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刃物あそび
 
  くるみ割り試験
             


 殻付きのクルミで通常販売されているのは、栽培されている外来のペルシャグルミやこれらの雑種とされるシナノグルミで、在来の野生種であるオニグルミは実が少々小さい上に殻が堅くて割りにくいこともあって、店頭に並ぶことはほとんどない。したがって、販売されている「くるみ割り」(胡桃割りクルミ割り)も、殻の薄い栽培種を想定していて、野生種のオニグルミは手強い相手となる。【2008.10】   


 国内で最も広く見られるのはオニグルミである。雄花がぶら下がった姿が特徴的で、遠くからも確認できる。小さい果実をよく見ると、その名前にもかかわらず実にかわいい。動物も(ヒトも含めて)「小さいうちだけかわいい」のと同様である。  
受粉後間もないオニグルミの雌花   オニグルミの若い果実 1 オニグルミの若い果実 2 
 
     
 上の写真は、オニグルミの果実の発育経過を追ったものであるが、残った赤い柱頭が質感としてもまるで頭に付けた赤いベルベットのリボンのように見えて、何ともかわいらしく見える。(大分県豊後大野市)

 
「くるみ割り」いろいろ

 クルミ栽培の盛んな長野県でみやげ物のクルミと一緒に木製のねじ式のくるみ割りが販売されていたのを昔購入したことがあったが、いちいちネジるのがもどかしくて、すぐに不要品と化した。結局、金属製の挟んで割るタイプが昔から実用品としてあって、これが現在でも販売されている。以下に3種類を紹介する。

 くるみ割り No.1
 
 構造は3枚のステンレス厚板をリベットで接合したものである。ギザの付いた大小の空間があって、もちろん大はクルミ用、小はギンナン用である。数十年前のものであるが、現在でも同じものが販売されている。製造元は不明である。
 

 くるみ割り No.2
 
 基本構造は前出と同様で、リベットが出っ張っていたり、柄部のリベットが真鍮であったりするのは大きな違いではない。それよりもクルミ割り部に刃を付けているのは進化したのか、オニグルミへの対応も意識したものなのか。ただし、支点部のあそびが大きすぎる。トンボのマークの刻印がある。
大泉金物株式会社 扱い
 新潟県燕市杉名41
 
 

 くるみ割り No.3
 
 これは、前の2製品とは全く異質の印象である。一見ごつい鋳物製に見える。和の工具に「えんま」の名の和釘を抜く工具があるが、その親戚といった風情である。「えんま」の名は閻魔大王に由来し、大王専用の舌抜き用の道具として知られる。閻魔大王がこの道具を手にしたら、きっと世の男どもが震え上がるような用途に愛用することは確実であろう。そう考えると、恐ろしい拷問道具に見えてきた。
 
 さて、構造は見てのとおり、先端部の下部は皿状になっていて、クルミを安定させて置くことができる。上部は刃付けしてあって、クルミの殻果の継ぎ目(縫合線)に当ててパックリ割るという筋書きである。製品に台紙は付いていたが、製造元、販売元のいずれも表示はない。  

 
試験結果 

 No.1はオニグルミに対しては全く歯が立たない。もともと殻の柔らかい栽培くるみを対象にした商品と理解した方がよい。
 No.2
No.3は刃が付いているから、歯をオニグルミの縫合線に合わせてエイッとやれば簡単に割ることができる。これら2者について、機能性、使い易さに決定的な差は認められない。概ね縫合線に沿ってきれいに割ることができる。両者の選択はデザインに対する嗜好の問題である。ただし、使っていて気づいたのであるが、No.2は刃部の硬度がやや不足しているようである。

 道具があればオニグルミを簡単・きれいに割ることはできるが、問題はオニグルミの実の量が非常に少ない上に中のかたちが複雑なためにきれいに取り出すことができないことである。多くは粉々になってしまう。このやっかいな実の処理のために道具まで調達することについては中には躊躇する人もあろうが、これらのことをストレスと感じるか否かも嗜好の問題であろう。また、拾ったクルミも道具があれば簡単に食べられる。もちろん殻を割りながらポリポリ食べるのであれば栽培くるみの方がもちろん楽である。さらに楽をしたいのであれば、製菓材料としてカリフォルニア産のペルシャクルミの剥き実が安く販売されている。ただし、これはあまりにも食べ易いため、食べ過ぎるおそれがあることに注意が必要である。何しろハイカロリーであるから・・・

 ところで、この厄介なオニグルミであるが、リスちゃんたちにとってはごちそうであり、身体は小さいのに鋭い歯を縫合線に当てて、ぱっくりときれいに割って実を食べることが知られている。リスが食べた後の残骸を観察すると、殻の尻の部分に歯を立てて割っているようである。
 
   
割ったオニグルミの形態

   断面の形態


 いずれも片面の種子(子葉)を取り除いてある。オニグルミの堅果には、ありがたくない不規則な空洞が見られる上に殻と隔壁が厚いため、実の収量が非常に悪い。栽培されているペルシャグルミのようにきれいなかたちで実を取り出すことはできない。
 味に関しては栽培くるみと大きな違いを感じないが、オニグルミの方が味がよいとの評価も多い。
 
 
<メモ>

 オニグルミを割る前に軽く炒ると殻が少し開いて割りやすくなることが知られている。さらに、炒る前に水に浸けることを勧めている例もある。炒ると香ばしいかおりが漂うが、味は少し変わるから好き嫌いが生じるかも知れない。
 なお、オニグルミは通信販売もされているが、できれば新鮮なものを手に入れた方が味がよいそうである。ふつうは生産年を明記している。ただし、大量のゴミが発生する割りには食べられる量がわずかであることを覚悟しなければならない。
 
補足メモ  No.3のくるみ割りは、当初はペンチのように柄部に真っ赤の軟質塩ビのすべり止が付いていたが、ベタついて感触も悪く、我慢できないためこれを剥がしてつる巻きとしたものである。これで一気に製品のグレードが向上してしまった。
 
 
<参考1: くるみ割り人形>

 チャイコフスキーではないが、「くるみ割り人形」の存在が知られていて、ドイツから輸入されている。しかし、既に高価なインテリアと化していて、クルミを割る実用からは離れた存在のようである。
 
 写真はドイツ(旧東ドイツ)ザイフェンのくるみ割り人形で、1体の価格が 12,600円で販売されていた。

 背中のレバーを持ち上げると、大きく口が開き、この中にくるみを入れた状態でレバーを押し下げるとくるみを割ることができるとのことである。

 実用性を失っても、地方の文化として興味深い。

(国立歴史民俗博物館ミュージアムショップ販売品) 
 
 
<参考2: その他のくるみ割り>  
     
 
   最もシンプルなくるみ割り    最強の “生体くるみ割り”   
 カリフォルニア産のクルミにおまけとして付属していたくるみ割りで、尻から責める道具であるが、決して使いやすいものではない。  リスちゃんは鋭い歯でオニグルミの殻を難なく割ることができる。  リスちゃんが割ったオニグルミの殻で、尻の部分に責められた痕跡がある。