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続・樹の散歩道
  アジサイとガクアジサイの2種類の花を改めて検分する


 アジサイ(在来アジサイ、ホンアジサイ)ガクアジサイにはそれぞれ大きな目立つ萼をつけた花(装飾花)と、これとは別に普通サイズの小さな萼をもった花(両性花)が同居していることが知られている。しかしながら、一般的な図鑑では装飾花の花の構造に関しては詳しい記述がなく、また、特にアジサイの両性花については触れてもいないことも多いため、情報が不足していて、(自分も含めて)認識が不十分な状態におかれていることが多いようである。こうしたことが以前から少々気になっていたことから、アジサイとガクアジサイの2種類の花の構造のおおよそを理解するため、改めて両者の花を検分することにした。 【2016.7】 


 アジサイとガクアジサイの様子  
 
              アジサイ 1
 
アジサイ科アジサイ属の落葉低木。
 Hydrangea macrophylla
 Hydrangea macrophylla f. macrophylla(原品種)
 Hydrangea macrophylla var. macrophylla(原変種)
              アジサイ 2
 アジサイは日本原産の園芸植物で、ガクアジサイから派生 したもの(ガクアジサイを母種とした園芸種)とされ、在来アジサイホンアジサイとも呼んでいる。 
   
            ガクアジサイ 1
 アジサイ科アジサイ属の落葉低木。
 Hydrangea macrophylla f. normalis(品種)
 Hydrangea macrophylla var. normalis (変種)
           ガクアジサイ 2
 ガクアジサイの装飾花は、目立たない小さな花に代わって花粉を媒介する昆虫を誘い込むためのものと理解されている。 
 
 
 学名を見ると奇妙な印象を受ける。つまり、学名上はアジサイが基準品種(原品種、原変種)で、ガクアジサイがアジサイの品種となってしまっているという逆転現象が見られる。これは学名の先取権によるものとされ、ややこしい命名の経過が反映しているようである。よく知られているように、アジサイはガクアジサイから派生したものと理解されていることに変わりはない。   
 
 アジサイとガクアジサイの花について理解が半端となっている要因  
     
 このことについては、以下の実態によるものと思われる。  
 
@  装飾花の花の構造に関して図鑑では一般に詳しく触れられていないこと  
 
 アジサイとガクアジサイの装飾花に関しては、花弁のように見えるのは萼であることが強調されているものの、萼の中心部に小振りな花弁、雄しべ、(退化した)雌しべを持った花が存在することは積極的には説明されていない。  
 
A  アジサイにも両性花が存在することを図鑑では一般に触れられていないこと  
 
 アジサイの花を図鑑で概説する場合に、例えば   
 A  アジサイはガクアジサイの花序全体が装飾花に変化したもの(樹に咲く花) 
 B  アジサイは全部が装飾花の萼片(APG原色牧野植物大図鑑)

として、装飾花をかき分ければ、中に少ないながらも両性花が存在するにもかかわらず、このことが蔑ろになっている場合があり、一方 
 C  アジサイは花序全体がほとんど装飾花になった1型(日本の野生植物) 
 D  正常花と呼ぶ本来の花がほとんど装飾花だけになったのがアジサイ(植物の世界) 
  として、「ほとんど」の語を付して、正確を期しているものもあるが、その場合でも、「ほとんど」から外れた存在については残念ながら詳しく触れられていない。 
 
     
 なお、特にガクアジサイの両性花を指して「正常花」と呼ぶことも、装飾花に対する誤解を招く一因になっているような気がする。つまり、装飾花はすなわち逆に「正常ではない花」ということになり、普通の花の機能を全く失った「花もどき」として理解されかねない。装飾花は雌しべは退化していると見なされているが、(八重タイプでない限り)雄しべは明らかに花粉を出しており、このことからすると、機能的にはこれを「雄花」といっても間違いではないと思われる。さらに装飾花を「中性花」としている例も見るが、雄しべが花粉を出しているのに中性花と呼ぶのは違和感がある。  
 
 アジサイとガクアジサイの2種類の花の確認結果   
     
   特に萼、花弁、雄しべ、雌しべに着目して、その数を現物確認の上で整理すれば以下のとおりであった。   
     
    ガクアジサイとアジサイの花の構造  
 
種別 部位別 花の種類 花の構成 (参考)稔性
ガクアジサイ 散房状集散花序の中心部 両性花(完全花で、正常花あるいは便宜的に普通花とも言われ、雄しべと雌しべは機能を有する。) 小さな萼裂片、花弁(4)(6)、雄しべ(8)10
(12)、花柱2〜4
結実する。
散房状集散花序の周辺部 装飾花(雌しべが退化したいわば雄花で、大きな萼片を持つ。中性花とも言われるが、この呼称はわかりにくい。) 大きな萼片3〜5、小さな花弁、雄しべ、花柱2〜3 通常は雌しべが退化しているため、不稔とされる。
アジサイ
(ガクアジサイの栽培品種)
球形の花序の表面 装飾花(雌しべが退化したいわば雄花で、大きな萼片を持つ。中性花とも。) 大きな萼片3〜5、小さな花弁、雄しべ、花柱2〜3 通常は雌しべが退化しているため、不稔とされる。
球形の花序の内部 両性花(数は多くない。) 小さな萼裂片5〜6(〜7)、花弁、雄しべ10、花柱(2)(4) 結実は少ないとされる。
 
