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続・樹の散歩道 カラタネオガタマは結実しにくい樹種なのか
モクレン科のコブシやオガタマノキの花が終わってお馴染みの集合果を付けているのを見て、ふと、カラタネオガタマの果実を見たことがないことに気付いた。庭園ではしばしば見かける定番の樹種であり、また故郷の庭にも植栽があるが、果実を付けた姿は今まで見たことはなく、もちろん画像の記録もない。別に雌雄異株というわけでもないから、この樹木の固有の特性として、ひょっとすると、そもそもまれにしか結実しないものなのかも知れないと推定した。よい機会と考えて、まずは念のために図鑑類で確認してみることにした。 【2015.12】 |
1 | カラタネオガタマ(トウオガタマ)の様子 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カラタネオガタマ 唐種招霊 Michelia figo (syn. Michelia fuscata)は、中国南部原産のモクレン科オガタマノキ属の常緑小高木で、トウオガタマ、バナナノキの名前も目にする。花はバナナに似た強い芳香があることが広く知られていて親しまれている。中国からの渡来時期に関しては江戸時代(中期)とする説と明治時代初期とする説の両方を見る。英語名はそのものずばりの banana shrub 又は banana magnolia である。中国では含笑又は含笑花と、興味深い名称となっている。平開しない控えめ、清楚な開き方の花の様子に由来するのであろうことは想像できる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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<カラタネオガタマに関する参考メモ> 注:断りのない場合はカラタネオガタマに関する情報で、オガタマノキの情報についてはその旨を記している。 |
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2 | カラタネオガタマの果実に関する情報 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
目にした国内の複数の図鑑類の範囲ではあるが、特に園芸分野の図鑑でしばしばカラタネオガタマの結実が希であることに触れていたが、一般の図鑑では結実の特性については特に触れていないのがふつうで、さらに集合果の形状に関して記述している図鑑類は皆無であった。 WEB上の画像検索(性格上、正確性は期待できないが)でも日本語、中国語、学名で試しても果実に関する有用な情報は得られなかった。そこで、中国植物誌と中国樹木誌を調べたところ、さずがに原産国で、集合果の形状に関しては基本的な情報として記述されているが、残念ながら本種の結実の特性に関しては特段の記述は見られなかった。ということは、中国内では特記すべき性質はないとも受け止められる。(あとで再検討) |
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国内の図鑑でカラタネオガタマの果実の性状に関する記述が見られないのは、国内でのデータ不足及び自生種ではないことから、早々に諦めているものと思われる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3 | カラタネオガタマの果実に遭遇!! | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カラタネオガタマについては稀にしか結実しないためにその情報が少ないことを確認できたが、たまたま多様な緑化樹木を展示したある公園にカラタネオガタマが5本植栽されていて、何とそのうちの1本だけが、控えめではあるがそこそこの果実を付けていることに目が留まった。成熟前ではあるが、幸いにもカラタネオガタマ果実との初めての対面であった。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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果実(集合果)はたった1つから2つの袋果のみからなる場合が多く、オガタマノキやモクレン属の樹種に較べると集合果の袋果の数ははるかに少なく、貧相で、しかもまばらにしかついていなかった。このため、案外見過ごされていることも多いものと思われる。 →(注を参照)) なお、経過観察した複数の個体では、集合果はいずれもピンクに色づくことなく、緑色のまま裂開して赤い種子を出していた。 ところで、先程の5本の樹が実生木であれば、個体差が生じる可能性を理解できるが、挿し木や接ぎ木によるものであれば個体差の存在は理解しにくいものとなる。しかし、残念ながらこれらの個体の素性はわからない。 また、仮に中国でふつうに結実が見られるのであれば、日本で結実が少ない理由が例えば花粉の媒介に適合した甲虫が少ないないとか、興味深い背景が想定されるところであるが、中国での結実の特性の情報が得られないのはもどかしいことである。 そもそもオガタマノキ属の樹種は国内ではオガタマノキ1種が自生するのみであるが、中国樹木誌では、アジア熱帯、亜熱帯及び温帯に約60種、中国に約35種産するとしていて、さらに中国植物誌では、約50余種存在し、中国に約41種産するとしているから驚きである。(図鑑掲載リストは次項で紹介)
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4 | 中国産オガタマノキ属の樹種の例 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
中国樹木誌には中国に産するとするモクレン科 オガタマノキ属(中国名 木蘭科 含笑属)の26種1変種が掲載されている。さらに、中国植物誌ではこれらをカバーして、41種3変種が掲載されていて、ほとんどの種の名称に「含笑」の文字が含まれている。 これらでは傲慢にも台湾に産するものも自国の台湾省に産するものとして扱っていて、それがたまたま日本にも自生するオガタマノキで、中国名は台湾含笑(台湾名烏心石 )である。 念のために、各樹種の結実の特性に関する情報を探したが、白蘭を除き、特に記述は見られなかった。 また、何れの図鑑でもそうであるが、例えば香りに関して必ずしも均質に記述が整理されているものではないため、結果として言及のないものはまるで香りがないような印象を持つことになる。外国の樹種では確かめようがないが、程度の差はあれ、モクレン科の樹種ではそれぞれがそれなりの香りを持っているものと推定される。下表のリストの整理に際しては、「芳り」の欄では香りに関する言及内容だけを抽出して整理した。 |
