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続・樹の散歩道
ハッカ、ミント、メンソール・・・
 身近でよくわからないスースー成分のはなし


 かつて日本はハッカ(薄荷)栽培が盛んであった時代があり、とりわけ北海道の北見は最大の産地であったとされ、昭和14年(1939年)には世界のハッカ生産の約7割を占めるほどであったという。 しかし、輸入の自由化、さらには合成ハッカの登場により、ハッカの栽培・生産は壊滅状態となり、現在では経済的な栽培は完全に消滅し、一部で演出として、あるいは観光を意識した小規模な栽培があるのみとなっている。
 こうした実態にあるものの、現在でも北見のお土産としてはハッカ油の「ハッカスプレー」がおなじみであり、ハッカ脳(ℓ-メントール)は医薬品、食品、香料・化粧品等で目にし、鼻や口、体でふつうに認知できる存在であり続けている。
 こうしてハッカが身近な存在でることには間違いないが、他のナントカミントとは何が違うのか、口に入るものが天然なのか合成なのか、ハッカ脳とハッカ油は何が違うのか等々知らないことだらけであることを改めて自覚する。 【2013.7】
 


 
    ハッカ油の製品例
 最も目にする製品で、10ml 入りで1050円也である。スプレーポンプのガラス容器入りである。インド産のハッカ精油から調製されている。
(株)北見ハッカ通商製
   ハッカ脳(メントール)の製品例
 製品表示を Peppermint Crystal ペパーミントクリスタルとしているが、正確にはペパーミント由来ではないから Menthol Crystals とするのが適当であると思われる。
(株)北見ハッカ通商製
  左記製品のメントールの結晶
 アルコールには溶けるが、水には溶けない。非常に美しいが、ハッカ油に較べると、日常的には少々使いにくい。
 
     
 
 
  ハッカ(薄荷)  ペパーミント スペアミント 
 
     
     
 1  一般的な名称を改めてチェックする

 まずは名称(呼称)の確認である。
  シソ科ハッカ属Mentha (ギリシャ神話のニンフの名より)の植物のうち、ハーブとして、あるいはその抽出精油について香りが利用されるものを英語でミント mint と呼んでいる。日本の広義の「ハッカ」の語に相当するが、狭義のハッカはハッカ属のハッカ(ニホンハッカ、和種ハッカとも)のみを指す。

 メンソール(メンソル)、メントール(メントル)のいずれも英語の menthol に由来する表記で、ハッカを水蒸気蒸留して得たハッカ精油から析出した(結晶の)ハッカ脳(ℓ-メントール)を意味する。国内では、タバコの場合はメンソール、化学成分としてはメントールの表記が定着している。
 英語の mint は、スペイン語、イタリア語で menta 、フランス語で menthe と、限りなく属名の綴り mentha に近い。
 漢字の薄荷(ハッカ)の表記は中国から伝来したものとされる。

 (「ハッカ油」の理解については後回しとする。) 
 
     
 2  生活感覚での「各種ミント」の理解

 植物園ではしばしばハーブのコーナーがあって、特にシソ科のカタカナ名のハーブが無数に存在することを目の当たりにする。しかし、日本民族は歴史的に日常生活、食生活において、臭いものを誤魔化さなければならないような日常的な必要性がほとんどなかったために、古くから慣れ親しんできたものはシソ科では外来とされる「しそ(紫蘇)」、「青じそ(青紫蘇)」くらいのものである。

 しかし、韓国企業のロッテがミントの名のつく複数のガムなどにより日本で財をなして母国の韓国で巨大財閥を形成した経過の中で、日本人は、ハッカとは別に世界にはナントカミントの名のスースーする香料が色々あることを知ることになった。それでも相変わらずハッカと何が違うのかは実感も知識もないのがふつうである。自分もそうした一人である。

 そこで、
「各種ミントの特徴を実感するためにガムは参考となるか」である。

 ロッテでは現在でも ①スペアミントガム、②クールミントガム、③グリーンガム、④ブラックブラックガム 等のスースーするガムを発売していて、これらに異なるミントが使用されていれば学習用のいいサンプルとなるはずである。早速店頭で確認すると、誠に残念なことに、原材料表示ではすべて「香料」として一括表記されていて、全くわからない。せっかく異なる商品名を使っているのであるから、個性の由来成分を明記してもらいたいところである。仕方なくロッテのホームページ等を探索すると、以下のとおりであった。 
 
