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続々・樹の散歩道
  都内でビワが豊かに実る風景


 ビワはカキノキや夏ミカン、ウメと共に、昔から一般的な住宅の庭先の果樹として定着していた記憶があるが、都内の街中でもしばしば豊かに実を着けた風景を目にする。6月に入って、ビワが目に眩しいほどのオレンジ色の果実をたっぷり付けると、あちこちの意外なところにビワが存在していたことに気づかされる。ただし、ビワの樹はかなり大きいのがふつうで、手を伸ばして届くところに実が付いていることは少なく、そもそも、都市部でつまみ食いできる条件にあるビワの実がいつまでも無事に残っているわけがない。一方、手の届かないほとんどのビワの実は、鳥が突くか、やがて十分に熟して落ち、通りがかりのおばちゃんたちを喜ばせているに違いない。 【2019.9】


 都市部でビワの樹がしばしば見られるのは、ビワが生活に密着した果実で、放置状態でもキッチリ実を付ける性質が知られていることによるものと思われる。個々の沿革は、古い住宅地では明らかに地主が以前に植栽したものであろうし、開発の経過があった地域でも、以前の地主が植えたものをそのまま残したりと、いろいろと思われるが、興味深いのは、公園で若い樹が植栽されている例が見られることである。その発想は、ビワがよく知られ親しまれてきた樹であり、時につまみ食いの楽しみも提供できることが多少とも意識されていると思われる。  
 
 
               果実成熟期のビワの様子(都内某工場敷地内) 
 ビワの樹の葉は葉脈部が強く凹んで、凸凹した様子に個性があり、ひと目でそれとわかるが、都市部では単木的に存在するだけであるから、果実をつけたときにその存在に気づくのがふつうである。
 バラ科ビワ属の常緑低木~高木( Eriobotrya japonica )で、本州(中西部)、四国、九州の沿岸部や石灰岩地帯などに生えるが、元来は中国から渡来して野生化した。中国でも各地に産し、栽培されているが、真の自生は四川省、湖北省のみであるといわれる(日本の野生植物)。
 野生化したものはカラスなどによるものと考えられている。
 
     
 
           ビワの葉裏の様子
 葉は革質で、表面は無毛で光沢があるが、裏面は褐色の綿毛が密生する。
            ビワの花序 1
 花は両性で円錐花序をなし、褐色に見える花序柄、花柄、萼とも綿毛を密生する。 
   
            ビワの花序 2
 花(両性花)はごちゃごちゃしてわかりにくいが、萼片と花弁は5個、雄しべは20個ということになっている。
              ビワの花
 雄しべがじゃまで雌しべがうまく見えないが、花柱は5本ある。 
   
 
            ビワの樹皮の例 1
 樹によって、樹皮の表情が随分異なっていた。この樹皮は鱗片状にはがれた模様を見せている。
            ビワの樹皮の例 2 
 こちらの樹皮は、左の樹の径と大差はないが、平滑である。
 
     
 公園等のビワの例  
 
 
            高輪公園のビワ
 なぜか、公園口のひとつで見られるビワである。
 場所柄、実をたたき落とす人はいないと思われる。
        同左ビワの樹の果実の様子
 果実はやや小さいが、実の付きは良好であった。じっと待っていれば熟した果実が落ちてくるはずである。
   
          東八つ山公園のビワ
 果実は比較的低い位置にある。
       同左ビワの樹の果実の様子
 標準的な大きさ、形態といった印象で、果実の形はしずく型である。 
   
            皇居東御苑のビワ
 立ち入りできないエリアに見られるビワである。 
         同左ビワの果実の様子
 果実は非常に小さく、野生種そのものといった印象である。 
 
 
 
2   工場、事務所の敷地のビワの例   
 
 これらは勝手に侵入して、落ちた実を拾うこともできないから、眺めるだけである。
 
   
           水道局資材置き場のビワ
 侵入困難な遙か遠いところにビラの樹が見られた。 
      同左ビワの樹の果実の様子
 果実は小さい印象である。
 
 
 運河や道路沿いの半端な付属地のビワの例  
 
         運河沿いのビワ
 運河沿いの敷地は公的な管理下にあると思われるが、隣接してマンションがあることから、ここの住人に愛される存在となっていると思われる。
        同左ビワの樹の果実の様子
 果実をたっぷり付けていた。残念ながらマンション住人以外は接近不可である。
   
            小さな緑地のビワ
 道沿いのわずかな面積の緑地にビワの樹が植栽されていた。
         同左ビワの樹の果実の様子
 樹は小さいが、実の付きや大きさはまあまあであった。もったいないことにフェンス内は侵入不可となっている。
 
 
 住宅敷地のビワの例  
 
          住宅脇のビワ 1
 注意すれば、こうした風景はしばしば見られるものである。やや窮屈そうであるが、ビワはやはり住宅の敷地にあるのがふさわしい。
            住宅脇のビワ 2 
 いずれも、住宅の外壁とフェンスの間の非常に狭い空間で何とか生きていて、それなりに大事にされているようである。
 
