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続・樹の散歩道
   中国植物誌に中国産とされるトウモクレンが
なぜ掲載されていないのか?
 


ハクモクレンもシモクレン(名称が混乱しやすいので、一般に筆頭和名となっている「モクレン」の名は避けて、ここでは別名とされる「シモクレン」の名を採用する。)も中国から渡来したものとされるが、ハクモクレンは緑化木として広く植栽されているのに対して、シモクレンが植栽されている例はそれほど多くないように思われる。
 一方、このシモクレンの変種とされるトウモクレンは比較的多く植栽されているのではとの勝手な思いがあったが、観察を進めるうちに実はシモクレンに比べるとはるかに影が薄い存在となっていることが薄々わかってきた。植物が大好きなおじさんやおばさんでも、これらが決してわかりやすい名前ではないことから、どっちがどっちであったのか、しばしば混乱しているようである。自分でも同様であるが、参考として中国ではこれらを何と呼んでいるのか知りたくなって、まずは
中国植物誌で調べてみると、何と中国では広く栽培されているのではと想像していたトウモクレンが掲載されていないのを確認した。はて、これはどういうことであろうか。 【2018.5】 


 シモクレンとトウモクレンに関する図鑑等での記述内容  
 
 図鑑における両者の花や葉の特徴等を捉えた記述を抜粋すれば以下のとおりである。  
 
 
区分 シモクレン(モクレン) トウモクレン(ヒメモクレン)
中国植物誌 紫玉兰(紫玉蘭)
Magnolia liliflora
落葉高木、高さは3mに達し、常に叢生する
葉は楕円状倒卵形または倒卵形、長さ8-18センチ、幅3-10センチ、先端が急に尖るか次第に尖り、基部は次第に狭くなり、葉柄の長さは8-20ミリ。
花蕾は卵円形で、淡黄色の絹毛に被われる。花と葉は同時に開き、瓶形で、やや香気がある。花被片は9-12個で、外輪の3片は萼片状で紫緑色(注:花弁は6-9個ということになる。)、披針形で2-3.5センチ、常に早く落ちる。内側の2輪は肉質で、外面は紫色または紫紅色で、内面は白色を帯び、花弁状、楕円状倒卵形で、長さ8-10センチ、幅3-4.5センチ。花期は3-4月。
 掲載なし
改訂日本の野生植物 シモクレン (モクレン)
Magnolia liliiflora
落葉低木。高さ3-4mくらい
葉は倒卵形または広卵形、長さ8-18cm、基部はくさび形に細まり、先は鈍形で頂端は突出し、やや厚く、裏面脈上に細毛があり、葉柄は1-1.5cm。
花はふつう全開せず、狭鐘形、長さ約10cm。花被は萼と花冠の区別があり、萼片は3枚、小さくて長さ約3cm、黄緑色で、反曲する。花弁は6枚、倒卵状長楕円形、紅紫色、萼片の3倍くらい長い。
(栽培種は不掲載)
樹に咲く花 モクレン 別名シモクレン
Magnolia quinquepeta
中国原産の落葉低木または小高木。花は紅紫色、直径約10センチ。外側の花被片3個は小さく萼状。内側の6個は花弁状で、あまり開かない。
トウモクレン 別名ヒメモクレン
Magnolia quinquepeta var. gracilis
全体にモクレンより小型で、葉の幅が狭い花被片の内側は白っぽく、先端がややとがる
原色園芸植物大図鑑 モクレン(シモクレン)
Magnolia liliflora 英語名 Lily Magnolia
中国原産の落葉小高木。日本には1765年ころ渡来。
葉は長さ10~15cmの倒卵形。花弁は6枚、長さ約10cmで卵状長楕円形、外面は濃暗紫色、内面は淡紫色
根元から出るヒコバエを掻き取り1本立に仕立てると高さ6mにもなる。
