トップページへ 樹の散歩道目次へ 続・樹の散歩道目次へ |
続・樹の散歩道 フタリシズカの果実に群がるアリの謎
センリョウ科のセンリョウ、ヒトリシズカ、フタリシズカの奇妙な花については別項(こちらを参照)でちょっとだけ観察してみたが、ヒトリシズカやフタリシズカの果実については地味な印象があるのみで、話題として採り上げられることもないため、全く興味がわかず、目を凝らして見たことがないままになっていた。あるとき、花後のフタリシズカに目をやると、果穂の果実部分が真っ黒になっているのに気づいた。よく見ると多数のアリが押し合いへし合いの状態で、大賑わいとなっている。以前にも果実にいくらかのアリが集まっている風景を見たことがあったが、今回はこの賑やかさは尋常ではないと感じ、一体これが何なのかが知りたくなり、改めて可能な範囲で調べてみることにした。 【2016.9】 |
1 | フタリシズカの概観 | |||||||||||
|
||||||||||||
|
||||||||||||
|
||||||||||||
上記写真で、果実は半端な色合いに見えるが、ちょっと手で触れるとポロリと落ちたから、成熟果実と理解される。 果実の果肉は半透明で、核(種子)部分は淡褐色で、一部が緑がかっている。 果実部分は一見すると、クスノキ科樹種で見られるような花柄の上部がムッチリ太ったような形態にも見えるが、半透明の部分はそれとは雰囲気が違っている。 一方で、フタリシズカの果実は核果とされるが、果実上部の丸い部分は硬くて果肉(中果皮)には覆われていないから、むき出しの核(種子)と理解した。 そこで調べてみると、一般の図鑑では詳しい説明がないが、「種子の半分を果肉が包んでいる。」(花の自然史)とする記述を目にした。 ということで、とりあえずはこの果実は内果皮に包まれた種子(すなわち核)が上3分の2ほどむき出しとなって、下3分の1ほどが中果皮たる果肉で覆われた構造であると理解することにした。 |
||||||||||||
2 | フタリシズカの果実にアリが群れる様子 | |||||||||||
|
||||||||||||
アリの様子を見る限り、果実の果肉部分に食らいついて、これをむさぼり食っているようである。 アリが群れるということは、餌となる昆虫並みの栄養があるか、極上の甘さがあるかのいずれかしか考えられない。 そこで調べてみると、研究者による観察結果を目にすることができた。要約すると、
ということである。やはり実際の観察成果には説得力がある。 果肉の成分についての情報も別に見られた。多くの植物のエライオソームの成分を調べた科研費研究(河野 昭一)の報告概要によれば、「エライオソ-ムには糖を含む糖型(オオバナノエンレイソウ、ヒトリシズカ)と脂質型(カタクリ、フタリシズカ)があり、糖型にはとんど脂質は含まれていないことが判明した。」とあった。 注:フタリシズカは広い意味のアリ散布種子ということになるが、この果肉をエライオソームと呼ぶことには疑問がある。 フタリシズカの果肉を実際にかじってみたが、脂質型と言われながらもアボカドのようなネットリ感など全くない上に甘さもなく、味はほとんど感じなかったが、ごく薄い塩味に似たような味を感じた。アリにとっては蜜や昆虫の濃厚な脂肪・蛋白分に比べたらあまりにも淡泊と思われ、これに取りついているアリは相当餌に不自由し、ひもじい状態にあったに違いない。 職業的植物観察大好きおじさん達のおかげで、フタリシズカの果実に関する理解を深めることができた。 |
||||||||||||
|
||||||||||||