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続・樹の散歩道
  負傷したランドナーが生き返った!!


 大好きなお散歩にはママチャリと併せて超古いながらも、未だ健在のランドナーを愛用している。ある日、この古ランドナーに跨がり、少し走ったところが後輪のバランスがおかしい。見ればスポークが2本折れていた。
 さて、こんな古い自転車を相手にしてくれる自転車店がそもそもあるのか不安を持ちながら近所の自転車屋を2軒覗くも、何れも扱えないとのことであった。そこで、近場で対応してくれそうな店を紹介してもらい、少々乗り心地が悪くなったこの自転車で早速その店に向かった。 【2015.8】 


   自転車店を彷徨   
   
   紹介してもらった店は何度も前を通りかかったことがあり、スポーツ自転車を扱っているチェーン店のひとつであることは承知していたが、店内を覗いたことはない。若いお兄さんが仕事をしていて、後輪のスポーク交換は手間がかかり、少々取り込んでいるので預かるとのことであった。

 連絡を待っていると、期待していた電話があったのであるが、何とギブアップ宣言であった。サンツアーのこのタイプのスプロケットに合う工具(注:フリー抜き工具)がなくて対応できないとのことである。ウーン、自転車のパーツの規格には時代の変遷があったのかと驚くとともに、お先が真っ暗になってしまった。

 後輪を丸ごと替えたらママチャリが買えるほどのコストになりそうである。自分でやるとなったら、通販で適合するスプロケットリムーバーを探しつつ、ミリ単位でピッタリ適合するスポークを1束単位で購入する必要があるが、素人が果たして確実に処理できるのか大いに不安がある。そこでネットで検索すると、JR田町駅付近にランドナーを扱う店があることがわかり、祈るような気持ちでまた後輪がぶれる自転車に乗って向かった。

 グーグルマップに従い慶応大学の手前、飲食店がひしめき合う慶応通り振興会の細い道に入り、首をかしげながらさらに細い路地を進むものの、自転車屋の看板など見当たらない。廻れ右をして一軒一軒改めてゆっくり見ていくと、古き良き時代を思わせる木枠のガラスの引き戸に Cyclo Salon UEHARA (注:シクロサロン 植原)の小さな表示があった。

 自転車屋によくあるブリジストンや丸石の看板など全く見当たらないし、そもそも「自転車」、「サイクル」の文字すらないから通り過ぎてしまっていたのである。ただ、この雰囲気はただならぬものがあり、ひょっとすると一見さんお断りか、あるいはレベルの高いこだわりの常連さんのみが顧客になっているのではとの不安を感じた。そもそも “Salon” の文字は通りがかりのものをやんわりお断りする効果がある。 
 
     
   シクロサロンで問題解決   
     
 
         シクロサロンの店先の様子
 何か郷愁を感じるような風景で、この箇所だけ時間が止まっているように見える。 (東京都港区芝 5-20-22)
     植原 郭氏とパーツコレクションの一部 
 膨大なパーツコレクションが壁を埋め尽くしており、天井からはフレームが多数ぶら下がっている。
 
     
   引き戸を開け、声を掛けつつこぢんまりした店内を見渡すと、正面の壁にディレーラーの歴史博物館を思わせるような膨大な数の製品が展示されている。その他詳しくないから解説は困難であるが、たぶん今では手に入りにくいのであろう各種の部品が壁面に多数展示されていた。

 これを目にして、半端な店ではないことがわかり、さらに出てきた歴史の生き証人を思わせるようなおじいちゃんをみて、うん、これなら絶対に大丈夫だとの確信を持つことができた。しかも気むずかしい雰囲気はなく、当たりも柔らかいことで安心できた。

 おじいちゃんに聞けば、ランドナーは得意で、何とかつては丸石のエンペラーに係わっていたとのことで、ビックリである。店は基本的にフルオーダー(特にクラブモデル)を専門としているそうで、ポンコツ自転車を持ち込んで申し訳ないような気がしたが、快く修理を引き受けてもらえた。

 結局のところ、スポークは3本折れていたことが判明し、さらに電気系統の不調や、素人が半端な調製をした箇所の再調整など、キッチリ整備してもらうことができた。

 昔、これは商売敵だったんだよねえなどといいながら、懐かしそうに目をやっていた。

 たった3本のスポークが原因で自転車の命が途絶えてしまったら、悔しくてやりきれないところであったが、無事元気に蘇って一安心である。おじいちゃんが「クロモリは10万キロは乗れる。」と言っていたのはさらなる安心材料であった。 
 
     
  <参考メモ>   
   このシクロサロン植原 郭(うえはら かん)氏は知る人ぞ知る存在であることをあとで知った。自転車に関する著作も複数ある。店ではクラシックパーツの在庫を大量に保有していて、パーツ販売はしないものの、オーダーメイドでは要望に応えている模様である。

【著作】
 誰も言わなかった自転車の本−知らないで使っているあなたへ(青春出版社 1979.5)
 スポーツサイクリング−サイクリングからレースまで(講談社 1976.1)
 実践自転車旅行(スキージャーナル 1978.7)
 
     
 
【役職】
 港サイクリングクラブ会長

【経歴等】
 昭和15年東京生まれ
 法政大学経営学部卒
 丸石自転車(株)
 (財)日本サイクリング協会
 昭和44年自転車店「シクロサロンウエハラ」を開業
 店を経営するかたわら、丸石自転車(株)嘱託
 嘱託から離れ、店名を「シクロサロン」と改め 

情報源
店の情報:ニューサイクリングNO.495号(2005年5月号)ウェブ掲載あり
経歴等:自著の著者紹介欄
   
 
          植原 郭氏の著作の一つ
      「誰も言わなかった自転車の本」
 
     
   【追記】  
   後日調べてみると、都内でもランドナーを扱う店は多くないようであるが、シクロサロンからほどほどの距離に古い自転車でも対応してもらえそうな店が存在した。ランドナーもメニューに入っている。   
     
 
  シミズサイクル(東京都港区芝大門2-8-11)

 看板にはロードレーサー、ツーリング、COLNAGO(コルナゴ), cinelli(チネリ), Campagnolo(カンパニョーロ),SHIMANO(シマノ),DF ROSA (デローザ)とある。

 アッセンブルオーダー、内外のスポーツ車の完成品(MTB、クロスバイクを除く)・一般車・内外の各種パーツ・工具の販売、整備を行っている。ブルックスの革サドルもズラリと並んでいた。

 昭和26年創業とされるから、少々古い自転車を持ち込んでも大丈夫と思われる。  
         シミズサイクルの店先の様子
   芝増上寺の山門近くの角地に位置している。 
 
     
   本項で登場した2つの店はいずれも懐かしいような雰囲気を漂わせていて、ワイズロードのように広く明るい店内に目も眩むほどの大量の完成車、パーツ、関連製品をデパートのように多数並べて高級感を演出している大型スポーツ自転車チェーン店とは対極的な存在である。しかし、地域のこうした個人経営の高い技術・経験を持った堅実な店は貴重である。