トウモクレン(ヒメモクレン)
Magnolia liliflora var. gracilis 英語名 Lily Magnolia
中国原産の落葉低木。樹高は3~4mと小ぶり、枝もやや細い。
花弁は細めで幅2~2.5cm、長さ7cmぐらい、外側が赤紫色で内面はやや白色。開花は遅く4~5月に新葉の展開と同時に咲く。
生物大図鑑 園芸植物 モクレン(木蓮、木蘭) 別名シモクレン、モクレンゲ
Magnolia liliflora
中国原産の大型の落葉低木。幹は直立または株立ちとなり、高さ3~4m。葉の先端は突出する。花は4~5月に開葉前または開葉と同時に咲き、やや筒状の鐘形で紫色から紫紅色
トウモクレン
var. gracilis
モクレンの変種で、全体に小型で、花色もやや淡い
新牧野日本植物図鑑 モクレン(シモクレン、モクレンゲ)
Magnolia liliiflora
昔に輸入された中国原産の落葉性の大低木。
幹は直立して分枝し、しばしば叢生し、高さは4mばかりにもなる。葉は広くて大きい広倒卵形で先端は凸型、長さ8~18cm。
3~4月頃、枝上に大型で暗紫色の花を開き陽が当たると平開し、多少芳香がある。つぼみには膜質の苞がある。がく片は3個で小形、卵状披針形で緑色をおびている。花弁は6個で2列生、倒卵状長楕円形で内面は淡紫色、約10cmの長さがある。
トウモクレン(ヒメモクレン)
Magnolia liliiflora ‘Gracilis’
中国原産の落葉性低木。樹はモクレンより小さく、幹枝は叢生しよく伸長して細く、葉質の薄い一園芸変種である。葉は倒卵形で、基部はくさび形、先端は急に細く尖る。
4~5月頃、葉に先立って枝先に半開の暗赤紫色で香りのある大型の花をつける。蕾には膜質の苞がある。がく片は3個、狭披針形、淡緑色、花時には反り返る。花弁は6個、肉質で2列生、モクレンより小型で細く、先端はやや尖り、内面は色がうすく白けてみえる
園芸植物大事典 シモクレン 別名モクレン
Magnolia quinquepeta 異名 Magnolia liliiflora
中国原産とされている大型の落葉低木。葉は倒卵状または卵状楕円形。
花は春に葉に先立って咲き、葉の展開後まで咲き続けるが、ハクモクレンより遅い。がく片は淡緑色で小形、花弁は6個あり、外側が濃紫色で内側が淡紫色、長さ10cm前後で直立し、半開する。枝は細く長く伸び、花つきはハクモクレンよりは少ない。ハクモクレンと同様に変異が多く見られ、花色の濃いものや淡いもの、花弁の幅が細くてとがり気味のものや幅の広いものなどがあるが、これは長年の栽培過程での実生変異と思われる。
トウモクレン
Magnolia quinquepeta ‘Gracilis’
園芸品種で花色がやや淡い
植物の世界 シモクレン
Magnolia quinquepeta
中国原産だが、自生地ははっきりとしない。花が直立し、葉の展開と同時に開花することがシモクレンの特徴。花の色は系統によって濃淡さまざま。
 記載なし
 
  注:種小名として liliiflora  liliflora の綴りが見られる。  
     
 ポイントをまとめれば、   
     
 ・  シモクレンの花は花弁の外側が濃紫色で内側がやや薄く、総じて大きくは開かない。葉は広くて大きい広倒卵形で先端が突出する。 
 ・  トウモクレンの花は小型で細く花弁の外側が赤紫色で内側が白っぽく、花弁の先がとがる。葉は倒卵形で幅が狭い。 
 ・  なお、シモクレンの花弁数は中国植物誌では6-9枚としている(国内の図鑑では6枚としているのがふつうである。)。トウモクレンの花弁数は見た限りではふつう6枚と理解してよいと思われる。 
 