 
注1: 「花の構成」欄のゴシック数字は観察した複数の個体でふつうに確認したもので、括弧書き数字は、まれにみられたもの。 
2: 結実種子について、発芽試験は行っていない。 
 
     

 (1)ガクアジサイの花の構造
   
     
   ガクアジサイの両性花 1
 花粉放出中。花弁5、雄しべ10
 通常のタイプである。
   ガクアジサイの両性花 2
 花粉放出中。花弁4、雄しべ8、花柱3 
   ガクアジサイの両性花 3
 
花粉放出中。花弁6、雄しべ12 、花柱4 
   ガクアジサイの両性花 4 
 花弁と雄しべを落とした状態で、この写真では花柱が3個と4個。
       
   ガクアジサイの両性花 5 
 萼裂片は花弁の間に位置して花弁と同数見られる。
   ガクアジサイの両性花 6 
 花弁と雄しべを落とした状態。萼裂片はごく小さい。
   ガクアジサイの装飾花 1
 萼片4、花弁4,雄しべ8
 花粉放出前の状態。
   ガクアジサイの装飾花 2 
 花粉放出中。雄しべ8,花柱2 
     
(2)アジサイの花の構造 
   
       
   アジサイの両性花 1
 花粉放出中。
 花弁5、雄しべ10、花柱3  
    アジサイの両性花 2 
 花弁と雄しべを落とした状態で、この写真では花柱が2個と3個。
    アジサイの両性花 3 
  花柱3、萼裂片5
    アジサイの両性花4
   花柱が4個みられるもの
       
   アジサイの両性花 5 
 花柱と萼裂片の様子
    アジサイの装飾花 1 
 花粉放出前。花弁4、雄しべ8
    アジサイの装飾花 2
 雄しべが花粉を出している。花柱3 
   アジサイの装飾花 3
  花柱が2個みられるもの


   アジサイの仲間は様々な素性の多数の品種があり、さらにアジサイ属にも多くの種があるから、これらをいちいち検分する元気はないから、とりあえずは一区切りである。   
     
  <参考1:アジサイの花色に関する総論>   
 
 アジサイの青は、アントシアニンと有機酸の一種及びアルミニウムからなる複合体によって発現している。(植物の世界) 
 土壌が酸性の場合はアルミニウムが多く溶け込んでいて、これを吸収してアントシアニンと結合して花色は青くなり、土壌がアルカリに偏ればアルミニウムが少なくなって、アントシアニンそのものの色が強く出て赤色に発色する。 
・   つまり、アジサイは土壌のpHによって花色が赤くなったり青くなったりする。 
 このほか肥料要素、すなわち土壌中の硝酸態窒素とアンモニア態窒素の割合なども、花色を変える原因であることが知られている。(世界大百科事典) 
 
     
  <参考2:気象庁が決めているアジサイの開花日>   
     
   アジサイの開花日は標本木真の花(両性花)2〜3輪咲いた状態となった最初の日としている。
 (気象庁のホームページ) 
 
     
  <参考3:ガクアジサイの果実と種子>   
     
   アジサイやガクアジサイの果実については非常に貧相で小さく、ほとんど花後の残骸といった印象が強いために、改めて見ることもないままになっていた。そもそもキッチリ管理されたものは、花後にバッサ入り剪定されてしまうのがふつうで、果実やその種子を確認しようにも、サンプルが得にくい現実もある。   
     
 
  ガクアジサイの成熟直前の果実
 果実には柱頭が残る。
   ガクアジサイの成熟果実
 果実は成熟すると頂部に口を開けて種子を出す。 
     ガクアジサイの種子
 種子は非常に小さく粉のように見える。 
 


   <参考4:アジサイ属の仲間たち>   

 ヤマアジサイ
Hydrangea serrata
アマチャ 
Hydrangea serrata var. thunbergii
コアジサイ 
Hydrangea hirta
     
 墨田の花火(ガクアジサイの品種)
 ノリウツギ
Hydrangea paniculata
 七段花(シチダンカ)
(ヤマアジサイの品種)
     
 カシワバアジサイ(北米原産)
Hydrangea quercifolia
 ミナヅキ(ノリウツギの品種)
タマアジサイ
Hydrangea involucrata 
     
 ガクウツギ
Hydrangea scandens
 ミセス・クミコ(品種)
ハイドランジア(品種)
 
     
ハイドランジア(品種) 
ツルアジサイ 
Hydrangea petiolaris
ヤハズアジサイ
Hydrangea sikokiana