     
 
  ①  スペアミントガムは、北米産の2種のスペアミントをブレンド
  ②  クールミントガムは、ペパーミント+メントール
  ③  グリーンガムは、ペパーミント+(葉緑素、緑茶フラボノイド) 
  ④  ブラックブラックガムは、メントール+(カフェイン) 
 
     
    おおよそはわかったが、やはりミントはそれぞれの精油で体感しないと理解しにくいであろう。上記製品について、思い返してもコメントは不能である。
 なお、ハッカ類として「クールミント」の名の植物は存在しないが、これは多分「ペパーミントガム」の名ではミント慣れしていない日本民族が、コショウ(胡椒)と間違えるのを避ける意味もあったのではないかと思われる。 
 
     
   ハッカ類(ミント類)のあらまし(種類)を学習する   
(1)   認知度の高い種について  
     
   ハッカ Mentha arvensis L. var. piperascens Malinv.    
    (ニホンハッカとも 英語名 Japanese Mint , (Japanese peppermint))  
  【世界有用植物事典】一部修正   
 
 ・  日本、朝鮮半島からシベリア地域の湿地に生える多年草。花は淡紫色。かつては日本特産の作物であった。ニホンハッカとも呼ばれ、メントール(ハッカ脳)含量が高く、メントールの原料とされた。文化年間(1804-18)に岡山で栽培が始まった。後に主産地となった北見地方で栽培が始まったのは1887年以降である。 
 ・  刈り取った生草をあらかじめ乾かし、水蒸気蒸留すると精油(取卸油(とりおろしゆ)という。収率約1%。)の黄緑色の油が採れる。これを精製すると無色針状結晶のメントール(ハッカ脳)と、その残りの透明なハッカ油が得られる。 
 ・  ニホンハッカは苦みが強いことと、樟脳臭があることのために、そのまま香料にされることはなく、メントールの原料とする。 
 ・  メントールは薬用として多様な用途があり、また、石けん、タバコ、歯磨きの香料などに使う。スパイスとしては、清涼用の口中香料、飲み物などに加え、薄荷糖、薄荷ドロップなどの菓子にも使われる。 
 ・  ハッカ油は清涼飲料、歯磨き、菓子等の香料、医薬品用に広く用いられている。 
 
  【保育社原色日本薬用植物図鑑】   
 
 ・  ハッカは葉を薄荷と呼び、発汗、解熱、清涼、健胃、駆風などの目的で胃腸薬の多くに配合されている。 
 ・  精油を冷却するとℓ-メントール(薄荷脳)が析出し、これを除いたものは薄荷油と呼ぶ。薄荷油はハッカ水、ハッカ精、シロップなどの内服用製剤が作られるほか、主として食品香料に用いられる。精製度の高いℓ-メントールの結晶は、鎮痛、鎮痒あるいは局所刺激薬として外用の軟膏、硬膏、塗付薬などに繁用され、ほかにも応用範囲が極めて広い。 
 ・  精油成分は70~90%がℓ-メントールで、メントン、イソメントン、アセチルメントール、ピネン、カンフェン、ℓ-リモネンなどが知られている。 
 
 
 国内での栽培の歴史があり、多数の品種が作出されたが、「ニホンハッカ」の呼称には疑問がある。(後述) 
   慣用的に「ハッカ油」の呼称がメントールを取り出す前の取卸油を指している場合がある。 
 
     
 ②  ペパーミント Peppermint (セイヨウハッカ)Mentha × piperita   
  【世界有用植物事典】   
 
 ・  多年草。ヨーロッパでウォーターミント Mentha aquatica L. (Bergamot Mint)とスペアミント Mentha spicata L. (Spearmint)との自然雑種から生じたとされる栽培種。花は紫または白色。 
 ・  生葉を刻んでラム料理や魚・肉のソースに使ったり、カクテル類やリキュールに入れて、美しい緑色と香りをつける。(また、チューインガムの香料にし、ケーキやミント・ゼリーなどの菓子に入れる。) 
 ・  茎葉を水蒸気蒸留すると精油のペパーミント油がとれる。葉に1%含まれるこの精油の主成分はメントール、メントールエステル、メントンなどで、メントール成分が50~60%と少なく、ハッカ脳を採取せず、取卸油自体をペパーミント油としているが、ニホンハッカ(ハッカ)に比較して芳香に富み、辛みも少ない洋菓子のスパイスやエッセンス、歯磨きや化粧品の香りのほか、強心剤、興奮剤その他の薬用にもされる。ヨーロッパ各地で栽培される。 
 