 
 ということになると思われる。  
 
 真正のシモクレンはどの程度植栽されているのか  
 
 「樹に咲く花」に掲載されたシモクレンの花が内側と外側のいずれも濃い紅紫色であったことから、これを参考として以前から日常生活の中でシモクレンを探索していた。しかしながら、内側が淡色のトウモクレンらしきものが多いように感じられ、たぶんシモクレンなのであろうと思われるものは植栽樹としてはわずかしか目にできないままとなっていた。しかし、改めてシモクレンについて学習すると、園芸植物大事典の次のような記述があるのを目にした。

 「(シモクレンでは)ハクモクレンと同様に変異が多く見られ、花色の濃いものや淡いもの、花弁の幅が細くて先端がとがり気味のものや幅の広いものなどがあるが、これは長年の栽培過程での実生変異と思われる。園芸品種として日本では、花色のやや淡いトウモクレン(‘Gracilis’)、花色濃いカラスモクレン(‘Nigra’)のほか、アメリカには数十種がある。」

となると、花の内側の色が薄くてトウモクレンと思い込んでいたものは、実はシモクレンのふつうの変異の範疇であったということになる。ただし、探索していて気づいたことであるが、公園樹で「シモクレン」と表示しているものでも明らかに真正のシモクレンではないものがしばしば見られた。
 
 
   シモクレン及びシモクレンらしきものの例   
       シモクレン 1
 皇居東御苑の植栽樹で、「モクレン」の樹名板あり。
       シモクレン 2
 よそ様の庭の植栽樹 
       シモクレン 3
 新宿御苑植栽樹で、樹名板なし。
     
   
      シモクレン 4 
 京王フローラルガーデン アンジェ植栽樹で、樹名板なし。
      シモクレン 5 
 北海道内の公的な樹木園の植栽樹で、「モクレン」の樹名板あり。
       シモクレン 6 
 品川区真了寺の植栽樹。花弁はほとんどが7枚であった。
 
 
   花弁の色の濃さは、特に内面は濃淡差が大きく、「2」の花は外側と内側がほとんど同色で、カラスモクレンと呼ばれているものかもしれない。   
     
 トウモクレンを簡単に識別できるのか  
     
 まず、形式的な整理であるが、比較的新しい図鑑ではトウモクレンはシモクレンの栽培品と見なすのが普通になってきているようである。そもそもシモクレンに変異の幅があり、さらにシモクレンはハクモクレンをはじめとする他のモクレン属との交配品種が多数あるとされ、どの程度が導入されているのかさえわからない。公園やビル周辺の植栽樹としても利用されていると思われ、花弁の外側の色が暗紫色のものからピンク色のものまで目にするが、これらの素性は見ただけではさっぱりわからない。要は身の回りにはシモクレンの実生変異、栽培品種及び種間交配品種が多数存在することを承知しておかなければならない。

 したがって、もはやどれがトウモクレンなのかと思い悩むこと自体、無駄なあがきであり、意味がないような気持ちになってくる。しかし、徘徊・検分した範囲では、たぶん真正のトウモクレンなのであろうというものを概略絞り込む拠り所は、特に花が小形で、花弁の外側が赤紫色でやや細くて内側が白に近く、葉が狭いということがポイントと感じる。注意して観察していると、次第に目が慣れてきたような気になれるが、該当するものは極めて少ないという印象がある。そもそも、トウモクレンの名前自体がほとんど一般に知られておらず、苗木の販売情報もほんのわずかしか見られない。

 なお、注意が必要なのは、単に小ぶりな淡紫色の花をトウモクレンと見誤ってはならない。ガールマグノリアの名のあるシモクレンとシデコブシの交配種群は総じて花が小振りで淡紫色である。見た範囲では、葉もかなり小形である点も特徴であると思われる。
 
