トップページへ  樹の散歩道目次へ   続・樹の散歩道目次へ
続・樹の散歩道
  エノキグサの雄花の素顔がよくわからなーい!


 エノキグサはクワクサ同様に道ばたや植え込みで見られる極めてふつうの雑草であるが、特にその雄花序についてはやや赤味のある短い棒状で、個々の花がどんな形状・構成となっているのかは肉眼ではさっぱり分からない。穂状にびっしりとついた “ 粒状の花 ” は花序内で特に順序もなくパラパラと少しずつ咲き続ける様子は見ているが、個々の花については白い花粉らしきものが何とか確認できるだけで、1ミリにも満たない花冠では、雄しべの様子も確認のしようがない。そこで、各種の図鑑を探索したものの、花の詳細を示した満足できる写真やイラストは確認できない。そこで、簡易な USB 顕微鏡で花の様子をどこまで見ることができるのか挑戦してみることにした。併せて複数の図鑑により、わかりにくいことでは定評のあるトウダイグサ科の仲間である本種の花序の様子を理解すべく努力してみる。 【2017.10】


 エノキグサの花序のあらまし  
 
 エノキグサはトウダイグサ科の植物であるから、その花序についてはかなりの個性を予想したが、それらしき雰囲気は雌花・果実で少々感じるものの、驚くほどの個性を発揮しているものではなく、実に慎ましやかな外観であることがわかる。

 エノキグサ Acalypha australis
 トウダイグサ科エノキグサ属の一年草
 花序はふつう単性花で、葉腋に、または頂生して長短差のある花序梗をもつ。上部に雄花を穂状につけ、基部に編み笠状の苞(苞葉、総苞、苞片)に抱かれた数個の雌花をつける。
 雄花、雌花とも微小で花弁はなく、雄花は4裂した膜質の花被片(萼片、花萼裂片)と8個の雄しべをもち、雌花は3裂した花被片と淡紅色の3個の花柱をもち、花柱の先端は細かく裂ける。種小名の australis は「南の、南方の」の意。
 
     
 
   
           花期のエノキグサ
            エノキグサの葉の様子
  樹木のエノキの葉によく似ている。 
   
   
       エノキグサの 花序の様子
 赤味のある雄花の色は花被片に由来し、個々の雄花は粒状にしか見えない。苞に抱かれて雌花がつく。
           エノキグサの若い果実
  果実は刮ハでふつう3個の種子を含む。
   
   
         エノキグサの雌花 1
 先端が細かく分かれた3個の花柱をもつ。基部に花軸の短い雄花序が見られる。
             エノキグサの雌花 2
  この苞では雌花が3個見られる。
 
     
 一般性のある複数の図鑑で、エノキグサの花序、雄花、雌花、果実・種子に関する記述を見ると、特に雄花についてはあまりにも小さいためか、詳細な記述は見られない。加えて、少々わかりにくい記述も見られた。  
 
