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木あそび
尾州のつげ櫛は黒光り
日本橋三越の催事場で「匠の技」展があって、ちょっとのぞいたところ、名古屋の櫛屋さんが実演販売をやっていた。 製品を見たところ、つげ櫛がいずれも使い込んだ製品のようにやけに色が濃くてしかも照りがある。値段もなかなかのもので、男櫛でも数万円である。いろいろ種類があり、おおよそ2万円から5万円の範囲であるから、普通の製品よりもかない高い。普段見る製品とあまりにも印象が違うために少々驚いた。【2007.8】 |
つげ櫛製品の見本 総じて色が濃い。上から二段目のものだけがシャムツゲで、目を凝らしてみると、木材の放射組織がやや目につき、これに比べて国産ツゲは材が見た目にも均一であるようにも見えるが、たまたまなのかは不明である。 |
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すす櫛の背部 燻しの痕跡をデザインとして背部に残したもの。焼き印した面を見ると、内部まで燻しによって飴色になっていることがわかる。 |
名古屋市内に店を構え、つげ櫛を製造・販売している「櫛留(くしとめ)商店」の巡業であった。創業は明治36年(1903)で、三重県でくし作りの修業を積んだ初代が名古屋で開業したとのことである。2007年現在で、104年の歴史で、森信吾氏が3代目になるという。東海地方では唯一の櫛店だそうである。店の誇りは力士の髪を整えるの使われる櫛のすべてが同店製品ということである。先代の売り込みが功を奏したようである。 他店との違いは冒頭にも記したとおり、つげ櫛の製品の色合いの濃さである、ツバキ油をどんなに一生懸命に擦りこんでも、年数が経過しなければこんな色にはならない。この色はどうも材料の燻し乾燥を長期間にわたって実施していることに由来しているようだ。店のホーページでは材料とするつげの小割りしたツゲ板の乾燥工程を次のように説明している。
との説明で、燻し乾燥後の材料の写真を見るとは真っ黒けとなっている。 展示販売していた製品を見て、これも意外に感じたのは、シャムツゲを材料とした製品を明示していることである。製品は薩摩ツゲとシャムツゲの両方の製品を取り扱っていて、もちろんシャムツゲの方が価格的には安く(といっても決して安くない。あくまで相対的に安いという意味。ツゲの1/3〜1/4程度。)選択できる。ツゲの製品にはよくある「本つげ」又は店の名前に由来するのか「留」の字の焼き印が、シャムツゲの製品には「ト」の字の焼き印が、やや大きめにワイルドに入っている。 また、製品のデザインとして、個性的なものがある。「すす櫛」と名付けたもので、燻し乾燥で黒くなった面を櫛の背に残したものである。手間を掛けた工程を感じさせる演出である。 木櫛は非常に繊細なものとイメージしていたが、この製品の印象はややワイルドで、実用の具であることを優先して堅実に製作していることを感じた。 ■櫛留(くしとめ)商店 http://www9.ocn.ne.jp/~kusitome/ 名古屋市北区駒止1の60 <参考>東海地方では、浜松市内に明治以来続く櫛屋(店は構えていないとのこと)があって、現在は四代目の松山順一氏(浜松市中区元目町)が「浜松木櫛」の技術と伝統を継承している模様である。 |