 
   トウモクレン及びトウモクレンらしきものの例   
      トウモクレン 1 
 京王フローラルガーデン アンジェ植栽樹で、「トウモクレン」の樹名板あり
     トウモクレンの葉 
 同左の葉の様子で、シモクレンより細い。
      トウモクレン 2
 都内芝浦中央公園の植栽樹で、樹名板なし。 
     
<比較用:ガールマグノリアの例>     
いずれも京王フローラルガーデン アンジェ植栽樹である。  
 ガールマグノリア ジェーン ガールマグノリア ジュディ  ガールマグノリア スーザン 
     
 
 ガールマグノリア ジェーンの葉  ガールマグノリア ジュディ の葉  ガールマグノリア スーザンの葉
 
     
 トウモクレンやシモクレンはビル周りの植栽木等として積極的に利用されていない印象があるが、その理由をこの機会に改めて考えてみると、まず、樹形が小さい上にざわざわと株立ちとなる性質から姿がスッキリしないことが考えられる。さらに人気のあるシモクレンの交雑品種では主幹ははっきりし、樹高の特性、花の色や大きさが多様性に富んでいて、選択の幅が広く、結果としてトウモクレンやシモクレンの影が薄くなっているものと思われる。ただし、シモクレンは交配に際しての紫の花色を出す重要な素材として大活躍してきた経過があるようである。  
(株立ちの話はどこかに挿入)  
 
 トウモクレンはなぜ中国植物誌に掲載されていないのか  
 
   トウモクレンは国内の図鑑では Magnolia liliiflora Desr. var. gracilis Rehd. の学名を掲げて、シモクレンの変種として扱っている場合と、これとは別に栽培品として扱っている場合が見られる。

 このうち、変種と見なす学名については、シモクレンの学名のシノニムと見なす見解(The Plant List 参照)があり、栽培品としては ‘Gracilis’の名がある。中国名として狭萼辛夷(百度百科、中国語版ウィキペディアなど)の名もあることを確認したが、認知度は高くない印象である。

 中国植物誌でトウモクレンが掲載されていないのは、自然分布する変種と見なさず、あくまで数ある栽培種のひとつと見なしていることによるものと思われる。 
 
     
5   気になる問題の所在及び対処案   
     
   多様な品種が存在することは、緑化に際しての選択肢が多いことを意味し、鑑賞する側も楽しめるから結構なことである。ただし、次のような現実の問題がある。

 ① 真正のシモクレンではないものにシモクレンの名の樹名板を付している例がみられる。
 ② 実は真正のトウモクレンを見る機会は極めて少ない。


 ①は、シモクレンとハクモクレンの交雑品種が多数存在する中で、苗木生産者がこれらの系統の素性の認識がが十分でないことに起因して、流通上の名称がテキトーになっている実態が反映しているものと推定される。

 ②の実態から、図鑑ではシモクレンとトウモクレンの両者がふつうに掲載されていても、実際に両者を見較べる機会がない。こうした中で、トウモクレンをお散歩がてらに見つけて同定しようと試みるも、なかなか果たせなくて悩んでいる者がいることは不幸なことである。

 この現実を踏まえ、まずは以下のように名前を交通整理することを提案したい。

 ハクモクレン、シモクレン、トウモクレンのいずれも中国から渡来したものと考えられている中で、トウモクレンだけに「トウ(唐)」を付した呼称は種の呼び分けの機能混乱を招きやすく不合理で、属性も反映していないことから混乱の一因になっており、トウモクレンの和名及びこれを変種と認識した学名は抹殺すべきである。

 この上で、トウモクレンの和名に替えて、花が小さいことを捉えた別名とされている「ヒメモクレン」を筆頭和名として使うべきである。また、トウモクレンを変種と見なした学名が図鑑でみられるが、国際的にもシモクレンの学名のシノニムと見なされており、栽培品としての学名、Magnolia liliiflora ‘Gracilis’を使用すべきである。

 さらに、シモクレンとハクモクレンの多様な交配品種については、苗木生産者がしっかり素性を把握して、適正な系統管理の下に出荷するように努力願い、樹名板を付すときは極力品種名を明示願いたいものである。