     
 ③  スペアミント Spearmint(ミドリハッカ、オランダハッカ、チリメンハッカ)Mentha spicata   
  【世界有用植物事典】   
   中央ヨーロッパ原産の多年草。Mentha longifokia L. とMentha rotundifolia L. との雑種起源、または前種の同質四倍体起源と考えられている。同じくミントの仲間であるペパーミントに似るが、葉には目立った葉柄はなく、茎に直に葉身がついている点が異なる。葉も茎も緑色が濃く、葉が大きい。このため和名をミドリハッカという。花は淡紫色。全草に0.2%~0.5%の精油を含む。花つきの地上部を水蒸気蒸留して得られる精油がスペアミント油(ミドリハッカ油)である。ニホンハッカやセイヨウハッカの精油と異なり、メントールを含まず、ℓ-カルボン55%を含む。ヨーロッパでは2000年前から知られ、肉や魚の料理に香辛料として使う。精油はチューインガム、カクテル、歯磨き、菓子などの香料として重要である。アメリカのミシガン州で大量に栽培されている。   
 
 別に「オランダ薄荷」の和名があり、これは江戸時代末期にオランダから渡来したことによるといわれる。 
 
     
(2)  ハッカ脳とハッカ油について

 次に少々わかりにくいハッカ油に関する確認である。

 
それは「なぜハッカ油にメントールの香りがあるのか」についてである。

 先に引用した説明で、「精油を冷却するとℓ-メントール(薄荷脳、ハッカ脳)が析出し、これを除いたものは薄荷油(ハッカ油)と呼ぶ。」とあり、ふつうの感覚ではハッカ油はメントールを取り出したあとの、(メントールを含まない)残りカスと受け止められる。ところがである。市販されているハッカ油はハッカ脳と同様のメントールの香りがあって、むしろこれが商品価値となっている印象である。これはメントールのカスが少し残留しているということなのか。一般的な説明でもハッカ油の構成成分については特に触れていないから、確認の術がない。そこで、「北見ハッカ通商」に確認してみた。

 結論は、「ハッカ油は成分として一定量のメントールを含んでいる。」ということである。「ハッカ油にメントールが含まれていないと理解していたら、それは明らかな誤りである。」ということである。
 メントール、ハッカ油は日本薬局方に収載されているとする説明を思い出して確認すると、正にそのとおりであった。

【日本薬局方】
 ℓ-メントール  本品は定量するとき、ℓ-メントール(C3H20O)98.0% 以上を含む。本品は常温で徐々に昇華する。
 ハッカ油  本品はハッカ Menntha arvensis Linné var. piperascens Malinvaud (Labiatae) の地上部を水蒸気蒸留して得た油を冷却し、固形分を除去した精油である。本品は定量するとき、メントール(C3H20O:156.27)30.0%以上を含む。

<参考>
 メントールとハッカ油の使い分けの事例
 冒頭で紹介した製品の製造者となってる北見ハッカ通商が販売を扱っている菓子類がよいサンプルとなる。
 「ハッカ飴」にはハッカ結晶(メントール)が使われていて、豆菓子の「ハッカ豆」にはハッカ油が使われていた。想像であるが、ハッカ飴には雑味のないメントールを意識して使用しているのかも知れない。

 
     
