木あそび
とことん小枝の利用
小枝を宝石に変える技
浅草には台東区立の「江戸下町伝統工芸館」の名の施設がある。区の伝統工芸品を現物やビデオで紹介するとともに、毎週土曜日には各職人さんの実演も見られるという、実に有り難い演出をしている施設である。久し振りに覗いてみると、恰幅のいい(失礼!)おっかさんが「女職人」の文字の入った半纏をまとってどんと(失礼!)座り、前には何やら細かいものをズラリと並べていた。はて、これは一体何であろうか。 【2009.5】 |
職人さんたちにとっては、いつもの仕事場を再現することはできないから、ほとんどボランティア出演になっているものと思われる。しかし、市民にとっては全く素人的、素朴な質問を投げかけても、丁寧に相手をしてくれるのは有り難いことである。 さて、なかなか気っ風のよさそうな、貫禄十分(失礼!)の「女職人」の前にズラリと並んだもの、それは様々な樹木の小枝を利用した印材であった。どんな樹種を使っているのかが、当方にとっての最大の関心事である。そして、専用の刃物についても。 |
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うれしいことに、写真のとおり印材には樹種名がしっかり表示されていた。多分正しいのであろう。説明書きの表記のままに紹介すれば次のとおりである。 柿の木、柊(ヒイラギ)、杜松、茶の木、楓の木、錦木(ニシキギ)、山椒の木、ざくろの木、桜の木、山桜、椿の木、インド更紗(不明)、竹、梅の木、花水木、どうだんツツジ、かし、しいの木・・・ たぶん、これがすべてというわけでもないのであろう。つまり、かつて下駄材に使ったような軽軟な材以外はことごとく使えるといった風情である。木材として普段はないがしろにされているシイノキまで仲間入りしているのも喜ばしいことである。そして、この多様な小枝に命を与えているのが印鑑製作で鍛えた技である。 技術的には印鑑製作と同じと考えられ、印床(篆刻台)に印材を固定して、印刀で彫るという段取りである。印刀は多数並んでいたが、写真は荒彫り用と思われる。薄いノミのような形状で、刃先は刃裏を少し落とした形態となっている。使い方は、枕で安定させて押して削る方式である。 製品には「小枝印」、「遊印」の呼称が使われている。価格は少々高めで、小が1万円、中が1万5千円、大が2万円、特大が3万円(いずれも税別)である。印材は「おとうさん」(代を譲った先代か?)が調製している模様である。素材は堅くて緻密なものが望ましいことはいうまでもない。皮付きで素材の感触を大切にしているため、自ずと芯持ちが基本となる。したがって、例えばナンテンなどは材中心部の髄が大きくて軟らかいものは適当ではないと思われる。材が緻密でもアキグミも駄目かもしれない。 これは技術が価値を生む典型的な例として実に興味深い。店のホームページには次のように女職人(店主)伊藤睦子氏の経歴が紹介されている。 |
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へたくそなものなら、自分でもできそうであるが、そのためにはやはり“道具”が必要である。 |
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■伊藤印房 代表者(店主) : 伊藤睦子 東京都台東区千束1-19-4 |