 一般的な図鑑におけるエノキグサの花序、雄花、雌花等の記述例  
区分 花序 雄花 雌花 刮ハ・種子
野に咲く花 花序は葉腋につき、上部に小さな雄花が穂状につき、基部に編笠状の総苞に抱かれた雌花がつく。 雄花は小さく、8個の雄しべが膜質の花被に包まれ、開花すると花被は4裂する。雄花は下の総苞の中にころげ落ちて直接受粉する。 雌花の花被深く3裂し、軟毛が多い。子房は球形で、表面には小さい突起と軟毛が密生し、果期にも残る。花柱は3個で、先端が糸状に裂ける。 刮ハは直径3ミリの球形で、なかに直径1.5ミリぐらいの種子が3個入っている。
日本の野生植物 花序は腋生または頂生し、穂状花序状で単性または両性、花序柄は0.2-8センチ、斜上または圧着する短い毛か粗長毛がある。 雄花は小型で多数が密に花序の上部につく。雄花の苞は卵形で長さ0.3-0.7ミリ、1つのにいくつかの雄花が生じる。雄花の萼片4枚で、赤みを帯び、広卵形で、0.3-0.4ミリ、先端は鋭形で、花柄0.3-0.7ミリになる。 雌花は無柄で、あたり1-3花がつき、緑色である。雌花のは花序の下部に1-4枚つき、腎臓形または心臓形で目立ち、長さ0.4-2.5センチ、幅0.8-1.7センチで、鋭頭または鋭先頭で、鋸歯状、特に縁に毛がある。子房は球形で、いぼ状突起があり、有毛で、花柱は赤く、長さ0.5-1.5ミリで、細かく糸状に分枝する。 刮ハは広卵形でいぼ状突起におおわれ、有毛で緑色をしている。種子は種枕をもち、楕円形で長さ約2ミリ、幅1.5ミリで、平滑で黒色または茶色をしている。
牧野新日本植物図鑑 葉腋に柄のついた花序を出す。多数ある雄花は小さく穂状をしていて褐色であり、苞葉は三角状卵形で鋸歯をもち、花序の基部の方にある雌花を包む。 雄花では4裂し、膜質である。雄しべは8本あり、花糸は基部で癒着する。 雌花ではが3裂していて、子房は球形で毛がある。花柱は3。
中国植物誌 花序は腋生し、まれに頂生する。雌雄花が同じ花序につく。花序梗は0.5〜3センチ、雌花の苞片は1〜2(〜4)個、卵状心形、花後に増大し、長さ1.4から2.5センチ、幅1〜2センチ、辺縁には三角形の鋸歯があり、外面では掌状脈に沿って粗柔毛があり、苞腋に雌花が1〜3個ある。花梗はない。 雄花は花序の上部につき、穂状又は頭状に配列し、雄花の苞片は卵形で、長さ0.5ミリ、腋には雄花が5〜7個簇生する。花梗は長さ0.5ミリ。雄花は蕾時球形に近く、無毛、花萼裂片4個、卵形、長さ約0.5ミリ。雄しべは7〜8個 雌花は萼片3個、長卵形で長さ0.5〜1ミリ、粗毛がある。子房には粗毛があり、花柱は3個、長さ約2ミリで5〜7条に裂ける。 刮ハは直径4ミリ、3個の分果を含み、果皮には粗生毛と小瘤体がある。種子はほぼ卵状で、長さは1.5-2ミリ、種皮は平滑で、種阜(注:種枕カルンクル)は細長い。
 
 
   上記の記述内容で、以下の点は現物に照らして確認しにくいが、同様のことを説明しているように思われる。  
     
 
日本の野生植物  雄花の苞は卵形で長さ0.3-0.7ミリ、1つのにいくつかの雄花が生じる。 
中国植物誌  雄花の苞片は卵形で、長さ0.5ミリ、腋には雄花が5〜7個簇生する。 
 
     
   雄花の苞とされるものはわかりにくいが、以下の写真の矢印部分がそれに該当するものであろうか。なお、複数の雄花の中央部分のモジャモジャの毛の正体については何なのかはわからない。   
     
 
             雄花の苞? 1             雄花の苞? 2 
 
     
2   エノキグサの個々の雄花の様子   
     
 特にエノキグサの雄花の形状に関して、先の図鑑の一部を抽出するとともに、その他の図鑑での記述を抜粋すると、決して十分ではないが以下のとおりである。さらに、撮影した雄花の写真を列挙してみる。  
 
 
牧野新日本植物図鑑  雄しべは8本あり、花糸は基部で癒着する。 
世界の植物  雄しべは8本、2輪生。外輪4本は花披と互生する。花糸は離生、葯は長楕円形で、開出し、開花期にはややジグザグ状である。 
原色野草観察検索図鑑  雄花は散ってアミガサ形の苞の中にころげ落ち、雌花にふれて直接に花粉を手渡す。他に類のない授粉の形式である。 
野に咲く花  雄花は下の総苞の中にころげ落ちて直接受粉する。 
 