(3)   いろいろなミント類の種類一覧表  
     
 
学名 英語名 和名 備考
Mentha aquatica watermint ウォーターミント、ミズハッカ、ヌマハッカ ペパーミント~ペニーロイヤルの香り
地中海沿岸からアジアに分布し、ラベンダーに似た芳香の精油を生産する。栽培のペパーミントの一方の親になったと推定されている。英語名は水辺で生育することから。
Mentha arvensis
Mentha arvensis var. arvensis
corn mint , field mint , wild mint コーンミント、フィールドミント、(ヨウシュハッカ)ハッカ 軽い苦みのあるやや強いミント香
ヨーロッパからアジア、北米に分布。精油の主成分は-メントールで、メントール原料のほか、他の生薬と配合して各種の薬用に供される。
Mentha arvensis piperascens (亜種扱い)
Mentha arvensis var. piperascens (変種扱い)
Mentha canadensis(syn.)
Japanese mint
American corn mint
Canadian mint
Chinese mint
Japanese peppermint
ニホンハッカ、ハッカ、和種ハッカ メントールの含量が多く、メントールの原料とされた。
日本、朝鮮、中国、シベリア、樺太・・・に分布するとされるが、詳細は不明。
日本固有種ではなく、ニホンハッカの和名や紛らわしいJapanese peppermint の英名は適当ではない。
Mentha × amithiana red raripila mint レッドラリピラミント フルーティな香り
赤味のある葉が特徴的。
Mentha × gracilis ginger mint , red mint ジンジャーミント、レッドミント 甘い香りがする。
Mentha × gracilis
‘Variegata’
ginger mint ジンジャーミント Mentha ×gracilis にそっくりだが、葉は黄色に斑入りで、果物の香りがする。
Mentha longifolia horse mint ホースミント ペパーミントの香り
地中海沿岸から中央アジア原産。古くは多く栽培され、薬用にされてきた。頭痛や各種の痛み止めに多く用いられた。
Mentha × piperita peppermint
American piperita
ペパーミント、セイヨウハッカ、コショウハッカ スペアミントより強い香り
米国が最大の生産国となっている。
Mnetha × piperita
‘Citrata’
lemon mint , eau-de-cologne mint , bergamot mint レモンミント、オーデコロンミント、ベルガモットミント A:ラベンダーの香り
B:オーデコロンの香り
C:レモンの香り
ヨーロッパ、西アジア産で、リナロールと酢酸リナリルが主成分。強い柑橘系の香りと風味をもち、ドライフラワーとして芳香剤にできる。
Mentha pulegium pennyroyal、pudding grass ペニーロイヤル(ミント)、メグサハッカ スペアミントに似た強い香り
地中海沿岸から西アジアに分布し、南スペインが主産地。料理に用いる。また精油(Oil of Pennyroyal)は石けん製造やメントール合成に利用される。また、薬用にもされる。プレゴンが主成分で、古くから蚤(のみ)除けに使われるなど、防虫効果にも優れている。匍匐性。
Mentha pulegium
“Cunningham Mit”
creeping pennyroyal クリーピングペニーロイヤル ペパーミントに似た強いミント香
小型の葉の品種。creeping は「匍匐性の」の意。 
Mentha requienii Corsican mint コルシカミント 草丈が非常に低い匍匐性で、グランドカバー向き。
Mentha spicata spearmint スペアミント、オランダハッカ、ミドリハッカ A:甘い香り。B:芳香があり多くは甘い香りだが、ときに刺激的。
Mentha spicata ‘Crispa’ curly spearmint カーリースペアミント、チリメンハッカ 葉が縮れている観賞用品種
Mentha suaveolens applemint , woolly mint アップルミント、ウーリーミント、マルバハッカ リンゴの香りがする。
Mentha suaveolens
‘Variegata’
pineapple mint パイナップルミント 甘い果物の香りがする最も魅力的なミントの一つ。アップルミントの変種。
Mentha × villosa var. alopecuroides Bowles' mint ボウルズミント スペアミントとパイナップルミントの交配種。
<参考資料>
ハーブ大百科
A-Z園芸植物百科事典
世界有用植物事典
北見の薄荷入門ほか 
 
     
   結局のところ、ニホンハッカ(和種ハッカ)の呼称は、日本固有種であるとの誤解を招きがちで、好ましくないと思われる。日本がメントールの最大の輸出国であったことを背景に、その基源植物あるいは製品に対する商業的呼称としての Japanese mint の日本語版と言った印象が強い。そもそも、国内のハッカは古い時代に中国から渡来したものであろうともいわれているところであり、日本、朝鮮、中国、シベリア、樺太等に分布するといわれるが、どこまで確認されているのかもよくわからない。しかも、この学名 Mentha arvensis L. var. piperascens Malinv. 自体も国際的定着度も高くないようである。また、学名上の母種 Mentha arvensis にヨウシュハッカの和名を充てているのも、意味不明のニホンハッカの呼称と対比的に名付けた印象があって違和感を与えている。加えてペパーミントの和名として使用されているセイヨウハッカの名とも紛らわしい。

 要は世界各地でメントール原料として栽培されているのはいずれも 「Mentha arvensis =ハッカ」(栽培)品種として理解した方がよいと思われる。つまり、ニホンハッカとヨウシュハッカの呼称自体が論理的ではなく、可能であれば別途ふさわしい和名で整理した方がわかりやすいと思われる。さらに、日本がメントールを輸出していた経過から、日本の栽培種Mentha arvensis の国産栽培種)を無責任にも英語で Japanese peppermint と勝手に呼んでいる場合もあって、本来のペパーミントと紛らわしいものとなっている点も迷惑である。
 
