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刃物あそび
 
  刃物の表裏とは
             


 家にある何本かの包丁をたまに使っていて気付いたことがある。銘あるいは商標が入っている面がまちまちなのである。片刃の鋸では使用する状態に握って必ず右面に銘が刻んであり、その面を「表」としていることと比べると、包丁の場合はあまりこだわっていないのであろうか。
 まずは目で確認できるものとして、いろいろな刃物の銘や商標のある面を確認してみよう。【2008.12】
   


 銘・商標のある面
   
(1)  包丁の場合
     
 片刃の和包丁(包丁の場合の「片刃」は片面研ぎで刃付けされたものの意)としては、薄刃包丁柳刃包丁蛸引き包丁出刃包丁等々があるが、いずれも必ず手にした右面に銘が刻まれている。和包丁でも菜切包丁両刃(包丁の場合の「両刃」は両面研ぎで刃付けされたものの意)であるが、扱いは同じ場合が多い。しかし、中には左面に銘、商標が入っているものもある。
 一方、国産の洋包丁(牛刀等)を見ると、商標の入った面に原則は見られずまちまちである。これは輸入品の洋包丁の場合も同様で、規則性は見られない。
     
(2)  鋸の場合
     
 片刃鋸(鋸の場合の「片刃」はもちろん2長辺の一方にだけ刃があるとの意)については従来型の製品で鏨(たがね)で銘を刻んだものであっても、最近の替刃鋸で商標を印字したものであっても例外なく手にした右側が表示面となっている。
 それでは両刃鋸(鋸の場合の「両刃」は2長辺のそれぞれに縦挽きと横挽きの刃があるとの意)の場合はどうであろうか。これは申し合わせたように横挽きの刃を使う状態で右面に銘、商標が入っているのである。これは例外なき約束事のようである。
     
(3)  小刀、鑿(のみ)の場合
     
 鑿は当然ながらといった方がいいのであろう。必ず鎬面(刃を付けたことによる生じる鎬(しのぎ。稜線)のある側の上部に銘を刻んでいる。見れば事情は明らかで、鎬面の反対側はハガネが面的に比較的長く入っていて、やや凹面状に裏スキをして面的に磨き上げなければならない。この面に銘を刻む理由はない。言い換えると、鑿の場合、銘を鎬面のある側に刻んでいるのには必然性があるということである。これは片刃の和包丁と同様の事情として理解してよいであろう。しかし、切り出し小刀では刃裏上部に銘を入れる習慣があるようである。この点については理由の有無を含めてわからない。
     
(4)  鉋(かんな)の場合
     
 鉋の場合はやや事情が異なる。刃は台に仕込まれているから、よく見えるのは鎬面の反対側となる。しかも鉋では鑿のようにハガネは長く入っていない。こうしたことから銘は自ずと鎬面の反対側上部に刻まれている。これも必然性がある。
 刃の表裏
   
 
 特に大工道具の刃物で、一般に「刃表」、「刃裏」の語が使われているが、これは刃物の両面を呼び分けるためのある意味で便宜的なものと思われる。刃物の両面に形態的な相違があれば受け入れやすく、本来は片刃の刃物にふさわしい名称と考えられる。
 仮の話としてハガネを鍛接した面が主役であるからこれを表というのも理屈かも知れないが、片刃の刃物では鎬のある面に通常は銘が刻まれ、この面を表と呼ぶ習慣が定着したものと理解すればよいと考えられる。片刃の和包丁も同様の扱いと理解できる。また、両刃の菜切包丁は両面に差はないが、片刃の包丁に準じて銘の刻印についても取扱っていると理解される。

 一方、鋸は見た目には両面とも違いはないが、片刃鋸も片刃の刃物と同様に銘・商標を入れ、この面を「」と呼んでいる。両刃鋸は約束事として横挽きの目を使う状態で右面を表として、この面に銘を刻んでいるものと理解できる。

 さて、両刃である洋包丁では表と裏を区別する概念などはそもそもないわけであるが、国内メーカーでは銘・商標は手にした右面に入れている例が比較的多い。これは片刃刃物文化の延長線上にあると理解できる。しかし、特に海外メーカーの製品では、元々鍛接片刃刃物自体が存在しないわけで、準じるものもなく、結果として商標の入った面はまちまちである。