     
       エノキグサの雄花 1(つぼみ) 
 萼片(花被)は4個で、開花時に4裂する。
            エノキグサの雄花 2
  萼片(花被)が開いた雄花であるが、  
 
     
     エノキグサの雄花 3      エノキグサの雄花 4      エノキグサの雄花 5 
     
     エノキグサの雄花 6
     エノキグサの雄花 7
 
     エノキグサの雄花 8
 授粉のために落下した花である。 
 
 
          エノキグサの雄花 9
 たぶん雄しべは2輪生しているのであろうことが分かる。
 太くて扁平な花糸の外側には芋虫のような横じわが見られる。
          エノキグサの雄花 10
 花糸の内側にも横じわが見られる。花糸は通常中央に寄り集まっていて、すべてが放射状に開いて本数を確認できる花は見られなかった。
   
   
          エノキグサの雄花 11 
 葯の元々の形態、収まっていた場所、挙動がよくわからないが、花糸の先端には2つに分離した細長い葯がついているように見える。
          エノキグサの雄花 12
 写真を見ると、花糸の先端部から2つの細長い葯が湾曲し弧状となって垂れ下がった状態で縦に裂開し、花粉を出しているように見える。
 
 
 わかりやすい雄花の画像情報がほとんどないが、図鑑等でわずかに見られた図を以下に掲げてみる。  
 
     
     @ エノキグサの雄花 1
   (原色野外植物検索図鑑より)
     A エノキグサの雄花 2
     (原色野草観察検索図鑑より)
     B エノキグサの雄花 3
     (コトバンク・小学館 より)
     
     
    C エノキグサの雄しべ
      (中国植物誌より)
   
 
 
 <コメント> 注:以下の番号は図の番号に対応する。  
 
@  非常に小さい図であるが、雄しべが2輪生する構造であることが表現されている。ただし、雄しべが放射状に開くのはあまり一般的ではないように思われる。また、花糸と葯の区分が表現されていない。 
A  これも非常に小さい図であるが、先に掲載した写真のイメージに近い印象で、太い花糸の横じわが表現されている。ただし、葯の表現は明瞭ではない。 
B  精細な図であるが、雄しべが二輪生することが表現されていない。また真相がはっきりしないが、この図では雄しべは花糸が非常に短く、ほとんどが葯と見なしている。つまり、雄しべの半透明の太い器官を葯と解していることになる。写真ではこんな風には見えない。 
C  雄花の図はないのになぜか1本だけの雄しべの図が掲載されていた。花糸には2つに開いた葯がついているように描かれている。Bの図と葯の形態は似ているが、花糸が長いことと葯が2つに開いている点が異なっている。花糸の横じわが表現されていないが、写真に照らすと葯の形態についてはこれが正しいと思われる。 
 
     
   エノキグサの雄花の形態の理解に関して、先に掲げた図鑑のわずかな表現でも、「花糸は基部で癒着する」(牧野新日本植物図鑑)としていたり、「花糸は離生」(世界の植物)としているものがあるなど、残念ながら統一的な情報が得られない。

 調べた範囲では残念ながら雄花の形態に関して満足できる詳細な情報は得られなかった。
 
     
   エノキグサの果実と種子の様子  
     
   果実はふつう3個の種子を含むが、4個、5個のタイプも見られた。種子にはトウダイグサ科の植物でしばしば見られるように附属物の種枕が見られる。種子は長さ1.5ミリほどと非常に小さく、これをアリが運ぶとされるから、種子の附属物はエライオソームということになる。   
     
 
    エノキグサの果実 1
 種子が3個のふつうのタイプ
     エノキグサの果実 2
 種子が4個のタイプ
     エノキグサの果実 3
 種子が5個のタイプで、すべてが成熟種子をつけるのかは未確認。
     
     エノキグサの種子 1 
 
半透明のエライオソームが確認できる。
 エノキグサの種子 2
種子は長さが1.5ミリほどである。
エノキグサの種子 3