 
     
 4  天然ハッカと合成ハッカの供給構造   
     
   供給品の由来

  国内で消費されるハッカは、
 A 外国産の天然ハッカ精油由来のメントール及びハッカ油
 B 国産及び外国産の合成メントール

 で構成されている。(国産のハッカ精油の生産は微々たるものである。)
  
 
     
 
区分 当初形態 利用形態 用途 
輸入 ハッカ精油 → 天然ハッカ油 医薬品、食品、香料・化粧品等 
→ 天然メントール 医薬品、食品、香料・化粧品等    
天然メントール
合成メントール(ドイツ シムリーゼ社製等)
国産 合成メントール(高砂香料工業製等)
わずかな国産ハッカ精油 → 天然メントール 国産メントールの製品の行方は未確認 
→ 天然ハッカ油 国産ハッカ油としてわずかな販売品がみられる。 
 
 
(注)  上表では便宜上「天然ハッカ油」の語を使用したが、そもそも「合成ハッカ精油」、「合成ハッカ油」なるものは存在しない。 
 
     
  <参考記述例>   
 
 ・  現在、インドは世界のハッカ精油総生産量の約73%を占める最大の生産国である。
(UNIVISION Sunday, June 10, 2012)

 ・  2001 年に世界で約13,600 トンのメントールが生産された。メントールの生産量の約75%が植物に由来し、25%が合成に由来する。(SIDS 初期評価プロファイル) 
 ・  世界中で使用されるメントールは天然・合成を合わせて約1万5千トンで、このうち合成が約5千トンを占める。(日本食糧新聞 2007/10/22 ) 
 
  統計的な裏付けとなるデータは示されていない。なお、「食品香粧学への招待(2011)」では、ペパーミントの生産量は年3,300トン、スペアミントの生産量は年1,800トンとしている。   
     
   ハッカの輸入量

 ハッカの輸入数量は財務省の貿易統計で公表されている。 
 
     
   2012年輸入数量                                    単位:kg  
 
メントール(ハッカ脳) メントール65%超の
ハッカ精油
メントール65%以下の
ハッカ精油
(参考)ペパーミント油 
合 計 530,145 合 計 504,500 合 計 120,722 合 計 264,004
中国 200,945 インド 456,080 インド 56,667 米国 243,214
インド 153,800 中国 48,420 中国 39,625 英国 8,832
ドイツ 127,220     台湾 23,580 インド 6,300
米国 43,960     フランス 550 フランス 4,055
シンガポール 2,000     イタリア 200 ドイツ 720
フランス 1,100     オーストラリア 100 シンガポール 544
スペイン 1,020         中国 180
ブラジル 100         オーストラリア 114
 
 
 メントールについては天然品と合成品の区分がないが、ドイツや米国は合成品の生産国である。 
   インド産のハッカ栽培品種は、Mentha Shivalik シヴァリクハッカとして知られている。 
   ヨーロッパからのハッカ精油については、原産なのか、輸入品の精製後の輸出品なのか、詳細はわからない。 
 
     
  <参考:輸入ハッカ精油の精製事業者の例>   
  鈴木薄荷株式会社(兵庫県神戸市灘区下河原通1-3-1)
東洋薄荷工業株式会社(岡山県浅口郡里庄町浜中75-1)
長岡実業株式会社(兵庫県西宮市西宮浜4丁目7番18号)
 
 
     
   国内の合成ハッカ生産量

 最大手と思われる高砂香料工業は、自社生産量について「秘密情報につき、外部への開示・提供をお断りしている」とのことで、事情は不明であるが、生産量を開示していない。
 
 
     
  <参考記述例>   
 
 ・  ℓ-メントールは、合成香料生産量では最大です。年間国内生産量は2000~3000トン。(板倉技術士事務所) 
 ・  合成と天然のℓ-メントールの品質については、化学的には全く同一であるが、天然品には再結晶の際、溶剤として用いるハッカ白油の微量が付着しているため、独特の香味を有しており、産地により多少の差がある。(合成香料:化学工業日報社) 
 ・  化学合成から作り出された合成メントールには、①石油から合成されたもの、②松脂やパルプの副産物から合成されたものなどがあります。いずれも多くの化学反応を何度も繰り返してメントールを作り出しますが、どちらの場合も微量の異物が残留します。この残留物の成分全てが確認されたとは言えません。(日本農産物株式会社) 
 