     
5   某大学構内のビワの例   
     
 
       某大学構内のビワ
 2019年産の果実は、枝先が随分荒っぽい扱いでズタズタに切り落とされた状態で収穫されたあとであった。餓えた学生による乱暴狼藉か。
         同左ビワの樹の一昨年の果実
 このビワの樹の果実はほぼ球形で、販売されているものと較べても一回り大きいほどで、明らかに選抜された栽培品種と思われる。
 
     
6   ビワの果実と種子の様子   
     
   ビワの果実の形態は、一般的にはしずく型のものが多く、ときに球形に近いものを目にした。(前出の写真を参照)
 この果実は、よく言われるようにナシ状果(偽果)で、ナシやリンゴと同様に、花托が全体を包み込んで果実の主要部分となっていて、芯の部分が本来の果実とされる。
 先端部のへそ(ギザギザ状のものが食い込んだ部分)は、食べるに当たって少々邪魔であるが、これは内側に曲がった萼とされる。

 果実の大きさに対して、種子の大きさや数がどんな関係になっているのかについて、わずかなサンプルで見た範囲では、果実が大きければ種子も大きく、種子の数も多い印象があった。   
 
     
 
       ビワ果実の果肉縦断面
 某大学の大果系のビワ果実の例である。果肉の一部が褐色となっているのは、サンプルが落下果実のため、打撲部分が変色したものである。
 この大果系の果実は径が4~5センチほどとむっちり大きめであった。
        ビワ果実の果肉横断面 
 これも某大学の大果系のビワ果実の例である。
 内果皮は薄く、膜質で半透明、2~5室があって、各室に1~2個の種子を入れる(日本の野生植物)とされていて、この大果系の果実では、種子が4~9個入っていた。 
 先の高輪公園の落下果実では、種子が2個しか入っていなかった。 
 
     
 
 
                  ビワの種子のいろいいろな大きさ
 ビワの種子の形態は、「背面の丸い3面体」と表現されているが、この表現に馴染まないものが多い。一見すると、ツバキの種子のように硬そうに見えるが、種皮は紙質で、簡単に破るように剥き取ることができる。
 
 
                   ビワの種子の子葉の様子
 種子内の胚には2個の白色・肉質の子葉があり、ドングリと同じ印象である。ときに2個の子葉の大きさに極端な差が見られることがある(右側)。
 
     
7   ビワの薬効について   
     
   ビワの葉を乾燥したビワヨウ(枇杷葉)生薬として日本薬局方に収載されており、「サポニン、アミグダリン、ビタミン B1、タンニンなどを含み、他の生薬と配合して鎮咳、去痰、健胃、鎮咳薬とし、また、民間で皮膚炎あせもに煎汁で湿布あるいは浴湯料とする(世界大百科事典)」とされている。

 日本薬局方解説書には、ビワヨウの適用について、「漢方処方薬である。鎮咳、去痰および鼻炎を治す処方に配合されている。漢方処方:炙甘草湯、潤腸湯、麻子仁丸。」とある。

 また、ごく身近なところでは、十六茶にもビワヨウが使用されているのを確認できる。

 そこで、念のために中薬大辞典を見ると、次のように、ビワの各部についての薬効が記されている。   
 
     
 
中薬名 基原  薬効と主治 
枇杷(ビワ)  ビワの果実  肺を潤す、止渇する、気を下すの効能がある。肺病による咳、吐血、鼻血、乾渇、嘔吐を治す。
枇杷花(ビワカ)  ビワの花  傷風感冒、咳、血痰を治す。 
枇杷核(ビワカク)  ビワの種子  痰を化し止咳する、肝を疏らせ気を理えるの効能がある。咳嗽、疝気、水腫、瘰癧をなおす。 
枇杷根(ビワコン)  基原はビワの根  虚癆による長期の咳嗽、関節の疼痛を治す。 
枇杷葉(ビワヨウ)  ビワの葉  肺を清め胃を和ませる、気を下ろし痰を化すの効能がある。肺熱による痰咳、咳血鼻出血、胃熱による嘔吐を治す。 
枇杷葉露(ビワヨウロ)  ビワの葉の蒸留液  肺を清める、胃を和ませる、痰を化す、止咳するの効能がある。肺熱による咳嗽、多痰、激しい嘔吐、口の渇きを治す。 
 
     
   中国での植物等の薬用利用の知恵の蓄積には恐れ入るが、1点、気になる国内情報を目にした。

 ビワ種子の仁の利用に関して、国内でビワの種子の粉が健康食品として現在でもふつうに販売されているが、公的機関が次のような注意を呼びかけている。 
 
     
   【農林水産省】
 ビワの種子の粉末は食べないようにしましょう。

 ビワなどの種子(たね)や未熟な果実には、天然の有害物質が含まれています。平成29年、ビワの種子を粉末にした食品から、天然の有害物質(シアン化合物)が高い濃度で検出され、製品が回収される事案が複数ありました。ビワの種子が健康に良いという噂(うわさ)を信用して、シアン化合物を高濃度に含む食品を多量に摂取すると、健康を害する場合があります。 
 
     
   【国民生活センター】 
 ビワの種子を使用した健康茶等に含まれるシアン化合物に関する情報提供:
 体内で分解して青酸を発生するおそれがあるため過剰な摂取に注意! 
 
