トップページへ   刃物あそび目次へ

刃物あそび
 
  おきな
  翁 古式鍛錬ニテ若者ヲ鍛錬スル之図                


 播州三木の金物神社境内の古式鍛錬場では、毎月決められた日に古き時代を思わせる槌を打つ響きを聞くことができる。古式鍛錬の技術の継承を図ることと併せて、これを公開し、金物の町三木市のPRも図っているのである。
 かつての機械に頼らない時代の技術を後継者たる若者が学ぶ風景はなかなかいいものがある。現在は伝統工芸士であるお爺ちゃんたちは、遠い昔、まだ幼さが顔に残る年齢から見習いとなり、厳しい修行に耐えたのであろう。
 あちこちに体の故障が生じて、日頃ため息、ぼやきが絶えないであろうお爺ちゃんが、若者たちを相手に身振り手振り、実演で教える姿は普段とは全く違う、実にたくましく見えてしまう一日なのである。
 【2009.2】


 動力式のベルトハンマーやスプリングハンマーのない時代はひたすら手で鎚を打つため、鍛冶職は手の平の皮が厚いのが当たり前であったそうである。体力的にも大変であったであろうことが想像できる。
 現在では刃物の製造工程は随分機械化されているから、古式鍛錬で見られる手法はあくまでかつての手法の再現である。若者(ここで言う若者は、あくまで相対的な若者であり、80のお爺ちゃんから見れば若者という意味であって、20代から40代位までを含む)がこれを学ぶ意義はやはりあると考えられる。なぜなら、いくら機械化されようとも、かつての手作業が機械に置き換わるものであり、手作業による製作プロセス、勘どころをよく体得していなければ機械を使いこなした本当のいい作業はできないと思われるからである。

 古式鍛錬の実演は三木金物古式鍛錬技術保存会の主催で、原則として毎月第1日曜日の10時から13時にかけて実施している。
 鍛冶の対象は鋸(のこ)、鑿(のみ)、鉋(かんな)、鏝(こて)、小刀(こがたな)について、スケジュール配分している。
 特設の屋外施設であるから、炉、ふいご、金床のみであるため、焼き入れや仕上げの行程を見ることはできないが、最も基本的な荒造りを見ることができる。
 なお、これと同様の内容は、三木金物まつりの会場でも実施しているのを見かけた。
 鋸の巻
                        2009年1月11日 三木市金物資料館横     
 本日の主役は伝統工芸士の井之上博夫氏。
 (三木市別所町 井之上鋸製作所)
 現在はこうした圧延・裁断した鋼材を調達している。かつてはこうした形態の素材ではなかったため、手間もかかったとか。 
   
 炉に鋼材を投入して赤めているところ。  古典的な木製・手動式の鞴(ふいご)。
   
 この場合は8枚重ねで鍛造している。条件を均等にするために、内外を差し替えながら進める。  2人がかりで呼吸を合わせてトンテン、カンテン。これぞ古式鍛錬也。本当は明るい屋外では色による温度の判断が難しいとのこと。
 三木市金物資料館
  兵庫県三木市上の丸町5番43号
 
鑿の巻
                         2008年年11月1日 三木市金物まつり会場
 鉄材を炉で赤めているところ。本日の主役は伝統工芸士 今井重信氏。(三木市本町 今井鉋製作所)  鉄材に硼砂を付け、鋼材(はがね)を載せて鍛接する。
   
 片手の鎚で形を整えながらトンテンカンテン。ジャージーより袴、胴着、足袋、草履姿の方が緊張が生まれる。ただし、もちろん本来のスタイルではない。  日本刀の鍛錬のように、補助者2人が交互にトンテンカンテン。普段の作業とは違うから大変そうである。