 次に、トウモクレンの認識の助けとなる教材がどうしても必要となるが、これについては次に検討する。 
 
     
6   シモクレンとヒメモクレン(トウモクレン)の適正な学習素材の探索   
     
   まずは、シモクレンの植栽があるとの情報がある小石川植物園をのぞいてみることにした。園内を徘徊すると、シモクレンとしたものが3株植栽されているのを確認した。

 小石川植物園 柴田記念館手前
  樹名板表示 モクレン Magnolia liliflora Desr.
  樹は株立ち状で、樹高が一番高くて5mほどあり、相場からすると大きい。

 小石川植物園 分類標本園
  樹名板表示 モクレン Magnolia quinquepeta(Buchoz)Dandy (この学名は異名)
  樹は株立ち状の低木。

 小石川植物園 園内シマサルスベリ付近
  樹名板表示 モクレン Magnolia quinquepeta(Buchoz)Dandy(この学名は異名)
  樹は貧相な株立ち状の低木で、花が全く見られなかった。(2018.4)
 
 天下の東大附属の小石川植物園であるから、たぶん真正のシモクレンと受け止めてよい思われるが、残念ながらトウモクレンは見られなかった。 
 
     
 
注:  上記学名の種小名として liliflora が使用されている。現在認知されているのは liliiflora であるが、図鑑でもしばしば  liliflora の綴りを見かける。ちなみに中国植物誌の書籍版ではMagnolia liliflora Desr. の学名を掲げていて、WEB版では、一般に異名と見なされている(たぶん中国の学者によるものと思われる)Yulania liliiflora (Desr.) D. C. Fu の学名に改めている。liliflora の種小名の綴りがかつて使われていた背景については不明。
 
     
 
 小石川植物園のシモクレン   
      小石川植物園のシモクレン
 柴田記念館手前の5メートルほどもある植栽樹である。
      小石川植物園のシモクレン
    分類標本園の小さく押さえた植栽樹である。花弁は9枚見られる。
 
     
   そこで、もしやと思い、向島百花園をのぞいたところ、シモクレン(紫木蓮)と記した札がつり下がった植栽木が2箇所にあって、よくよく見るとこの1つが真正のシモクレンで、他の1つが真正のトウモクレンと勝手に確信を持った。

 ついては、この2本を「シモクレンとトウモクレンの学習用標準木」として暫定的に認定することとしたい。ほぼ隣接した箇所に植栽されていることから、両者を比較することも容易で都合がよい。 
 
     
       向島百花園のシモクレンとトウモクレン   
     
 
       向島百花園のシモクレン
 向島百花園 18区のシモクレン。花弁は7枚見られる。
 (名札は「しもくれん・紫木蓮」)
      向島百花園のシモクレンの葉 
   
 
       向島百花園のトウモクレン
  向島百花園  6区のトウモクレン
 (名札は「しもくれん・紫木蓮」) 
        向島百花園のトウモクレン
 
     
   上記の2株を左右に見比べれば、花色、花の大きさの違いが一目瞭然で、手軽にガッテンできる有り難い存在である。    
     
7   シモクレンとトウモクレンの樹形   
     
   シモクレンやトウモクレンの植栽樹を見ると、いずれも株立ち状態となっていることが確認できる。「シモクレンでは常に叢生する(中国植物誌)。」として表現されているとおりで、これが自然樹型であると理解できる。植木の仕立てとして、主幹を伐って背丈の低い株立ち状に誘導する手法があることが知られているが、シモクレンやトウモクレンでは放っておいても根元から次々とヒコバエが出ることによる。ただし、「根元から出るヒコバエを掻き取り1本立に仕立てると高さ6mにもなる(原色園芸植物大図鑑)。」とあるから、手間を掛ければ、1本立ちに誘導することも可能なようである。  
     
