トップページへ   刃物あそび目次へ   

刃物あそび
 
  剪定鋏の今昔
             


 剪定鋏の歴史も、裁ち鋏と同様に明治以降に輸入された製品をモデルにして国産化してきた歴史がある模様である。剪定鋏のことを自分の親の世代は「ドイツ鋏」と呼んでいた記憶があるが、なぜドイツなのかは未だ不明のままで、残念ながら確認できない。
 剪定鋏はふつうに使っていればひどく損傷することはなく、素人なら1丁あれば買い換える機会はない。そのため、最近の様子を確認することとし、ある事業場で日常的に実際に使っている道具を拝見させてもらった。【2008.7】   


 総本家阿武隈川
 これは手持ちの数十年前の製品である。刻印は(菱形の枠に縦書き二行で)「阿武隈川」とある。手打ち鍛造タイプで、クラシックな革止め、虫バネ仕様である。実は現在でもこれと全く同じ仕様の製品が販売されていることを確認してビックリした。黒染めで、すべり止めにヤスリ目を付けた鉄の感触がしっとりとして心地よい。日本の古いタイプの道具は、持ち手部分のデザインが非常にシンプルである点が特徴である。
有限会社阿武隈川製作所(東京阿武隈川工場)
東京都台東区台東2丁目28番3号

 三木章
 刻印は(六角形の枠に)「章」の文字。「特殊鋼」の刻印もある。
これも手打ち鍛造タイプである。大工道具の産地、兵庫県は三木市に拠点を置くこの会社の彫刻刀は刃物店でしばしば目にしていたが、各種園芸用刃物、家庭用刃物も提供している。
株式会社三木章刃物本舗
兵庫県三木市別所町東這田721-8
http://www.mikisyo.com/

 宗家 秀久 BB200−Y
 播州の次は越後(三条)の刃物である。デザイン的には新しいタイプである。柄部の断面曲率が小さく、手の接触面積も大きいため手によくなじみ、さらにシンメトリーの出っ張りがグリップの安定性を増している。この兄弟分はグッドデザイン賞を受賞している。
株式会社 外山刃物 http://www13.ocn.ne.jp/~hidehisa/index.html
新潟県三条市金子新田乙 1700-15

 岡恒
 以下は柄部をリベット接合したタイプである。園芸用はさみ製造のトップメーカーといわれるだけあって、ホームセンターでは必ず目にする。特に赤白の塩ビ被覆のハンドルがトレードマークで、これなら少々目がしょぼついていてもよく目立つと思われる。ある園芸相談員のオヤジさんにも勧められたことがある。それだけ一般に普及していて、製品としても安定しているということなのであろう。刃物としては珍しい広島県産である。
株式会社 岡恒鋏工場
本社:広島県尾道市因島田熊町18-1

 ニシガキ ?
 全く文字の刻印がないが、ニシガキ工業の製品であろうか。柄部はリベット接合タイプで、刃部はクロムメッキ仕上げとなっている。鉄の素地に滑り止め加工したハンドルの仕上げに特徴があって、塩ビの被覆柄に違和感を感じる向きにはいい感触かもしれない。
ニシガキ工業株式会社 http://www.ni-co.jp/index.html
(本社)兵庫県三木市大村500番地

 アルス 30508
 柄部リベット接合タイプ
 アルス(ARS)は品揃えが豊富な園芸用の鋸や鋏でおなじみで、多分お世話になっている人が多いはずである。念のために我が家の折込み鋸を確認したら、案の定アルスの製品であった。剪定鋏の刃はハードクローム仕上げで、サビやヤニの付着を抑える効果を狙っているとの由。
アルスコーポレーション株式会社
http://www.ars-edge.co.jp/  http://www.ars-shop.net/
大阪府堺市中区八田寺町476-3

 千吉 その1
 三木市のメーカーである藤原産業のオリジナルブランドである。この会社は大工道具のメーカーとしての印象を持っていたが、工具、電動工具、園芸用品など幅広の製品を提供している。低価格帯の製品であるが剪定鋏のデザインとしては最も新しさを感じさせる。柄部はアルミダイキャストで樹脂製のすべり止め付きである。切り刃はビス止めとなっているが替え刃式とはしていない。
藤原産業株式会社 http://www.fujiwarasangyo.co.jp/index.html
兵庫県三木市末広3-11-31


 千吉 その2
 同じく藤原産業の製品で、少々小振りであるが、それよりも一般の剪定鋏との大きな違いは刃部が交差しないタイプとなっていることである。つまり、受け刃に相当する部分に硬質樹脂を埋め込んであって、これに直線刃を押し当てて挟んで切る仕組みとなっている。使い勝手は不明であるが、近年見られるようになったタイプである。特許を示すPATENTEDの文字が刻まれている。
 このタイプは一般に「アンビル型」の名があり、切り口が綺麗なことや切断力がアップしていることを謳っている。 
藤原産業株式会社(同上)