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木あそび
 
  地方の下駄屋さん                


 下駄を製造・販売している店があると聞いて、いつ廃業してしまうかわからないため、見聞を広めるためにも直ちに出動することにした。最近では履き物の小規模店舗は○○靴流通センターに客を取られ、しかもこの手の店では需要の落ち込んだ下駄は置いていないのが普通である。こうした中で、伝統的製法による下駄の製造・販売の店は貴重な存在である。【2009.8】 

 店主自らの手書きと思われる看板は実に味がある。店舗は作業場と壁を隔てた隣り合わせとなっており、市街地からは離れた静かな環境に立地していた。あいにく作業中ではなかったが、勝手に仕事場を拝見させてもらった。奥には各種の木工機械があり、入り口付近が座業による仕事場になっていた。鞘に収められた複数の鑿(もちろん両耳のツンと突き出た下駄屋鑿であろう。)や銑(せん)といった、下駄屋の道具が健在であった。

 下の写真は鼻緒をすげるだけとなった下駄の山。

下駄屋さんの店先の風景   山と積まれた下駄の半製品
       店先の下駄の陳列風景
 店舗は嬉しいことに、下駄一色である。ということは、展示品は自前の製品のみで、よそから仕入れたものなどは置いていないということである。
 
 なお、屋外では木取りした素材を積み重ねて乾燥していたが、各地で見られる煙突状の積み重ね方式ではなかった。
         調達した下駄
 決して高級品志向ではないから、歯は基本的に接着のようであるが何ら問題はない。鼻緒は後歯の前付けと後ろ付けの2種類があった。
 歯のタイプはふつうの2枚歯の連歯下駄とのめり下駄(前歯が三角形のものをいい、神戸下駄千両下駄とも。)が基本で、店では後者の方が数が出るとのことであった。
 左の写真は店に置いてあった一本歯の高下駄の見本である。地域の祭りでの需要があって、特定の時期の注文に応えているそうである。地域における製造直売の下駄屋さんならではの対応である。
 なお、甲良の裏側はもちろん差し歯を安定させるために船底型となっている。


とみた下駄店(手づくり、製造・販売)
 富田 守治

 岡山県津山市一宮415
 
一本歯の高下駄の見本   
新しい場所での下駄利用の提案
せっかくの素地の桐下駄である。これを履いて家の中を歩き回るわけにはいかないが、次善の策として机の下で下駄を履くことを提案したい。湯上がりは特に気持ちがいい!!

<下駄に関する参考メモ>
 桐下駄の木取り
 桐下駄は台の表面が柾目であるものの評価が高いため、これを意識し、あるいは歩留まり向上を意識し、様々な木取り方法が工夫されてきた歴史がある。
甲良取り:直径3寸5分以下の木を二つ割りして芯を去り、高下駄の甲としたもの。断面は船底型となる。
枕木取り:レンガ状のブロックに鋸を入れて歯を作り、余分な部分を捨て去るもの。
巴取り(鞆絵取り):レンガ状のブロックから、腹合わせに2個の下駄を切り出すもの。歩留まりが向上する。
「木材の工芸的利用」では、その他に棒取り、組取り(いとこ取り)三角取り、屏風取り(常磐取り)、三ツ取り、四ツ取りの名の木取りの例を掲げている。
 歯付け
 歯と台と一体のもの(一体として木取りしたもの)を連歯下駄と呼ぶ。
歯を接着した仕様もあり、これは端材も利用できるから材料歩留まりも向上し、機能的にも何ら問題はない。
台(甲良)に歯を指したものを差し歯下駄といい、歯が摩耗すれば差し換えが可能。
一枚だけ歯を差した下駄を一本歯下駄という
 桐下駄の台の仕様
 台はムクの板柾目のツキ板(柾目の経木を表面に接着したもの)のタイプが見られる。
 表面の仕上げは、浮作り焼磨きが見られる。
A 浮作り: うづくり浮造りとも。素地の桐下駄の仕上げは、基本的には桐箪笥の仕上げと同様である。目的はもちろん汚れ防止で、併せて風合い、手触りが良くなる効果も見られる。「蝋磨き」とも。工程は以下の手順となる。
@水に溶いた砥の粉を塗り乾燥→Aうづくり*」で磨き→B蝋塗り→Cうづくりで磨き
B 焼磨き: 焼き仕上げ時代焼き仕上げとも。工程は、バーナーで表面を焼いてブラッシングした後に磨いて蝋をかけて仕上げるもの。透明塗装とする場合もある。
 *うづくり
 イネ科メガルカヤ属の多年草であるメガルカヤ雌刈萱。慣用的には単にカルカヤと呼ぶ。)の根を麻紐でキリリと締め上げてあり、使っているうちにちびてきたら、紐を引くことで先端部の出具合を調製できる。桐箪笥、桐下駄の表面処理に欠かせない。「うづくり」はこの道具の名前であると同時に、目を浮き立たせる手法(浮作り浮造り)の呼称でもある。スギの柾目面に対してもいい仕上げとなる。
 なお、材の板目面に対しては、バーナーで焼いてワイヤーブラシをかける方法が古くから採用されていて、桐や杉の下駄の仕上げで見られるほか、内・外装用の杉板にこの加工を施した製品も見られる。
 底の仕様
 サンダル型、草履型の下駄は硬質スポンジ張りが一般化している。
 連歯下駄では、底の先端部には硬質スポンジの薄板を打ち付けて補強しているのが一般的である。
 価格差の由来
 桐下駄は柾目の数によって価格差がある。古くから目の本数が多いものほど評価が高いということである。
 さらに、左右の木目が揃っていることが上級品としての条件である。