 
 シモクレンの根際の様子の例  トウモクレンの根際の様子の例
 
     
 通販で扱われているシモクレン系の交配種の素性について   
     
   ネット通販でいわゆるマグノリアの類(モクレン属樹種及び栽培品種)が多数販売されている。このうち、紫から桃色の花をつけるシモクレンの血の流れているのであろう交配種について、その素性が気になるところである。販売情報だけではよくわからないため、可能な範囲で以下に調べてみた。   
   
   シモクレン系交配種の苗木販売例   
 
交配種群の
呼称
交配組み合わせ 商品としての呼称例 学名 特性
スーランジアナ
(Soulangeana)
ハクモクレンとシモクレン(花粉親)の交配品種群 モクレン ジェニー Magnolia × soulangiana 'Jenie' カップ咲きで内側もワインレッド。樹高2-4m。品種登録番号25556
モクレン バルカン Magnolia × soulangiana 'Vulucan' 内面も赤
モクレン レンネイ(レネイ) Magnolia × soulangeana 'Lennei' 花は大輪でボール状に丸く咲き(チューリップ形)、外面が濃紫紅色で内面が白色。
モクレン アレキサンドリナ Magnolia × soulangeana 'Alexandrina' 外側ピンク色、内側白色
モクレン クレオパトラ Magnolia × soulangeana 'Cleopatra' 内外赤紫色
ニシキモクレン/サラサモクレン/(ソトベニモクレン)/(ソコベニハクモクレン) Magnolia × soulangeana 本交配品種群の総称として使用される場合と、品種群の1つとして使用される場合があって、呼称の混乱が見られる。
ガール・マグノリア
(Girl Magnolia)
シモクレンとシデコブシなどとの交配3倍体品種群 小型品種で、花は外面は紫桃色、内面は淡色になるものが多いとされる。
'Susan'、 'Ann'、 'Jane'、 'Judy' 、'Randy' 、'Ricky' 、 'Betty'、 'Pinkie' 
ガールマグノリア スーザン Magnolia 'Susan' 紫桃色
ガールマグノリア アン Magnolia 'Ann' 細弁で紫桃色
ガールマグノリア リッキー Magnolia 'Ricky' 外面は紫桃色で内面は乳白色
M. liliiflora(シモクレン)と M. ×veitchiiM. campbellii キャンベリーとM. denudata ハクモクレンの交配種)の交配種。 モクレン サヨナラ Magnolia 'Sayonara' 米国の育種家Gresham が作出。大型の白色花で基部が紅色。
M. 'Legend' ×M. 'Butterflies' モクレン コーラルレイク Magnolia 'Coral Lake' ピンクに黄色の縦筋が入る。
 
   :栽培品種の増殖に際しては、実生のコブシの台木に接ぎ木する手法が採用されている模様である。  
     
   なお、モクレン属の数多くの栽培品種を覚えようなどという気持ちはさらさらないが、都内でモクレン属の品種を多数植栽していることで知られる京王フローラルガーデン アンジェ(東京都調布市多摩川4-38)を参考としてのぞいてみた。マグノリアガーデンの木々は開花時期に幅があるため、欲張って30種ほどの花を一度に見ることはできないが、大変参考となった。
(実は、トウモクレンの樹名板はここで始めて目にした。)  
 
     
  <参考:  街中で見かけたマグノリア スーランジアナと思われる植栽樹の例>  
 
 
   マグノリア スーランジアナ 1
 都内ビル周りの緑化木で樹名板なし。
   マグノリア スーランジアナ 2
 芝浦中央公園の植栽樹で、「シモクレン」とした変な樹名板あり。
   マグノリア スーランジアナ 3
 浜離宮恩賜庭園の植栽樹で、樹名板なし。 
 
 
 ハクモクレンとシモクレン(花粉親)を使った本交配種群は、ハクモクレンのお陰で花が大きく、シモクレンのお陰でピンク色となって、華やかで美しい。