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刃物あそび
 
  郷愁の菜切包丁
   包丁は使い慣れたものが一番 
             


 かつては家庭で包丁といえば菜切包丁そのものを指していた。たまたま亭主が魚釣りが好きな場合は決して管理が十分とは言えないやや錆の浮いた出刃包丁が別にあるといったところが一般的な風景であった。
 しかし、家庭用包丁の主流は遙か以前からステンレス製に置き換わり、若い奥様が菜切包丁を使っている風景はまずあり得ないと考えられる。こうして、家庭における定番の包丁であった菜切包丁は、残念ながら間違いなく絶滅への道を歩んでいる。
【2008.12】 
  


 我が家でも実験用として包丁差しに菜切包丁を差しておいて様子を観察してみたが、奥様は全然使ってくれず、とうとうサビが浮いてきてしまった。
古典的菜切包丁
 ホオノキの柄、ステンレスの口金の磨きタイプの普通の菜切包丁である。本当は質実剛健な黒打ちタイプの方がさらに菜切包丁らしさがある。古いタイプでは口金に決して厚めではない真鍮や洋白が使用されていたような記憶がある。昔から「使う鉄は錆びない」というが、やはり使わない包丁はこのようにして錆びる。プロは和包丁を全体にさびさせないが、家庭用であれば、使い込んで艶のある黒さびで被われた状態とするのも悪くない。
菜切り包丁(三徳)
 黒打ちの三徳型の菜切り包丁である。地方の鍛冶屋さんの製作する菜切り包丁の一つで、これと同型のステンレスのタイプもあって、価格は素材価格の違いから倍となる。しかし、この渋いタイプは棄てがたい。  
  忠兵衛鎌製作所
   岡山県津山市東新町10
和の小包丁(鎌型)
 これは九州は熊本県の「人吉クラフトパーク石野公園」の売店で購入した記憶がある。和の小包丁で刻印は「九州 岡秀」とある。ステンレスのペティナイフを使い慣れていると、これもなかなか使ってもらえない。なお、この公園はなかなかユニークで、各種伝統工芸の体験ができる施設がそれぞれ別棟でレイアウトされていて、「伝統文化体験型テーマパーク」を謳っている。その中には「鍛冶館」もあり、時間がなくてゆっくりできなかったが鍛冶体験もできるとのことで、鍛冶屋グループの若者が対応していた。
特売の菜切包丁
 あるホームセンターで在庫処分品として販売されていたもので、価格は何と498円であった。低価格に驚き、興味本位に購入してしまったものである。刀身は全鋼で、もちろん手間のかかる鍛造品ではない。口金は樹脂製で柄はもちろん和包丁定番のホオノキである。実用上、全く問題はない。
  製造元:下村工業株式会社
   新潟県三条市大崎1丁目16番2号
 実は、高級な板前さん用の和包丁を販売している有名メーカーは、大抵高級なステンレスの洋包丁も合わせて販売しているが、一般用の上質な菜切包丁も販売しているのが普通である。それほどの数は出ないと思われるが、プライド高きメーカーとしてやはり古くからある伝統的デザインの打刃物を切り捨てるのは忍びないのであろうか。
 ところで、そもそもこの時代に菜切包丁を買う(更新する)のはどんな人たちなのであろうか。若い女性はまず買わないと考えられることから、「若くない女性」が買うとしか考えられない。 また、普及品価格の菜切包丁も必ずホームセンターに置いているということは、多分おばあちゃん達が慣れ親しんだタイプの包丁ということで、当面の需要を支えているものと考えられる。

 
 わが家でも包丁指しにいろいろなタイプの包丁を指してみたが、奥様の最も使用頻度が高いのはかなり昔に買ったステンレスではないタイプの年季の入った3徳型洋包丁である。
  株式会社 木屋
   東京都中央区日本橋室町1-5-6
 奥様にインタビューを試みたところ、あっさりとこの包丁は薄くて使いやすいとのことであった。まあ、確かに軽くてバランスもいいのかも知れない。また、研ぐ立場でいえば研ぎやすい(刃を付けやすい)のは事実である。しかし、これもたまたまの巡り合わせであったと思うのだが・・・