ属の落葉小高木ヒメヤシャブシの別名。「禿縛り」の名は、決して禿オヤジを縛り上げることを意味するものではなく、本種を山地斜面の裸地崩下を防止するために(砂防樹種として)植えることによるとされる。 
② ウスゲオオシマザクラ
  (薄毛大島桜)
バラ科サクラ属(スモモ属)のオオシマザクラの交雑種と推定されているもので、オオシマザクラでは各部に毛がないのに対して、本種では花柄や萼筒に微毛があることによる名であるが、「ウスゲ」の語は毛に関して極めてセンシティブになっている者にとっては残酷極まりない響きがある。なお、ヤマザクラの品種にもウスゲヤマザクラが存在する。 
 
ウスゲオオシマザクラの花 
 
             ウスゲオオシマザクラの花の断面
            萼筒の一部を取り除いた状態である。
③ ウスゲクロモジ
 (薄毛黒文字)  
クスノキ科クロモジ属の落葉低木。 
④ ウスゲタマブキ
 (薄毛珠蕗)
キク科コウモリソウ属の多年草。 
⑤ ケナシハクサンシャク
  ナゲ(毛無白山石楠花)
ツツジ科ツツジ属の常緑低木。ハクサンシャクナゲの葉裏に毛がないタイプ。 
⑥ ケナシヤブデマリ
  (毛無藪手毬)
レンプクソウ科ガマズミ属の落葉木。 
⑦ ケナシサルトリイバラ
  (毛無猿捕茨)
中国原産のユリ科シオデ属のつる性落葉低木で、山帰来(サンキライ)の基原植物である。