     
  <参考:合成メントール生産者の例>   
  高砂香料工業株式会社(東京都大田区蒲田5丁目37番1号)
 1983年に野依良治教授(現・社外取締役)の協力を得て、ミルセンを原料として世界で初めて不斉合成技術による高純度の天然型の ℓ-メントールの製造に成功したとされる。
Symriseシムリーゼ社(ドイツ ホルツミンデン市)
Millennium Chemicals ミレニアムケミカルズ社(米国メリーランド州)
Sigma-Aldrich シグマアルドリッチ社(米国ミズーリ州)
 
 
     
   雑情報   
     
   中国伝来の「薄荷」の表記の意味については不明とされるが、以下のような出所不明の説明例がある。
 
 
 
 ①  収穫した薄荷草を乾燥し、水蒸気蒸留で得た油(乾草に対して収油率は1~2%)は缶に入れられ、かさが減るので馬車で輸送するには大変便利でした。このことから「荷が薄くなる」という意味で、「薄荷」という漢字が使われたと言われています。(鈴木薄荷株式会社) 
 ②   「薄荷」とは、入り交じって群がり生える(薄)地下茎の草(荷)という意味です。(有限会社ペパーミント商会) 
 
      
   以下は、天然ハッカの最大の生産国インドでの栽培の様子を記した資料の例である。   
     
 
         Mentha cultivation in India
         
インドにおけるハッカMentha栽培(抄訳)

 ハッカ精油 Mentha oil は Mentha Arvensis あるいは common mint と呼ばれる植物に由来する。ハッカの(種根の)植付けは12月に行われ、3月から4月の間に収穫される。.ハッカ精油はハッカの葉を水蒸気蒸留することで得られる。ハッカ精油は6月から7月の間に市場に到着する。メントール Menthol はハッカ精油の主要な派生製品である。ハッカ精油の大部分はメントールに転換され、これがハッカ精油の基本的な用途の一つとなっている。現在、インドは世界のハッカ精油総生産量の約73%を占める最大の生産国である。

 ハッカ mint の起源については一般に知られていないが、古代にヨーロッパで栽培されていたとされる。商業的にはハッカMentha Arvensis は日本で1870年頃に生産が開始された。その間に、ジャパニーズミント Japanise mint と呼ばれ、日本はこの分野での主導的な国であった。第二次世界大戦後に、ある日本の生産者がブラジルの森林内にハッカ mint が存在するとして、ブラジルにおいてもハッカ mint 生産を開始した。同様に、ハッカ mint 生産は他の南アメリカ諸国にも拡大した。さらに1960年頃には、ハッカ mint 生産は中国やインドのような世界の他の国々にも引き継がれていった。実際に、当初はインドもメンソール輸入国であったが、1986年の緑の革命後に、ハッカ mint は農業産品として出立した。

 ハッカ Mentha はラビ作(rabi crop 冬の乾期の耕作)として導入され、したがって冬期に作付けされた。この作物は水分の多い砂質土でよく育つ。湛水状態及び小雨は適切な生長のためには障害となる。ハッカは開花時期に精油含有量が最大となることから、この時期に収穫される。収穫物は天日で2から4時間乾燥され、これにより重量は3分の1に減少し、蒸留に回される。葉を乾燥するのは、生の葉よりも蒸留経費を削減できるからである。より高い収益を得るためにハッカはジャガイモやトウモロコシと組み合わせて栽培できる。収穫は少なくとも年2回行われる。【UNIVISION Sunday, June 10, 2012】

(注)原文では Mentha (ハッカ属)と mint (ミント、ハッカ)の両方の語が登場するが、その使い分けははっきりしない。なお、インドではハッカのほかにペパーミントの生産もあるが、主要生産国である米国産の品質には届いていないという。
 かつての日本でのハッカ栽培の様子については、北見ハッカ通商が自社ホームページで紹介している。
 
 
 
    北見市内の飲食店では、暑い時期ににハッカ油を含ませたおしぼりを提供することが広く見られ、ほんのりハッカの涼しげな香りが爽やかで、非常によい印象があった。現在でも多分見られると思われるが、輸入ハッカ、合成品が幅をきかせている実態にあっても、かつての歴史を偲ぶ演出として支持されていた。