     
8   ビワに関する雑件情報メモ   
     
 
 ・ ビワ属の属名は、ギリシャ語の羊毛 erion とブドウの房 botrys に由来する。(植物の世界) 
 ・ 和名は中国の枇杷の音である。葉の形が楽器の琵琶に似ているのでいう。(原色日本植物図鑑) 
 ・ 日本名は漢名枇杷の音読みである.枇杷は楽器の琵琶に似ているので名をつけたとされているが、葉形果実の形のいずれが似るのかがはっきりしない。(牧野新日本植物図鑑) 
 ・ 現在栽培面積の大半を占める茂木田中の2品種はどちらも中国から移入された品種を親としている。前者は江戸時代末期に、後者は明治時代初期にそれぞれ持ち込まれた果実の実生変異といわれている。野性個体の果実は径2~3センチ。(植物の世界) 
 ・ 茂木は天保・弘化(1830‐48)のころに、貿易船によって中国から長崎にもたらされた果実の種子から育成されたものである。大果品種の田中は1879年に田中芳男が長崎から種子を東京にもち帰って播種し、その実生中から選抜、育成したものである。(世界大百科事典) 
 ・ 花は10から12月に開花し、晴れた日に開花したものだけが果実になる。(植物観察事典) 
→ ほんまかいな!
 ・ メジロが花粉を食べに来て受粉する鳥媒花の一種である。ミツバチもよく集まる。(植物観察事典) 
 ・ 果実は柔らかくて傷つきやすく、酸化酵素やタンニンが多いため傷の部分が黒くなる。(植物観察事典) 
 ・ 袋かけに手間取り、皮が薄く、輸送性に欠ける。しかし本当のうまさは、綿毛がはげ、果皮にしわができたときである。(植物観察事典) → この話はおもしろいが、現物では未確認である。
 ・  和漢三才図会には枇杷葉湯(びわようとう。暑気あたりや下り腹などに用いた煎じ汁。)が庶民の間で大流行したと書かれている。現在でも、葉は打ち身や捻挫に効果があり、また風呂に入れると汗疹(あせも)に効き、皮膚をなめらかにするといわれている。(植物の世界) 
 ・ 材は弾力性があり、木目も美しいので、櫛、印材、木刀、杖などに使われる。(樹に咲く花) 
:ビワの木刀は高級品で、非常に高価である。
 ・ ビワの果実は甘いから樹上で鳥が突くほか、ハクビシンが木登りして食べ、落ちた果実はタヌキが喜んで食べるそうである。 
 
     
9   ビワの芽生えの様子   
     
   ビワは自然状態ではこの甘い果実を食べるカラスなどの大型の鳥が種子を散布し、さらにその種子は発芽しやすい(人が取り播きしてもその年によく発芽する。)ことが知られていて、 このことから野生化しやすいと考えられている。  
     
 
      ビワの芽生え 1
 小さな芽生えは全身毛だらけでの状態である。子葉は展開しない。
      ビワの芽生え 2
 茎も葉も毛だらけである。
      ビワの芽生え 3
 若い葉は葉表も毛に覆われている。
 
     
10  名前に「ビワ」の文字を含む植物の例    
     
   以前に、以下の2種を目にした。   
     
 
 ビワモドキ ビワバアオキ 
 
     
   ビワモドキはインド、中国南部、東南アジア原産のビワモドキ科ビワモドキ属の常緑喬木 Dillenia indica で、中国名は五桠果(五椏果)英語名はelephant apple (象のリンゴ)。高さは25メートル、胸高径は1メートルになる。葉は15~40センチで明瞭な鋸歯があり、側脈は25~56対で。果実は円球形で、宿存する萼片が肥厚し、径10~15センチあって食べられる。(中国植物誌より)
 英語名はこの果実をアジア象が好むとの説に基づくものと思われる。和名は葉がビワのような印象があることによる。

 ビワバアオキは中国雲南西部原産のアオキ科アオキ属の喬木  Aucuba eriobotryifolia (Aucuba eriobotryaefolia) で、高さはアオキよりも大きく8~13メートルになる。中国名は枇杷叶珊瑚(枇杷葉珊瑚)。葉は長さ12~20センチというから、ふつうのアオキ(葉は8~25センチ)の葉の大きさの範囲内に収まり、特に大きいということではない。葉の辺縁上段には4~6対の鋸歯があり、葉表の脈はわずかに凹む。(中国植物誌より)
 和名のビワバアオキの「びわ」の部分は中国名に由来するものと思われるが、ビワの葉に似ているという印象はない。