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<中国樹木誌・中国植物誌掲載のオガタマノキ属樹種> 青字は中国植物誌固有の掲載内容 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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よく知られるギンコウボク(銀香木、銀厚朴)Michelia ×alba は、中国原産のキンコウボク Michelia champaca とインドネシアの Magnolia montana (syn. Michelia montana )との雑種で観賞用などに栽培され、芳香がある(植物の世界ほか)とされ、かつては Michelia longifolia の学名が与えられていた模様である。一部の書籍では、ギンコウボクは Michelia alba (中国名 白蘭)であるとしているなど、見解がいろいろである。 さて、ここで先の疑問点を整理してみる。 「国内植栽のカラタネオガタマの結実が少ないのは本来の姿なのか?」という点である。 本家中国において、カラタネオガタマがふつうに結実しているのであれば、日本に渡来したものがたまたま実の付きの悪い個体で、これが無性繁殖され続けてきたことになって興味深いのであるが、本家中国の図鑑でもカラタネオガタマの果実に関して特別の記述がないのは先にも触れたとおりである。この詳細は不明で、その他の同属樹種でも白蘭についてのみ滅多に実をつけないことに触れているだけであった。ただ、WEB版の中国植物誌で多数見られるカラタネオガタマの画像でも果実の画像は種子を放出した後の貧相な抜け殻の集合果が1点見られるだけであるのを見ると、中国でもカラタネオガタマの結実はよろしくないのかも知れない。 さらに、表の整理をしていて、新たな疑問が生じた。 日本にも自生する分布するオガタマノキに関して、国内では一般に(バナナの香りではない)強い香りがあることが知られているが、中国の図鑑ではこのことに一言も触れていないのである。そこで、つまり 「台湾産と日本産のオガタマノキは本当に同一種なのか?」 という疑問である。 そこで、再度各種図鑑をパラパラ見てみると、一般的には国内産と台湾産のものは同一種として取り扱っている(中国の先の図鑑でも同様)が、台湾産のものを変種としてタイワンオガタマ Michelia compressa var. formosa とする見解もあることがわかった。 その場合、タイワンオガタマは ① 葉が細い(日本の野生植物)、② 葉形が特に小さい(樹木大図説)、③ 葉がやや小さく、下面は白味を帯びないでやや質が薄い(原色日本植物図鑑) 等の説明を見るが、香りの強さの違いに関しての情報は見つからなかった。しかし、台湾産のものは香りが弱いことが明確に確認されれば理解が深まるのであるが・・・ |
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<参考メモ:日本と台湾のオガタマノキの材の利用> | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
オガタマノキ属の樹種は総じて材が堅くて重く緻密であることから、有用な材としての利用が見られるようである。 こうしたなかで、カラタネオガタマは灌木で、その材は原産国の中国でも特に記すべき利用実態はないようであるが、オガタマノキは大きく育ち、材質もよいことから、全く位置づけが異なっている。ただし、国内では出材がほとんどないため、市場での定着した評価を見ない。このため、話は自ずと台湾産の材の利用に関する情報となる。 |
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神社でしばしば見るオガタマノキは何れも大きく育っていて、花や果実を付けてもはるか上空の出来事であり、じっくり検分することが難しいのがふつうである。カラタネオガタマであれば背が低いために、花の香りを堪能することができる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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オガタマノキの材の様子を身近で見ることはできないが、「烏心石 木材」の語で画像検索すれば、台湾における製品例を目にすることができる。心材は赤みを帯びた褐色で美しく、まな板(砧板)を1枚手に入れたくなる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
5 | 国内で見られるモクレン科樹種の花と果実の例 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
以下は目にしたオガタマノキ属とモクレン属樹種の花と果実の様子である。 モクレン科樹種の香りに関しては、よく香るホオノキやカラタネオガタマの印象が強いが、何れもそれなりの香りがあるようである。ただし、時間帯によって香りの放散量が異なるとか、人によってはちっとも匂わないとかいった具合に感受性には個人差があるなどから、客観的な表現は難しく、図鑑の表現もまちまちである。 また、北米産のユリノキ属のユリノキ以外は蜜を出さないと思われ、匂い(この場合は人が感じなくても昆虫にとっての匂いである。)で甲虫類を誘引して花粉を運んでもらっているようである。 |
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Michelia :モクレン(木蓮)科オガタマノキ(招霊の木)属 (中国では木蘭(木兰)科含笑属 、台湾では烏心石属) Magnolia :モクレン(木蓮)科モクレン(木蓮)属(中国では木蘭(木兰)科木蘭(木兰)属) 注:中国では木蓮(木莲)属はモクレンモドキ属を指す。 |
<参考メモ:上記樹種の花冠と香りに関する図鑑での記述内容> | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注:資料は日本の野生植物(青字は樹に咲く花)による。その他は個々に明示。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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