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木あそび
 
  ツゲとシャムツゲ             


 ツゲは材質が緻密で硬く割れにくい特質を有し、細かい細工に適しており、さらに磨けばその光沢もすばらしい。このため古くから櫛の材料として使われ、万葉集にも詠われている。また、印判としての利用は一般的で、その他将棋の駒としても一級品である。
一方、ツゲは資源的にも決して大量に供給されるものではなく高価なため、古くからその代替材として比較的材質が類似した材が輸入されていて、これをシャムツゲと呼んでいる。ただし、このシャムツゲに関しては輸入の歴史が長い割には情報量が少なく、その実像がよく知られていない。情報を集めても、これがタイ、ミャンマー、カンボジアに分布するアカネ科クチナシ属の落葉高木(複数の種)であろうということに止まっている。【2007.8】  


ツゲ     シャムツゲ
 ツゲとシャムツゲの違いについて、櫛屋さんは古くから櫛材として最良とされてきた国産ツゲの材質が圧倒的に優れていることを強調している。両者を比較して、例えば次のような表現が見られる。

(国産)ツゲの説明事例(営業上) シャムツゲの説明事例(営業上)
 国産の本つげ材は、堅くて粘り気があるので丈夫である。
 国産のツゲの方が固く粘りがあり耐久性も優れている。
 薩摩つげが櫛材として珍重されるのは、材質が緻密で固いので櫛の歯が折れにくいこと、色の艶が美しいことによる。
 
 シャム材は、暖かい国の木なので国産に比べて粘りに欠ける。
 シャムツゲは、ツゲとは植物学的にも関係なく、材質もかなり劣っている。
 輸入したつげから作られた櫛は若干ざらつき感がある。

 手作業で加工をしている職人であれば識別できると聞くが、素人にはさっぱりわからない。世の中、見てわからないものについては残念ながら不誠実な詐称はつきものである。一方で、シャムつげの櫛は「本つげ」、薩摩つげの櫛には「さつまつげ」と表示していることを明言して販売しているいる櫛屋さんもあるからややこしい。つげ櫛をちょくちょく買うことはないにしても、自己防衛のためにも素材を識別できる目を養いたいものである。

 写真左のツゲは板目であるため、柾目に近い右のシャムツゲと比較するには本当はイマイチであるが、大雑把に比較してみた
 
@  色合いは個体差もあるからこのサンプルだけでコメントすることは難しいが、よく似ていて、識別の材料にはならないと思われる。樹皮も似た印象である。
A  鉋(カンナ)で削ってみたが、どちらもしっかり堅くて、つるつるになる。大きな違いは感じない。鉋屑も似たようなものである。
B  匂いはツゲはいわゆる木の匂いがあるが、シャムツゲの方はほとんど匂わない。 

 ということで、識別の決め手はなかなかなしで、ギブアップであった。