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続・樹の散歩道
  アカネの花と果実と種子の観察


 アカネの花と果実の様子をフォローして、写真に収めたのであるが、11月下旬に果実が黒熟した状態の種子と胚を観察して、これが本当に成熟状態のものなのかについて、何やら様子が変で、疑念を抱き続けていた。そこで、さらに日にちが経過した場合、最終的に果実、種子がどんな具合になるのかを見極めるつもりでいたのであるが、すっかり忘れてしまい、確認し損なってしまった。そんな事情を知り合いに話したところ、落ちていた果実があったとのことで、幸いにも少々譲ってもらうことができた。それを見ると、うーん、これが本当に成熟種子なのか、さらにはこれで発芽能力があるのかと、また悩みの糞壺じゃなかった、悩みの沼に落ち込んでしまった。【2019.5】 


アカネの花と果実  
 
 アカネはアカネ科アカネ属のつる性多年草 Rubia argyiRubia akane) で、白い花をつけるが非常に小さいし、黒いひょうたん型の果実を見せるがやはり非常に小さいため、目に付きにくい。もちろん園芸の対象とはならないから、それほど意識されることもないと思われる。ただし、かつては乾燥すると赤くなる根を赤色の染色に利用したことだけは知られている。中国等にも分布し、中国名は茜草である。  
     
              アカネの葉
 葉は4輪生しているが、うち2個は托葉が大きく発達して葉と同形になったものとされる。葉柄と茎に刺があるのが確認できる。  
            アカネの茎の刺(トゲ)
 茎には4稜があり、稜上に下向きの刺があって、これを他の植物に引っ掛かけて成長する。自分では直立できない。
   
            アカネの花 1
 個々の花は径3~4ミリほどで、葉腋から出た集散花序につく。
            アカネの花 2 
 花冠はふつう深く5裂し、雄しべは5個、花柱は2個。
   
            アカネの花 3 
 この花では花柱が3個見られる。
            アカネの花 4
 花冠はときに6~7裂しているものを見る。雄しべが6個の花も見られた。
   
           アカネの若い果実
 子房が2室あって、各室に胚珠があるため、キッチリ受粉していれば果実が2個くっついてつくが、観察個体では1個の果実の場合の方が多数を占めていた。
         アカネの成熟間近な果実
 果実は成熟が進むと次第に暗赤褐色となり、やがて黒熟する。果実は液果。
   
     アカネの成熟果実と思われるもの 1
 たぶん成熟した果実なのであろう。やや青みがかっている。
     アカネの成熟果実と思われるもの 2 
 黒熟したと思われる果実。
   
         アカネの若い果実の断面 1 
 胚乳は白色、柔軟で椀型であるため写真のような断面となる。
       アカネの若い果実の断面 2
 椀型の胚乳中には横向きに収まっている。胚乳に包まれたものは奇妙で、ただの充填物としか思えない。 
 
 
 
                   アカネの成熟果実?の断面
 断面で見られる胚乳(縦断面)の様子は青い果実の場合と特に変わりはない。  
 
     
 
            アカネの種子 1
 写真は果実の果肉を除いた状態で、種皮が果肉とともに脱落したかも知れないが、種子らしきもの(胚乳とそれに包まれた充填物)である。
          アカネの種子 2 
 緑色の充填物を除くと(注:簡単に取り出すことができる。)椀型の胚乳の全体の形が確認できる。
 
     
 
                   アカネの種子の胚
 胚乳内で横生していたを取り出したものである。子葉は2個、胚軸はずんぐりした円筒形である。
 
     
   黒くなった果実は、ふつう感覚であれば黒熟したものと受け止めるが、その果実は少々奇妙である。果実は液果であるから果肉に覆われているが、これを剥ぎ取ると(種皮も剥がれたか?)、白い胚乳が現れるのであるが、なんと軟質ゴムのようにフニャフニャなのである。しかも形状が変わっていて、肉厚のやや口の閉じた椀型で、この空間を埋めているのか果柄につながった球状の緑色の充填物質である。一般的な種子を比べると全く異質である。縦断面で見ると胚が横生しているのは確認した。

 時期を待てば、胚乳が硬くなって、種子らしい姿となるのか否かに疑問をもつことになった。そこで、図鑑での記述や写真を探してみた。
 
     
2   図鑑での果実、種子の情報   
     
   アカネの果実・種子の性状の詳細に関する記述はほとんど見られないが、中国植物誌にはアカネ属(中国名:茜草属)について、以下の記述が見られた。

 「果2裂,肉质浆果状,2或1室;种子近直立,腹面平坦或无网纹,和果皮贴连,种皮膜质,胚乳角质;胚近内弯,子叶叶状,胚根延长,向下。」

 ここに胚乳が “角質” とあるから、少なくとも成熟種子の胚乳はふにゃふにゃではないと理解できる。

 また、アカネの種子の写真は、種子などに特化した2つの図鑑に掲載されているのを確認できた。 
 
     
 
       図鑑掲載のアカネの種子 1
原色図鑑 芽ばえとたね(全国農村教育協会)」より。
       図鑑掲載のアカネの種子 2
 「日本植物種子図鑑(東北大学出版会)」より。
 
     
3   アカネの種子の〝真実〟  
     
   ここで登場するのが、先に触れた落ちていたという果実である。果肉はすっかり乾燥して、黒い果皮が浮いた状態となって、割れが生じていた。   
     
 
    カサカサに乾燥したアカネの果実 
 黒熟果実に対して、この状態のものを何と呼べばよいのかわからない。問題は種子の発芽能力である。
      アカネの乾燥果実と乾燥種子
 果実が4.5ミリほどであるのに対して、乾燥種子は小さくなって2ミリほどであった。
 
     
 肝心な種子であるが、ふにゃふにゃであった胚乳がすっかり乾燥してしまったのか、径が2ミリほどの球形になっていた。一部が少し凹んでいるのは胚乳ではない充填物質が乾燥によってより収縮したものと思われる。

 種子図鑑に掲げられていた写真と比べると、「日本植物種子図鑑」の写真が近い印象である。「原色図鑑芽ばえとたね」の写真は大きくえぐれている上に、表面にしわが多いというのはよくわからない。考えにくいが、充填物が脱落した上に胚乳が乾燥しきっていない状態の種子なのかも知れない。

 そもそも、こんな貧相で干からびたような状態の種子に発芽能力があるのであろうか。むしろ果肉に水分を含んだ状態の方がまだましなような気もする。
 
 
 発芽試験  
 
 そこで、数粒ではあるが、乾燥種子をポットに播いてみた。
 結果は全く反応なしで、とりあえずは発芽試験の第一ラウンドは玉砕であった。