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木あそび
 
  備長炭の硬さを体感する
    
            


 紀州備長炭はウバメガシを素材としたとことん硬い木炭であることや、これが和歌山県の特産品であることは、今や広く知られるところとなっている。その硬さ故に叩けば金属音を発するため、遊び心で風鈴まで作られてこれが商品にもなっている。また、浄水・炊飯用の備長炭では、炭の角で手を切ることのないように、角取りの処理がされた商品があることにも驚かされる。しかし、やはりその硬さは目で確認したいものである。
【2009.6】
【】 


 木炭の硬さは、容積重と並んで品質評価の指標となるため、基準となる物差しが存在する。
「三浦式木炭硬度計」と呼ばれるものである。これは三浦伊八郎博士の考案によるもので、鉱物硬度計を木炭専用に改良したものとされる。具体的には鉛の硬度を1度、鋼鉄の硬度を20度とし、その間を18種の調整した合金を入れて、これら20階級の硬度の金属片で木炭を掻いて硬度を判定するものである。

 備長炭の生産量が多かった時代は、「木炭の日本農林規格」(平成9年に廃止)が適用されていて、備長炭(特選相当)はこの硬度計で硬度が15度以上のものと定められていたそうであり、実測データとしても硬度19程度の数値を目にした。鋼鉄に近い硬度である。
       1 貴州備長炭の外観      2 眩しい輝きの備長炭の木口面
 備長炭は、例えばクヌギ原料の黒炭である菊炭と異なり、樹皮がないのがふつうである。これは、製炭の最終過程で、「ねらし」と呼ばれる空気を一気に送り込む手法にともなって、樹皮が焼き尽くされることによるという。
 木口面のこの輝きは、世界に例のない硬く重い炭であることを物語る。
 木口面では放射方向に配列した道管を肉眼ではっきり確認できる。 
 紀州・川商 和歌山県井辺1−4
  073-478-4312
      3 備長炭の木口面のアップ
 写真の製品を使って、早速ながら備長炭の硬さを体感するため、身近な金属でテストすることとした。手法は単純で、備長炭の角で試料とした金属を引っ掻くというものである。
 その結果は以下のとおりである。
@ アルミニウム 最も身近にある丸いアルミ板を使ったところ、備長炭の圧勝である。
A 銅 最も身近にある丸い銅板を使ったところ、備長炭の楽勝である。
B ステンレス やや手強いが、傷を負わせることができた。
C ハガネ 全鋼の包丁に挑んでみたが、敢えなく玉砕した。
 ということで、お遊びの結果は以上のとおりであったが、特定の樹種を素材としてこれを白炭とする製炭技術によってこれほどまでに硬いものに変身するとは、今更ながら感心する。備長炭の輝く木口面が黒曜石の兄弟のように見えてくる。
<参考>備長炭メモ帳
 備長炭の名前
備長炭の名の由来については、諸説があるが、現在では、江戸時代、紀州・田辺藩城下(現在の和歌山県田辺市)で代々回船問屋を営んでいた備中屋長左衛門が取り扱っていた紀州藩の白炭の商標が「備長炭」であったというのが通説になっている。【林野庁】
(注)「諸説」の他の説に関しては、現在のところその存在を確認できない。
備中屋長左衛門の名は、114年間四代に渡って襲名されている。【「紀州備長炭」:和歌山県】
「備長炭」の名称自体は登録商標となっていないため、ウバメガシによる本家の「紀州備長炭」、「土佐備長炭」、その他カシ類による「日向備長炭」等が存在し、さらに海外からの輸入備長炭も存在する。
 燃焼特性
着火温度が高いため、火を付けにくいが一度火がつくと安定した火力で長時間燃える。また、ゆっくり燃焼するため一酸化炭素の放出が少ない。【「紀州備長炭」:和歌山県】
 その他
紀州備長炭製造技術は和歌山県が無形民俗文化財に指定している。
 指定年月日:昭和49年4月9日
 保存団体 :紀州備長炭技術保存会 会長 日下善右衛門
      ウバメガシの樹皮      雄花序をつけたウバメガシ